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コーギーとお昼寝

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墨東日和

それは戦前、筑波高速度を失ってすぐの一番淋しい時間を過ごしていた頃のこと。
ふいに堀切橋の方向からぷらぷらと歩く人影があった。
「・・・・ここは?」
「京成の堀切菖蒲園駅ですよ」
そしてベンチに座り、その人はつぶやく。
「隠れ住むにはよさそうな場所だ」
そう言った男はちょいちょいとこの場所にやってくるようになった。
男の名は永井壮吉、またの名を永井荷風という。

墨東日和

時間は少し飛んで5年後、俺は男と京成玉の井の駅にいた。
この少し前に廃駅となったこの場所は、個人的にはあまりいい気持ちになる場所ではなかったのだけれど男のせがみでここを訪れた。
「廃墟というものはこのようなものなのですね、成田さん」
「おそらくは」
この男の前では成田と名乗っていた自分は、草の生えた地面に亡き筑波高速度の面影を見ていたように思う。
筑波高速度にとって玉の井、いまの向島界隈は娼婦街だったので少々刺激的過ぎる場所だった。
だけれど『後学のために』と長生き出来ない運命に逆らうようにあっちこっちを二人で歩き回った。
モガの徘徊する新宿や門前町浅草、俺の生まれた場所である成田山、柴又の帝釈天、数え切れないほどに東京を歩き回った。
「・・・・・冷たい風が吹いてきましたね」
「ええ、そろそろ帰りましょう」

*       *

戦後、また堀切菖蒲園で男と再会した俺はあちらこちらに居を移す男に菅野の借家を紹介した。
そこが男の終の棲家となるのだけれど、俺はちょいちょいと男の下を訪れては酒を飲んだ。
「どこかいい桜の場所を知りませんか」
「それな国府台でしょう、あそこには菜の花も咲く」
「ほう」
老作家と酌み交わす酒は穏やかで、男と話すと穴の埋まる音がした。
時間も大きかったのだろうけれど。











ネタ元「鉄道ひとつばなし」収録「荷風と京成」
ここには非常に素晴らしいネタもあるのですがそれはおいおい。
とりあえず時期的に筑波高速度の件から立ち直りきれない京成さんネタがやりたかった。

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