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コーギーとお昼寝

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一万巻の祈り

煌めく糸をひと針、またひと針と刺していく。
その間だけはすべての雑念が払われて凪いだ海にいるような心地になれる。
紫から青へと変わる布は夜空になり、黄金色に光る糸は夏の星空になり、遠くに混ざる水色は水平線になる。
星空の下にはわれらの可愛い末弟・周南とその良人である呉ののうしろ姿を。足元には果てしない白砂の大地を。
輪郭を縫い取ったところで窓の外に目を向ける。
5月、新緑と青空の季節だ。しかしそこには人気は無い。
昨今の病禍により人々は日を浴びることなく暮らしていることを思い知らされる。

(……あの二人は、どうしているのだろう)

まともに顔を合わせていないのではないだろうか。ひとりでつらく悲しんではおるまいか。
そんな風に思うのは自分にとって周南のみならずその良人、そしてその兄たちももまた自分にとって大切な人だからなのだ。
かつて国営の名を冠した人の思惑によって出会い、新たな名を得て共に働いた日々は手が届きそうなほどに近いがすでに過去のことになってしまった。
良人として選んだ呉を失う未来が定められた周南を想う。
そして二人の幸いを願って神仏に何度となく祈ったことを、その祈りが届かなかった無力さを、思う。
そして、兄よりも先に死ぬことを宿命づけられた弟のことを泣くことすらできなかった次屋のことを想う。
そのことを誰かのせいにできたらばどれだけよかっただろう。
紫の空に向かって手を延ばす二人を布に描くことは祈りであり贖罪であり供養であるのかもしれない。
「……祈りとは、無力だ」
しかし終わりのない荒行のように延々と祈りを重ねること以外に詫びる手を知らなかった。




桜島さんのはなし。

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