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コーギーとお昼寝

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君津老師と焼き小籠包

「您好、君津老師」
すらりとした体つきの育ちの良いオリエンタルな面立ちをした中山服の青年の来訪に思わず目を丸くした。
「……宝山?なんでいきなり」
「仕事で少し東京に来る用事があったんですよ、お邪魔して構いませんか」
宝山製鉄所はその設立から現在に至るまで君津製鉄所が深く関わった施設であり、俺にとってはまだ弟子とも呼べる存在である(ウジミナスも弟子ということにはなってるけど一応向こうの方が年上なので色々複雑なのだ)
「俺は良いけどあんまり綺麗じゃないぞ?」
昨晩遊びに来ていた千葉と鹿島に荒らされた部屋は2人をこき使ってあらかた片づけはしたものの、まだ完全に綺麗になった訳じゃない。
「大丈夫です、突然来たのは僕の方ですから」
「なら良いけど……その手にある袋は?」
その手に一緒にぶら下がっていた冷蔵用の袋を指さすと「生煎饅頭(焼き小籠包)です」と返ってくる。
「生煎饅頭か、上海にいた頃何度か食ったなあ」
「最近は日本でも手に入ると聞きましたが生煎饅頭は上海のが一番ですよ、東京のは所詮ニセものです」
「日本で食える奴もあれはあれで美味いんだけどな」
「台所お借りしても?せっかくなので焼きたてをご用意しようと思って準備して持って来たんです」
「自由に使ってくれていいぞ」
宝山がさっそくフライパンを借りて小籠包を焼き始める。
出会った時はまだぶかぶかの宝山服を纏った小さな子どもの姿をしていたが、いまや中国屈指の鉄鋼企業として日本の製鉄業に立ちはだかる壁になってしまったことを喜びたいような嘆きたいような複雑な心持ちになる。
しかしこうして俺の前にいるときは昔とさして変わらないままで、ニコニコと小籠包を焼き龍井茶を淹れてくるので可愛いものだと思ってしまう。
「前にプレゼントした中国茶道具使ってくれてるんですねえ」
「たまーにだけどな」
「ちゃんと大切に使われてる色をしてるから分かりますよ」
上海で宝山の面倒を見ていた時に覚えた中国茶は時折千葉や鹿島に乞われて淹れる程度だが、手入れとして個人的に淹れることもあった(道具は使うことが最善の手入れだと言うのは釜石の弁だ)のが道具そのものに出ていたのか。
「あ、生煎饅頭もそろそろかな」
そう言ってさっそく皿に盛って茶と共に目の前に並べられる。
「……なんというか、完全に俺が客人扱いだな」
「敬愛する君津老師とお茶をしたかったので」
「そうか」
なら仕事の方で俺たちに優しくしてくれと言いたくもなったがたぶん無理だろう。
「让我们吃吧(いただきます)」
「请吃很多(どうぞたくさん食べてください)」
焼き小籠包をレンゲに乗せて割ると美味しそうな匂いと共に透明なスープがじわりと広がってきて、あの頃のしんどい思い出がよみがえる。
「あの時はお前の上司に振り回されてひどい目に遭ったな」
「そういう時代でしたからね。さあ、冷める前に食べましょう」




君津と宝山。

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