土曜夜の神戸は煌々とした光と賑わいの中で、そこにでかい男二人がほろ酔いで歩いていても目立つことは無い。
「美味しい店だったな」
「せやろ?あの値段で神戸牛食わしてくれるのはあそこだけや」
今日のスティーラーズはご機嫌で二軒目へと連れて行ってくれるのを、早歩きでついて行く。
街の賑わいの向こうに赤く光る塔と潮の匂いが香ってきた。
「あれが神戸のポートタワー、あの敷地一帯がメリケンパークやな」
スティーラーズが指さす神戸の観光名所は夜の岸辺にまっすぐ立ち上がっている。
「目的地は?」
「あの中やな、いまポートタワーの中に灘五郷の日本酒が楽しめるお店が入っとんねん」
「ほう?」
日本酒が特別好きな訳ではないが、そう言われてしまうと引き寄せられるものがある。
信号が変わってポートタワーの敷地に入ろうとすると、スティーラーズがふとタワーと無関係の所へ歩き出す。
そこは壊れた岸壁と共に阪神淡路大震災の文字があり、スティーラーズはその壊れた岸壁に小さく手と合わせる。
壁の文章によれば、ここは阪神淡路の際に破壊された岸壁を遺構として残してあるエリアだという。
「此れを見せたかったのか?」
「それもちーっとはあるな。ラムズにとって今日はただのアウェイ神戸ゲームやけど、俺にとっては特別な日に行われる試合やから」
合掌を終えたスティーラーズがそう答える。
自分も自分なりに答えるべきだろう、そう思って少し考えてから言葉を紡ぐ。
「……我のような関東の民にとって阪神淡路は遠い出来事でしかない。知識として学ぶことは出来るが、それを身体で学ぶことは出来ない。だから、我がここで如何斯う言う権利が有るとは思えぬのだ」
「それはみんなそうやろ、今の若い子らはあの地震を知らん。せやけど共有された経験を学び、未来に生かすために考えることは出来る」
災害は忘れた頃にやってくるということわざの通り、大きな地震はいつどこにやって来るかは分からない。
だからこそ伝え学ぶことは未来のために必要なのだろう。
「我にも知って欲しい、という願いか」
「願いというか祈りかなあ?今日という日に試合をすることの意味を実感して欲しかった、そんな一方的なエゴやね」
スティーラーズがふらふらと歩き出す。
壊れた岸壁から一歩視線を変えれば夜の海に輝くポートタワーや街の明かりが視界いっぱいに瞬いている。
「31年というのは随分いろんなものが変わっていくのだな」
「ホンマにな」
「……スティーラーズにとって、其の変化は良い事だったか?」
「いい悪いやのうて必要な事やね」
スティーラーズがその言葉をどんな顔で吐いていたのか、夜の中ではわからない。
けれどただひとつわかるのは、我が思っていたよりもスティーラーズにとって今日という日が特別だったという事だけだ。
日付と結びついたその痛みに、我はどれほど寄り添えるだろう?
返す言葉を持たぬ我の戸惑いを読み取ったらしいスティーラーズが「まあこの話はここまでにしよか」と言う。
「すまぬな」
「別にええですよ、今日は勝ち点貰いましたし?」
スティーラーズが悪戯小僧のように微笑むので「好きであげた訳ではないぞ?!」と返すしかないのだった。
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ブラックラムズとスティーラーズ、そして31年目のひとり語り。
今年の動画もすごかったですね……。