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コーギーとお昼寝

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世界の日差しが落ちる頃8

2009年3月13日。
ざあざあと降る雨で練習は中止になり、親愛なる親会社様と紅茶を飲みながら過ごしていた。
「携帯鳴ってるわよ」
「ああ、ほんとや」
発信相手はライナーズだ。
どうせロクでもない悪ふざけだろうと思いながら電話を繋いだ。
『もしもし、お前確認したか?』
ひどく切迫した声で聴いてくるので「……いきなりどないしてん」と問う。
『いや、知らんならええ』
そう言ってブチッと電話が切れた。
その様子を見ていた姐さんがそう言えばという風に切り出した。
「昔、似たような電話貰ったことがあったわね」
「は?」
「釜石のところで廃部の噂が出た時聞かれたのよ。『あいつは大丈夫ですか』って。ちゃんと私に問題が起きない限りはスティーラーズは大丈夫って答えたわ。
でも、聞きたいのはそうじゃなかった。あなたの精神を心配してたの。

……きっと何かあったんだわ」

もう一度、電話が鳴った。
電話の主はワールドファインティングブル。
「はい」
『俺です。あの、今から会えますか』
そう告げられた時、ぞっと冷たいものが首筋に伝う感触がした。
(死神に連れて行かれるのは、お前か)
兄弟がいなくなった時、シーウェイブスを失うかもしれないと告げられた時と同じ、感触だ。
「……お前も逝ってまうんか」
その言葉への返答はない。
ああ、やはりそうなのだ。
こいつもまた死神の手に連れ去られてしまうのだ。
「今そっち行くわ」

****

田んぼのような状態のグラウンドに、ずぶ濡れになった彼がいた。
その手を引っ掴んでやると凍ったように冷たくなっていた。
「なんで、お前まで」
「……僕はワールドと言う会社を盛り上げるための存在で、プロになっちゃいけないんです」
それは企業に属する存在である以上逃げようもない運命だった。
プロではない自分たちにはラグビーだけで生きていくことは許されないのだ。
「嫌やなあ」
彼はその生まれを、静かに呪うほかない。
自分を生んだ親を恨まなければならない以上の地獄がいったいどこにあるというだろう。


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世界の日差しが落ちる頃7

2007年1月13日。
前日から晴れ渡った神戸の空の下で、彼はぽつんとその芝の上に立ち尽くしていた。
この敗北で決定した未来に魂が抜けたような顔で立ち尽くす神戸の後輩にかけるべき言葉が見つからなかった。
「……彼、あなたのところの後輩でしょう?」
ジュビロが俺にそう声をかけてくるが、俺にはいかんともしがたい。
「俺が何言うたかて今は聞こえんやろ……せめて俺はあいつの前でカッコよく勝ってやることしか出来んわ」
降格の決まった後輩に、励ましのトライを見せてやることだけが今の俺の脳裏にあるたった一つのことだった。

****

それからしばらくして、3月も終わりの頃にふらりとファインティングブルが訪ねてきた。
片手には桜餅とお茶を携えていた。
「花見行きませんか」
「どこまで?」
「別にどこでも、月ヶ瀬まで行っても良いですけど」
「……わざわざ奈良まで行くのもアレやし夙川の河川敷でええか」
「構いませんよ」
その流れのまま阪神電車で夙川の河川敷へ向かうことにした。
あの川の辺りは桜の綺麗なところで、うちの姐さんと親交のある女友達らと何度か遊びに行っていたことを思い出す。
川沿いの桜の道の途中に腰を下ろせば小春日和の川風と太陽が静かに降り注いでいた。
「煙草ええか?」
「どうぞ」
煙草に火を灯し、ほんのりと苦い煙を飲み干した。
「で、桜の木の下まで呼び出してのご用件は?」
「特に大したことやないですよ。ただ、桜を見とぉなっただけです」
「そうかい」
さすがにあの最終戦から二か月半も過ぎたおかげか少しは冷静になったらしい。
この後輩のことだ、再来年の今頃にはライナーズと三人で祝い酒でも飲むことになるに違いない。
「……来年は桜の下で祝い酒飲みましょう」
「そん時はお前が酒用意せえよ」
冗談交じりにそんな約束を交わしたのだけれど、その約束はふいに吹いた桜吹雪に流されていった。

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世界の日差しが落ちる頃6

2004年1月2日・東京。
「先輩、あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとうワイルドナイツ、にしてもブレ―ブルーパスもよぉ初詣しようなんて言い出すよなあ」
待ち合わせに指定された明治神宮の参道入り口には後輩たちが一通り揃っている。
小瓶の酒をお年賀代わりに持って来たというサンゴリアスに、人数分のホッカイロを用意してきたグリーンロケッツ、どこからか甘酒をかっぱらってきた磐田のヤマハ(※ジュビロを名乗るようになったのは2004年の夏からだ)と、後輩たちから配られるものを受け取りつつ俺の方もクッキーを分けてやりながら声をかけてきた後輩を横に寄せる。
「あの人好調ですからね、確か6勝2敗1引き分けでしたっけ」
「全員の成績おぼえとんのか?」
「ええ、先輩は8勝1敗でしたよね」
「あの一敗はほんと痛かったわ」
開幕戦のサンゴリアスへの敗北は手痛いものであったが、それでかえって空気が引き締まった気がするので悪い事ではなかったのだろう。
ちらりと他方を覗いてみれば、ファインティングブルとボムズとラガッツの年少組が意気投合していて正月から心和む光景である。
(……まあ、神戸の後輩がうまくやれてるんならええかな)
ふとファインティングブルと視線がかち合い、二人に軽く声をかけてからこちらに近寄ってきた。
「あけましておめでとうございます」
「おう、おめでとさん。にしても随分洒落たモン着とるなあ」
「服屋ですからね」
紺の着物に白いトンビコートを纏い足元はブーツという妙にハイカラな取り合わせにこっちが笑ってしまうのだが、顔が良いので似合ってしまうのがすごいところである。
姐さんと一緒に製鉄業勢の新年顔合わせした後に直接来たものだから、コートの下はただのスーツと言うのはやはり味気ない気がしてしまう。
いやでもサンゴリアスなんかトレンチコートの下に妙にまた上の短いジーンズとか履いてるし、スピアーズに至っては練習着の上にロングコート(裾から練習着が覗いてる)だし、気にする事でもないんだろうか。
「確かに服屋がハイカラな服着んと売ってる服もダサく見えるもんなあ」
「そういうことです」
「あとお年玉代わりにエルベランのクッキーな」
「妙にお安いお年玉ですね」
「おっ、先輩の好意を無碍にするか?」
「いえ?」
ついでにボムズとラガッツの分も渡しておけば、さっさか先ほどの2人のところに戻っていく。
「ちなみに先輩、俺の分は」
「はいはい」
数枚クッキーを分けてやると遅刻してきたライナーズとブラックラムズが駆け寄ってくる。
「いやー東京は土地勘無いからあかんわー」
「……勝手に迷走したのは貴様であろう」
「せやかて仮眠しかとっとらんもん、まあサボるって考えはハナからあらんかったけどな」
ブレイブルーパスが2人の気配に気づいて周囲を見渡す。
「全員揃ったみたいだしお参りするぞー」

***

なんやかんやで初詣が終わった帰り道。
「ファインティングブルも仲ええ相手が出来たやんな」
ライナーズがさっそく酒を飲み始めながらそんなことを言う。
「……同年代って言うのは、まあ悪くないですよね」
「九州に後輩も出来たしなあ?」
「ええ、ボムズは良い後輩ですよ?」
まあこの二人もちょっとしたじじまごぐらいの年の差はあるのだが、本人たちは気にしてない。
いつの年代も後輩と言うものは可愛いものなのである。仕方がない。

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世界の日差しが落ちる頃5

2003年9月13日の晴天を、今でもよく思い出す。
雲一つない晴天、国立の青い芝生の匂い、期待に沸き上がる観客席。
観客席の片隅には翌日試合の癖に見に来た後輩や仲間達の姿が遠目に見えた。
「いい晴天ですねえ」
「ホントやなあ、」
サントリーサンゴリアスという名を新たに掲げた後輩は晴れ渡る空を見て穏やかに笑った。
震災からの立ち直りや鉄鋼業界再編に伴う多忙に追われている間に世界はずいぶんと変わってしまった。
世界のラグビーはプロ化へと舵を切り、日本もその波に乗り遅れるなと言わんばかりに新たな枠組みを作ることになる。
トップリーグと名付けられた新たなプロリーグの始まりの笛を任されたのは俺とサンゴリアスであった。
まだ20年ちょっとの若いチームの瞳はどこまでも青臭い希望に満ちていた。
「太田の野武士とやりたかったんと違うか?」
「新リーグの開幕戦を任されただけで十分名誉な事でしょう?」
「まあな」

そして、国立の芝生に開幕のホイッスルが響いた。

****

「是政のサンゴリアスに押され過ぎです」
試合終わりの心地よい疲労感を引きずりながら帰り道を賑やかに歩く中で『お祝いだからみんなで飲みましょうよ』と言うサンゴリアスの提案に全員が同意し、飲み会に盛り上がる他の奴らよりも一歩後ろを行く俺に対して言う台詞としては辛らつだ。
「後半然全然とれんかったしなあ」
「年寄りだからってボケるにはまだ早いですよ」
「まだボケとらんわ」
「……あれがつぁーらんとは思わんちゃらんね」
ぽつりと後ろからことばがこぼされる。
そこにはファインティングブルとあまり変わらないぐらいの体格の青年がいた。
「つぁーらん、って言うのは?」
「悪い試合ではなかったっち事です、少なくともおいはだいぶん勉強になったとですよ」
「そらおおきにな。で、どちらさんやったっけ」
「福岡サニックスボムズっち言います」
「あーそういやなんか香椎(九州電力)からよろしく言われたわ、九州は一人しかおらんから面倒見てくれって」
ポケットから携帯を引っぱり出して証拠のメールを見せてやれば「香椎さん何しとっと……」と呆れ気味に溜息を吐いた。
いつの時代も先輩は後輩が可愛いもので、まして九州の長兄たる香椎ならばなおさらだ。
九州連中では最年少だとも言っていたから余計に気にかかるのだろう。
「おう、やっぱ後輩が可愛いんやろうな。この中の連中やとラガッツとファインティングブルが年代的に近いんとちゃうか?」
「ボムズさんって創部いつですか?」
「今年で9年になります」
「まだ創部から10年も経ってないんか?!そら九州連中がゴリゴリに可愛がるわ!」
「僕より年下とかそれほんまですのん?!」
「こげなことで嘘こいてもしょうもないとですよ」
「……ファインティングブル、お前面倒見てやったれや。年近いやろ」
「10つは離れとるわ!」

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世界の日差しが落ちる頃4

1995年、春、奈良は月ヶ瀬湖畔。
桜の咲きほころぶ道を抜けると、湖の傍に既に数人が揃っていた。
「遅かったやないか、灘浜の」
まだあの頃は親会社と自分の区別のためホームグラウンドの地名を愛称として呼び合っていた。
それぞれに正式な愛称がついてからはもうほとんど使わなくなってしまった呼び方である(八幡製鉄所のところのを鞘ヶ谷と呼んだりするのはあの名残だ)
「うっさい松原(近鉄)、と言うかこの赤い子供は?」
「電電公ー……いや、今はNTTか、そこのラグビー部。創部一年目で府の社会人大会優勝して面白そうやから連れてきたわ。南港のも挨拶しとき」
「はじめまして!NTTドコモ関西ラグビー部です!」
「おう、よろしく。俺も南港呼びでええか」
「はい!」
まだ少年の姿をした溌溂とした少年の横で、さっそく飯を食い始めていた青い瞳の美青年がいた。
「……なんでおんねん、ワールド」
「こういう時は東灘でいいですよ、俺も灘浜って呼びますから」
「ならそうするわ、と言うか仕事はええんか」
「大先輩による気晴らしの一席ぐらいなら誰も怒りません」
そうなのだ、これは松原による気晴らしの花見であった。
こんなじめじめと薄暗い気持ちじゃあやってられないという松原の思い付きで呼び出されたのだ。
「にして羨ましいわぁ、太田の野武士軍団に懐かれとると思ったら東灘にまで憧れられとって~」
「なっ!それは言わんでおく約束やったやないですか!」
「なんかさっきめっちゃ言うてましたもんね」
「南港もそう思うやろ?」
「はい」
やはりそうだったのか。
「……知っとったわ」
「は?!」
「天邪鬼やけど可愛い神戸の後輩が俺に憧れとるなんて重々承知やったけどな」
太田の後輩に比べればわかりにくかったが憧れられているのだという事は薄々分かっていた。
憧れのように思われるのは良い事だ、その期待を超えてこそ強者になれるのだから。
「なんか俺があんたに対して自意識過剰やったみたいやないですか!」
「カッコつけの標準語が抜けたな」
「違います!」
「関西人しかおらんのやし、あの府中コンビみたいな標準語使わんでええんやで」
「だからそういう話じゃなくて……っ!」
「まあでも、いま一番憧れられる存在になるんはしゃあないやろ。松倉(新日鉄釜石)の記録を塗りかえ得る唯一の存在やしな」
「素直になりゃーええのに、ねえ?」
「南港のは素直に言うてくれるんになあ」
まだ無垢さの残る二人の子どもをからかい半分に愛でるのは、悪い気はしない。
すくすくと伸びる若木のごとき神戸の後輩が、どこまで来れるのかを俺も松原も間違いなく楽しみにはしていたのだ。
「……ダービーマッチが楽しみやなあ」
松原が薄く笑みをこぼしながらつぶやいた。

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