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コーギーとお昼寝

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まだ春は遠い

嫌になるくらいに降り積もる雪を掻き分け、ふうと軽くため息を吐いた。
昨晩から今朝にかけてどっさりと降り積もった雪は下ろすだけで一苦労で、この後空き家の雪も下ろしに行かないとならないのだから嫌になる。
勝山や大野辺りに比べればまだましとはいえ毎朝雪かきをしないと生活に支障が出る。不便だ。
ポケットに入れていた携帯が鳴り響き、かじかむ手で電話を取る。
『鯖江、いま大丈夫?』
「雪かきしとったとこですけど、まあ大丈夫ですよ?」
スノーダンプをいったん脇においてその呼びかけに応じる。
福井に対する敬語はもう江戸の世からの習いみたいなもので微妙に抜けきらない。
『えっ』
「うちの周りの雪かきを終えて近所の空き家の雪下ろそうか考えてたとこなんで」
『ああ、なら良かった。屋根の上にでもいたら危なかったし』
「で、ご用件は?」
『うちで使ってた湯呑を割ってしまって、鯖江の馴染みで金繕いの職人さんがいたでしょう?あの人にお願いできないかと思って』
「あー……あのおっちゃん少し前に入院してて今は出来んと思いますよ」
『そうだったの?』
「別の漆屋に頼んで金繕いしてもらいます?腕は俺が保証しますよ」
『じゃあ、お願いしていい?結城さんから頂いた器だから大事にしたくて』
ぽつりとこぼれたその人の名前。
名前を呼ぶ響きの柔らかな熱は思わず皮肉めいた言葉がよぎったが胸にしまっておく。俺はまだ彼女に嫌われたくはないのだ。
「なら今日の昼過ぎにでも取りに行くんで」
了承の言葉と共に電話を切り、知り合いの漆屋に電話をかける。




(ああまったく、うちのお姫さんの心はずっと向こうにあるのは嫌なものだ)


鯖江と福井の話。ぬるいけど鯖江→福井。

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福井駅にて

福井駅西口のベンチに腰掛けながらぼんやりと雪を眺める青年がいた。
この町を走る福井鉄道の鉄道員制服と黒のロングコートに身を包んだ小柄な青年の黒漆の瞳は目の前のホットサンドとコーヒーに向けられている。
「福武くん、なにしとんの?」
「昼飯食ってる」
横から声を掛けてきたのはえち鉄のアテンダント制服に身を包んだ青年だ。
キャメル色のアテンダント制服の上にトレンチコートとマフラーをしたすらりとした青年がベンチの横に腰かけてくる。
「これどこで買ったの?」
「プリズムん中の喫茶店、新商品らしい」
「へぇ、一口ちょうだい」
「ん」
食べかけのホットサンドを半分に割るとまだ口をつけていない方を渡してくる。
ありがと、と言いながらそれを受け取ると美味しそうにほうばった。
「これ美味しいねえ」
「おう」
「今度三国の酒饅頭貰ったらそっちの本社行くとき持ってくね」
「お前の兄さんは要らんのか」
「お酒と五辛は控えてるから酒饅頭も控えてるんだよ」
「ふうん」
「そういえばこの間兄さんと話してたんだけどボルガライスって兄さんでも食える?」
「店による、あれは店ごとでだいぶ味付けが違うから使ってる調味料も異なるしいちいち確認するのも手間だから一番手っ取り早いのは武生に頼んで作ってもらう事だな」
「えー……俺あの人ちょっと苦手なんだよなあ、怖いじゃん。えっちゃんには逢いたいけどさ」
「俺と直通してるのにか?」
「福武くんとはそれなりの付き合いだから顔が怖いのはもう慣れてるけど、武生さんの方が怖いじゃん」
「それ、本人に言うなよ」
「言いません。兄さんがボルガライス興味あるっていうから食べさせたいんだよね」
「……お前は兄さんに甘いな」
いささか呆れたように福武と呼ばれた青年が笑う。
「たった二人の兄弟だからね、ああもう俺行かなきゃ。福井口で兄さんと合流しないと行けなくてさ」
じゃあねと言って立ち去ろうとしたとき。
「三国芦原線、」
「……なあに?」
「こんど休みを合わせて永平寺勝山線、お前の兄さんもつれてボルガライス食いに行こう」
「了解。」





三国芦原線と福武線の話。

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山寺の朝食

まだ日も明けきらない午前五時、すうっと冷たい空気を軽く吸い込んだ。
布団を畳んで寝床を出ればちらちらと外には雪が降っている。
隣の部屋の戸を叩いてみれば小さく「はい」と声がした。
「福井、そろそろ起きて修行の時間じゃぞ」
「……分かりました」
仕事始めに向けて修行に来た福井を起こし(本当は自分で起きるべきなのだがしかたない)本堂で朝の禅を組む。
隣に来た福井とともにしばし禅を組み、30分ほどで一度区切りをつけて台所へと移動する。
大きい寺であれば典座寮(てんぞりょう)や大庫院(だいくいん)と呼ばれる立派な台所があるのだが、ここは一人で管理している小さい寺なので普通の一軒家の台所とそう変わりない大きさのものだ。
まずは土鍋に水と白米を入れて玄米粥を作る。
その間に半分くらいに切ったほうれん草と一口大に切ったカリフラワーを湯がいて柔らかくしておき、ほうれん草をすり鉢で潰したものとほんの少量の塩と粥に混ぜると鮮やかな緑の粥が出来る。
そしてその上に湯がいたカリフラワーと貰い物の缶詰めのコーンを散らしておけば鮮やかな野菜が湯が出来上がる。
調理道具をすすいで戻してから、おぼんに漬物のかぶと食後のデザートの蜜柑と一緒に並べて本堂に持って行く。
「福井、」
「準備は出来てます」
小さな机を出して食事の支度のされたその様子はよく出来たものだ。
対面するように座り、すっと手を合わせる。


「「多くのいのちと、みなさまのおかげにより、このごちそうをめぐまれました。深くご恩を喜び、ありがたくいただきます」」

そうしてゆっくり匙で粥をすくうと、野菜の優しい甘さの粥が温かく体に落ちて行った。


永平寺町と福井のお話。
多くの命と~という挨拶は曹洞宗ではなく浄土真宗のものらしいですが気にしたら負けです。

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贈り物には思いを込めて

『ご依頼のものが完成いたしました』
そんな簡素なメールが届いたのはちょうど昼休みの頃だった。
送り主は顔見知りの肥後象がんの職人で、夏に頼んでいたものがちょうど出来上がったのだろう。
昼食を取りに行くついでに彼の家に行くにはちょうどいい時刻だ。
少し出かけてきます、とくまモンの付箋に書きつけて席を立つ。
(あの人が喜ぶような仕上がりになっているだろう)
遠い雪国に住まう彼女のことを想いながら一歩足を踏み出した。

贈り物には思いを込めて

「ご依頼の品です」
差し出された10センチくらいの小さな桐箱には職人の名が刻まれている。
小さな箱を開くとそこには黒と金の楕円形の帯留めが鎮座している。
熊本の伝統工芸・肥後象がんで作られた帯留めの中には夜の闇のなかで降る雪にじっと耐えながら咲く肥後椿があしらわれている。
「よか仕上がりになっとらす」
「ありがとうございます」
職人は軽く頭を下げて「こいもあたさまの好い人にお渡しするもんですけん」と穏やかに笑う。
それがあまりにも事実なので思わず視線を逸らすと「もちろん誰(だい)にも言わんですよ」と付け足される。
「……助かります」
後日口座に代金を振り込む旨を伝ええて職人の家を出る。
その足で向かったのは中心部にある大きな文具店だ。
手紙のコーナーを見渡すと、冬らしい雪華模様のあしらわれた封筒を見つける。
かの地は雪の多い土地柄だから雪よりも違う柄の方が良いだろうか?と考えていると、くまモンのレターセットが目についた。
(これが良か)
そうしてレターセットを片手に会計場所へと向かった。

*****

数日後。
雪国のあの人から荷物が届いた。
小さな箱には四季折々の柄が施された和ろうそくのセットとともに、純白の和紙に端正な筆致で自分の名が刻まれた封書が載せられていた。




拝啓、熊本市さま
北陸は雪雷の季節を迎え、初物の出回りだした越前ガニを頂いては食べる季節を迎えましたが熊本さまはお変わりありませんでしょうか。
さて、先日届きましたお歳暮の肥後象がんの帯留めですがありがたく着けさせていただいております。
同封頂いた肥後象がんについてのパンフレット通りに日々手入れをしておりますが手入れをすればするほど深みが出るような気がしてとても味わい深く感じます。
つきましては私からもお歳暮として福井の和ろうそくをお送りいたします。
越前の職人が丁寧に絵付けを施した逸品で、熊本さまのお気に召しませば幸いに存じます。
また会う日を楽しみにしております。

福井市


熊本さんと福井さんの話。
フォロワさんと話しててまだ一度も熊本さんを動かしていなかったので書いてみたもの。
方言はミサさん(@piromisaki )が監修してくれました。

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奥越二人ぼっち

拝啓、親愛なる金森長親様。
今年は初雪が早かったせいかここ・越前大野も日々大雪に見舞われています。
そのせいか、今年は頻繁に勝山が雪に埋もれて遊んでいます。
「……雪捨て場で遊ばないでってもう何度も行ってるよね俺」
「でもおのくん毎回拾ってくれるしいいかなって」
「せめて自分ちの雪捨て場にしてくんないかな」
「この間初雪の時にうちの雪捨て場でやったら3日間生き埋めになっちゃった上に携帯が雪解け水で水没しちゃったから俺市内でひとり雪遊び禁止令出てるんだよね」
長親さま、こいつは正真正銘の阿呆なんじゃないかといつも思います。
俺たちは地名と共にある身ですからそう簡単には死なないとはいえ、生き埋めになったのに懲りずに雪捨て場で遊んでるのは馬鹿だと思います。
「ねぇおのくん」
「なに?」
「おなか空いた」
「……昨日のおでんの残りで良いなら」
「やった、おでん食べたい」
ですが結局妙に甘やかしてしまうのは、いま奥越には俺と同じ身のものは俺と勝山だけだからなのでしょうか?




越前大野と勝山の話。奥越二市は特別豪雪地帯に指定されています。
あと良い子は雪捨て場で遊んではいけません。

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