忍者ブログ

コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

一年経ちました

「直通一周年イベントの予定、見た?」
三国芦原線が思い出したようにそんな台詞を吐く。
自分の事務所で仕事の打ち合わせと言うのももはや日常茶飯事ではあるが、たまに不思議な気持ちにもなった。
「キーボがうちに来るんだろう?」
直通を記念して新たに導入されたえち鉄の低床車両であるキーボの初となるヒゲ線乗り入れは今回の目玉だった。
「そ、うちの可愛いキーボがね」
「確かにあれは芋虫的な可愛さがあるな」
「……それ、褒めてる?」
「褒めてる」
「なんだろ、この解せない感じ。まあいいけどさ」
コーヒーと雪玉のようなクッキーをほうばりながら、彼の明るい瞳がすっとこちらに突き刺さってきた。
「これでも、一年やってこれたんだねえ」
「そうだな」


「次の1年も、よろしくね。福武くん」


福武線と三国芦原線。もうすぐ直通一周年です。

拍手

PR

水仙の季節

日に日に春の近づく気配がする。
ぽかぽかとした温かな日差し、遠くから香る梅の花のにおい、雪解け水がたてる水音。
「福井さん、すいません」
「南越前が気にする事じゃないから、気にしないで」
若々しい少女がひょこりと顔を出してくる。南越前町だ。
県庁所在地は伝統的に市と県の仕事を兼任しているので、どうしても県庁まで行く余裕がない時は県の仕事を市役所まで持ってきてもらうことも時折ある(まあ元々閑職なので滅多にある事ではないが)
南越前が持ち込んだ書類にざっと目を通して、内容を大判の手帳に書き込んでおく。
「わざわざ市役所までありがとう」
「いえ。あと、ついでなんですけど」
鞄から出てきたのは新聞紙にくるまれた1輪のラッパ水仙だ。
「ちょうど庭に咲いてたんでお裾分けです」
「越前や池田には渡したの?」
「週末に丹南勢で一緒にご飯食べる約束してるんで平気です」
「そう、じゃあ後ろの引き出しに一輪挿しがあるから飾っておいてくれる?」
「はーい」
いい笑顔でそう答えたのちに残った書類に目を通す。
年度末の多忙さと書類の山の隙間に、黄色い水仙が花咲いていた。




南越前ちゃんと福井ちゃん。もうすぐ春ですね。

拍手

あなたは純潔

段ボール箱いっぱいのデコポンは気の早い春の匂いがする。
火の国熊本からのお裾分けのおこぼれを一つ貰い、さっそく皮をむき始める。
皮からこぼれる柑橘の爽やかな匂いと、鮮やかなオレンジがまだ雪残る福井では色鮮やかに感じられる。
ついでに房ごとに分けてチラシの上に並べれば、彼女の白い指が伸びた。
「……甘酸っぱい」
「初物だからでしょうね」
このデコポンを送って来た火の国の主たる質実剛健の肥後もっこすの顔を思い出す。
そのひと房が彼女の身体に溶け込むのを望んで贈ってきたのだろう、という事をぼんやりと考える。
しかしこのデコポンの大半は彼女以外の、俺やあわらのような近隣の仲間たちの胃に落ちるのであろうと思うとほんの少し可哀想な気もする。だがまあデコポンなんて一人で1個2個食えれば十分なのだし、仕方がない。
「ねぇ、鯖江。あとで眼鏡堅パンを用意できない?熊本さんと宇土さんの分」
「分かってますよ」
デコポンをひと房くちに放り投げると、目の前の彼女にも似た清らかな味がした。





鯖江と福井のお話。
3月1日はデコポンの日らしいので。

拍手

水戸と敦賀の話

(……2月なのに雪がない)
駅から一歩出てみれば雪のない晴天の空。
太平洋側の雪のない冬は分かっていてもいまだ慣れることがない。
「敦賀!ひさしぶりー」
「水戸さん、久しぶりです」
小柄な彼がぴょこんと立った逆毛を揺らしながら駆け寄ってくる。
地元から持ってきた手土産のおぼろ昆布を手渡すと「……地味だね」と言われた。しかし敦賀の誇る名産品であるし美味しいので我慢して頂きたい。
(それにしても相変わらず可愛い人だよなあ)
小柄な体躯も、彼の喜怒哀楽のはっきりした表情も、良くも悪くも隠さない言葉たちも。
子どもの心のままで育って来たようなところを俺は可愛いと思っている。
「今日はうちで一泊してくんでしょ?」
「梅酒、期待してますよ」
「もちろん」
走り出さないようにその手を掴んで歩きだす。
その人から、淡い梅の香りがした。




水戸敦賀習作。付き合ってません。

拍手

ショコラに何を込めるというのか

朝起きると、机の上には1ホールのガトーショコラとコーヒーが置いてあった。
「春江、これは?」
「坂井くんが置いていったみたいです、ほら今日は一日市町村会議で県庁に居ないといけないから……」
「ああ」
土地としての役割を終えて気ままな隠居生活に入った身である自分と春江と違い、坂井にはいまだ己の仕事がある。
だとしても朝っぱらからガトーショコラに熱いコーヒーなどよく準備したものだと思う。
食卓に腰を下ろしてスティックシュガーを一本だけいれればちょうどいい温度だ。
「このガトーショコラ、間にカシスジャムが塗ってある……」
「そらまた手が込んでるな」
「夜にでもお返し渡さないと不機嫌になりますよね……?」
「なるだろうな」
あまり当たって欲しくない予想に頷き合いながら昼間のうちにお返しを準備しようという事で決着がつく。幸い今日は降雪がないから買い出しには困らない。
ガトーショコラに口をつけると、濃厚なチョコレートのなかに甘ずっぱい果実の味がほんのりと広がってくる。
ガトーショコラを半分も食べ切ったあたりで、春江が首を傾げながら食べていることに気付く。
「どうかしたか?」
「あ、いえ……」
ガトーショコラを食べ進めながら、今頃県庁で坂井とあわらは何をしているのだろうかと考えていた。



(このガトーショコラ、心なしか鉄の味がするのは気のせい?)


三国と春江のバレンタインの朝。
ガトーショコラの異物混入については皆さんの想像にお任せします。

拍手

バーコード

カウンター

忍者アナライズ