忍者ブログ

コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

僕は死なねばならぬのだ

バリトンボイスが私の耳に心地よく届いた。
昼下がりのリビングには私と丸岡だけがその部屋にいて、ソファーでうたた寝していた私を緩やかに目覚めへと呼び起こした。
「……マル?」
「春江、起こしちゃった?」
「別にいいよ」
のろのろと起き上がって、台所の冷蔵庫から取り出したキンと冷えた麦茶を目覚めの一杯にと飲み干す。
丸岡の手には、一冊の本があった。
「それを朗読してたの?」
「うん」
「頭から聞かせて」
私が丸岡に麦茶を差し出してそう告げる。
ぺらりとページを戻すと、すっち小さく彼は息を吸い込んだ。
「“春はやいある日/父母はそわそわと客を迎える仕度をした/わたしの見合いのためとわかった“」
それは、妙な薄暗さを含んだ声であることに気付く。
不本意な結婚を痛切なことばで語るその詩は、何故か私の心の琴線を突いてくる。
失望と諦めと恐怖がことばのうちに混在する。
「“わたしは死ななければならない/誰もわたしを知らない/花も知らないと思いながら“」
そうしておもむろに近くにあった紙切れを本に挟むと、「こういう詩だよ」と丸岡は告げる。
これはたぶん、丸岡の言葉の代わりなのだ。
告げる事の出来ない、薄暗くて寂しい言葉たちを、詩の上に載せて語るためのことばだ。
「……さみしい詩だね」
「うん。でもね、この詩の作者は不本意な結婚をしたけれど離婚して、兄を頼って上京して詩の世界で活躍した」
もし合併が結婚と同じであるのならば、離婚するように独立することは出来るのだろうか。
ぼんやりと、考える。





丸岡と春江。
作中の詩の引用元はこちら

拍手

PR

夏の空に花が咲く

真っ白の麻の着物に雪駄と信玄袋をぶら下げて人の波を眺める。
待ち合わせは福井駅前の改札口。
隣でぼんやりと掲示物を眺める勝山が人ごみに流されないように手首を掴み、福井の姿を目で探す。
「福井、」
ひらひらっと手を振れば福井がこちらに寄ってくる。
福井は淡い青に花びらの浴衣と桐下駄に身を包んでおり、トンボ玉のかんざしで留めた髪型も含めていかにも夏祭りの風情だ。
「今日は勝山も浴衣なのね、珍しい」
「お祭りなら浴衣かなって」
勝山は灰色の無地の浴衣に和柄のスニーカーというなんだか不思議な組み合わせだ。
こういう変な組み合わせを平気で着てくるあたりに勝山の気質が出ている気がする。
「じゃ、行きましょうか」
福井の後を追いかけるように歩き始める。
駅前はもう夏まつりの空気と匂いに包まれており、太鼓の音に屋台の匂いが香ってくる。
今日は夏祭り、土地も住人も心躍る夢の一夜だ。





今日は福井フェニックス花火なので福井鯖江勝山トリオのお話。

拍手

かなしみのくつ

夜の東尋坊は潮騒の音しかしない。
それゆえ投身自殺の名所などと呼ばれているが、最近はなんぞのゲームの影響で夜でも人気を感じることが増えた。
これで汚名を晴らせればありがたい限りなのだけれどいつもそう上手くいくものでもない。

目の前には、革靴がひとつ揃えられた状態で崖の縁に置かれている。

(……ああ、間に合わんかったのか)
大きさからして女性だろうか、デザインも革で出来た花があしらわれた可愛らしいものだ。
持ってきていたビニール袋に靴をしまっておく。カードには拾った場所も書いておく。
せめて、この海の底で安らかであってくれと手を合わせて。



拍手

半夏生の客人

「とりあえず頼まれたのはこれだけだな」
「助かります、」
小浜さんに手渡されたスチロール箱の中身を確認して、ありがたく受け取る。
わざわざ木の芽峠を越えてここまで来てもらっているのは結構助かっているのだ。
「あと、これお礼のヤマメとオイカワです」
「今年は川魚か、ありがとうな」
「いつも届けてもらって助かってますから」
小浜さんは元来京都への出入りが多く、わざわざここへ来るという事はあまりない。
ただ、この夏の時期になるとどうしてもお願いしまう。
「でも、なんで半夏生なのにタコじゃなくて鯖なんだ?」
スチロール箱には今朝小浜の港で水揚げされたばかりの鯖がぎっしり詰まっている。
コンロに魚の焼き網を置いて、塩を軽く振った鯖を焼いていく。
「うちの方は江戸の頃からこの時期になると鯖を食べるんですよ」
「ところ変われば品変わるってことかなあ」
小浜が興味深げにそう呟く。
「そういう事です」
「ま、ヤマメありがたく頂いてくわ。鯖が欲しくなったらいつでも言ってくれていいからなー」
ヤマメの入った袋を握り締めて小浜さんがまたフラリと出ていく。


(……勝山ももうすぐ来るかなあ)

半夏水が降らないことを願いつつ、もう一人の客人を待っている。


拍手

本日の焼き鯖

ごんごんごん、と乱雑に玄関の扉を叩く音がした。
「敦賀ぁお前おんのやろー、出て来いやー」
昼寝を妨害するようなその煩さにのそのそと布団から這いずり出て、玄関の扉を開くとそのには予想していた通りの小奇麗な顔と焼き鯖の匂い。
「小浜のにーさん、うるさい」
「第一声それかいな」
「言うときますけど押し売りされても買いませんからね?」
「押し売りはしとらんって、お裾分け」
にこやかに焼き鯖の入った袋を押し付けてくる。
黙っていれば色男なのに喋ると関西ラテンでうるさい嶺南の中心都市はマイペースに人んちにやって来ては焼き鯖やへしこを押し付けてくる。
鯖を分けてくれるのは嬉しいが、今は正直ゆっくり昼寝させてほしかった。
「で、用件はこれだけ?」
「?せやけどなんか用事あったん?」
「いや……焼き鯖は美味しく頂きます」
「ならよかった」
ほななーと言ってまたフラリと去って行く。
相変わらずよく分からないな、と思うけれど焼き鯖に罪はない。今夜は焼き鯖と日本酒で一杯行くか。





小浜と敦賀。

拍手

バーコード

カウンター

忍者アナライズ