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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

夏の空に花が咲く

真っ白の麻の着物に雪駄と信玄袋をぶら下げて人の波を眺める。
待ち合わせは福井駅前の改札口。
隣でぼんやりと掲示物を眺める勝山が人ごみに流されないように手首を掴み、福井の姿を目で探す。
「福井、」
ひらひらっと手を振れば福井がこちらに寄ってくる。
福井は淡い青に花びらの浴衣と桐下駄に身を包んでおり、トンボ玉のかんざしで留めた髪型も含めていかにも夏祭りの風情だ。
「今日は勝山も浴衣なのね、珍しい」
「お祭りなら浴衣かなって」
勝山は灰色の無地の浴衣に和柄のスニーカーというなんだか不思議な組み合わせだ。
こういう変な組み合わせを平気で着てくるあたりに勝山の気質が出ている気がする。
「じゃ、行きましょうか」
福井の後を追いかけるように歩き始める。
駅前はもう夏まつりの空気と匂いに包まれており、太鼓の音に屋台の匂いが香ってくる。
今日は夏祭り、土地も住人も心躍る夢の一夜だ。





今日は福井フェニックス花火なので福井鯖江勝山トリオのお話。

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かなしみのくつ

夜の東尋坊は潮騒の音しかしない。
それゆえ投身自殺の名所などと呼ばれているが、最近はなんぞのゲームの影響で夜でも人気を感じることが増えた。
これで汚名を晴らせればありがたい限りなのだけれどいつもそう上手くいくものでもない。

目の前には、革靴がひとつ揃えられた状態で崖の縁に置かれている。

(……ああ、間に合わんかったのか)
大きさからして女性だろうか、デザインも革で出来た花があしらわれた可愛らしいものだ。
持ってきていたビニール袋に靴をしまっておく。カードには拾った場所も書いておく。
せめて、この海の底で安らかであってくれと手を合わせて。



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半夏生の客人

「とりあえず頼まれたのはこれだけだな」
「助かります、」
小浜さんに手渡されたスチロール箱の中身を確認して、ありがたく受け取る。
わざわざ木の芽峠を越えてここまで来てもらっているのは結構助かっているのだ。
「あと、これお礼のヤマメとオイカワです」
「今年は川魚か、ありがとうな」
「いつも届けてもらって助かってますから」
小浜さんは元来京都への出入りが多く、わざわざここへ来るという事はあまりない。
ただ、この夏の時期になるとどうしてもお願いしまう。
「でも、なんで半夏生なのにタコじゃなくて鯖なんだ?」
スチロール箱には今朝小浜の港で水揚げされたばかりの鯖がぎっしり詰まっている。
コンロに魚の焼き網を置いて、塩を軽く振った鯖を焼いていく。
「うちの方は江戸の頃からこの時期になると鯖を食べるんですよ」
「ところ変われば品変わるってことかなあ」
小浜が興味深げにそう呟く。
「そういう事です」
「ま、ヤマメありがたく頂いてくわ。鯖が欲しくなったらいつでも言ってくれていいからなー」
ヤマメの入った袋を握り締めて小浜さんがまたフラリと出ていく。


(……勝山ももうすぐ来るかなあ)

半夏水が降らないことを願いつつ、もう一人の客人を待っている。


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本日の焼き鯖

ごんごんごん、と乱雑に玄関の扉を叩く音がした。
「敦賀ぁお前おんのやろー、出て来いやー」
昼寝を妨害するようなその煩さにのそのそと布団から這いずり出て、玄関の扉を開くとそのには予想していた通りの小奇麗な顔と焼き鯖の匂い。
「小浜のにーさん、うるさい」
「第一声それかいな」
「言うときますけど押し売りされても買いませんからね?」
「押し売りはしとらんって、お裾分け」
にこやかに焼き鯖の入った袋を押し付けてくる。
黙っていれば色男なのに喋ると関西ラテンでうるさい嶺南の中心都市はマイペースに人んちにやって来ては焼き鯖やへしこを押し付けてくる。
鯖を分けてくれるのは嬉しいが、今は正直ゆっくり昼寝させてほしかった。
「で、用件はこれだけ?」
「?せやけどなんか用事あったん?」
「いや……焼き鯖は美味しく頂きます」
「ならよかった」
ほななーと言ってまたフラリと去って行く。
相変わらずよく分からないな、と思うけれど焼き鯖に罪はない。今夜は焼き鯖と日本酒で一杯行くか。





小浜と敦賀。

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丹南と春の食卓

冬と春を繰り返しながら、町は春へと近づいているのが分かる。
久し振りに丹南で集まって食事でもしようと言う武生の誘いで久しぶりに市街地まで来てみたが、市街地らしいガスの匂いにわずかに梅や桃の匂いが混ざる。
春めく町の片隅の一軒家の車を止め、助手席に置いていた能面とビニール袋を掴んで車を降りた。
「いっちゃん!」
「越前ちゃん、今立と武生いる?」
幼い少女がきらきらとした笑顔を向けながらこちらに寄ってくる。
「なかでごはん作ってる!」
「そう」
手土産は役に立つだろうか、とちょっと考えていると越前の後ろからひょっこりと眼鏡の彼が顔を出してくる。鯖江だ。
「池田、ひさしぶり」
「鯖江くんもおひさだね。越前ちゃんとあそんでた?」
「俺と南越前と越前で七並べしてた」
「七並べかあ、あとで入れて貰おうかな」
「そうだね。入りなよ」
丹南で集まって食事をするとき、会場はだいたい武生の家になる。
武生の言動に思うところはあれど幼いほうの越前に罪はないし、集まって食事をするのは楽しいものだから誘いを受けることはよくある。
「池田か」
「久しぶり、武生」
台所に入ると威風堂々とした立ち姿でフライパンを振るう武生がこちらに気付く。
若き料理人といっても違和感のないすらりといた体つきに男性的な顔つきのせいで誤解されがちだが、武生にはのどぼとけは無く女性であることに一目で気づける人は少ない。
「お土産あるんだけど」
「少し待っててくれ、もう少しで焼きあがるから」
フライパンに盛りつけられたのは大きな白身魚のムニエルだ。
小さなボウルから盛られるのは何かのソースらしい。
「あ、池田ひさしぶりー」
「今立も元気そうで」
後ろからひょこりと声をかけてきたのは今立だ。
いつも通りののんびりした雰囲気ではあるが、お盆を持たされているので配膳を手伝わされているという事だろう。
「今立、ムニエル並べておいて」
「はぁい。あと何か作るの?」
「池田のお土産次第だな。で、お土産は?」
「春の山菜の詰め合わせだよ。新タケノコに、フキノトウと、コシアブラと、タラの芽。全部今朝収穫したからあく抜きしなくても食べられるよ」
「おお……とりあえず天ぷらにするか。残りは鯖江や南越前へのお土産に」
「了解」
そう言うと早速調理台に向かい始め、タケノコやフキノトウを軽く水洗いし始める。
それを確認して広間の方に向かうと鯖江や越前ちゃんたちがトランプ遊びを始めていた。
「池田さん、お久しぶりです」
「南ちゃんおひさしぶり、越前くんの方も」
畳の床に丸く座ってトランプを切る南越前の横に腰を下ろし、越前ちゃんを膝に乗せる越前君に鯖江という顔ぶれだ。
「越前ちゃんと越前君が揃うと兄妹って感じがするねえ」
「似たような名前だと顔つきも似るのかもね」
「……それ、僕への嫌味ですか」
越前君がほんのりと苦い顔をする。ちなみに誰にも悪気はない。
同じ名前をした別人がいるというのもなかなかややこしい事だと丹南で集まるといつも思う。
「トランプ切ったんでどうぞ」
南越前が切ったトランプを数枚づつ手渡していく。
「ねえ南ちゃん、こればば抜きでいいの?」
「じじ抜きですよ。まあルールは一緒なんで問題は無いですけど」
そんな調子でじじ抜き始まりあーだこーだと言いあいながら、トランプを巡っては一喜一憂する。
「あげもののにおいがする!」
「ほんとだ、そろそろかもね」
2人の越前が笑いあっていれば、ふいに広間の扉が開いて「「天ぷら出来たよー」」とやってくる。
春の賑やかな食卓の中心で、山菜が笑っていた。




丹南を書きたいなと思って書いていたらどんどん収集付かなくなってきた産物。

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