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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

あの娘の事は

時間はいつだって怒涛のように流れ去っていくせいで僕一人がおいていかれてばかりなのはいつものことだけれど、寂しいと言うには僕は長生きしすぎていて今更何の文句も言えないものだから、時々僕は北ノ庄がもうここにいないことにびっくりしたりするのだけれど、またその忘れ形見が美人になったものだからそれにも驚いたりするのだ。
「……福井も美人さんになったよねえ」
「さばばー何言ってるのさ、うちの本家が美人なのは今に始まったことじゃないでしょ」
「まあねえ」
小浜や美浜が何言ってんだこいつらと言う顔をしてるけど、彼らは彼らの価値観があるので強制するつもりはないがどう客観的に見ても福井は美人と呼ぶべきだろうと僕らは確信している。
「敦賀、あの二人っていつもあんな感じなん?」
「まああんな感じと言うか割と常に『うちのお姫さんは常に最高にかっこいい』的な感情はたまに見えますね」
「はー……越前はほんといまだにわからんわ」
敦賀も小浜も随分な言いようである。
北の庄譲りの初雪のように白い肌と鋭利な刃物に似た目、そして武道によって鍛えられたすらりとした体つき、あれを美人と称せずに誰を美人と称するのであろう。
まあつまり一言で要約すると、『うちの県庁所在地様は今日も最高』という話である。




ただただ福井が好きすぎる鯖江の話。

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蟹食うあの子

越前町がうちの台所でカニを茹でている。
「……妹よ、いったいなぜうちでカニを茹でている?」
「こっちのコンロの方が火力強くて使いやすいから」
別に越前町がほんとうの妹だとかそういう訳ではないのだが、ノリでそう呼び合うようになってもう10年以上過ぎたのでもはや定番のネタとなっている。
「ちなみにそのカニは俺の分もあるよな?」
「いちおうね、残りは全部みやまさんとか常滑さんに贈る予定だから」
「客人に贈るカニなら自分ちで茹でろや……」
溜息を洩らしつつもカニの茹でられるあの匂いは食欲をかき立てられる。


(……この匂いは冬って感じがするよなあ)

カニ漁が解禁され、あちこちで越前ガニの看板が立つこの季節は、嫌いじゃあない。
「味見用のカニが茹で上がった!食べよう!」
越前焼の大皿いっぱいの大きな大ぶりの越前ガニが、どんと突き出された。
「いただきます」



越前ガニの解禁日だよ!

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福井の詰め合わせ

ちょっとした小さいネタの詰め合わせです


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秋は食のクオリティー・シーズンですよ!

そもそものきっかけは、勝山からの連絡だった。
『ねえおのくん、そば粉5キロも貰ったんだけど一緒に食べない?』
『うちも大根あるから、嶺北で集まっておろしそば食べればいいんじゃない?』
『それだ』
そんな訳で、福井さんに連絡を入れて嶺北の暇な奴らで集まってそばを食べる事になったのである……。

秋は食のクオリティ・シーズンですよ!

「せっかくだからキノコの天ぷらでも作ろうかと思って準備したんだけどどう?」
久し振りにお邪魔した福井さんちの台所には、大きなざる一杯のキノコが盛られている。
おろしそばに天ぷらと言うのも悪くはないなと考えながら「いいと思いますよ」と返すと「ならよかった」と呟く。
「おっじゃましまーす」
「ああ、南越前か。越前町は?」
「なんか焼き物のイベント準備あるから無理だって。あとこれうちに余ってた秋ナスなんですけど要ります?」
「秋ナスかあ、焼いて食べようかな」
「あ、じゃあ福井さん七輪借りて良いですか?」
「外の物置小屋にあるから自由に使って」
「はーい」
そんな調子で全員が家に余っていたものを持ち寄って来るので、1時間もしたら食卓は大盛りになっていた。
武生と越前市の持って来た食用菊の酢の物、あわらと金津が持って来たブランドトマトのチーズ焼き、丸岡の持って来た厚揚げステーキ、春江の持ってきたきゅうりと茄子の糠漬け、池田の持って来たイノシシ肉をにんにく醤油で漬けたもの、そして現在湯がかれている蕎麦である。
「ねえおのくん、」
「なに?」
「食卓賑やか過ぎない?」
「秋だから色々貰うんでしょ、勝山は黙って大根おろしなよ」
「うん」
僕は黙々と大量のそばを湯がき、勝山は大根を下ろし、福井さんはキノコを天ぷらにしていく。
庭からは越前町の焼く秋ナスの匂い、食卓からはホットプレートで焼かれる厚揚げステーキとイノシシ肉の匂いが漂ってくる。
蕎麦を冷水で締めながら僕は考える。
(……これ、遅れてくるっていう鯖江もお土産持ってきたら全員明日胃もたれなのでは?)
そんな直観に襲われつつどんぶりに蕎麦と大根おろしをどさどさと乗せていくと、玄関が開いた。鯖江だ。





「遅刻してごめんねー、お土産にヤマ〇ツのスフレロール持って来たよー!」

「「「「「「嘘だろ(でしょ)?!」」」」」」



秋だから色々美味しいものあるよねっていう話。

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僕は死なねばならぬのだ

バリトンボイスが私の耳に心地よく届いた。
昼下がりのリビングには私と丸岡だけがその部屋にいて、ソファーでうたた寝していた私を緩やかに目覚めへと呼び起こした。
「……マル?」
「春江、起こしちゃった?」
「別にいいよ」
のろのろと起き上がって、台所の冷蔵庫から取り出したキンと冷えた麦茶を目覚めの一杯にと飲み干す。
丸岡の手には、一冊の本があった。
「それを朗読してたの?」
「うん」
「頭から聞かせて」
私が丸岡に麦茶を差し出してそう告げる。
ぺらりとページを戻すと、すっち小さく彼は息を吸い込んだ。
「“春はやいある日/父母はそわそわと客を迎える仕度をした/わたしの見合いのためとわかった“」
それは、妙な薄暗さを含んだ声であることに気付く。
不本意な結婚を痛切なことばで語るその詩は、何故か私の心の琴線を突いてくる。
失望と諦めと恐怖がことばのうちに混在する。
「“わたしは死ななければならない/誰もわたしを知らない/花も知らないと思いながら“」
そうしておもむろに近くにあった紙切れを本に挟むと、「こういう詩だよ」と丸岡は告げる。
これはたぶん、丸岡の言葉の代わりなのだ。
告げる事の出来ない、薄暗くて寂しい言葉たちを、詩の上に載せて語るためのことばだ。
「……さみしい詩だね」
「うん。でもね、この詩の作者は不本意な結婚をしたけれど離婚して、兄を頼って上京して詩の世界で活躍した」
もし合併が結婚と同じであるのならば、離婚するように独立することは出来るのだろうか。
ぼんやりと、考える。





丸岡と春江。
作中の詩の引用元はこちら

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