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コーギーとお昼寝

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どうでもいい福井とあわらの話

あわらの温泉に入りたい気分だったから、と告げて我が家にやってきた福井を私はあらあらと言う面持ちで迎え入れることにした。
ソファーに身体を横たえて冷たいクーラーの風に当たる間にお湯を沸かす。こういう時自宅に源泉を引いておいたのは正解だったなと思う。
「あわら、」
「はいはい?」
「……結城さんからお中元が届いたのだけれど、どうしたらいいだろう」
ここからはるか遠い北関東の地にある彼女の想い人の名を聞けばなるほどと言う気持ちになる。
家に来たのは相談のためなのだろう。
「羽二重でも贈ってみるのはどうですか?」
「去年のお歳暮に贈った」
「じゃあ……越のルビーのゼリーは?」
がばりと起き上がると、その手があったかと言う顔でこちらを見てくる。
つくづくうちの県庁所在地様は素直な子でありがたいと思う。
「ああ、お風呂が沸きましたね。夕飯も食べていきます?」
「邪魔にならない?」
「今日は三国も金津も不在ですから」
今日は女二人でいろいろ話しましょう、と告げれば彼女はこくりと頷いた。



せっかく福井嶺北組を独立させたのであわらと福井の話。

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遠雷

窓を打ち付ける雨と遠雷の音で目が覚めた。
時計を見れば午後4時前になっていて、ああしまったなと思う。
特殊な身元故にあっても無くてもいいような部署に置かれているとはいえ、いちおう割り振られた仕事はしないとならないというのに3時間以上寝ていたことになる。
とりあえずお茶でも飲んで目を覚ましてから仕事するか、と給湯室に足を延ばした。
唐突に携帯が鳴って取ってみれば、それは遠くに住まう友であった。
『もしもし、福井です』
「どうかしましたか」
『今朝送った交流事業の件のファックスの返事が来ないので確認の電話を、いつもなら夕方にはお返事来てるみたいなので……』
「分かりました、確認してきますんでいったん切りますね」
給湯室へ向かう途中にある担当者の机に向かってみれば今日は風邪で休みだという。
なるほどそれなら仕方ないと思いつつ電話をかけなおすとすぐにつながった。
『もしもし』
「もしもし、ファックスの件確認しましたけど担当者病欠みたいなんで返事明日になりそうです」
『そうでしたか……』
「ところで、随分と後ろが騒がしいですけど何か?」
『熊本への災害派遣でいま人が足りなくて』
「それで本来閑職のあなたに仕事が多めに割り振られてると」
『はい。彼は大切な友人ですから』
その言葉に思わず納得の声が漏れる。
「あまり無理はしないでくださいね、あなたが倒れたら大変ですから」
『……はい、そう言っていただけるなら幸いです』
「事実を述べたまでですよ、それじゃあ」
電話を切って窓の外を見る。
まだ、遠雷は止まない。




結城さんと福井ちゃんの何てことない話。
熊本さん頑張って……。

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矢印と片思い

長い休みを貰ったんですよ、とその人は笑いながら言った。
電話越しに聞くその声に私の胸が大きく弾む。
『その休みを使って、そっちへ行ってもいいですか?』
「……是非!」
電話越しにそう告げると「じゃあ、計画が固まったらまた電話しますね」と告げて電話が切れる。
カレンダアで赤い丸を付けてから下に結城さん来福と書き記す。

矢印と片思い

福井駅の改札口に立ちながら、結城紬の彼の姿を探す。
「久しぶりです、」
「いえ、こちらこそ」
仕立ての良い紺の結城紬の上に黒の外套、皮手袋と帽子のその姿は銀幕のスタアのようだ。
矢羽柄の秩父銘仙の上に長羽織という和装にしておいたのは正解だったようだ。
「椿のブローチですか」
「はい、熊本さんから頂きました」
「……ああ、姉妹都市協定結んでいたんでしたっけ。」
肥後椿のブロウチを見て「奇麗ですね」と呟く。
服装を褒めてもらえたことは嬉しい、わざわざ永平寺町に相談した甲斐があった。
「ああそれと、お土産です」
手渡されたのは朱色のスカアフだ。私のために選んでくれたのだろう。
「いま、巻いてもかまいませんか?」
「私は構いませんよ」
袋からスカアフを取り出して首に巻くと、植物の香りがした。
一緒に入っていた紙によると植物染めの絹のスカアフだというのでこの植物の匂いは染料の匂いなのだろう。
「似合いますね」
嬉しそうに笑うその顔は一等美しい。

****

この街の冬は雪か曇りが常で、今日も空は灰色だ。
見慣れぬ裏日本の冬を興味深げに眺めながら自家用車で北ノ庄城郭跡を目指す。
「福井には何度か来てますけどやはり関東とは違いますね」
「確かにそうですね」
「手土産に雪なんか持ち帰っても面白そうですね、きっと筑西が大喜びしますよ」
「素敵だと思います、ついでに越前ガニも送りますよ」
「おや、大盤振る舞いですね。カニを買っていく約束は既にしてあるのであとで市場に案内してくれますか?」
「はい」
赤信号で車が止まる。
助手席に座る彼に何を聞こう?何を話そう?と思案するが、話したいことも聞きたいこともたくさんあるのに口も頭もうまく動かせずに空転していく。
まじまじと見ていると驚くほど美しい人だ、と思う。
すっとした目鼻立ちの美しさ、黒曜の瞳の金属にも似た輝き、東国武士の武骨ながら美しいたたずまい。その視線はまっすぐに福井の街並みに向けられている。
「信号変わりますよ」
「ああ、すいません」
意識を車の運転に移す。
青信号が爛々と輝いて車を再発進させた。
「……福井は、美しい街ですね」
「はい」
「いつか、小山さんを連れてきて良いですか?」
自らの想い人の名を告げる声は微かに熱を帯びている。
結城さんの特別になりたいと願いながらもそれは出来ないことだと、ただその一言の声色で思い知らされる。
そう告げる彼に私はただ「はい」と呟くのみだった。






結城さんと福井ちゃん。叶わぬ恋に身を焦がすさまは可愛いと思っています。

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