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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

ジューンブライドの海で

「そう言えばさ、明日大安吉日なんだね」
晩酌のさなかに和歌山が突然思い出したようにそんなことを言う。
出会った頃からこのマイペースさはさっぱり変わる気配がなく、むしろ悪化している気がする。
まあどこぞの官営様方や神戸のお嬢様やらに振り回されていればそれぐらい肝が太くないとやっていられないという事なのかもしれないが、一緒に暮らす身としては正直めんどくさい。
「そうなのか」
「うん、ほら」
携帯のカレンダーアプリをこっちに見せてくると、確かに大安吉日の文字がくっきりと描かれている。
なるほど土曜日の大安吉日ともなればきっと明日はどこの式場も混んでるだろうとぼんやり考える。
「で、思ったんだけどさ」
和歌山が酷く楽しそうな顔をして切り出してくる。恐ろしく嫌な予感しかしてこないのを飲み込んでとりあえずワンカップの酒を飲みこんだ。

「結婚式、やろう」

「……はい?」
真剣に意味が分からない。
「結婚式って何だよ」
「あれだよ、こう、タキシードとかドレスとか着てみんなの前で誓うの」
「いやそれは分かるけどよ」
「記念写真でいいから!やろう!」
「衣装とかどうすんだよ」
「此花のとこ行けばそれっぽい袴とかあるし!写真撮るだけだから!」
「いやいやいや今からあの人んところ行くのかよ」
「ちょうどお酒も切れたし!行こう!」

大阪市内にある此花の家は慎ましやかな古い独身寮である。
此花と西宮(いちおう競合他社なのにこの二人は妙に仲が良い)は突然の来訪者に呆れ半分の視線を向けてきた。
「……という訳で、袴貸して!」
「急だな!」
そうは言いながらもちょっと待ってろと言いながらタンスを漁り始めた此花はつくづく俺たちに甘い。
2人で夕飯を食べていたという西宮もあの赤い瞳を細めて困ったように歪ませるばかりで、なんだか申し訳ない気分だ。
「結婚写真撮るなんて粋なことするんだね」
西宮が俺にそう告げる。
「突然すぎて困るのはこっちですけどね」
「でも、お互い元気だからできることだよ」
「ま、そうですけどね。元気過ぎるのも困ったもんですよ」
苦笑いをこぼしながら雑談なんかしていると、此花がふらっと戻ってきた。
「とりあえず袴と燕尾服あったぞ、サイズだけ確認しといてくれ」
「どうも」
​​​​​​​「海南は気にすんな、後で写真頼むわ」
「分かりました」

****

翌日。
梅雨時の晴れ間に恵まれたにもかかわらず市内の砂浜は人が少ない。
「……写真撮るって、誰がシャッター切るんだよ」
「考えてなかった!まあでも何とかなるでしょ」
やはりこの男はマイペースである。
三脚片手にあれやこれやと調整を始めた和歌山に対して不思議と苦情は湧かなかった。
こんな奴とずっと一緒にいたおかげで苦労も多かったけれど退屈もしなかった。
決していい関係の始まり方でもなかったけれど、これからもきっとこいつがいれば楽しく生きていけるだろう。
ばたばたばたとこちらに戻って来た和歌山が、俺にブーケを渡してくる。
「これからも、ずっとよろしくね」
「……おう」
そうして、シャッターの切られる音がした。






和歌山海南のジューンブライド。

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短いお話3つ

八幡釜石の短いお話。

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【R18】君の知らない悪徳

本文を読むにはこちらからパスワードを入力してください。

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※このお話は完全なるセルフパロディです

タイトルの時点でお察しいただきたいひどい奴です。
このお話は他のお話とは全く別世界線なので、このお話に出てくる設定は本編と異なります。
付き合ってて男性妊娠な八幡釜石だよ。性的な要素はないよ。


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ありふれた魔法

言うなればあの男は魔法使いだった。
鮮やかな深紅色の揺らぐことのない意思を湛えた瞳は、それそのものが魔法だったのだ。
そして、目の前には魔法使いを失った哀れな女がひとり。
「西宮」
立ち尽くしてボロボロと泣く彼女の名前を、呼んだ。

ありふれた魔法

西宮と言う女は出会った時から綺麗な子だと思っていた。
深い赤の瞳は宝石の色に似て深く、艶やかな黒髪は新品のステンレスにも負けない。
『葺合、』
『なんだ』
『綺麗な子だね』
『……当然だろう?』
自慢げに笑う葺合の目には西宮への愛と自信が浮かび、私もそれに同意した。
それが全く違う性質のものになったのはきっと、あの時だ。
『葺合のことずっと好きだったんだろう?』
『うん……きっと、生まれた時から』
西宮が美しくそう笑ったあの瞬間。
息を飲むほどに美しい微笑みを見た瞬間に、私の中の感情は確かに今までと違うものになったのだ。

****

「ボロボロだな」
西宮は潤む瞳で私を睨んだ。
透明な涙の膜の向こう側からあの瞳が私を覗き込んでくる。
「本社に戻りな、千葉や知多も心配がってるだろう」
「……まだ葺合がいない」
微かに震える声で答えた西宮に、私は軽く息を吐いた。
(敵に塩を送る、って感じだが)
まあいいさとポケットから真新しい携帯電話を取り出す。
「せめて、本社に連絡ぐらいしときな」
「携帯持ってたの?」
「一応な」
西宮はゆっくりとキーをして電話をかけ、私はその背中をただ見ていた。






此花→西宮。恋した相手は別の人に恋してた話。

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