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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

ただのさぎょいぷ

オンライン会議にもすっかり慣れた今日この頃、ちょっとした事務作業の時にもオンラインで話ができるように設定してから事務作業に勤しむことが増えた。
『はー……釜石、今何時でしたっけ』
「17時34分、もう夜勤組が仕事しだす頃合いだな」
パソコンの隅に出ている時刻を読み上げるともう良い頃合いだ。
完成させた紙資料は明日にでも郵送して、残った仕事も明日に回そう。
『じゃあ今日はこれぐらいにしますかね』
「おう、それじゃあ『まだ切らないでくださいよ』
「……お前さんここのところ毎日ネット電話しとるじゃろ」
『仕方ないじゃありませんか。気軽に逢いに行けない状況ももうすぐ一年、こうして声を聴く以外の楽しみがないんですよ』
八幡もこの一年、うちに押しかけてくることが無くなり色々と我慢してるのだろう。
そういう不満の一つや二つ、年長者として聞いてやるのもやぶさかではない。
「じゃあアレだな、オンライン飲み会ってことで。酒はあるか?」
『あー、ちょっと待ってください』
幸い自分のほうは先週末に買った浜千鳥の寒造り新酒があり、つまみは貰ったイカの塩辛と漬物がある。
今日は晩酌を飯代わりにしてゆっくり寝よう。
『ありました、壱岐焼酎・天の川!酒の棚開けたら奥のほうに眠ってた奴ですけど』
会話画面にでかでかと焼酎の瓶を映してきて思わず苦笑いが出る。
これじゃあ完全に酒飲みだ。
「だからうっすら埃っぽいのか」
『正直ちょっと忘れてたんで、ちなみに釜石は?』
「日本酒、地元産の寒造り新酒に知り合いの作ってくれたイカの塩辛と漬けものだな」
そうこう言ってると八幡が酒瓶をずらして『見てくださいよ』と何かを映してくる。
『牡蠣小屋のプリン!糸島の牡蠣小屋でしか買えないレアものなんですよ』
「珍しいな、でもプリンで酒は飲めんじゃろ」
『まあそうですけどね。すきっ腹のお酒は身体に悪いですから』
そう言いながらさっそくプリンを食べ始めるのを穏やかな気持ちで見つめる。
まだ会えない日々は続くが、こうして声を聴くだけでも楽しいものだ。
いかの塩辛を日本酒で流し込むとほかほかと温まっていく。
「……今度お前さんと飲む時は、画面越しじゃないといいな」
『ええ』
なお、10分後揚子江の肉まんを買いに走らされた小倉が領収書片手に怒鳴り込んでくるがそれはまた別の折に。



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ただの八幡釜石

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冬の湯船に愛が浮く

街も随分冷え込むようになってくるのを感じるたびに、もう冬だなと思い知らされる。
相変わらず厳しいこの街の冬を何度過ごしてきたかなんて数えたくもない。
されどここに生まれこの町の誇りとして生きてきた以上はこの冬の寒さに文句など付けることもできない。
それに、この12月1日という日は多くの人々が自分の誕生を祝う記念日なのだ。
紙袋に詰め込んだ祝いの品をぶら下げながら一人暮らす家の扉を開ける。
「おかえりなさい釜石!」
自分の冷えた体に遠慮もなく飛び掛かってきたのは割烹着に身を包んだ八幡だった。
マスク越しに八幡の熱い頬が触れ、抱きしめる腕の力もすんすんという匂いをかぐ音もこれが現実だと伝えてくる。
その一つ一つが妙に懐かしくてぽんぽんとその背中をたたくと、強く抱きしめ返される。
このところは流行り病で長距離移動を制限され、こうして対面で逢うのはずいぶんと久しぶりだ。
「お前仕事とかええんか?」
「ちゃんと終わらせてから来てますよ。ちゃんとマスクや消毒液も持ってきてますし……あ、手指消毒」
「手洗いうがいで良かろ」
「ならお風呂沸かしてありますから!お先にどうぞ」
そう言うと名残惜しそうに八幡が腕を放して荷物も運んでおいてくれるというので、遠慮なく一番風呂を浴びに行く。
自宅の古い風呂の扉を開ければふわりと温泉の香りがして、どこかの温泉場の湯の花でも入れておいてくれたのが分かる。
綺麗に体を洗い流して湯の華薫り立つ熱い湯に身を浸す。
じんわりと指先まで温かさと祝福が染みわたり、温泉の香りを体いっぱいに吸い込む。
(……それにしても今日は嫁でも貰った気分だな)
100歳もとうに過ぎ八幡の供給過多な愛情の受け取りには慣れているつもりだったが、こういう方向から来られるのは初めてでこそばゆい。
「着替え置いときますね」
扉越しに八幡がそう告げてくるので「おう」と答えると「夕飯も出来てますから」と答えてくる。
「今日のお前さんは嫁さんみたいだな、男なのが惜しいくらいだ」
「釜石にしかしませんけどね」
「確かにわし以外にこんなことするお前さんが想像つかん」
自分の事がずっと好きな男だという事はこの半世紀でよく分かった。
その愛を信じていると言えば聞こえはいいが、本当はただの甘えなのかもしれない。
「……今日は南部鱈のたらちりですよ。
それに色々プレゼントも預かってきてるので楽しみにしてくださいね」
今日はお湯だけでなく愛情で指先までよく温まれそうだ。




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八幡釜石。最初は足し算のつもりがカプっぽくなったのでカプ扱いです。

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かささぎの橋をかけて

降り止まない雨とじめじめとした梅雨空と空気に情緒がかき乱される。
昔からこの季節はどうも苦手だ。まして大雨ともなればなおさらのことで、ないはずの古傷がうずくような感覚すらする。
クーラーをつけてみてもすぐに部屋が冷える訳ではない。
(……釜石に逢いたい)
こうなるといつだって自分の支えだった人のことばかり思いだす。
己の師にして最年長である釜石は、国家の威信を以て完璧であろうとしなくてもよいと言ってくれる唯一のひとなのだ。
とりあえず電話でもかけてみよう。あの声を聴ければ少しは穏やかでいられる気がする。
携帯電話を鳴らすとベルが鳴り終わらぬうちにその声が私の耳に届く。
『八幡、どうかしたか?』
「ただ釜石の声を聴きたくなったんですよ」
『そうか、そっちは大雨だろう?身の安全には気を付けろよ』
「もちろんですよ」
今宵は七夕。
この雨では天の川にかささぎの橋を架けることはできないだろうが、電話の一つかけたって誰も怒りはしないだろう。


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八幡釜石の七夕

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花束をひとつ

それは30年くらい前の話。
神戸製鋼本社で関西三社による話し合いがひと段落して、加古川の入れた紅茶とお茶菓子で休息を入れていた、そんな時だった。
「そういや葺合、今日ホワイトデーだけどお返しはしないのか」
「……ホワイトデーって何だ?」
葺合が大真面目にそう聞くので私と神戸と加古川の三人がかりででホワイトデーの説明をすると、葺合は分からないなりに一応の概要ぐらいは理解したようだった。
「ただ、確かにこの間お菓子は貰ったがお返しは要らないというから用意してないんだが」
「それは西宮なりの遠慮よ、なにかお返ししてあげなさい」
「私もそう思います」
「なんかの焼き菓子でもいいから持ってってやれよ……」
西宮だって多かれ少なかれ葺合のことを特別に思ってるからバレンタインにお菓子を用意するのだし、持って行くべきだ。
無言のうちに形成された女三人の意見に葺合は圧倒され気味のようだった。
「わかった」
「じゃあ私の車乗ってきなよ、西宮のとこまで送るから。どうせ途中でちょっと寄るだけだし」
今思えば大きなお世話だったかもしれないが私と神戸にとって西宮は可愛い妹分だ、まして私のとこは女っ気がないのでなおのこと西宮が妹のように愛おしかった。

「……わかった」

会議後、車に葺合と神戸を乗せて何がいいかとやかましく話し合う私と神戸に対し、葺合は静かに窓の外を見つめながら考えこんでいた。
「とりあえず日持ちする焼き菓子が良いと思うのだけど、葺合はどう思う?」
神戸が私たちの話の結論を告げると葺合は小さな声で切り出した。
「……花束」
「え?」
「西宮に、春の花を持って行きたい」
「葺合にしてはロマンチストな発想ね、でもいいと思う」
「じゃあ花屋行くか?」
「いや、梅を……梅の花が良い。西宮には梅が似合うと思うから」
「梅の花かあ、確かに似合いそうだけど……切り花で売ってるのか?」
「私のとこの元社員で梅たくさん育ててる人いるからその人に分けて貰いましょ、奥池のほうになるんだけどいい?」
「はいはい、ちゃんと案内しろよ」

***

そうして今、西宮の家には大きな鉢に植えられた梅の木が咲いている。
「まさか接ぎ木して植木にしちゃうとはなあ」
「葺合からお花貰えたのが嬉しかったから……」
葺合が西宮にと渡した紅梅の枝は長生きさせるためにわざわざ接ぎ木してもらって丁寧に丁寧に育てられ、今じゃあ人の背丈ほどある梅の木となった。
今も、春が来れば葺合の愛が西宮の頭上に静かに降り注いでいる。



此花ネキと葺合西宮。春の先駆けは愛の匂いですね。

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愛は重くとろける

毎年のことだが、今年もまた八幡からチョコが届いた。
チョコレートケーキが1ホール。
(……あいつ、手加減しないな)
甘いものが食えないわけではないが一人で1ホール食いきれるわけがないのに奴はいつもホールで送ってよこしてくる。
当然食いきれない分はシーウェイブスや職員にお裾分けとなるが、言うと面倒なことになりそうなので他の奴に食わせたことはいつも伏せている。
全くなあとと思いながら同封された手紙を開いた。

釜石へ
今年もバレンタインですね、本来なら休みをもぎ取ってそちらに行くのですが今年は多忙のため行くことが出来ず郵送にて贈ることになりました。本当にすいません。
ですがその代わり、自分でケーキを作って拵えました。
釜石が以前食べておいしかったと言ってくれたオペラです。レシピはネットで探ったものですがその分チョコはいいものを使いましたし、何より釜石のことですから私の作ったものは全部食べてくれますよね?
ちなみにコーヒーは口直しにと用意しました。これも国内で手に入る中で一番高級なゲイシャです。大事に飲んでくださいね。
親愛なる師への敬愛を詰め込んで。
八幡

「……重すぎるわ!!!!!」
これは他人に絶対食わせられない。
コーヒーの方はともかくケーキのほうは人に分けたのがバレたらヒステリーもののヤツである。
いや、分かってる。八幡を突き放さない自分が悪いのだ。だけど同時に八幡の特別はこの世界で一人だけだと再認識する。たぶんこの先も八幡の特別は自分一人きりなんだろう。
ナイフを入れて素手で一口放り込むと、チョコレートの深い苦みとともに柑橘酒の香りがふわりと広がる。
まあいいさ、それがお前の望みなら胃もたれ覚悟でちゃんと食い切ってやろう。
お前の世界で一番重い愛に答えてやるのも務めなんだから。




八幡釜石の重い愛とバレンタインの話

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