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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

きょうのかなしみ

まあ何となくこうなってるだろうな、という気はしていたのだ。
ベッドの隅に丸まった呉は一人静かに泣いていた。
「呉、」
「……俺はもう、何もしたくありません」
「気持ちは察する。でもね、

黒田の引退は仕方ないと思うよ」

そう、呉が落ち込んでいたのは先ほど発表された広島カープの黒田の引退であった。
25年ぶりの優勝に導いた名選手の引退を悲しむ気持ちは察するに余りあるが、仕事はしてほしい。
不在の周南に頼まれて呉の様子を見に行けばこれである。
「むり……もうむり……」
「語彙力の死んだオタクみたいなこと言わないで」
「次の優勝はいつだろうと思うと泣けてきて……」
そしてまた思い出し泣きが始まった。
駄目だこれ。今日明日使い物になりそうにない奴だ。
「……今晩泊まっていい?」
「どうぞ」
今日はもうずっとこの調子の呉の面倒見てることになるなあと思いながら、よしよしと呉の頭を撫でていた。




カープファン呉と巻き添え広畑の話。

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あくがれる

ごうごうと煙を吐く巨大な生き物に、ほうっと溜息が一つ漏れる。
名古屋の工業地帯を巡るクルーズ船の上から見る製鉄所は光にくるまれて生きている。
「知多、」
西宮は呆れたような声で俺を呼ぶ。
よっぽどひどい顔して見ていたのだろうか
「なに?」
「……そんなもの欲しそうな顔で見てたら、こっちの良心が痛む」
西宮の言葉でああやっぱりそんなひどい顔で見てたのかなあと考えてしまう。
いま目の前で光に包まれながら煙を吐く彼の象徴にして、玉音放送によって俺がついに得る機会を失ったモノ。それが高炉だった。
俺がそれを欲しいと願う事に西宮が罪悪感を抱く必要はなくて、ただ運が無かった。それだけのこと。
分かってはいてもあれは俺が得るはずだったという駄々ばかりは消えそうもない。
「別に大丈夫だよ?」
「大丈夫なら、そんな顔しないで」
西宮がそう告げるので俺はこくりと頷いた。





西宮と知多の話。知多と高炉についてはそのうち。

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コミュニケーション・ブレイクダンス

「お前ほんといい加減にしろよ」
君津の瞳の人工的なブルーが怒気に染まるのが分かる。
まーた堺が踏んだら駄目な地雷(またの名の四日市と言う)踏んでやがんな、懲りないというかなんというか。
「光、助けに行かなくていいの?」
「アレは私じゃ助けようがないよ」
隣に座っていた光の声は完全に呆れてる。
あたしはポッキーをぼりぼり食いながら二人を見つめている。
「そうなの?」
「本人に悪意無いもん、四日市は本人にとって最上級のものだから。私も一度だけ言われたことあるよ」
「……その四日市と比較するのが君津の地雷なんだけどな」
君津のもっとも踏んではいけない地雷が四日市になった原因の9割くらいは出会った頃に君津と四日市をあからさまに重ねて見てきた堺なので完全なる自業自得なのだが、本人があまり懲りてはいないのが図太いというか何と言うか。
ぎゃんぎゃんとキレる君津を楽しさと満足感で見つめているあたり、なんか不気味なものを感じるのだがあんなコミュニケーションしかできないのは誰の責任なのだろう。
「正直、堺くん見てると育て方間違えたのかなって思うことあるよ……」
「間違えたのは光じゃなくて八幡だと思う」
いい加減仲裁してくるわ、と席を立てばやっぱり堺はちらりと不機嫌そうにこっちを見てくるのだ。



まともなコミュニケーションが出来ない堺と君津の話。

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スタジアムに行く話

待ち合わせは広島駅の改札、手持ちのお金は少し多めに持って行った。
呉とのデートなんて久しぶりだし気合を入れてメイクもして新幹線に飛び乗ったのに、目的の人物よりも前に再会したのは意外な人物だった。
「周南、」
「広畑ひさしぶりじゃん、でもなんでここに?」
「呉に誘われた」
「ならおしゃれする必要なかったじゃん……」
赤いワンピースはネットで一目惚れしておととい注文した新品で、球場に誘われた時に着て行こうと即決したものだ。
お気に入りの茶色い麻のアルパルガータ(ひも付きのウェッジソールの靴だ)だって呉のために選んだのに。
「だって、場所が場所だから……」
「何のこと?」
「呉に言うなよって言われてるから、言わない。」
悪戯小僧みたいな顔をして笑う広畑に僕はちょっとだけぷうっという顔をした。
(僕にナニ隠すのさ!)
もったいぶられてもこっちは不服だ。
「周南、待たせてすまない」
カープのユニフォームを来た呉が八幡と光を連れて僕に手を振る。
本格的にデートじゃなくなってきたなあこれ。
「呉!久しぶり」
「ああ、半月ぶりだな」
「球場行くんでしょ、行こう!」

****

呉が取ったのはこのスタジアムが誇る、バーベキューが出来るテラス席。
広々としたテラスからは外野が一望できて観客席の賑わいも良く見える。
下のテラスに目を向けると呉のところの従業員がいる事に気付く、見覚えのある顔がちらほら見えたから呉のところの所長が丸ごと貸しきって呉が一番小さいところを借りたのだろう。
でもここは40人まで入れるらしから、このスペースに5人きりと言うのは結構贅沢な空間の使い方だ。
(……確かにこれなら人数いた方が良いか)
優勝マジックもついたことだし呉からのお祝い金みたいなものだろう。
「周南、」
「まさかここに来れるなんてびっくりした」
「このスタジアムが出来たとき、ここに来てみたいって言ってただろう」
「覚えてたんだ……!」
呉が少し気恥ずかしそうに視線を逸らすので、「ありがと」と僕がほほ笑んだ。
プレイボールの声が響くまで、もう少し。





カープが優勝間近なので日新製鋼を書く練習ついでにカープネタです。
ちなみに、延々とそれゆけカープを聞きながら書いています。洗脳されそう。

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君津と毛染め

「君津、そろそろ髪染め直したら?」
久しぶりにうちへ来た東京がそう告げる。
自分たちは人間と違い髪の毛が伸びることはあまりないのだが、本来の毛の色を抜いて金色に染めた髪は定期的に染め直さないと色が黒ずんでくるのだ。
「あー……ほんとだ、少し黒ずんでら」
「だから染め直せば?って」
「わーってるよ、だいたい俺が最初染めた時は全否定だったくせに」
そうなのだ。
最初に俺が髪を染めて金髪にしていたのを見たとき、東京は「あり得ない」と全否定だった。
『大人になるってそう言う意味じゃないだろ!』
『東京には関係なかろーが!』
『だからって金髪はねーよ……八幡なら失神してるわ……』
実際話を聞いてやってきた八幡も黒く染め戻せと言っていたのだが、俺にとってこの金髪は自立の象徴であったし鹿島のあの淡い茶髪や千葉の赤い瞳に対する憧れもあったので今更黒に戻す気にもなれずこれだけはいう事を聞かないで押し通したのだ。
ちなみに、鹿島と千葉は『アリじゃない?』『目立つしいいと思うよー』と肯定的だった。
歳を重ねるごとに方言も抜けていき、カラーコンタクトが世に出回るようになってからはカラコンを付けて青い瞳にもなった。
そうして八幡に守られる子どもでも、四日市の生まれ変わりでもない、ただの君津の姿がようやくできたのだ。
「でも結局許したろ?」
「まあな、八幡が何も言わないなら私や光はケチのつけようがないだろ。今じゃその金髪がお前らしさだしな」
東京は苦笑いしつつ俺を見る。
でも俺はちゃんと≪俺≫になれているのだろうか、とたまに考える。





太陽が昇る海の後日談的な君津と東京の話。
サイトのデザイン少しいじった記念にまとめて更新してみました。

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