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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

スタジアムに行く話

待ち合わせは広島駅の改札、手持ちのお金は少し多めに持って行った。
呉とのデートなんて久しぶりだし気合を入れてメイクもして新幹線に飛び乗ったのに、目的の人物よりも前に再会したのは意外な人物だった。
「周南、」
「広畑ひさしぶりじゃん、でもなんでここに?」
「呉に誘われた」
「ならおしゃれする必要なかったじゃん……」
赤いワンピースはネットで一目惚れしておととい注文した新品で、球場に誘われた時に着て行こうと即決したものだ。
お気に入りの茶色い麻のアルパルガータ(ひも付きのウェッジソールの靴だ)だって呉のために選んだのに。
「だって、場所が場所だから……」
「何のこと?」
「呉に言うなよって言われてるから、言わない。」
悪戯小僧みたいな顔をして笑う広畑に僕はちょっとだけぷうっという顔をした。
(僕にナニ隠すのさ!)
もったいぶられてもこっちは不服だ。
「周南、待たせてすまない」
カープのユニフォームを来た呉が八幡と光を連れて僕に手を振る。
本格的にデートじゃなくなってきたなあこれ。
「呉!久しぶり」
「ああ、半月ぶりだな」
「球場行くんでしょ、行こう!」

****

呉が取ったのはこのスタジアムが誇る、バーベキューが出来るテラス席。
広々としたテラスからは外野が一望できて観客席の賑わいも良く見える。
下のテラスに目を向けると呉のところの従業員がいる事に気付く、見覚えのある顔がちらほら見えたから呉のところの所長が丸ごと貸しきって呉が一番小さいところを借りたのだろう。
でもここは40人まで入れるらしから、このスペースに5人きりと言うのは結構贅沢な空間の使い方だ。
(……確かにこれなら人数いた方が良いか)
優勝マジックもついたことだし呉からのお祝い金みたいなものだろう。
「周南、」
「まさかここに来れるなんてびっくりした」
「このスタジアムが出来たとき、ここに来てみたいって言ってただろう」
「覚えてたんだ……!」
呉が少し気恥ずかしそうに視線を逸らすので、「ありがと」と僕がほほ笑んだ。
プレイボールの声が響くまで、もう少し。





カープが優勝間近なので日新製鋼を書く練習ついでにカープネタです。
ちなみに、延々とそれゆけカープを聞きながら書いています。洗脳されそう。

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君津と毛染め

「君津、そろそろ髪染め直したら?」
久しぶりにうちへ来た東京がそう告げる。
自分たちは人間と違い髪の毛が伸びることはあまりないのだが、本来の毛の色を抜いて金色に染めた髪は定期的に染め直さないと色が黒ずんでくるのだ。
「あー……ほんとだ、少し黒ずんでら」
「だから染め直せば?って」
「わーってるよ、だいたい俺が最初染めた時は全否定だったくせに」
そうなのだ。
最初に俺が髪を染めて金髪にしていたのを見たとき、東京は「あり得ない」と全否定だった。
『大人になるってそう言う意味じゃないだろ!』
『東京には関係なかろーが!』
『だからって金髪はねーよ……八幡なら失神してるわ……』
実際話を聞いてやってきた八幡も黒く染め戻せと言っていたのだが、俺にとってこの金髪は自立の象徴であったし鹿島のあの淡い茶髪や千葉の赤い瞳に対する憧れもあったので今更黒に戻す気にもなれずこれだけはいう事を聞かないで押し通したのだ。
ちなみに、鹿島と千葉は『アリじゃない?』『目立つしいいと思うよー』と肯定的だった。
歳を重ねるごとに方言も抜けていき、カラーコンタクトが世に出回るようになってからはカラコンを付けて青い瞳にもなった。
そうして八幡に守られる子どもでも、四日市の生まれ変わりでもない、ただの君津の姿がようやくできたのだ。
「でも結局許したろ?」
「まあな、八幡が何も言わないなら私や光はケチのつけようがないだろ。今じゃその金髪がお前らしさだしな」
東京は苦笑いしつつ俺を見る。
でも俺はちゃんと≪俺≫になれているのだろうか、とたまに考える。





太陽が昇る海の後日談的な君津と東京の話。
サイトのデザイン少しいじった記念にまとめて更新してみました。

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贈り物の話

釜石はけっこう地味好みである。
きょうの着物は青灰の着物に黒の角帯に雪駄で、俺からするといささか落ち着きすぎているぐらいの組み合わせだ。
「……前から思ってたんだけどさぁ、」
「うん?」
「もう少し華やかなの着てもいいんじゃない?」
ジンギスカンを食いながら釜石に尋ねると、年相応のもん着てるだけだと返される。
八幡なんかは同じ気持ちらしくちょくちょく着物や反物をプレゼントしては好みじゃないのを貰ってもなあと釜石を困らせている。
まあ八幡は釜石に似合う自分好みの着物を選んでるようなのだが、それが釜石からすると好みじゃない・若作りと言う風に映るらしく結局人に譲ったりしているようだった。
「ちったぁあいつもわしの好みを考慮してくれればなあ……これを贈ってくれた時は良かったんじゃが」
「今着てる奴?」
「おう、うちが津波でダメんなったときに夏物を贈ってくれてな。光が一緒に選んだとかでわしの好みも考慮されてた」
「あー……光はセンスいいよね。大分は無頓着なのに」
大分の妹分である光はセンスが良くていつもプレゼントやお中元にびっくりするほど好みに合った素敵なグラスやお酒なんか贈ってくれる。
よく見ると釜石の着物は無地だと思ったら白く細い線が入っていることに気付き、なるほどこれが好みなのかと納得する。粋というかなんというか。
「自分の趣味にさえ走らなきゃセンスがいいんじゃがな」
釜石のぼやきに軽い苦笑いが漏れた。





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八幡さんも楽したい

それはそれは深い溜息を一つ吐いて新聞を閉じる。
「朝からえらい深い溜息吐きはりますね、八幡さん」
「堺……あなたいっぺん殴りたいと思ったことはありますか?」
「ポスコさんの話ですか?」
「あんな恩知らずにさん付けしないでくださいヘドが出る」
しまった、韓国最大の製鉄企業に対する八幡の恨みの深さを忘れていた。
あの辺の因縁はあまり把握していないので深入りしないようにしているが、あの一年中寝惚けているような広畑が丑の刻参りをしてでも息の根を止めようとした相手なので恨みの買われ方がえぐい。
「じゃあ誰殴りたいんです?」
「中国ですよ、本当に鉄鋼減産する気あるんですかね」
その言葉になるほどと溜息を吐く。
不況に見舞われる鉄鋼業界ではその原因となっている中国による鉄鋼減産を望み続けてきた。
あの国ではあまたの製鉄所があり一度は不景気で高炉を止めたものの、今年に入ってから中国国内の景気が良くなってきたため再び生産を再開するゾンビ製鉄所が続出。
その鉄は中国国内にとどまらず世界の市場に放出されて世界の鉄の値段を下げ続けている。
「止めろ止めろとは言うても急に止まるものやないですからねえ」
「こっちは殴りたくて仕方ないですけどね」
「……高炉持ちの年長者やなくて良かった」
「今何か言いました?」
八幡に黙ってお茶を差し出せばずずっと勢いよく啜っていった。




堺の家に泊まりに来た八幡の話。
八幡とポスコの因縁はいずれ書きたい(書く機会があるのかは謎)

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拝啓、金子商店様。

拝啓、金子商店様。
梅雨入り前の暑さ厳しいこの季節をいかがお過ごしでしょうか。
私と加古川は今日も元気に過ごしており、加古川も少し背が伸びたような気がします。そのうち追い抜かされそうで怖いです。
最近はもっぱらこの身長の事で悩んでいます。
ここのところ来年11月の高炉停止で身長が縮むのではないかと戦々恐々としているせいで、洋服を買い足すときどうしても来年秋以降も着れるのかと思っては服を諦める日が続きます。
良い服を買ってもすぐ着れなくなったらもったいないですからね。
加古川は私の洋服のセンスは派手だから遠慮すると言って譲る事が出来ず、さてどうしようかと洋服箪笥の前で頭を抱える日々です。
もしあなたがいてくれたら私の洋服を代わりに着てくれたでしょうか?
そんなことをぼんやりと考える日々です。
それでは、またいずれ手紙を出します。
あなたの妹たる神戸製鋼より愛を込めて。

書き終えた手紙を封筒にしまい込み、軽くため息を吐く。
どうでもいい日々の事をこうして行き先の無い手紙を書いてはお菓子の缶に投げ込むという不毛なことをもう何度も繰り返している。
「神戸姉様」
「加古川、どうかしましたか?」
「おやつ時ですからお茶にしませんか?スコーンを焼いたんです」
「そうね」
私の可愛い年の離れた妹である加古川は山野草のごとき素朴な少女で、口の悪い小倉なんかは『何度見ても血のつながった姉妹とは思えんたい』と言うくらいだ。
木皿に盛られた出来立てのスコーンとイチゴジャムにクロテッドクリーム。そしてストレートティー。
「また少し背が伸びましたこと?」
「そうかもしれません」
「大きなこと自体は悪い事ではないわ、今のあなたは真岡や高砂に並ぶうちの主力だもの」
そう言うと気恥ずかしそうに軽く視線を逸らす。
(兄弟姉妹と言うのは本当にいいものだわ)
今度は加古川の話を手紙に書こうか、なんて思うのだった。





金子商店と神戸の話はそのうち書きます。あと加古川ちゃんちゃんと書くの初めてですね。

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