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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

あくがれる

ごうごうと煙を吐く巨大な生き物に、ほうっと溜息が一つ漏れる。
名古屋の工業地帯を巡るクルーズ船の上から見る製鉄所は光にくるまれて生きている。
「知多、」
西宮は呆れたような声で俺を呼ぶ。
よっぽどひどい顔して見ていたのだろうか
「なに?」
「……そんなもの欲しそうな顔で見てたら、こっちの良心が痛む」
西宮の言葉でああやっぱりそんなひどい顔で見てたのかなあと考えてしまう。
いま目の前で光に包まれながら煙を吐く彼の象徴にして、玉音放送によって俺がついに得る機会を失ったモノ。それが高炉だった。
俺がそれを欲しいと願う事に西宮が罪悪感を抱く必要はなくて、ただ運が無かった。それだけのこと。
分かってはいてもあれは俺が得るはずだったという駄々ばかりは消えそうもない。
「別に大丈夫だよ?」
「大丈夫なら、そんな顔しないで」
西宮がそう告げるので俺はこくりと頷いた。





西宮と知多の話。知多と高炉についてはそのうち。

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コミュニケーション・ブレイクダンス

「お前ほんといい加減にしろよ」
君津の瞳の人工的なブルーが怒気に染まるのが分かる。
まーた堺が踏んだら駄目な地雷(またの名の四日市と言う)踏んでやがんな、懲りないというかなんというか。
「光、助けに行かなくていいの?」
「アレは私じゃ助けようがないよ」
隣に座っていた光の声は完全に呆れてる。
あたしはポッキーをぼりぼり食いながら二人を見つめている。
「そうなの?」
「本人に悪意無いもん、四日市は本人にとって最上級のものだから。私も一度だけ言われたことあるよ」
「……その四日市と比較するのが君津の地雷なんだけどな」
君津のもっとも踏んではいけない地雷が四日市になった原因の9割くらいは出会った頃に君津と四日市をあからさまに重ねて見てきた堺なので完全なる自業自得なのだが、本人があまり懲りてはいないのが図太いというか何と言うか。
ぎゃんぎゃんとキレる君津を楽しさと満足感で見つめているあたり、なんか不気味なものを感じるのだがあんなコミュニケーションしかできないのは誰の責任なのだろう。
「正直、堺くん見てると育て方間違えたのかなって思うことあるよ……」
「間違えたのは光じゃなくて八幡だと思う」
いい加減仲裁してくるわ、と席を立てばやっぱり堺はちらりと不機嫌そうにこっちを見てくるのだ。



まともなコミュニケーションが出来ない堺と君津の話。

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スタジアムに行く話

待ち合わせは広島駅の改札、手持ちのお金は少し多めに持って行った。
呉とのデートなんて久しぶりだし気合を入れてメイクもして新幹線に飛び乗ったのに、目的の人物よりも前に再会したのは意外な人物だった。
「周南、」
「広畑ひさしぶりじゃん、でもなんでここに?」
「呉に誘われた」
「ならおしゃれする必要なかったじゃん……」
赤いワンピースはネットで一目惚れしておととい注文した新品で、球場に誘われた時に着て行こうと即決したものだ。
お気に入りの茶色い麻のアルパルガータ(ひも付きのウェッジソールの靴だ)だって呉のために選んだのに。
「だって、場所が場所だから……」
「何のこと?」
「呉に言うなよって言われてるから、言わない。」
悪戯小僧みたいな顔をして笑う広畑に僕はちょっとだけぷうっという顔をした。
(僕にナニ隠すのさ!)
もったいぶられてもこっちは不服だ。
「周南、待たせてすまない」
カープのユニフォームを来た呉が八幡と光を連れて僕に手を振る。
本格的にデートじゃなくなってきたなあこれ。
「呉!久しぶり」
「ああ、半月ぶりだな」
「球場行くんでしょ、行こう!」

****

呉が取ったのはこのスタジアムが誇る、バーベキューが出来るテラス席。
広々としたテラスからは外野が一望できて観客席の賑わいも良く見える。
下のテラスに目を向けると呉のところの従業員がいる事に気付く、見覚えのある顔がちらほら見えたから呉のところの所長が丸ごと貸しきって呉が一番小さいところを借りたのだろう。
でもここは40人まで入れるらしから、このスペースに5人きりと言うのは結構贅沢な空間の使い方だ。
(……確かにこれなら人数いた方が良いか)
優勝マジックもついたことだし呉からのお祝い金みたいなものだろう。
「周南、」
「まさかここに来れるなんてびっくりした」
「このスタジアムが出来たとき、ここに来てみたいって言ってただろう」
「覚えてたんだ……!」
呉が少し気恥ずかしそうに視線を逸らすので、「ありがと」と僕がほほ笑んだ。
プレイボールの声が響くまで、もう少し。





カープが優勝間近なので日新製鋼を書く練習ついでにカープネタです。
ちなみに、延々とそれゆけカープを聞きながら書いています。洗脳されそう。

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君津と毛染め

「君津、そろそろ髪染め直したら?」
久しぶりにうちへ来た東京がそう告げる。
自分たちは人間と違い髪の毛が伸びることはあまりないのだが、本来の毛の色を抜いて金色に染めた髪は定期的に染め直さないと色が黒ずんでくるのだ。
「あー……ほんとだ、少し黒ずんでら」
「だから染め直せば?って」
「わーってるよ、だいたい俺が最初染めた時は全否定だったくせに」
そうなのだ。
最初に俺が髪を染めて金髪にしていたのを見たとき、東京は「あり得ない」と全否定だった。
『大人になるってそう言う意味じゃないだろ!』
『東京には関係なかろーが!』
『だからって金髪はねーよ……八幡なら失神してるわ……』
実際話を聞いてやってきた八幡も黒く染め戻せと言っていたのだが、俺にとってこの金髪は自立の象徴であったし鹿島のあの淡い茶髪や千葉の赤い瞳に対する憧れもあったので今更黒に戻す気にもなれずこれだけはいう事を聞かないで押し通したのだ。
ちなみに、鹿島と千葉は『アリじゃない?』『目立つしいいと思うよー』と肯定的だった。
歳を重ねるごとに方言も抜けていき、カラーコンタクトが世に出回るようになってからはカラコンを付けて青い瞳にもなった。
そうして八幡に守られる子どもでも、四日市の生まれ変わりでもない、ただの君津の姿がようやくできたのだ。
「でも結局許したろ?」
「まあな、八幡が何も言わないなら私や光はケチのつけようがないだろ。今じゃその金髪がお前らしさだしな」
東京は苦笑いしつつ俺を見る。
でも俺はちゃんと≪俺≫になれているのだろうか、とたまに考える。





太陽が昇る海の後日談的な君津と東京の話。
サイトのデザイン少しいじった記念にまとめて更新してみました。

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贈り物の話

釜石はけっこう地味好みである。
きょうの着物は青灰の着物に黒の角帯に雪駄で、俺からするといささか落ち着きすぎているぐらいの組み合わせだ。
「……前から思ってたんだけどさぁ、」
「うん?」
「もう少し華やかなの着てもいいんじゃない?」
ジンギスカンを食いながら釜石に尋ねると、年相応のもん着てるだけだと返される。
八幡なんかは同じ気持ちらしくちょくちょく着物や反物をプレゼントしては好みじゃないのを貰ってもなあと釜石を困らせている。
まあ八幡は釜石に似合う自分好みの着物を選んでるようなのだが、それが釜石からすると好みじゃない・若作りと言う風に映るらしく結局人に譲ったりしているようだった。
「ちったぁあいつもわしの好みを考慮してくれればなあ……これを贈ってくれた時は良かったんじゃが」
「今着てる奴?」
「おう、うちが津波でダメんなったときに夏物を贈ってくれてな。光が一緒に選んだとかでわしの好みも考慮されてた」
「あー……光はセンスいいよね。大分は無頓着なのに」
大分の妹分である光はセンスが良くていつもプレゼントやお中元にびっくりするほど好みに合った素敵なグラスやお酒なんか贈ってくれる。
よく見ると釜石の着物は無地だと思ったら白く細い線が入っていることに気付き、なるほどこれが好みなのかと納得する。粋というかなんというか。
「自分の趣味にさえ走らなきゃセンスがいいんじゃがな」
釜石のぼやきに軽い苦笑いが漏れた。





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