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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

影踏み

奥出雲の森の静けさの中をあてどなく歩くのが好きだ。
森の沈黙だけが私の心を癒してくれる。
ぱあっと開けた場所に残る、古いたたら場の跡地。
しゃがみ込んで、石畳に触れる。
ひやりとした冷たさの奥に、解けた鉄の朱色が広がってきた。
たたら場は私の魂の郷里であった。
三日三晩かけて木炭を燃やし、砂鉄を溶かし、人々は懸命に汗を流す。
その姿を記憶した石畳が彷徨える私に遠き日の姿を幻視させた。


(私は、たたら場の最後の後継者なのだ)

それが、いつだって私を奮い立たせた。
私の技術を評価したあの人も私をそう呼んだのだ。
森の奥に密かに隠れるたたら場は、鳥のさえずりだけが響いていた。


安来ちゃんの自意識の話。

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許し合えない二人と雨

恨む事は疲れることだが、許す事は存外難しい。
「だーかーらー、あたしはすみとものこんかんとしてだね?100ねんつかえてきたみなんだ、それをおまえらのつごーでむりやり……」
「此花、呑み過ぎじゃぞ」
「なにがのみすぎなもんだい、たかがうぃすきーで」
グラスに新しい氷を入れると琥珀色の液体を注いでいく。
此花は酒に強い。日本酒の一升瓶を一晩で飲み干しても翌朝にはケロッとしてるような驚異的な肝臓の持ち主である。
しかし先ほどからすきっ腹に流し込むように飲むものだからいつもより酔いの周りが早く、しかも水もろくろく飲まないものだからもう出来上がっている。
「此花、もう終いじゃ。もう最後の瓶が空になった」
空っぽの瓶を振ってやれば酒臭い溜息を吐いた。
「……なあ、あんたにはわかるか。なれしたしんだなまえをすてるさびしさが」
「お前さんを見てれば何となく想像はつくな」
八幡がここにいたら言い合いになっていただろうが、今晩は二人ぽっちだ。
東京の、慣れ親しんだ定宿の一室。その窓辺は過去の名残もほとんど見つけられないほど変わり果ててしまった。
変わることは宿命で、その中で変わらずに生きていく孤独の慰めを彼女は住友の名に求めたのだろうか。
存外、此花も寂しいのだろう。
「あたしはすみとものなのもとにいきてしぬつもりだった」
「おう」
「なのにそれを、おまえらがうばった。えいえんにあたしはすみとものなからきりはなされたんだ」
此花は酔いのせいで舌たらずに響く拗ねた子供のような口ぶりをする。
それを宥めるように背筋を撫でながら告げていく。
「でも、お前には弟たちがいるじゃろう。尼崎や和歌山や鹿島が」
「そうきまったんだ、うけいれるほかない。あたしがゆるげばあいつらがこまるだろう」
「ああ。でも心情的に受け入れ難い、そういう事じゃろう?」
「……そう」
「そういうのは時間の経過の中で受け入れていくしかないんじゃないのか?」
「できてるわけ?」
「なにが?」
「じかんけいかによるうけいれ」
此花もえぐいところを突いてくるものだ。
長く生きるなかで、まだうけいれられてないことの一つぐらい、やっぱりあるのだ。
「……出来てるさ」
そう、ほんの少し嘘をついた。




釜石と此花。

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関西女子がティータイムする話

神戸はとにかくティータイムが好きだ。
繁忙期以外は紅茶とお茶菓子での一服を欠かさず、自分と加古川と本社に常に紅茶の茶葉とティーセットが常備されているあたりにだいたい察して欲しい。
基本的には加古川か自分のところの人間とだけお茶をするが、時々私と西宮を招待してくることもある。
きょうは、その珍しい≪私と西宮を招待してのお茶会≫の日であった。
「邪魔するよー」
「あら、今日はずいぶん遅かったのね」
「色々あってね。これ手土産」
小さい紙袋に入っているのはセミノールと言う柑橘で、ちょうど今の時期が旬になる。
とりあえず入って、と告げられてそろりと足を踏み入れる。
神戸の家は会社の方で所有している西洋式のなかなか立派な邸宅で、名目上は倉庫になっているらしいが倉庫と言うよりも完全に神戸と加古川の居住スペースとなっている。
そのサンルームで、加古川が西宮の前で紅茶を入れていた。
「西宮、加古川」
「此花さん、お久しぶりです」
「うん、久しぶり。相変わらず神戸にこき使われてない?嫌んなったらうち来な?」
「あげませんからね?」
神戸が即座にくぎを刺してくる。おお怖い怖い。
ケーキ台の上には一口サイズのイチゴタルトとチョコレートが数粒。
紅茶の入ったティーカップを三人分差し出してから加古川はさっと台所に戻っていく。
「相変わらずの働き者だねえ」
「本当にいい妹でしょう?少し休んで欲しいぐらいだわ」
「まあ仕事以外に無頓着でも困るんだけどね」
「勤勉なことはいいことだと思うけど?」
「……西宮、生きる上では勤勉以外のとりえも必要だよ」
「その発言矛盾してないかしら」
「労働しかしない人生なんて大して面白くないだろ?」
「その意見には同調するわね」
私はイチゴタルトをほうばり、西宮はチョコレートを齧る。
神戸はその話に耳を傾けながら紅茶をすすっている。
「直江津みたいに仕事以外の事にまったく無関心だともう口も挟む気もないけどね。ま、神戸は加古川に嫌われないようにちゃんと労わってあげなよ」
「私だって多少の労わりの心はありますわよ」
「ま、それもそうか。西宮の近況は?」
「特にはないかなあ……ああ、そう言えば千葉のコークス炉の炉体更新が」
「……西宮もたいがい真面目だよなあ」
その真面目さを否定はしないんだけど、そういう話をしたい訳じゃないのだ。
とは言っても神戸と違い、私と西宮は小さい施設であるのでいつでも話題がある訳じゃない。
「そう言えばそうでしたわね、私の方も上工程の集約の真っ最中でどうも調子が……」
「最近は高炉の休止や解体が続きますね」
「時代の変化なんだろうね、これも」
「……ねえ、此花。どれだけ時代が変わっても集まれることって大切だと思わない?」
「平成ももうすぐ終わるしね、まあこの中の誰かが死なない限り、こうして集まり続けるんだろうね」




神戸・此花・西宮の話。
そう言えばこの三人の話は書いていなかったなあと思ったので。

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最近の八幡さん

ただのご当地ネタ


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疑似姉弟

「ねーちゃん、」
呟くようにそう呼んでみると「なあに?」と問いかけられる。
ふんわりとした桜色のワンピースの家にきなり色のエプロンを纏った光は、知らない人が見たら初々しい若妻のようにも見える。
「……いや、呼びたかっただけ」
堺は時折光を『ねーちゃん』と呼んでいた。
普段は『光』と名前で呼んでいたけれど、私的な時間に二人きりの時だけは甘えるようにそう呼んだ。
客観的には堺よりも年下にしか見えない光ではあったが、実際は光の方が先に生を受けているのでそう呼ばれることは2人の間に限っては決して違和感のない事だった。
「堺くん、準備できたから運んで」
「はぁい」
台所にはご飯の炊けた匂いとみそ汁の匂い。
誰もが想像するあまりにも普通の家庭の匂いは、普段の堺の暮らしからするとどこか異質なものではあったけれど決して嫌なものではなかった。
ご飯とみそ汁、菜の花のおひたし、お漬物、サバの味噌煮。
光の作る素朴なメニューが大皿に乗せられてワンプレートランチのような姿で出される。
「前に私があげた食器類どっかやっちゃったんだね」
「あー……あんまり使わんから人にあげちゃった」
「私がいないとすーぐご飯抜くよね、堺くんにも佐賀関さんみたいに世話焼いてくれる人がいたらなぁ」
光が呆れ気味にため息をこぼす。
その心配から来る呆れすらも、ほんの少しくすぐったくて心地よかった。





堺と光の話。

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