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コーギーとお昼寝

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君の背が伸びる

「まさか俺がダイナボアーズに負ける日が来るなんてなあ」
隣で試合を見ていたブレイブルーパスさんがそうつぶやいた。
この人との付き合いは長い、俺が生まれて程ないころからだからもう半世紀近いだろう。
「……そうですね」
かつての俺にとって目標のひとつでもあった人に、こうしてラグビーの試合で勝つことができたのは節目の日であった。
それが親族である三菱地所さんの前であるのだからなおのこと記念的な一日と言えた。
「自分より年下で後輩だとしてもやっぱ負けるのは悔しいわ」
「本気で試合して勝てることに年下も年上もありませんよ」
「お前も言うようになったな」
ブレイブルーパスさんは昔から笑った時の顔が不思議と印象に残る人だ。
隙間からこぼれる八重歯も小雨交じりの風に揺れるオオカミの耳もすべてが絵になって記憶に焼き付く。
だけれどこの人の視線は記憶よりも少し低い場所にあって、こんなにも自分は背が伸びていたのかと思わされる。
「お前今日この後予定ないよな?」
「片付けが終わったら帰りますが……」
「よし、終わったらそこのHUB来い。ビールおごってやるから」
その言葉には敗北の悔しさと成長への喜びがないまぜになったような響きがあった。
「でもまずは片づけだな」
すっくと立ちあがって出ていくのを追いかけてくる。
乗り越えた壁の向こうに光り輝く優勝の二文字をつかみ取ったら、やっぱりこの人は悔しさと喜びをないまぜにして祝ってくれるだろう。
そんな確信を胸に片付けのためようやく席を立つのだった。


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ダイナボアーズとブレイブルーパス
今日の勝利は東日本社会人リーグやトップリーグ時代を含めても初、と聞いて

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それでも勝ちに手を伸ばす

「……ブルーシャークス、ほんとにいろいろやるな?」
今週末の試合会場でのイベント告知RTの作業を行いながら改めてイベントの内容を確認すると、その豊富さにため息が出た。
お菓子の配布に多種多様なマスコットキャラグッツの販売、芸人や歌手を呼んでのライブ。
自分のホームゲームでもこんな風にできるだろうか?と悩んでしまう。
グルグルと悩んでいると携帯電話が鳴り響く。
『シーウェイブスさん?お久しぶりっす』
どこかチャラチャラした雰囲気の声が電話越しに聞こえてくる。タイミング的にも間違いない。
「ブルーシャークスか」
『ですです。今週末の試合なんですけど、釜石物産展みたいのやりたいんですよ』
「うちの物産展?」
『せっかくの釜石戦ですからね。それで、そういう物産展みたいのってどこに連絡したらいいのかなーって』
「なら東京にある岩手のアンテナショップだな。話、繋いでおくか?」
『そのくらい自分でやりますよ、サラリーマンなんでこういうのは大得意っす』
ブルーシャークスは折に触れて自分は会社員でありラガーマンだということを口にする。
境遇でいえばうちとそう変わらない環境下であるだろうに、こうして明るく振舞えることがひどくうらやましい。
「……お前は前向きだな」
『強くなければ生きていけない、優しくなければ生きていく資格がない。って言うでしょ?』
全く知らない言葉が出てきたので「なんだそれ」と声が漏れた。
『海外の小説の一節ですよ。俺らもそうだと思いません?』
「だとするならハードルが高いな」
『俺らはそういう世界の住人なんです、わかってたことでしょう』
ラグビーチームとして生きていくには試合への強さとファンへの優しさが必要だと言いたいのか。
気持ちはわかるが、そうだとするなら世界はあまりにも過酷すぎる。
「しんどくないのか」
『うち追い出されたときに比べりゃあ楽なもんっすよ。そんな泣き言吐いてる余裕あんなら俺が勝ち点もらってきますからね?そんじゃ』
手厳しい一言と一緒に電話が切れる。
強さも優しさも捨てずに生きていかなければならないこの世界で、死ぬまで悪あがきを続けるのはきっと勝利の甘美さを知っているから。




「……いい加減勝ち点持ち帰ってやらないとな」

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シーウェイブスとブルーシャークス

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クリスマスにラズベリーエールを

「なんで俺クリスマスなのに四日市じゃなくて釜石にいるんだろう……」
ヒートが突然意味の分からない愚痴を漏らし始めた。
今日は酒を飲みながら試合を見ようという話になってビールを飲ませたらこれである。
「まあシーズン中だしなあ」
「そうだけどさあ~せっかくらぶらぶの彼女がいるのに何でこんな強風吹きすさぶ釜石にいるんだろうなあって」
そう言いながら黄金色のピルスナーで蒸し牡蠣を流し込んだ。
文句を言いつつ食を満喫してるなこいつ、という本音はウィンターヴァイツェンで誤魔化した。
「クリスマスをまともに祝えるラガーマンがいた試し無さそうだけどな」
「うっ」
「それに向こうだってわかっとるじゃろ、おんなじラグビーの世界に生きとるならなおさらな」
「でもどうせ釜石行くなら5月ぐらいに来たかったんだよなあ」
最後のひとくちを綺麗に飲み干すと、ビールの空き缶を華麗なキックで放り込んだ。
「本州で最も寒い2月の盛岡よりはましだと思うがな」
「……そんなに寒いの?」
「寒いぞ」
具体的にどう寒いかを懇切丁寧に説明したら「……なら12月の釜石でいいかな」という答えが来た。
実際自分でも2月の盛岡ゲームなんて言われたら土下座してでも回避すると思う……グルージャとかどうしてるんだろうな?
「シーウェイブス!」
フラッと現れたのはうちの親である釜石製鉄所その人だった。
「今日はヒート君と昼酒か」
「まあ。あ、この人は製鉄所さん。うちの親だ」
ヒートとちゃんと会わせた記憶がないので軽く紹介すると、隣の席に腰を下ろしてラズベリーエールの王冠を手で外した。
「えっ、すご……」
「限定のラズベリーエールが売ってたんでな」
そう言ってどこかからプラスチックの小さいコップを取り出して、三等分してくる。
「クリスマスっぽい色味で良かろ?」
「ですねえ、パールズにも買ってこうかなあ」
「あの子飲酒できるのか?」「あっ」
ちいさなプラコップを受け取るとにこやかに「ヒート君も今日は来てくれてありがとう、良い試合期待してるぞ」と告げられる。
「はい」
そう言いながら製鉄所さんとヒートが小さく乾杯して、赤いビールを飲み干す。
自分も同じく飲み干せば甘さの奥にアルコールの辛みがある。
赤い酒はどこかクリスマスという祝祭の味がした。



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シーウェイブスとヒートと釜石。
作中のお酒は全部ベアレンです。

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チーム色々、歌もいろいろ

「先輩のチームソング、渋すぎない?」
鍋をつつきながらそんな話がふいに出てきた。
「いいじゃん、覚えやすいし歌いやすいでしょ?」
「まさかあんな昭和の野球の応援歌見たいのが来るとは思わなくて吹いたもん」
「モチーフが六甲おろしだからねえ」
大阪でお馴染みの野球の応援歌をモチーフにしたのは公言していたはずだ。
……ただ、思っていたよりも変なウケ方しちゃってる気がする。
「知らない人が聞いたらアレ野球の応援歌に思われそう」
「いいんだよ。それに、東京音頭よりは応援歌っぽいじゃん」
「神宮球場への突然の風評被害!」
秩父宮でたまに漏れ聞こえてくる東京音頭を聞きながら、アレのどこで盛り上がるんだろうな?といつも疑問を感じていたものだ。
サンゴリアスもその気持ちはちょっとわかるようで表情に僅かな共感が滲む。
「ブラックラムズのあのラップの奴とかスタジアムで歌うのぜったい無理でしょ」
「まあ、確かにあれは合唱には向いてないよね」
「ライナーズのあの曲もさ、聞く曲としては良いけどねえ?」
「つまり先輩は声出し応援解禁が前提でああいう曲にしたわけ?」
後輩が訝しむようにそう聞いてくる。
言われてみればまあそうだよな、とちょっと思う。
覚えやすく歌いやすい歌を目指したのはそういう気持ちがあったような気がするのだ。
「そうかも。やっぱいずれはみんなで応援歌を歌いながらビールを飲むスタジアムにしたいんだと思う」
俺がそう答えると脳裏にスタジアムの景色が思い浮かぶ。
皆でビールを片手に応援歌を歌い、その響きを背に選手たちが走り出す姿。
「声出し解禁が待ち遠しいな」
「そうだね」

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ブレイブルーパスとサンゴリアス。

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シーズン前の普通の日々

*短編集です

*それが好きというものだ(ワイルドナイツ+サンゴリアス)
『しれっと書いてるけどお前、俺のファンクラブ入会勧めて良いの?』
作業しながらの通話の中でサンゴリアスが俺にそう聞いてきた。
「どれの話?」
『12月の強化試合のチケット案内のとこ』
「あー……そういやそんなの書いたね」
言われてみればという気持ちでしかないがサンゴリアスにはそれがよほど気になったんだろう。
「でもわざわざ強化試合に身に来るんだし、有望なファン候補でしょ」
『そこで俺の名前出してくるのかって』
「いいじゃない、ファンの総数が増えればお互い得だしね」
サンゴリアスが呆れ気味に「お前がいいならいいけどさ」とつぶやいた。
「まあ公式戦の時にうちのファン向けの席確保しといてくれれば十分だよ」
『それは担当者にも言っとく』

*好きな街の好きな景色(ブレイブルーパス)
いつも合宿で訪れる鹿児島の朝が好きだ。
練習前にちょっと早起きして、眠気覚ましも兼ねて朝の街をぶらぶらと歩く。
異国情緒すら感じる鹿児島弁の響きも、東京より暖かい風も、その一つ一つを飴を舐めるように味わう。
街を抜ければ錦江湾が見えてくる。
「……何度見てもすごいな」
朝日にきらめく海の向こうには桜島がドンとそびえたっている。
今朝は噴火していないがそれでも海に浮かぶ活火山は雄大だ。
「今日も頑張ろ」

*ハリネズミとマスコットガチ勢(ライナーズ+レッドハリケーンズ)
レッドハリケーンズからぬいぐるみの試作品を見て欲しい、と言われた。
「なんで俺?」
「第三者の意見が欲しかってん」
そう言って黄色と茶色のハリネズミをもちもちと触ってみるが正直俺にはよぉわからん。
マスコットに熱意を注ぐタイプでもないし、可愛いとは思うけど他に思う事はない。
「まあ、可愛いんと違う?今まで使ってたハリーくん?あの子の弟っぽいし」
「他人の空似って事になってんねんけど」「そか」
もちもちとマスコットを撫でてみる。
うちのラビナーのぬいぐるみとか出したら売れるんやろか?ライナマンはぬいぐるみ向いてなさそうやなあ……。
「こういうのはブラックラムズのほうが熱意あるからあいつに聞いたらええんやない?」
「東京まで行くのがめんどい」
「それもそか」

*東花園にえんじ色(ライナーズ)
地元メディアが俺を応援するクラウドファンディングを始めるらしい。
何でも駅をうちのチームカラーで染めるための資金集めらしい。
「こういうことしてくれる人ってホンマ貴重よなあ」
俺も自腹切って課金しようかと思ったけど普通に金欠で出来ないのが残念だが、仕方ない。
「……とりあえずレッドハリケーンズとスティーラーズとサヤにクラファン出資のメールかな」
これでも自分の駅が自分の色になる日が楽しみなのだ。

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