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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

未来のために灯をともせ

マスクをつけて日の出前の薄暗いグラウンドの真ん中に段ボールを敷いて腰を下ろす。
「午前5時36分、あと10分ちょっとね」
段ボールに腰を下ろした姐さんがスマートフォンを確認する。
今年は久しぶりに二人でゆっくり話すのも兼ねて俺と姐さんのふたりで小さな集いを行う事にした。
「……あの時、うちのグラウンドほんと酷かったですね」
「液状化でボコボコになってたものね、何もできなくてごめんなさい」
「ええんですよ。あの後ジュビ……やのうて今はブルーレヴズか。あいつが静岡に呼んで練習場所貸してくれましたからね」
あの時の事はよく覚えている。
喜びに浮かれていた俺の心が恐怖に凍った一瞬で地獄のようになった街の景色を。
姐さんがなぜ歩けるのか不思議なぐらいに傷つきながら歩いていた背中を。
ボロボロになって歩けなくなった兄弟の事も。

「全部、忘れませんよ」

思ったよりもすぐに四半世紀が過ぎて、今ではあの日まだ生まれていなかった選手がリーグのほとんどを占めるようになった。
「そうね」
竹ろうそくの代わりに用意したろうそく型のLEDがゆらゆら揺れている。
いのちという奴は儚い、人間も俺たちもみなろうそくが消えるように一瞬で去っていく。
けれどその火が見せる灯は確かに俺たちを安心させてくれる。
「せやからラグビーで神戸のみんなを喜ばせられるってあの時心底分かった」
「私も仕事してラグビー見てあなたと話せる幸せを、忘れちゃいけないと17日が来ると思うのよ」
失ったものを数えるなと言った海外の偉い人がいたが、失ったとしても少しでも取り戻せないかと今でももがいている。
あのときは傷ついた景色とこころ・今は自由に声援をあげられるスタジアムを、取り戻すためにみんなで足掻いている。
「ちょっと曲かけても?」
「いいわよ」
今年のシーズンムービーに使ったバンドの曲をスマホから流す。
四つ打ちのリズムで歌われるどこか憂鬱な気持ちと、それでも未来を信じる言葉。
「姐さん今度のホームゲーム来てくださいね」
「心の復興支援チケットは対象外だけどね」
冗談交じりに姉さんが笑う。
姐さんはラグビーを見に来てくれて、俺は見に来てくれてる皆の応援を背負って走る。
それがこんなにも幸福なことだと思いだす。
朝焼け前の街に希望のトーチソングが響いている。


*おまけ:グリーンロケッツとスティーラーズ
『俺の動画に何で反応してくれたん?』
お昼休みにスマホを見たらスティーラーズからの短いメッセージが届いてた。
(今日あげてたあの動画のことだよね)
きのうのトンガの噴火で思うところがありすぎた、というのもあるけれど見たときに刺さった言葉があったからだ。
≪ラグビーに傷や、悲しみをなくすことはできない≫
≪だけど、痛みを分かち合うことは出来る≫
昨日今日と俺たちは痛みを分かち合う日になっていて、だからこそ刺さったのかもしれない。
なので俺の返事はこうだ。
『一緒に想う日だったからかな』

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スティーラーズと神戸ネキのはなし。
今日もこの日が来ましたね……今年の動画もすごくいいので見てね……。

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最近のあれこれ話

*小ネタ詰め合わせ

・厄払いに行きたい(ブルーレヴズ)
「開幕したのに全然試合が出来ない……」
コロナによる試合中止のお詫びメールを送信すると気分が落ち込む。
ましてそれが続くと気分が落ち込み過ぎて悲しくなる。
スマホを開くと兄さんやヴェルブリッツさんから心配のメッセージが届き、ちょっと申し訳ない気分になる。
(……俺のせいなのかな)
何が至らなかったのかとずっとうじうじ悩んでしまい、身体にカビでも生えそうだ。
「いや、やめよう。来週こそ試合ができるはず!たぶん!」
そうなるようにどこかの神社に御祈願に行こう、厄を落として晴れやかに次の試合を迎えるのだ。

・赤い電車(レッドハリケーンズ+ライナーズ)
「我ながらこんだけ真赤に出来ると気分アガるわー」
「ホンマやなあ」
久しぶりに大阪の町中まで出たら、レッドハリケーンズにジャックされたエキナカを連れまわされることになった。
期間限定とはいえ地元の地下鉄と大々的にコラボできるのは強い。
「よくこんな予算ひねり出したなあ」
「スポンサーさんとうちの親のお陰です~」
どや顔のレッドハリケーンズにちょっとほっこりしてしまう。
(うちの親も東花園の駅こんぐらい弄る許可出してくれれば面白いけどなあ)
俺もそのうちこういう企画書出してみてもええかなあ。
「あ、レッドハリケーンズ電車もうすぐ来るって!乗りましょ!」
暗いニュースの多い今日この頃においても楽しそうな後輩はいいものだ。

・真黒に染まる(ブラックラムズ)
新しい企画の提案書ひとつひとつに目を通すと心がワクワクする。
自分のために周囲が頑張ってくれている喜び、新しい企画への興奮、そしてそれが出来るという喜び。
「ドキュメンタリー番組に、駅広告の増量、地元の新成人招待、駒沢での交流イベントに、公式の漫画連載……未だ我々にもやれる事が有ると云うのは嬉しいものだな」
黒と羊に染まる街並みを想像するだけで頬が緩む。
まだ我らはメジャースポーツへ向かう道の途上、やれる事は無限大だ。
「もう少し頑張るか」

・青とオレンジの交わる場所で(シャイニングアークス+スピアーズ)
『ハーフタイム抽選会の景品多すぎない?』
「良いじゃないですか、せっかくの千葉ダービーですよ?」
打ち合わせの途中でスピアーズが呆れ気味に零した一言に思わず言い返す。
「秩父宮は全席指定で場所もいいんですから少しでも行こうと思えるような仕掛けづくりをしていきたいと思って企画したんです」
『企画力で負けた感がすごい……というか俺も佃煮欲しい……』
「この間味見で頂いた詰め合わせセットの残りで良ければ持って行きますよ」
『海苔の佃煮!あと地元産板海苔も!』
「はいはい」
他愛もない話をしながらラグビーの事を考えられるのは幸福だ。
「あ、お返しは勝ち点で良いですよ」『それは無理』

・うどん屋にて(ブルース+キューデンヴォルテクス)
「また大変なことになりよったなあ」
仕事で立ち寄った博多の街でキューデン先輩が飯を奢ってくれることになった。
「大変なこと?」
「division3開幕戦消えたと思ったら広島は緊急事態宣言出るし福岡も増えてきたしな」
「ああ……でもおい達は出来る事ばやるしか出来んでしょう」
ファインティングブルズやレッドスパークスは見る事も出来なかった新しい世界にいて、その世界は未だ苦境の中でもがいいている。
「生きて居なけりゃもがくことも出来んですからね」
「ホントになあ」

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飛田給の帰り道

スタッフジャケットを着て試合後の混雑した道の誘導を手伝っていると、観客がみな楽しそうにしているのが見えて嬉しくなる。
黄色いタオルマフラーを巻いた人も赤いレプリカジャージの人も混ざり合う混雑した道。
だけどマスクから出た目元は今日を楽しみにしてくれていた笑顔がよく分かるし、みなこの余韻を味わうように楽し気に見える。
「お疲れ、その立て看板持つよ」
運営スタッフのジャケットを着たブレイブルーパス先輩が俺のほうに来てくれた。
「じゃーオネガイシマス」
持っていた道案内の立て看板を先輩に渡して、俺は様子を見ながらのアナウンスに徹する。
(前はこんなとこまでしなかったんだけどなあ)
新リーグでは試合運営も俺たちの仕事になったから駅までの道の安全確保もこっちに丸投げされてしまって試合が終わってからも気はいまいち休まらない。
けれどこうして見送っていく人々が試合を楽しんでくれたのが目に見えてわかるのは悪くない。
ようやく人の波が落ち着いてスタジアムの設営撤去に向かうと、夜空に味の素スタジアムがぼうっと浮かび上がる。
「綺麗だよな」
「スタジアムが?」
「うん、この夜の闇の中にぼうっとスタジアムが浮かんでるの結構好きなんだよ」
「わかる。ナイターのあとの帰り道も俺は好きだな、ちょっと寂しいんだけどまだ楽しかった余韻が夜の道いっぱいに漂ってる感じ」
誘導用に建てた柵を解体しながらそんな話が弾む。
「帰り道に一杯飲んでいくのも楽しいよな、まあ今は難しいけどさ」
「このご時世だしね、先輩この後どうするの?」
「キッチンカーの人にお願いして取り置きして貰ったジビエカレー食べながらよその試合のダイジェスト見る」
「取り置きかー、俺も頼めばよかったな。というか先輩んち行っていい?」
「お前は最後まで責任もって撤去と片付けやれよ、ホームゲームだろ」
「そうだけどさー」
畳んだ柵を俺に持たせると「一足先に帰るわ」と言って帰っていく。
ひどいせんぱいだ、と文句の一つも言いたいが仕方がない。今日はホームで勝ち点貰った俺がやろう。
柵を所定の位置まで運ぶために歩いていると少しづつテントは片付けられ、ごみが収集されていき、スタッフたちは片付けの進捗確認に勤しんでいる。
けれどワイルドナイツはこの景色をもうしばらく見れないことが確定していて、新しい舞台に立てなかったレッドスパークスのような奴もいる。

「……この苦労も試合できるからこそ、だよなあ」

柵をもとの場所に戻してちょっと溜息を吐く。
うちに帰れるまでもうひと頑張りだ。

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サンゴリアスとブレイブルーパス。
府中ダービー見てきました。

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悲しいときは肉を食え

神戸の先輩曰く『多少のしんどいことは肉と酒と睡眠で帳消しにできる』という。
そんな言葉のせいか今、俺の手元には焼肉とホットプレートとビールとサラダがある。
ホットプレートはアルカスから借り、肉はスーパーで売っていた一番高い焼き肉用牛肉、二種類のたれに貰い物の岩塩。
白米(炊くのが面倒だった)の代わりに大盛りのサラダ、ビールはよく冷えたプレモル。
「……いただきます」
よく熱したホットプレートには隙間なく肉を並べ、その匂いを肴に酒を飲む。
(出てしまったものは仕方ないって言われてもね)
試合中止へのお詫びの電話の時にスピアーズから言われた慰めがツキンと心に刺さる。
肉をひっくり返しながら向こうの心持ちを想像すると、ただただ自分のふがいなさを恥じるばかりだ。
再び増加傾向に転じた感染者数の数字を見ているとぼんやりとした不安に押しつぶされそうになる。
この先本当に新リーグを進められるのか、多発する問題と困難を切り抜ける方策はないか、そんなことばかり考えてしまう。
肉はしっかり両面に焼き目をつけて、貰い物の岩塩を軽くすりおろして二枚の肉を一口でほうばる。
「……うま」
肉の脂のうま味と赤身のうま味が舌に広がってくる。
ひとくち食べただけで頬が緩むような肉と脂のうま味で、心がふっと食に向けられる。
肉の脂をビールで流し込んで思う切り息を吸い込めばホップの香りが鼻へ抜けていく。
まずはこの肉を美味しく食べる事だけ考えよう、まずはそこからだ。



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ワイルドナイツの話

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素敵か?ホリデイ

「クーリスマスはおーどしーをかーっけてーくるー♪」
「なんやその悲しいホリデイ」
帰り道はクリスマスの色に賑やかな包まれているのにそんなことを歌いだすレッドハリケーンズにおもわずツッコミが漏れた。
「せやかて開幕前の仕事と年内中にやっとかないとアカン仕事に脅される気ぃしません?」
「そういいつつわざわざクリスマスイブに試合ぶち当ててDJ呼んだりしたやん」
クリスマスイブに合わせて行われた最後のプレシーズンマッチ。
そこに妙な気合を入れてイベントやりまくったのはレッドハリケーンズのほうで、俺のほうは大して何もしていない。
(まあ楽しませてもらったけどな!)
楽しい事は良い事だがこういうイベントごとに対するテンションの温度差は俺が歳だからなのか?といつも思う。
「せっかくのクリスマスですし」
「そーいうとこが若い子の発想なんよなあ、俺らそんなにクリスマス特別扱いしいひんもん」
俺の答えにあんまりぴんと来ていないようで「え~?」と首をかしげる。
「俺なんかクリスマスって言われてもそういやそんなんあったな程度やから、脅される感じないわ」
「でもクリスマスが来た!今年が終わるのに全然仕事納まらへん!って感じしません?」
「あー、今年もー……あと7日?やもんな」
指折り日付を数えるとすっかり年の瀬だという事に気づかされる。
という事は新リーグは2週間後か?うわ速い。
「2021年もあと7日って言われるとぞわってするんでやめてもらえます?」
「ま、頑張って仕事納めて正月明けたらラグビーの事だけ考えられるようにしとかんとな?」
「はあい」
イルミネーションとクリスマスカラーに包まれた町は、もうすぐ年越しの色に染まる。
新しい幕が上がるまでもう10日ちょっとだ。



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ライナーズとレッドハリケーンズ

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