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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

新しい名前

新しい名前の発表会見を見ながら、ちょっとため息が漏れる。
「全部あいつに持ってかれたな」
シャイニングアークス改めDロックスの新しいスタッフ陣や選手陣の多くがうちの主力なのだ。
無論それは仕方のないことであり、分かっていても本当に全部持っていかれた感じがしてため息が漏れる。
それが少し悔しくてスマホを立ち上げて一言嫌味を送ってやることにした。
『お前うちの主力みんな持ってったんやからすぐD1戻らんかったらぶん殴るからな』
送信完了を確認してからアプリを閉じる。
D3という新しい舞台へ移ることも選手の移籍も既定路線としても文句の一つ言わないと気が晴れない。
「落ち着いたらD1戻れへんかなあ」
もう戻るのも難しいかも知れない。
けれど、まだあの場所を惜しむ気持ちが残ったままなのだ。

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ビアガーデンはじめました

熊谷に引っ越して迎える夏はやはり過酷だった。
「これ、一歩間違えたら死ぬんじゃない?」
「夏だからね」
まだ朝の9時だというのに30度超えの外気温のなか、ストレッチの時点で汗がダラダラと吹きだしてくる。
「夏ってこんな死と隣り合わせだっけ?」
「そういうもんでしょ」
根っからの熊谷人だからなのか、それとも昭和の夏を知らずにいるからなのか、アルカスはそういうものだという口ぶりだった。
さっさと日陰に逃げ込んで出ていった分の水分を補いつつ、改めてグラウンドを見返す。
広く青い芝生に面した俺のクラブハウスにアルカスのいる管理棟。
そのはす向かいにはカフェやショップ、そして大きなホテル。
「つくづく、良いもん貰ったな」
「ホントにね。あんたのおこぼれとはいえ私も助かってるしね」
「そりゃよかった」
そんなことを話しつつ水分を取り体を冷やしていると、アルカスが思い出したように口を開く。
「……今度ホテルのほうでビアガーデンやるんだって」
「ビアガーデン?」
「そう、オープンは1日なんだけどその前に練習も兼ねてプレオープンやるから来ないかって支配人が」
「初耳なんだけど」
「今思い出したから、明日一緒に飲みに行く?」
「奢り?」「奢りというかただ酒」「じゃあ行く」
熊谷の暑い夏の夜に冷たいビール。
想像しただけでなかなかおいしそうだ。




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ワイルドナイツとアルカス。
ビアガーデンで思い付いたネタでした。

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ワイルドナイツのすこし多忙な休日

キックオフ10分前に滑り込んだ秩父宮立見席の最前列にはいつもの顔なじみがビール片手に俺を待っていた。
「ずいぶんギリギリに来たな」
駆けつけいっぱいの冷たいビールをサンゴリアスから受け取って飲み干す。
「っはー……」
「今日は随分と遅い到着だったな」
珍しく紅白に包まれたブラックラムズ先輩の問いかけには「午前中仕事だったもので」と返す。
「土曜日だと云うのに一苦労だな」
「優勝記念イベントが重なったもんで」
地元のお菓子屋さんからいただいた生サブレを二人に渡すと、これまでずっとカメラ小僧だったイーグルスがふと顔をあげた。
「あ、ワイルドナイツさん」
「ちょっと写真見せて」「どうぞ」
生サブレと引き換えに写真を見せてもらう。
うちの選手たちの練習の様子を写真で見た限りでは好調そうだ。
「国内戦が終わったと思ったらすぐ代表戦で心配だったけど調子良さそうだね」
「気になることがあるとすればこの湿気ですよね、雨降らないといいんですけど」
「天気予報だと降らないって話だったし大丈夫だと思うけどな」
冷えたワインとカリーヴルストをつまみながらサンゴリアスが言う。
選手入場を眺めながら思うのは一つだけ。

「今日は勝ちたいよね」
「一戦目だもんな」

カリーヴルストをぱくりと口に放り込むと、梅雨の湿った風の向こうから試合開始のカウントダウンが始まった。


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ワイルドナイツとサンゴリアスとイーグルスとブラックラムズ。
昨日の試合良かったね……

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日出ずる国から南方の友へ

「おう、ブラックラムズやん。ひさしぶり」
カメラのセッティングを終えた我にそう声をかけてきたのはライナーズであった。
手には赤っぽい色味のジュースや軽食を携え、滅多に見ない赤いTシャツの上に日よけの長袖を羽織っている。
「ずいぶんと久しぶりだな、今回はトンガの応援か?」
「当然やろ、スタッフも選手もうちの関係者多くてほぼ俺やん」
「……観客の半分ぐらいが思っていても言わずにいた事を言うんじゃない」
客席は随分と埋まっており、誰もが赤地に白と赤十字の国旗やグッツをぶら下げている。
トンガ国旗やトンガへの支援や連帯を掲げるシャツを着た人々にふと視線が向き、シャッターを切る。
「日本ラグビーにとってのトンガって、ほんま大きな存在よな」
「在日トンガ人選手のみでチームが作れる程だからな」
今回の試合は日本代表候補と在日トンガ人チームによるチャリティーマッチである。
スクラムハーフを除き選手スタッフが全員トンガ人もしくはトンガの血を引く選手で構成されたチームで、このチャリティーマッチのために所属を問わず集められた。
「みいんなトンガを想ってここに来てくれたんよなあ」
ライナーズが飲んでいたジュースを飲みながらぽつりとつぶやく。
「募金あつめたりグッツ作ったりオタイを作ったり、みいんな何かしらの形でトンガを近しく思うてくれてるからこんな試合も開かれるんよな」
「然うだろうな。ちなみにオタイってなんだ?」
「トンガのフルーツジュース、飲みさしでええなら味見してもええけど」
そう言いつつ押し付けられたオタイはココナッツとスイカの味がした。
「異国の味がする」
「トンガから日本に来た味やからな」
ダラダラと話していると選手たちが入場し、二つのチームが相対するように並ぶ。

「̪シピタウが来るで」

浅黒い肌に赤をまとった男たちが声をあげる。
空間が震えるほどの声と、全身から匂い立つ闘志。
そして日本からの支援への感謝のこもったその踊りに全身がびりびりと震えるようだった。
「感謝!」
その一言でシピタウが終わる。
「……我らには良き友がいるな」
「せやろ?」
南方の美しき侍たちよ、闘え。祖国のために。



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ブラックラムズとライナーズ。
ちょっと遅刻したけどチャリティーマッチのお話でした。

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口ずさむブルーノート

夜の海に飲まれてしまいたい、と思った。
「……結局間に合わんかったな」
新しい引き取り先を探して奔走した5月がもうすぐ終わろうとしている。
さようならとか、ありがとうとか、そう言ってくれる奴はいてもうちにおいでよとはついぞ言って貰えなかった。
まだやりたい事は沢山あった。日本一の称号に触れることも無いまま自分はこれから長い長い眠りにつくのだ。
いちおう最後かもという気持ちで挨拶はしたし、今夜はひとりにして欲しいとも頼んだ。
この世界と別れるその時に泣いてしまう自分を見せたくないという最後の意地だった。
梅雨入り前の穏やかな海に足をつける、月の光と混ざって足がとろけていく感じがする。
「行くか」
ざぶん、ざぷん、と海の底へ歩みを進める。


またいつかこの海辺の練習場に帰る日まで、迎えを待っている。

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ブルースさんの話。早く戻って来いよ……

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