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コーギーとお昼寝

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きみとのラグビーを愉しむ

暗いニュースが並ぶ新聞を折りたたんでふらりと朝の散歩に出る。
未だ肌寒い冬の風が吹いているが日差しは暖かく、天気予報だと今日は初春の陽気だという。
雨の試合もあれはあれでいいがやはりやるなら晴れているほうが良い。ボールも滑らないし。
熊谷の街へ出ると試合前の興奮が早くも街角から滲みだしてお祭りの様相を見せている。
「……こういう点において府中はまだまだだよなあ」
府中だと先輩や他競技のチームもいるから遠慮してしまってここまで出来ないのだ。
しかし仮にもラグビーの街を名乗っているわけなので本当はこれぐらいやっちゃってもいいのだろう。
そうしてフラフラと散歩していると熊谷のスタジアムに辿り着いていて、ワイルドナイツやスタッフさんがさっそく動き出していた。
「おはよう」
「サンゴリアス、今日は早いね」
「散歩してたら足がこっちに向いたんだよ、俺も手伝おうか?」
「じゃあ骨組み運ぶ出すの手伝ってよ、トラックの横に積んであるから」
「了解」
トラックから荷下ろしされたばかりのテントの骨組みを肩に担ぐとワイルドナイツに指示された通りの場所に担ぐ。
こういう試合前の準備の雰囲気も好きだ。
「サンゴリアスこういうの早いよね、さすがゴリラ」
「……ゴリラって言うなよ」
ベースになった生き物がゴリラなので間違ってはないけど、ゴリラって言われるときだいたいからかいの意味を含むことが多いのであんまり好きじゃない。
「素直な感想だよ。組み立てはスタッフさんに任せて、芝の様子見に行く?」
「おっ、行く行く!」
という訳でワイルドナイツに先導されてまだ無人のスタジアムへと入っていく。
選手たちが通る通路を歩きながら熊谷のスタジアムはいつ来ても広々とした感じがしていいな、と思う。
味スタもそうだけれどやっぱり新しいスタジアムには心惹かれるものがある。
「おっ」
外に出て一番に目に入ったのは朝露をまとった芝がきらきらと輝く姿だった。
もちろんこの冬にあっても青々と育った芝も美しい。
「綺麗なもんだな、青々してて枯れてるのや剥げかけてるのが見当たらない」
「こういうの見るとグラウンドキーパーさんには頭が上がらないよね」
二人ぼっちで美しい緑の上に立っているとワクワクしてくる。
この後最高に楽しいゲームがこの場所で待っているんだと思うと、気分の高揚が止まらなくなる。
「やっぱりワイルドナイツは最高のライバルだわ、俺のためにいい街もいい芝も用意してくれて」
「お前のためじゃなくて最高のラグビーのためだよ」
「それは言えてる」
「さて、芝の生育状況もいいみたいだしもうちょい手伝って貰おうか?」
ワイルドナイツが悪い笑みをこぼしながら俺を捕まえようとするので、反射的に俺は逃げ出していく。
最高に楽しい試合に設営は必要だけど、俺は選手たちに今日の芝が最高なことを伝えたい。
「あっ、こら!」
「やる事思い出したから!」
俺たちの試合を『令和の天王山』と呼ぶ人もいる。
けれど中身はただのラグビーバカたちの最高に楽しいゲームだって、心底思う。
どんなに暗い世界に堕ちようとも俺たちはただのラグビーバカなので。


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サンゴリアスとワイルドナイツ。
日テレの中継もある(関東のみ)ので余裕がある人はぜひ見てください。

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人に頼り神に祈る

今日から仕事前に神社に立ち寄ることにした。
お賽銭箱には五円玉を、ガラガラと鈴を鳴らしてじっと手を合わせて祈る。
「……俺にはこういう事しか出来んくてアレですけど、ブルースの事を何とかしてやってください」
レッドスパークスが死ぬという事になった時はもう覆らない決定的事実だった。
その点ブルースはまだ譲渡やクラブチーム化の可能性がまだ残っていて、出来る事ならばその未来へ行きたかった。
九州でラグビーができる環境を守るためにも、レッドスパークスの想いを受け継ぐためにも、ブルースには残っていて欲しいのだ。
「俺らは無力です、でも出来る限りの事はします。だからなんぞこの祈りを聞き届けてください」
親の決めたことにはあらがえない、ラグビーをすることしかできない無力な存在だ。
そうであったとしても人に頼んだり祈ることは出来る。



「どうか、ブルースにも未来を見せてやってください」

無力な先輩として後輩にできるただ一つの祈りを。

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キューデンヴォルテクスとブルース。
3月10日まで行われる署名活動にもご協力ください

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冷たい雨から逃れて

グラウンドでのあいさつ回りを終えるとブルーズーマーズ、もといスカイアクティブズが寒さに震えながら暖房を占領していた。
試合で走り回っている間はいいが一度動かなくなると寒さが体の芯まで来たようだ。
「ブルー、じゃなくてスカイアクティブズ。まだそんなに冷えるか?」
「体拭いて着替えたのにまだ寒さが体の芯に残ってて」
悪天候も災いしてボロボロだった試合結果で芯が冷えているんじゃないか、という気もするが勝った側のいう事じゃない。
とりあえず乾いたタオルで身体を拭い、着替えて暖房にあたる。
冷たい雨でかじかんだ指先を暖房で少しづつ温め、動かして血流も取り戻す。
「……まだ練習が足りんなって思いましたよ」
「あー、試合終了直前にトライ決め損ねたアレか」
「あれもですけど結局今日の試合3点しか取れんかったでしょう」
スカイアクティブズは今回も負けたことで気落ちが深まってきた。
現時点で唯一の勝ち点ゼロになってしまったのがよほど気持ちとして響いてるのか、気持ちは明るくならないらしい。
「今から落ち込んでたら勝てる試合も勝てなくなるぞ」
とにかく前を向くしかない。
少しでも勝って勝ち点を積んでいけば入れ替え戦で有利が取れる(D3の3位辺りならまだ勝てるかもしれないし)のだし、出来ることをやっていくしかない。
「そりゃあそうでしょうけどね」
チーム名が変わってもどこかネガティブな性格はあまり変わらないらしい。
「この雨が落ち着くまで待つしかないか」
少しでも勝ち点を積み上げて残れるように最善を尽くそう。
そうしていつか上に行く日を虎視眈々と狙うのだ。


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シーウェイブズとスカイアクティブズ

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敵に牡蠣を送る

今日、岩手から箱いっぱいの牡蠣が届いた。
送り主である釜石シーウェイブスからは一緒に手紙も同封され、せっかくなので今日は牡蠣鍋にしようと思う。
粉末出汁を溶かしたお湯に味噌を溶かし入れ、地元産白菜やニンジンを牡蠣のむき身と一緒に鍋に入れて蓋をする。
そうして煮えるまで手紙に目を通すことにした。
三菱重工相模原ダイナボアーズへ、という書き出しから始まる丁寧な文体の手紙からは微かにインクのにおいがする。

冬も盛りの二月、随分と寒くなってまいりました。お風邪を召されたりなどしておりませんでしょうか。
先日Twitterで自分たちを『見習いたい良きライバル』と呼んでくれた喜びを140文字に詰め込むことが出来ず、こうして久しぶりに筆を執った次第です。
最初に対面してもう20年は経っているはずですが未だこうして上に行くことも出来ないままで足掻き続ける自分を、ライバルと呼んでくれることが時にひどく面映ゆく思える事があります。
それはきっと自分のコンプレックスという奴なのでしょう。
ライバルだとダイナボアーズに認められたとき、そのコンプレックスからひととき解放された気がするのです。
親会社の元から離れざるを得ない状況に陥り、資金力のなさに苦しみ、東北の冷たい風雪に打たれながら、それでもラグビーをしている釜石シーウェイブスを尊敬すると言って貰えることが俺は心から嬉しく思えたのです。
このラグビーボールを抱きしめて張りる事だけを考える日々をあと何年続けられるかという不安はきっと互いに抱き続けるものだろうと思いますが、それでもともに前を向こうと告げてくれることが心底頼もしく思います。
まだラグビーの季節は続きます、どうか何事もなく過ごせるようにという祈りを込めて三陸の冬の名物・牡蠣も一緒に贈ります。
次は釜石のあの美しい空を望むスタジアムで会いましょう。
釜石シーウェイブス

便せん二枚に綴られた丁寧な筆致の手紙を読み返し、その心持ちの温かさに心が緩む。
「……釜石に行くのが楽しみになったな」
次に会うときは三陸の焼き牡蠣を食べよう。
親愛なるライバルからの贈り物でこの寒々しい雪の夜を超えた話を酒の肴にして。


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ダイナボアーズとシーウェイブス

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最高のライバルと最高のゲームを

久しぶりのサンゴリアスからの電話は俺にある頼み事をするためのものだった。
「サンゴリアスのファンクラブ向け先行販売?」
『そう。今度お前とやる試合の会場熊谷だからさ、うちから遠征に行きたい人向けに枠確保して貰えないかと思って』
「うちのファンクラブ優先枠か一般枠削ってお前のファンクラブ用に確保して先行販売か」
まん延防止措置の関係で収容数には限界があるから、サンゴリアスファン向け優先枠を作るという事はそのどちらかを削るという事にもなる。
府中から熊谷なら日帰り範囲内だから来てくれるお客さんも多いだろう。集客を増やすためにもプラスに働くだろう。
(そうなるとどこを削るかって話になりそうなのがなあ)
正直に言えば自分のファンクラブの枠は削りたくないので引き受けないという選択肢もある。

『きつい頼みかもしんないけど、お前とのゲームはひとりでも多くの人に直接見て欲しいんだよ』

サンゴリアスの電話越しの声は悲痛にも響いた。
確かにそれは分かる。互いの死力を尽くすギリギリのゲームの楽しさ、美しさを多くの人に見て欲しい気持ちは俺にだってあるのだ。
『なあ、頼むよ。一番のライバルだって、そう思ってくれてるならさ』
サンゴリアスのその痛切な言葉心を揺さぶってくる。
「……分かった、サンゴリアスのファンクラブ向け優先枠が確保できるか相談してみるよ」
『ありがとう、いい返事が来るのを待ってる』
「あとで書類送ってもらえると助かる、どのぐらいあればいいかとか分かんないし」
『了解、即作って送るわ!』
電話が切れると何だか嬉しいような面はゆいような気分で受話器を置いた。
サンゴリアスが俺を一番のライバルだと思ってくれていることが、俺との試合が一番見て欲しいゲームだと思っていることが、こんなにも嬉しいなんて知りようがない。
「希望の席数用意できるといいんだけど」
そう呟きながらいつものスタジアムの図面を広げて、どんな風に席数を用意するか考えてみたりするのだった。



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ワイルドナイツとサンゴリアス

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