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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

きみのブルース

「うちの人たちの事、よく頼みますヨ」
レットスパークスは移籍の書類にサインをしながらそう呟いた。
「当然やろ、引退まで面倒見るけん安心せぇ」
自分に言えるのはこれが精いっぱいだった。
今回移籍してくるメンバーの中にはレッドスパークスにとって最後の新人となった子も含まれていて、本当ならばもっと長く一緒にいられただろうと思うと切なさがこみあげてくる。
「ほんとですヨ」
最後の書類にサインが入ると、その隅に小さな雫が落ちた。
「……分かっててモ、寂しいですネ」
最後まで見届けてやりたかった。もっと自分とともに走ってほしかった。
そんな選手たちを手放す痛みは想像に難くない。

「お前の痛みはおいも背負うちゃる、だけん、今は思う存分泣けばよか」

書類を隅において、その顔を覆い隠すように抱きしめる。
痛くて辛い音で出来たブルースなど誰も聞くべきじゃない。


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ブルースとレッドスパークス

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女の子たちのアフターマッチ

周りの空気が緩むのに気づくと二か月にわたった太陽生命ウィメンズが終わったのだな、と思う。
「フェニックス、お疲れ」
「くまちゃんおつー!きょーのあたしってばすごかったっしょー?」
私の事をくまちゃんと呼ぶ東京山九フェニックスは何の衒いもなく汗まみれの身体で私にハグしてくるので、仕方なく私もハグで応じる。
「おつかれさま」
「あー、けーちんもおつかれー!」
スポーツドリンクを持ってきてくれたKTMにもハグをしようとして、眼前にスポーツドリンクを突き付けられる。
「フィジカルディスタンス、ね?」
「けーちんノリわるーい」
そう言いつつも渡されたボトルを受け取って一気飲みするあたり、現実的というかなんというか。
私もついでに貰っておくと「お疲れさまでした」と足元から声がした。
「ブルーエンジェルス」
「アルカスさん、KTMさん、本日もいい試合を見せていただきありがとうございました」
小学生ほどの見た目でありながらやけにかしこまった挨拶をしてくるので「こちらこそ」としか言えない。
「ながとっちとの試合激アツだったわー!優勝できたしほんとありがとね!」
「こちらこそ。でも総合優勝したのはながとなのでフェニックスさんがしたのは鈴鹿大会優勝ですよ」
ストレートにすごい事ぶち込んでくるよなあこの子。
何とも言えない気持ちになりつつ遠くからまた一人小さい子が駆け寄ってくるのを追いかけてるのは……パールズだ。
「みんないる!!!!!!すごい!!!!!」
オパールのように輝く目できらきらとこちらを見つめてくれる小さな女の子。
たぶん、人間の子ではないのは察しがつくけどどちらさんとこの子だろう……。
「どちらさまですか?」
ブルーエンジェルスがストレートに突っ込んでくる。
「ナナイロプリズムふくおか!ちはるさんにつれてきてもらったの!」
そのチーム名で、そういえば今日のゲストが今いるチームだったなという事を思い出す。
「ね、あそぼ!」
ラグビーボールをどこかから取り出して、らんらんとした瞳でこちらを見てくる。
その瞬間にみんな乗り気になったのが分かる。
「いいね!」
「帰るまで時間もそんなにないのに?」
「それに私たち試合後よ?あんまりきついのは出来ないんじゃないかしら?」
「円陣パスぐらいなら出来るっしょ!人数的にもちょうど良くない?」
気付くと足が全員グラウンドに向かってしまう。
くたくたになるまでラグビーした後にもこうやって遊んでしまうのは、どうしようもないラグビー馬鹿だからだろう。




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アルカス+KTM+フェニックス+ブルーエンジェルス+ナナイロプリズム。
現状実装組の女の子たちでわいわいさせてないなと気づいてしまったので……

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梅雨空にきみは孵る

新しい名前の書かれた企業登記簿に刻まれた新しい名前をもう一度見つめながら、これが今日からの新しい自分の名前なのだと思うとなんだか妙な気分になる。
自分を指す名詞であるはずなのにまるで新しい兄弟の名前みたいにきらめいている。
「ジュビロ……だよな?」
「ヴェルブリッツさんとシャトルズさん」
ドアから距離を取って僕を見てきたのはヴェルブリッツさんとシャトルズさんだった。
「今日からはジュビロじゃなくてブルーレヴズですけどね。静岡ブルーレ・ヴ・ズ、です」
レヴズという難しい発音部分を強調して告げると「きんにょ(昨日)と別人みたいだがや」とシャトルズさんが呟いた。
昨日からわざわざうちに来て事務作業の手伝いを手伝ってくれていたヴェルブリッツさんとシャトルズさんから見ても、この新しい姿は異質なようだった。
「正直僕も起きたらこれでびっくりしたんですけどね」
「急に変わるもんなんだな、昨日までこんなに髪の毛真っ青じゃなかったし肌も浅黒くはなかったろ」
指摘された通り、僕の髪の毛はずいぶん真っ青になった。
海や空のような原色のブルーに根元だけが雪が降ったように白くなった。いわゆるプリンヘアーのような感じだ。
肌だって以前よりも焼けた浅黒い感じになって、目前のふたりと比較して自分のほうが色黒になったのが分かる。
「目の色も青くなっとるに」
「あ、そうですか?鏡見たときは気づかなかったです」
「……いち企業になるって言うとずいぶん変わるもんだな。ワイルドナイツやシーウェイブスの時とは段違いの変わり方でびっくりした」
「僕もまさかここまで変わるとは思ってなくてびっくりしましたけどね。でも新しく出来たのもあるんですよ」
右側の半袖のシャツを肩までめくりあげると脇から肘までタトゥーが刻まれている。
直線で構成されたトライバルタトゥーと自社の音叉マークを組み合わせた独特のデザインの大きなタトゥーには正直まだ困惑しているところだ。
「このパターンは初めて見たな、サモアンタトゥーに自社のマークを組み合わせてるのか」
「たぶん、そうですね。詳しくないので何とも言えないですけど」
こうしたタトゥーの入るパターンは見たことが無いのでいちおう親にも相談したが『自然に出たのなら仕方ないんじゃないのか?』という反応だった。
「これだけはちょっと扱いかねるとこなんですよねえ」
「……別に気にすることじゃないだら」
シャトルズさんは僕のタトゥーに手を伸ばして告げる。
「どこん国でもタトゥーは成人した男の象徴だに、それにおまんのことはみんな知っとるで、おうじょうこく奴はおっても離れる奴はおらんに」
濃厚な三河弁ではあるけれど気にするなという意志だけは伝わってきた。
「これも大人になった証拠なんですかね」
「だな。でもたぶん変わりすぎてビビる奴続出すると思うから写真だけ関係者LINEにあげとけよ」




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ジュビロ改めブルーレヴズさんとヴェルブリッツとシャトルズ。

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この夏はイメチェンしたい!

『チーム名称も変わるんでせっかくだし少し髪形とか変えてみようかと思ってるんですよね』
いつものメンツでオンラインで話しつつ作業していると、ぼそっとそんなことを言う。
『イメチェン?アフロ良いんじゃない?』
『完全にあなたのとこの選手リスペクトになるじゃないですか、それにアフロの会社員はちょっと……レットハリケーンズに馬鹿にされそうなんで』
『レッドハリケーンズと喧嘩なんていつもの事じゃん』
『あれを何回東京湾の藻屑にしようかと思った事か』
レッドハリケーンズへの愚痴がものすごい勢いでシャイニングアークスの口から出てくる。
(馬が全く合わない身内がいるって大変なんだな)
俺もそんなに兄と仲悪いわけでもないけど顔を合わせるたびに喧嘩するような相手が身内だと逃げられないんだなあ、という気持ちになる。
「イメチェンの話だけどさぁ、」
『スピアーズいい案でもあるんですか?』
「このタイミングで名前変える人結構いるだろうし、別に変えなくても良いんじゃない?」
「ワイルドナイツとか他メンツも名前変わりますしね。まあ全面的に変わるわけじゃないですしイメチェンはー……」
『あ、このミラクルセブンもちょっと名前伸びるよ』
「『突然の告知?!』」
思わず作業の手を止めて二人分の声が見事にかぶったけれど、グリーンロケッツは何事もないように話を続けてくる。
『いや言うの忘れてたなって、まあ今までの名前に東葛がつくだけだけどねー』
「いや東葛って船橋も込みじゃん!」
『しれっと浦安も含めないでくださいよ!』
『船橋と浦安は南葛じゃん!ミラクルセブンは我孫子だもん!』
「そうだけど誤解されるし我孫子か天王台で良かったじゃん!」
『近隣でも活動するから東葛のほうが都合がいいの!』
作業の手を止めてぎゃんぎゃんと喧嘩が始まる。
言いたいことを言い合ってから、ふと全員が気づく。
「そういやこれシャイニングアークスのイメチェンの話だったね、新しい名前なんだっけ?」
『シャイニングアークス東京ベイ浦安ですね』
『長くいしマンションっぽい名前……』
『名前が長いのは私のアイデンティティの一部なんですよ』
「そんなアイデンティティ聞いたことないけど」
ハハッと苦笑いしながら麦茶を飲んでぼんやりと天井を見上げる。
グリーンロケッツとシャイニングアークスのくだらない話を聞いてるとなんか平和だなと気づく。
レッドスパークスみたいに死を選ばされたり、ジュビロみたいに新しい環境に飛び込むからと多忙になることも無く、こうしてくいい友達でいられる。

「……新リーグになってもこうやってくだらない話できる関係でいたいな」

誰に言うでもない独り言はそっとどこかへ吸い込まれた。

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スピアーズとグリーンロケッツとシャイニングアークス

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未来で逢えたら

『結局サンウルフズっていいチームだったよな』
サンゴリアスが何杯目かのジンソーダを空にしてそんなことをつぶやく。
オンラインで酒を酌み交わしながらの飲み会は、試合から3時間もするとログアウトや寝落ちですっかり落ち着いていた。
『ホンマ、愛されとる感じしたもんな』
スティーラーズ先輩がほろ酔い気味にそう呟きながらつぶやいた。
『活動休止から2年も過ぎれば人間忘れとるもんなのに、客席が写ると一人二人必ずあのグッツを持ってる客がおって……あんな風に大事にされてるってええよな』
『だとしても今回は特例に近い復活だろう』
その声で寝落ちしていたはずのブラックラムズさんが起きてきていることに気づいた。
『ブラックラムズ起きとったん?』
『先程転寝から起きたところだ、斯様に愛されていても戻れない者は戻れぬ。スティーラーズが一番良く知って居る事だろう』
『……せやけどな。けどあれはあれで俺らの一つの理想やと思わん?非業の死を迎えようとも愛され、その名を記憶にとどめ続ける存在ってのは』
『死なないに越したことはないけどね』
サンゴリアスがぽつりとつぶやいて『俺も色々考えなきゃなあ』と上を見上げた。
新しいリーグでどのようにふるまうか、競技のプロ化という流れの中で自らはどこに生きる道を見出すか、考えることはいくらでもある。
「まだ焦る事じゃないよ、サンゴリアス」
貰い物の檸檬堂を開けながら俺の失ったものが頭の隅に浮かんでは消えていく
数々の失ったものや手放さざるを得なかったものたちのことを、忘れたことは一度たりともない。そうさせた人への恨みも、またしかり。
「俺たちが死すれどもラグビーは死なないんだから」
『死ぬ前提で物を言うなや』
間髪をおかずにスティーラーズ先輩がツッコミを入れてくる。
『汝は一度死んだ心算で居るのだろうが、我らは死人と話せる力を得た事は無いぞ』
『……そうだよ、お前に死なれたら俺が退屈で困る』
三人からのそれぞれの言葉は優しい。
『それにまたなんかの折にフラッと復活してくれるだろ』
サンゴリアスは前向きに笑いながら新しく開けた缶ビールを見せてきた。
『信じようぜ、次の未来を』
「お前がそう言うならそうする」
画面越しに小さな乾杯をするとスティーラーズ先輩が『バッファロー(※)』とつぶやいた。




※:ラグビー界の儀礼で右手で酒を飲んではいけないので気づいたらバッファローと言って指摘し、言われたら持ってる酒を一気に飲み干すというルールがある
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ワイルドナイツとサンゴリアスとブラックラムズとスティーラーズ。
サンウルフズまたひょっこり復活してほしいですね。

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