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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

白菊花火を見に行く

午後6時半過ぎ。
鵜住居駅を降りる人は思ったよりも少なく、まばらだった。これも昨今巷をにぎわせるウィルスのせいなのだろう。
駅から歩いてすぐ、まだ真新しいスタジアムのベンチに腰掛けて方位磁針で海の方を探した。
沖合で打ちあがる花火を見るならばもっと海岸近くへ行くべきなのはわかっていたが、どうしてもここからあの花火を見たかった。

2011年3月11日、ここはのちに釜石の奇跡と呼ばれる避難劇の舞台であった。
そして去年、ここはワールドカップという素晴らしき舞台にもなった。

タオルにくるんでに入れて持って来たのは熱燗の日本酒。
四合瓶をお湯に入れて温めたのを厚手のタオルで割れないように包んだからまだ熱いぐらいだ。
パキリと四合瓶のふたを開けて、熱燗を紙コップに少量移す。
ほかほかと沸き立つ湯気の向こうから花火の音がする。
鎮魂の白菊花火が、釜石の夜空に大きく咲くのが見えた。
ここにいる人も向こうへと去った者も、みんなこの白い菊花を見ているだろうか?


「乾杯、」

夜空に咲いた白菊の花に、この酒を捧げよう。
そしてくいとその熱燗を飲み干した。


シーウェイブスさんのはなし。
あの日から9年も経ってしまったけれど、まだ忘れたりなんて出来ないのです。

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二者択一のミステイク

書き込んであった試合の予定を消し、思わずその前でひざを折るようにふさぎ込む。
(……僕はいったいどこで何を間違えたんだろう?)
そう思ってこの最近のことを思い出してみても、分からなくてふらふらとベッドに倒れ込む。
ヴェルブリッツさんに聞いてみようか、と思ってもそれすらも怖い。
これまでずっと上に上にと走り続けてきて突然道が途切れてしまって、行き場もなく呆然と立ち尽くしている僕はどうしたらいいんだろう。
誰に詫びて、何を改めて、何をすればいいのだろう。
何かをしなくちゃいけないことは想像できても、その内容が何ひとつ出て来なくてペンを持ったまま呆然と立ち尽くしている。
突然ポケットに入れていた携帯電話が鳴り響いた。
メッセージの送り主はウォーターガッシュだった。
『頂いた牛乳で蘇が出来ましたのでご報告します』
添付されていたのはチーズのような茶色っぽい塊が複数個映っていて、これが蘇なのかと首をかしげる。
そもそも牛乳をあげた覚えもないし、間違えて送ってしまったのだろうか。
『メッセージの送り主間違えてるよ』
返信を出すと『すいません、釜石さんから牛乳を頂いたのでそのご報告でした』と返事が来た。
『牛乳を?どうして?』
『全国的な牛乳余りの影響でスポンサーさんからいただいたものをトップチャレンジ組にお裾分けしたいと一昨日連絡があったので、それで頂きました』
『そうなんだね』
『レッドドルフィンズさんにも明日ひとつお持ちしましょうか?』
頼んだ覚えもないのにそう言いだした彼に『大丈夫だよ』と返事をすると『それなら分かりました』とシンプルな返答が来る。
そうしてやり取りが途切れると、意味の分からないやり取りのばかばかしさに笑えてしまう。
というかそもそも何なんだ蘇って。聞くの忘れてるじゃないか。


……ああ、少し休もう。
こんなしょうもないことで笑えるなんてきっと僕は疲れてるんだ。

反省会は休憩後で良い。たっぷり休んだらきっと考える心の余裕もできるさ。


レッドドルフィンズとウォーターガッシュ。

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焼き鳥にはビール

「やる事なくて暇だから呑もう」
退屈を持て余した府中の後輩の第一声はそれだった。
その手には焼きたての焼き鳥と缶ビールの箱がぶら下がっていて、ああコイツマジで暇持て余してるんだなあ……と察してしまう。
「いいけど月曜から呑んでいいの?」
「時差出勤で仕事開始遅めにしてるから平気」
そう言って早速人んちに上がり込むと我が物顔で冷蔵庫を開けて冷えたグラスを引っぱり出して早速ビールを注ぎ始める。
冷えたグラスを常備してる俺も大概どうなんだとか言わないで欲しい。
「別にいいけど……あ、アド街見た?」
「見たけどNECが出た瞬間にグリーンロケッツさんから鬼電来たから電源落とした」
「俺のとこにも来たわ」
ふわふわ泡のビールに口をつけると、少し気分が晴れた。
サンゴリアスにもビールを持って来たビールを注いでやると「注ぐのヘタだなあ」と呟いてくる。
「どーせ俺はお前みたいなプロじゃないからな」
「そっか、じゃあしょうがないね。あ、今度呑むとき神泡サーバー持ってこようか?新しい奴!」
こいつの他人の地雷を踏み抜くところはある意味天才的だと思う。
しかし秒で反省の意と対策出してくるお陰で嫌悪感までは抱かせないあたり性格は悪くないんだよな……。
「またサーバー出すのかよ!」
「今年のはお手入れいらずで専用ホルダーもつくんだよ!去年の奴すぐ失くした先輩でもなくさないように冷蔵庫に張り付くようになってんの!」
「そうか、うん、まあ気持ちだけ貰っとくわ……」
正直酒の味にこだわる方じゃないので神泡サーバーとか言われても困るのだが本人が楽しそうなので気にするまい。俺は後輩には優しくする主義なのだ。
(あ、この焼き鳥旨い)
新型コロナだの試合の延期だの嫌なことは多いけど、酒は俺を裏切らない。
「早くラグビーしてえなぁ……」
「ほんとにねー」




ブレイブルーパスとサンゴリアス。気づくと飲んだくれてる府中ダービー。

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僕らいつまでも

「あーあーあー!やってらんない!」
ふてくされ気味のサンゴリアスが三本目の焼酎に手を出そうとするので、せめてお湯で割らせようと大きな湯飲みに湯冷ましを入れて差し出した。
「明日仕事でしょ」
「成人の日だから休みですぅー」
湯冷ましに麦焼酎をダバッと入れて飲み始めると、今日のことめちゃくちゃ気にしてるな……と苦笑いになる。
開幕戦での府中ダービー、しかもNHKの中継付きと言う滅多にない好待遇の試合で負けたのがよほど気にくわないのだろう。
「でも松島のまた抜きパスなんて芸術的で面白かったじゃん」
「そうだけどさー、せっかくなら勝ちたかったじゃん」
「……まあその気持ちは分からないでもないかな」
チューリップから揚げをサンゴリアスの口に放り込んでやれば美味いと小さく呟いて咀嚼した。
勝った側の俺が何言っても聞いてくれないだろうなあ、と思いながら俺の方も明日に残らない程度にのんびり酒を飲む。
「でも今日は満員御礼でいい試合だったじゃん」
「そっちはリーチコールすごかったもんね」
サンゴリアスは皮肉めかしてそう言うが俺としては「しょうがないよ、リーチだし」としか言いようがない。


「いつまでもいつまでも、あの満員のスタジアムで試合ができるよう努力しないとね」

そう思うでしょ?と問えば、サンゴリアスも静かに頷くのだった。


ブレイブルーパスとサンゴリアス。

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きみは今もこの胸に生きて

「あ、そう言えば今年のスーツなんだけどね」
「んなギリギリ過ぎません?」
「ちょっと時間がかかったのよ。これが今年のあなたのスーツ」
いつものお茶の時間、姐さんが思い出したように差し出したのは紙袋だった。
そこにはかつて鎬を削ると同時に同郷の後輩として可愛がったチームの親会社の名前が記されていた。
「ワールドさんとこですか」
「そうなのよ、同じ神戸の仲間としてね」
泣き別れた相手の親が仕立てたスーツと言うのは少々複雑な心境ではあるが、荒い格子柄に赤のネクタイと言う組み合わせは美しかった。
「ねえスティーラーズ、もうあの日から25年なのよ」
姐さんの言うあの日がいつを指すのか。神戸に生まれたものならば誰もが想像できる。
そして姐さんにとってのあの日がいかに重く重要な意味を持つのかもわかっている。
けれど後輩と強く結びついたあの会社の名前を聞いてしまうと、だめだった。
「俺にとっては可愛い後輩が居のうなって11年って思ってまうんですけどね」
「……そうね」
姐さんは分かっている。大切に想う人を見送る寂しさと痛みを。
けれどそこに立ち止まってはいけないという現実も分かっている。
「スティーラーズ、今年は私にとって特別なの。オール神戸で戦い抜いて欲しい、その意味は分かるでしょ?」
神戸市の花であるさざんかのネクタイピンと神戸タータンのマフラー。
姐さんが俺のために特別に誂えたというそれを無言で受け取る。


「……分かりました。今年も俺の年、いや、神戸の年にしたりますわ」

その魂の全てを受け取ったように重いスーツとのセットをぎゅっと握りしめた、開幕戦前夜のことである。


スティーラーズと神戸ネキ。
この話を聞いたときちょっと泣きそうになったんですけど神戸しんどすぎません……?

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