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コーギーとお昼寝

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きみは今もこの胸に生きて

「あ、そう言えば今年のスーツなんだけどね」
「んなギリギリ過ぎません?」
「ちょっと時間がかかったのよ。これが今年のあなたのスーツ」
いつものお茶の時間、姐さんが思い出したように差し出したのは紙袋だった。
そこにはかつて鎬を削ると同時に同郷の後輩として可愛がったチームの親会社の名前が記されていた。
「ワールドさんとこですか」
「そうなのよ、同じ神戸の仲間としてね」
泣き別れた相手の親が仕立てたスーツと言うのは少々複雑な心境ではあるが、荒い格子柄に赤のネクタイと言う組み合わせは美しかった。
「ねえスティーラーズ、もうあの日から25年なのよ」
姐さんの言うあの日がいつを指すのか。神戸に生まれたものならば誰もが想像できる。
そして姐さんにとってのあの日がいかに重く重要な意味を持つのかもわかっている。
けれど後輩と強く結びついたあの会社の名前を聞いてしまうと、だめだった。
「俺にとっては可愛い後輩が居のうなって11年って思ってまうんですけどね」
「……そうね」
姐さんは分かっている。大切に想う人を見送る寂しさと痛みを。
けれどそこに立ち止まってはいけないという現実も分かっている。
「スティーラーズ、今年は私にとって特別なの。オール神戸で戦い抜いて欲しい、その意味は分かるでしょ?」
神戸市の花であるさざんかのネクタイピンと神戸タータンのマフラー。
姐さんが俺のために特別に誂えたというそれを無言で受け取る。


「……分かりました。今年も俺の年、いや、神戸の年にしたりますわ」

その魂の全てを受け取ったように重いスーツとのセットをぎゅっと握りしめた、開幕戦前夜のことである。


スティーラーズと神戸ネキ。
この話を聞いたときちょっと泣きそうになったんですけど神戸しんどすぎません……?

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開幕のホーンはもうすぐだ

疲れると頬をムニムニと揉むのはブレイブルーパス先輩の癖だった。
「なんか今年は特別忙しいよなあ」
「今年は色んなテレビが呼んでくれてますもんねえ」
「僕のとこもです……」
イーグルスが疲労のにじむ笑みをこぼしつつレンゲで麻婆豆腐を掬う。
テレビ局からほど近いこの店は複数の社員選手推薦の本格的な麻婆豆腐が味わえる名店だが、いつもこのメンバーで集う時はユニフォームか私服なのに今回はテレビ用に準備したスーツだ。
「我のように日本代表不在でも埋め合わせで呼んで貰えて有り難いがな」
「ほんとですよね、まあ本当は日本代表がいる上で呼んでもらうのが一番ですけど」
ブラックラムズとレットドルフィンズがありがたやと言う顔で同席しているが、二人もやはり見慣れないスーツで来ている。
ラグビー熱冷めやらぬ日々のなか、日本代表在籍チームはもちろんそれ以外の連中の色んなテレビ局や新聞各紙を駆けずり回ってラグビーの宣伝に熱を入れている。
「にしてもこれ本気で辛くないですか……」
レッドドルフィンズがそう呟くと「四川の味だからなあ」と俺が呟く。
ほんとはここにビールを合わせるのが最高に美味いんだけど、まだまだ仕事が続くので飲むわけにはいかない。
「この水餃子全然辛くないですけど美味しいですよ、口直しに少し食べます?」
「いただきます」
気を使ったイーグルスが水餃子を一つ分けてやったりしてるのを横目に俺は麻婆豆腐でごはんをモリモリ食ってるので、野菜も食えとブレイブルーパス先輩にピクルスを押し付けられる。
この最高に楽しい季節の前夜祭はまだもうすこし続くのだ。



サンゴリアスと愉快な東京本拠地組の皆様。
トップリーグ開幕は1月12日から!

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北風小僧と冬至鍋

「寒っ……」
玄関を開けると凍えるような冷たい北風と小雨が頬を切りつける。
泊りがけのセットを詰め込んだ鞄を肩にかけ安物のビニール傘を差して歩いていくと、急いで帰り路に着く工場の職員たちとすれ違った。
(日曜の夜だもんなあ、普通はこの時間出かけないよな)
そんな当たり前のことに想いを馳せながら借りた車の鍵を開ける。
目的地は府中のビール工場……もとい、後輩・サンゴリアスの家だ。

****

「いらっしゃい」
大きな体を黄色い半纏に詰め込むように着て、俺を手招きするといつもは洋風の部屋の真ん中に畳とこたつが準備されている。
「準備良いなあ」
「でしょー?ワイルドナイツからこたつ買ったんだよ」
半纏貸してあげると言って渡された紺色の半纏は俺にちょうどいいサイズだ。
こたつの上には火のついた土鍋、冷酒やウォッカなどの酒類と炭酸水ど割り材が並ぶ。
少しぬるめの温度に調整されたこたつで足先と指先を温めていると、サンゴリアスはちゃかちゃかと酒を準備し始める。
麦焼酎のお湯割りだが、小瓶から輪切りになった柚子と何かがタラリと垂らされた。
「なにこれ?」
「柚子のはちみつ漬け入りの麦焼酎お湯割り、冬至っぽいじゃん」
「あー……そっか、今日冬至かあ」
麦焼酎のお湯割りは程よい温度で柚子の匂いとはちみつの甘みがまだ何も入れてない身体にはちょうどいい。
「麦焼酎っていいよねえ、何と合わせても合わせてくれる感じ」
「あー、わかる。日本代表で言うなら中村?」
「わかる、んで芋は松島とか?……ちょっと個性が立ってる感じ」
「じゃあー、リーチは何だろ……ビックマン?」
「それはCMに出てるだけじゃん」
酒の種類を日本代表に喩えるという誰に分かって貰えるの怪しい話で盛り上がってると鍋が良い具合に煮えてきた。
野菜の甘い匂いがほんのり香って来て「そろそろいいかな」とサンゴリアスが鍋の蓋を開くとかぼちゃと太い麺が見えた。
「冬至だからかぼちゃのほうとう~」
かぼちゃのみならずたっぷりの根菜や豆腐、お肉もたっぷりで具沢山だ。
「いいじゃん、美味しそう」
「でしょ。これ取り皿ね」
取り皿と箸を受け取って早速ほうとうに箸を伸ばす。
まずは何もかけずにそのまま食べろ!というサンゴリアスの言い分に従って(本人曰く最初から薬味つけると作り手の意図が読めない、らしい)何もつけずに麺をすすると、麺がもっちりしていておいしい。
「美味いじゃん」
「うん、結構うまく行ったわ」
「お前失敗作食わせる気だったの?」
「いやほうとうってあんまり作ったことなかったし」
ああだこうだとつまらない話を言いあいながら、この穏やかな年末も終わりが近いと気づく。
年が明けて半月もしたら俺たちは運命のシーズンが始まる。
新しいファンを定着させ、新リーグへの助走をつけ、オリンピックが駆け足でやって来て、日本代表が世界一へ行くための。あまりにも大切な一年だ。


「……まだ北風小僧もかぼちゃ食ってるかね」

冬よ、まだまだ終わらずここにいて。


ブレイブルーパスとサンゴリアス。今年は試合のないのんびりした年末です。

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イッツアメージングパレード!

「今ほど長命であることを感謝したことは無いな」
ブラックラムズ先輩がカメラを手に嬉しそうにその人ごみを見つめている。
僕も自前のカメラのレンズのふたを外し、冷たい風のなかをじっと待ちわびる。
真冬の有楽町を包む人々はみな紅白のユニフォームに身を包んで主人公たちの到着を迎えようという熱気に包まれ、ちょっと前までは想像も出来なかったような光景にシャッターを切った。
「あ、カメラダービーだ」
そう声をかけてきたのは冬にしては薄着気味なサンゴリアスくんとブレイブルーパス先輩だった。
「サンゴリアスくんたちも来てたんですね」
「そりゃあうちの選手も来てるしな、あったかいコーヒーあるけど飲む?」
「頂こう」
「ありがとうございます」
カメラを扱うために指先の出てる手袋を使ってるせいかどうも先ほどから末端だけが冷えてしまってしょうがないところだったし助かった。
ブラックラムズ先輩も同じように缶コーヒーで指先を温め、こくりと一口飲むと「……これはおしるこだな?」と呟いた。
確かによく見るとブラックラムズ先輩だけおしるこで指を温めている。
「あー、コーヒーと間違えて買っちゃったから」
「体よく押し付けたのか……まあ、冷え取りには丁度良いがな」
ぶつくさ言いながら遠くでパレードの始まりの合図が聞こえる。
昔ならきっと誰も想像したことがない景色を、いま彼らは見るのだと思うとワクワクする。


「これを一過性にしないのが俺らの仕事だよなあ」

そう呟くブレイブルーパス先輩の声が人波の声にかき消されていく。
トップリーグの幕開けはもうすぐだ。


イーグルスとブラックラムズとサンゴリアスとブレイブルーパス。
パレード見にいってないんですが相当すごかったようですね……?

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晩秋の横浜とコーヒーの匂い

びゅうっと吹き付けた風はもう冬の気配がするほどに冷たいもので、もう11月も半ばだということを思い出させた。
腕時計の時刻を確認してまだ本社へ出るのに少し余裕があることを確認する。
「……暇ですねえ」
大型書店の紙袋をぶら下げて道を歩いていると馴染みの顔が目の前を歩いていることに気付いた。
「ダイナボアーズさん」
「イーグルスか」
「スーツという事はお仕事ですか」
「ああ、これから帰るところだが……そっちも仕事じゃないのか」
「夜から本社なんですよ、それで久しぶりに横浜の大きい書店でも見てから行こうと思って」
「暇なのか」
「要約すればそうですね、せっかくですしお茶でもしません?」
「いいぞ、店は俺の方で決めても?」
「もちろん」

***

ダイナボアーズさんが選んだのはランドマークタワーの中にあるおしゃれな雰囲気の喫茶店で、温かいブラックコーヒーといくつかのマフィンを注文すると僕らはソファ席に腰かけた。
「マフィンの専門店なんてあるんですねえ」
「ランドマークタワー内は店が多いからこういう専門店も多いぞ」
「そうなんですね、にしてもこのソファすごいふかふかで良いですね」
「ああ、他にも喫茶店はいくつかあるが相模原や町田にない店のほうがいいかと思ったんだが気に入ってくれて良かった」
コーヒーと一緒に湯気の立った焼き立てのマフィンが運ばれてきて、さっそくブルーベリーのマフィンに手が伸びる。
いただきます、と目の前に相手に告げるとふわふわの記事にベリーの甘酸っぱい風味が口に広がる。
「美味しいですねえ」
「そりゃよかった」
「にしても横浜はもうクリスマスムードですね」
「そうだな」
「ゆっくりワールドカップの余韻に浸る余裕もなくて……あ、そうだそうだ、ワールドカップ絡みの書籍で新しく出た奴今日まとめ買いしたんですよ読みます?」
「いや、大丈夫だ」
「そうですか、じゃあ僕ここで読んじゃいますからね」
書店の袋からまだ今日買った書籍や雑誌を引っぱり出し、コーヒーを飲みながらページを開く。
ワールドカップ後、注目度の挙がった日本代表は色んな所で取りざたされるようになって買い集める側としては嬉しい悲鳴が止まらない状態だ。
サンゴリアスくんみたいに最初から自分のところの関係者だけと決めていても移籍や社業での活躍なんかで意外に買うものが増えてしまうから、最初から買わないとでも決めない限り際限なく増えてしまうのは嬉しいような悩ましいような……実に難しいところだ。
雑誌を一冊読み終えたあたりでマフィンの残りに口をつけようとすると、悩まし気な顔が目に入った。
「お悩みですか?」
「……ラグビーのプロ化について考えてた」
「ああ、再来年ですもんね」
新会長の掲げた東京五輪後にラグビープロ化の方針は少なからず僕たちに影響を与えた。
きたるプロリーグ化へ向けての水面下の動きは活発だ。
「俺たちはずっとアマチュアでいられないんだな」
「まあ世界的な潮流みたいなものですしね。国内だとバスケもプロ化しましたし、女子サッカーもプロになるみたいですし」
「それを踏まえての仕事をしてると、変わっていくと痛感する」
妙に寂し気に懐古するような面持ちでそう呟いた。
もしかすると今日ダイナボアーズさんが横浜にいたのもそれ絡みだったのだろうか。
三菱系のチームは競技を問わずアマチュアにこだわる向きがあるのは界隈では有名な話で、彼自身にもそう言う傾向が時折見受けられた。

「でも、ラグビーは不滅ですよ。
僕らがラグビーを好きで、ラグビーを好きな人がいる。それはプロでもアマでも変わりないじゃないですか」

「……イーグルスは前向きで羨ましいな」
「新時代も、元気に生き延びましょうよ。ね?」
僕がニッと笑えば、ダイナボアーズさんも微かに笑う。
本格的な冬の訪れは―ラグビーの季節は―もうすぐだ。


イーグルスとダイナボアーズの一幕

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