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コーギーとお昼寝

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北の大地の空と風

「はー……なんかえらい疲れてもうたわぁ」
ラグビークリニックが終わり、木陰にライナーズさんがバタンと横たわる。
「合同のラグビークリニックなんてそう滅多にあるものじゃないですしね」
「ほんまそれなぁ」
「せやかて若い子らは勉強になったんやないですか?」
「……レッドハリケーンズは若いからええけど俺みたいなおいちゃんには厳しいわぁ」
北国での合宿中に地元の子供たち向けのラグビークリニックをやろう、と言い出したのは誰だったか忘れたがこうして大人数で集まって行う事はそう多くない。
まして同じ大阪住みのレッドハリケーンズとライナーズさんが一緒になる事はあっても、神奈川に住む自分がそこに同席するなんて普通はあり得ないことだ。
「飲み物頂いてきましたよ」
ジュビロさんがドリンクの入った容器を人数分持ってきてくれて「ありがとうございます」と受け取った。
「あ、おおきにー!」
「いえ」
「こういう時は最年少が積極的に動きなはれって言われんかったん?」
「動ける人が動いたらいいんですー」
大阪コンビがわいわいと言いあうのを止めるべきか放置すべきか分からないジュビロさんを尻目に、自分は冷えたドリンクに口をつけてほうっと小さく一息ついた。
何度来ても北海道は良い。風は心地よく、食事も美味しい。
「……そう言えば、」
「ダイナボアーズなんかあったん?」
「いえ、もし良ければこの後懇親会をしようとスタッフが話していたのを思い出して。スピアーズさんには先にお話ししたんですが」
懇親会というよりもチームの枠を超えた飲み会のようなものをやりたいと漏らしていたことを思い出し、たぶんこのメンバーなら数人は来てくれそうな気がした。
「懇親会?!肉と酒はあるん?!」
「もちろん」
「ほな行くわ!おいちゃんも行くやろ?」
「おう、なんか野菜でも持ってこかな」
「僕も参加させてください」
「わかりました」
ドリンクはいったん蓋を閉めてすっくと立ちあがる。
こうしてみんなでワイワイと食事をするのは昔から好きなほうであったし、善は急げと昔から言う。準備は早くからしておくに越したことはないだろう。
「準備できたらご連絡しますので」
軽い会釈と共にそわそわした気分で足を走らせる。
ラグビーも、それに合わせる食も良いものだ。ましてこの心地いい北海道の風の下なら、なおさらに。




ダイナボアーズとライナーズとレッドハリケーンズとジュビロ。
なんか北見で一緒にラグビークリニックしてたというのが面白かったので。

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やり切った後は祝杯を

「……なんかもうやり切った感すごすぎて動きたくない」
花園の芝生の上に寝転がり、暗い夏の夜空を眺める。
遠くには優勝したスティーラーズさん達のファンによる祝福の声。
「おう、お疲れさん」
「疲れさせたのそっちじゃないですかぁ、俺完敗だし」
俺がそう言うとせやなあとゆるく笑って俺に手を伸ばす。
「でもいい勉強にはなったやろ?主力抜きでも強いチームが一番強い、ってな」
「ほんとですよねえ」
その手を掴んで立ち上がるとまだスタジアムは勝利の余韻が淡く香っている。
負けた俺としてはチャレンジして潔く負けた妙な清々しさのみがあり、健闘を称えたい気持ちでいられる。
そこが同じ船橋の友人から闘争心が薄いと評されるゆえんなのかもしれないけれど、最後の最後まで得点させてもらえないと謎の達成感しかないのだ。
「明日帰るんやろ?」
「あ、はい」
「ならアフターマッチファンクションのあと、俺のおすすめの串カツ屋あんねん。奢ったるからそこ行こ」
「じゃー……ゴチになります」
俺がニッと笑えばスティーラーズさんもにっと笑う。
何時だってそうだ、全力の試合の後に飲む酒が、一番うまい。


スピアーズとスティーラーズ。
スティーラーズカップ戦優勝おめでとう!

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どこにもいかない君のために

ずっと部屋にこもったまま出てこない片割れに小さくため息を吐く。
この調子ではいい加減食事の一つも取らせようと買って来た弁当が冷めてしまう。
「開けたれ、ヴェルブリッツ」
「いまそれどころじゃないんだ」
扉越しに帰ってきた答えにふうっと小さくため息が漏れた。
弁当をいったん床に置いて、鍵の脇を思いきり足蹴りすれば部屋の鍵が壊れる音と一緒に何かが崩れる音がした。
それはここ数年のチームの活動記録や選手たちの勤怠記録、薬物依存にまつわる書籍や薬物事案の判例をまとめた書籍の山だった。
(……こいつ、全部確認してたんか)
ドアをぶち破ったときに崩れた書類の山に埋もれたヴェルブリッツはひどく憔悴したような顔をしてこちらを向いた。
「降格しても脚力は落ちないんだな」
皮肉めいた言い回しは無視した。
書類の山を書き分けて弁当とお茶を押し付ける。
「飯、食おまい」
「……そうだな」

***

書類の山を片付けて二人分の食事スペースを作り、お茶と弁当をゆっくりかみ砕く。
俺の降格が決まったときと同じように二人きりのしずかな食事だ。
あのときは確か酒を持ってきていたが、もうそれすら遠い記憶のように思えた。
いま、こいつの頭には色んなものが渦巻いている。
活動休止がいつ明けるのか、選手たちと監督への影響、司法がどんな結論を出すか、ファンや周囲への影響、お金のこと、これからの行く末のこと、とにかく数えきれないほどのことだ。
「飯が零れとる」
「……悪い」
「今は飯のことだけ考えりん」
何をどうしてやればいいのか分からないけれど、きっと俺に出来るのはここにいてやることだけだ。
今だけでもこのクソ真面目でどこかに逃げられない男のそばでただ一緒に弁当を食ってやろう。




シャトルズとヴェルブリッツ

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バッドトリップとアンハッピーリフレイン

見ていた日曜ドラマのエンドロールを見終える前にテレビのリモコンを切る。
俺の庭であるはずのグラウンドがカメラによって泥臭い美しさで切り抜かれるのを楽しめたのは途中までで、今はもう悪酔いしたような気分でソファに深くもたれかかる。
「なに、もう酔っちゃった?」
「酔ったというか……なんか、きつい」
サンゴリアスは苦笑いを止めて「センチメンタルだ」と呟いた。
もう少し前から弱り気味の気持ちに変なスイッチが入ってしまったような気がする。
「先輩は十分強いし府中の街に貢献もしてるでしょ」
「まあな」
日本の社会人ラグビーの強豪の一角を担っている自覚はある。
けれど、同時にお偉方の意向によって捨てられて逝った奴や親から引きはがされた奴の顔を思い出す。
社会貢献の名のもとに親によって生み出され、生死の綱を握られながら生かされている。それが俺たちで自立することは現状無理だろうという事は分かっている。それでも俺たちはラグビーをするために生まれてきて、この足は泥まみれになりながら不規則に転がる楕円のボールを追いかけている。
「スポーツチームの価値って何なんだろうな」
「……1に勝利、2に感動、34は金で5に社会貢献、かな」
「やっぱ勝利か」
「うん、少なくとも俺はそう思うよ」
強くなければ生きていく資格すらないと言われた気分になって、アルコールが変なところに回って汚い言葉が漏れ出そうになるのをぐっとこらえる。
「みんなが求めてるのは強いサントリーサンゴリアスだから」
ストレートのウィスキーを一気に飲み干して深く深くため息を吐く。
「10年後、俺ももしかしたらアストロズみたいにお荷物扱いされる可能性だってある」
「ほんとにな」
俺たちにとって強さは全てで、大人の世界に努力賞なんてものはない。
その残酷な事実を飲み干してそれでも棄てられる日まで走り続けなくちゃいけない。
だって俺たちはラグビーボールを追いかけるために生まれて来たんだから。




ブレイブルーパスとサンゴリアス。ノーサイドゲーム1話の感想も兼ねて。

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米と水のあるところ

「なんか懐かしい組み合わせだなあ」
試合後の打ち上げでミニどんぶりをたべながらスピアーズさんがふとつぶやいた。
目前では試合後の疲労を回復しようと米だの肉だのを競うように食べるシーウェイブスさんとレッドドルフィンズさんがおり、そう言えば一度だけこの四人で揃ったことがあったなと思い出した。
たった2シーズンだけこの4チームがトップイーストに揃っていた時期があり、リーグの打ち合わせで顔を合わせたことがあったのをスピアーズさんは覚えていたのだろう。
「そうですか」
「うん、厚木くんの相変わらずの塩対応……今はウォーターガッシュくんか」
お米まだ食べる?と聞かれてこくりと頷くとぽんぽんとたっぷり乗せてくれ、その上に千葉の野菜と魚のてんぷらとつゆをかけてミニ天丼にして渡してくれる。
(……そう言えば、塩対応というのは対応が冷たいことを指すのだったか)
色んな人に愛嬌を振りまくよりも強くなるための振り返りがしたいというのが本音で、今日のレッドドルフィンズさんとの試合の振り返りをして寝たかったがこれが終わるまでは家に帰ることが出来ない。
せっかく美味しいものを用意して貰っているので文句を言う事は出来ないが美味しいものを食べるよりも仕事と試合の振り返りの方がよほど重要だった。
黙々と食べているとスピアーズさんがこちらを見て言う。
「アフターマッチファンクション、苦手?」
その言葉にご飯を詰まらせそうになって無理やり飲み込んだ。
「そのお米さ、うちの親が新潟で作ってるの。美味しいでしょ」
そう言えば試合前に手土産と称してファンや」シーウェイブスさんに米を渡してひと悶着あったなと思い出して、こくりと頷くとスピアーズさんが二の句を継ぐ。
「降った雨を森が浄化して、浄化された湧き水が田んぼに入って、俺たちがその田んぼで育ったお米を食べる。水と米は繋がってる。ここまでは分かる?
それと同じでラグビーがチーム内を繋げるなら、アフターマッチファンクションやファンサービスはラグビー界全体を繋げるものだと思うんだよ。選手もファンもスタッフも地域も親会社も全部つながって、循環してラグビー界が豊かに実る。
だから、俺はアフターマッチファンクション結構好きなんだよね」
スピアーズさんはフフッと笑う。
「まあ人付き合いが苦手ならそれはそれでしょうがないけどさ」
貰った水を飲みながら小さく息を吐く。これはいつも都心で飲むものと少し違う味がするから新潟の水だろうか。
「スピアーズ!米櫃が空になったぞ!残りはないのか!」
遠くでシーウェイブスさんとレッドドルフィンズさんが言う。
「二人で一升空にしてまだ食うの?!ごめんね、行ってくる」
もー食べすぎでしょーと言いながらも楽し気に向かっていく姿をぼんやりと眺める。
世界は繋がっている。ラグビーボールのない場所で作られた繋がりは、いったいどこへ転がってどんな意味をもたらすのだろう。
そんなことを考えながらアスパラガスのてんぷらを齧っていた。





ウォーターガッシュとスピアーズ。

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