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コーギーとお昼寝

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歓喜に震える指先を

エコパスタジアムに鳴り響く歓喜の声がいまも脳裏を離れない。
帰り着いたジュビロの家でスポーツニュースを見れば確かに日本が勝ったのだと再認識する。
すると指先が震えていることに気付いた。怯えではない。恐怖でもない。これは喜びの震えだ。

「ほんとに勝ったんですよね、あのアイルランドに」

ジュビロが感嘆の声を漏らしながらスポーツニュースを見返す。ああ、本当に日本はあのアイルランドに勝ったのだ。あの接戦を制したのは他の誰でもない、日本代表なのだ。
愛すべき桜のジャージが静岡で起こした番狂わせはジュビロやシャトルズの心を震わせていた。
「……再放送、明日あるもんで見て行ってから帰ろまいか?」
シャトルズがジュビロにそう聞けば「いいですよ」と答える。
祝杯をあげるためのつまみを並べたテーブルには未開封のアイリッシュウィスキー。
「それは?」
「サンゴリアスくんから先週届いたんです、『次のアイルランド戦で日本が勝ったらこれで祝杯あげよう』って」
蓋を開けてウィスキーグラスに氷も入れずに注げば琥珀の宝石のような輝きが飛び込んでくる。
「あ、水割りにするの忘れた」
「これでやろまい。ストレートでも一口ぐらいならいいじゃんね」
「そうだな」
そう告げればジュビロは水割り用のボトルと氷を机の上に置き、やおらウィスキーを注いだグラスを取る。
アイルランドに勝ち切った日本代表にちなんで、いっそこれを一口で飲み干してやろうか。そして次の勝利の願掛けとしよう。


「次の日本代表の勝利を祈って「「乾杯!」」」

今も歓喜に震える指先でぐっとグラスを握り締めてグラスを叩けば、涼しげな勝利の音が聞こえた。


ヴェルブリッツとジュビロとシャトルズ。
アイルランド戦、最高だったね……

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今宵のビールはほろ苦く

はあーっと深い溜息を洩らした俺と後輩はもう一度大画面に目を向けた。
日本代表応援に盛り上がるパブリックビューイング会場は人が早くも減り始め、日本代表の寂しいスコアが映し出されている。
「そんな都合よく奇跡は降りてこないかあ」
サンゴリアスが深いため息とともにぬるくなったハイネケンを飲み干し、地面に置いた。
俺の方も残っていたハイネケンを飲みながら可愛い後輩をなぐさめた。
「でも前哨戦だしね。実際福岡なんて怪我とは言え10分と経たずに引っ込めたじゃない」
「まあそうですけどね」
「本番は9月20日、そうでしょ?」
俺がそう告げれば、ああそうかと呟く。
「もう10日ちょっとなんですねえ」
「そうだよ、俺たちの府中にワールドカップが来るんだから。まずはそっちを精一杯応援しなきゃ。年明けにはリーグ戦、夏にはオリンピックだよ?」
「ほんと、そう考えるとバタバタですよね」
今夜のビールはほろ苦い結末を迎えた。
けれど、これから先の大舞台できっとうまいビールが飲めるはずなのだ。



「だから、走り抜こう」

俺たちの本番へ。


ブレイブルーパスとサンゴリアス。

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北の大地の空と風

「はー……なんかえらい疲れてもうたわぁ」
ラグビークリニックが終わり、木陰にライナーズさんがバタンと横たわる。
「合同のラグビークリニックなんてそう滅多にあるものじゃないですしね」
「ほんまそれなぁ」
「せやかて若い子らは勉強になったんやないですか?」
「……レッドハリケーンズは若いからええけど俺みたいなおいちゃんには厳しいわぁ」
北国での合宿中に地元の子供たち向けのラグビークリニックをやろう、と言い出したのは誰だったか忘れたがこうして大人数で集まって行う事はそう多くない。
まして同じ大阪住みのレッドハリケーンズとライナーズさんが一緒になる事はあっても、神奈川に住む自分がそこに同席するなんて普通はあり得ないことだ。
「飲み物頂いてきましたよ」
ジュビロさんがドリンクの入った容器を人数分持ってきてくれて「ありがとうございます」と受け取った。
「あ、おおきにー!」
「いえ」
「こういう時は最年少が積極的に動きなはれって言われんかったん?」
「動ける人が動いたらいいんですー」
大阪コンビがわいわいと言いあうのを止めるべきか放置すべきか分からないジュビロさんを尻目に、自分は冷えたドリンクに口をつけてほうっと小さく一息ついた。
何度来ても北海道は良い。風は心地よく、食事も美味しい。
「……そう言えば、」
「ダイナボアーズなんかあったん?」
「いえ、もし良ければこの後懇親会をしようとスタッフが話していたのを思い出して。スピアーズさんには先にお話ししたんですが」
懇親会というよりもチームの枠を超えた飲み会のようなものをやりたいと漏らしていたことを思い出し、たぶんこのメンバーなら数人は来てくれそうな気がした。
「懇親会?!肉と酒はあるん?!」
「もちろん」
「ほな行くわ!おいちゃんも行くやろ?」
「おう、なんか野菜でも持ってこかな」
「僕も参加させてください」
「わかりました」
ドリンクはいったん蓋を閉めてすっくと立ちあがる。
こうしてみんなでワイワイと食事をするのは昔から好きなほうであったし、善は急げと昔から言う。準備は早くからしておくに越したことはないだろう。
「準備できたらご連絡しますので」
軽い会釈と共にそわそわした気分で足を走らせる。
ラグビーも、それに合わせる食も良いものだ。ましてこの心地いい北海道の風の下なら、なおさらに。




ダイナボアーズとライナーズとレッドハリケーンズとジュビロ。
なんか北見で一緒にラグビークリニックしてたというのが面白かったので。

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やり切った後は祝杯を

「……なんかもうやり切った感すごすぎて動きたくない」
花園の芝生の上に寝転がり、暗い夏の夜空を眺める。
遠くには優勝したスティーラーズさん達のファンによる祝福の声。
「おう、お疲れさん」
「疲れさせたのそっちじゃないですかぁ、俺完敗だし」
俺がそう言うとせやなあとゆるく笑って俺に手を伸ばす。
「でもいい勉強にはなったやろ?主力抜きでも強いチームが一番強い、ってな」
「ほんとですよねえ」
その手を掴んで立ち上がるとまだスタジアムは勝利の余韻が淡く香っている。
負けた俺としてはチャレンジして潔く負けた妙な清々しさのみがあり、健闘を称えたい気持ちでいられる。
そこが同じ船橋の友人から闘争心が薄いと評されるゆえんなのかもしれないけれど、最後の最後まで得点させてもらえないと謎の達成感しかないのだ。
「明日帰るんやろ?」
「あ、はい」
「ならアフターマッチファンクションのあと、俺のおすすめの串カツ屋あんねん。奢ったるからそこ行こ」
「じゃー……ゴチになります」
俺がニッと笑えばスティーラーズさんもにっと笑う。
何時だってそうだ、全力の試合の後に飲む酒が、一番うまい。


スピアーズとスティーラーズ。
スティーラーズカップ戦優勝おめでとう!

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どこにもいかない君のために

ずっと部屋にこもったまま出てこない片割れに小さくため息を吐く。
この調子ではいい加減食事の一つも取らせようと買って来た弁当が冷めてしまう。
「開けたれ、ヴェルブリッツ」
「いまそれどころじゃないんだ」
扉越しに帰ってきた答えにふうっと小さくため息が漏れた。
弁当をいったん床に置いて、鍵の脇を思いきり足蹴りすれば部屋の鍵が壊れる音と一緒に何かが崩れる音がした。
それはここ数年のチームの活動記録や選手たちの勤怠記録、薬物依存にまつわる書籍や薬物事案の判例をまとめた書籍の山だった。
(……こいつ、全部確認してたんか)
ドアをぶち破ったときに崩れた書類の山に埋もれたヴェルブリッツはひどく憔悴したような顔をしてこちらを向いた。
「降格しても脚力は落ちないんだな」
皮肉めいた言い回しは無視した。
書類の山を書き分けて弁当とお茶を押し付ける。
「飯、食おまい」
「……そうだな」

***

書類の山を片付けて二人分の食事スペースを作り、お茶と弁当をゆっくりかみ砕く。
俺の降格が決まったときと同じように二人きりのしずかな食事だ。
あのときは確か酒を持ってきていたが、もうそれすら遠い記憶のように思えた。
いま、こいつの頭には色んなものが渦巻いている。
活動休止がいつ明けるのか、選手たちと監督への影響、司法がどんな結論を出すか、ファンや周囲への影響、お金のこと、これからの行く末のこと、とにかく数えきれないほどのことだ。
「飯が零れとる」
「……悪い」
「今は飯のことだけ考えりん」
何をどうしてやればいいのか分からないけれど、きっと俺に出来るのはここにいてやることだけだ。
今だけでもこのクソ真面目でどこかに逃げられない男のそばでただ一緒に弁当を食ってやろう。




シャトルズとヴェルブリッツ

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