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コーギーとお昼寝

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盛岡の散歩道

待ち合わせの盛岡駅待合室に着くと、レッドハリケーンズが展示物に目を輝かせていた。
「お、シーウェイブスお迎えありがとな!」
「気にせんでええぞ。元々前日入りの予定だったから同行者がつくぐらい大した手間でもないし」
「にしても駅にこんな掲示してあるのええよなあ」
少し前から掲示させて貰っているうちの展示物を横目にそう呟く。
レッドハリケーンズは大阪という土地柄、競合するスポーツチームも多いし宣伝するにも色々苦労もあるのだろう。
「お前さんもまだやれる事はあると思うがなあ」
「ほんならええんやけど」
「県立博物館のラグビー展先でいいか?」
このラグビー展のために前日に盛岡に入る予定だったのを、レッドハリケーンズが『観光案内して!』と言うので当初の予定より出発時間を早めて盛岡駅まで迎えにきたのである。
「俺小腹空いとるから先メシがええんやけど」
「博物館が盛岡の中心部からだいぶ離れとるから博物館先の方が都合が良くてな、腹減ってるなら福田パン寄るか」

****

県立博物館は盛岡市郊外のダム湖のほとり、岩手山に見守られながら立っている。
「ホンマにラグビーの展示やってんねんなあ」
もりもりとパンを食いながらそう呟いたレッドハリケーンズに「これが見たかったんでな」と言い返す。
「てかコレ、ゴールデンウィーク明けまでしとるやん」
「この展示にうちも協力してるんでな。興味無いなら近くの公園でパン喰いながら待つか?」
「せっかく来たし見てくわ」
SNS用の写真を撮りながらてくてくと博物館の中を回っていく。
ガラスケースの中に飾られた在りし日の想い出や支えてきた数え切れないほどの存在が俺たちに目配せをして来る。
(……この積み重ねの上に生きてるんだな)
この在りし日の想い出に触れた人々が今の自分やラグビーにも目を向けてくれれば、きっとそれだけでラグビー界は明るくなるだろう。
一通りの展示を見終えて大きく深呼吸をして、北上川と岩手山をそっと写真に収める。
「次わんこ蕎麦行こ!」
「まだ食うんか……」
岩手山から吹く風はほんの少し甘い気がした。


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シーウェイブスとレッドハリケーンズ。今日は盛岡ゲームなので。

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白い恋

3月12日の朝になってふと思った事がある。
「スティーラーズにお返し、した方が良いよな?」
昨日、SNSにあげるつもりで撮影していた元選手のインタビュー動画の編集が終わっていない事が分かり急遽動画編集の得意なスティーラーズが代わりに編集してくれた。
元々合同で動画を作る予定があった事とちょうど当日がオフだったからできた荒業である。
近くにいたスタッフも「そうですよね」「お礼メールだけだと良くないですよ」という事で何か贈り物をした方が良いという結論に至った。
チームの総意としてお礼の品予算をひねり出すのでスティーラーズと一番親しい俺にチョイスを丸投げされた。
「とは言ってもなあ……」
貧乏チームなので予算はチームからの五千円に自分の小遣いを足して七千円ぐらい。まああまり高価な品だと気を遣うのでこれぐらいでいいと思う。
岩手から兵庫まで荷物を送ろうと思うと小さい箱でも千円を超えてしまうからあんまり大きいものや冷蔵品は送れない。
そしてもう一つ。俺は毎年バレンタインにスティーラーズから結構いいチョコを貰っている。
本人の『お前が美味しく食うてくれたらええねん』と言う言葉と、時期的な忙しさも相まってお礼のメールぐらいしかできていない。
「なんかいいもん送ってやりたいよな」
とりあえず地元の銘品などを見て回ると定番の品は大体一度贈ったことがあったり、予算的にきつそうだったりでかみ合わない。
そんな時、ふと目についたのが野田の塩クッキーだった。
三陸の海水を炊いて作られる塩を練りこんだクッキーはほんのりした塩気が甘さを引き立てて結構うまい。それにスティーラーズも神戸の製鉄所さんも確か紅茶党だったからこういうみんなで食べられるような焼き菓子はお茶うけに良さそうだ。
(そういやホワイトデーの贈り物ってなんか意味があったような?)
あれでいて色々と気にするタイプのスティーラーズであるので変に深読みされてはたまらない。
確認してみるとクッキーは友達でいましょうという意味だというので、とりあえずクッキーはスティーラーズ本人ではなくスタッフさん向けという事にしておいた。
意味の良さそうなお菓子としては飴とかマカロンとかバームクーヘンがいいらしいが、予算とスティーラーズの好みに合いそうなものはなかなか見つからない。
「……自分で作るか?」
既製品を買うより好みを知り尽くした自分が作る方が早い。
そう結論付けると、自分でも作れそうなものをさっそく調べることにした。

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ホワイトデー当日の昼下がり、電話を寄こしてきたのはスティーラーズだった。
『シーウェイブスお前マドレーヌなんて作れたん?!』
あの日作ったマドレーヌは無事スティーラーズの胃袋まで届いたようだ。
しっかり目の衛生管理とジビエ用の真空パック器のお陰で駄目になることなく無事に届いたようである。
「素人作で悪いが、ちゃんと信頼できるレシピ探して味見もしたから食える味にはなってたろ」
『惚れた相手の手作り言う時点で焦げても食えるけどな、味も初めて作ったんなら上等な部類やったし』
しれっと厳しめの評価が下ったが、それでもこうして喜んでくれたなら十二分に頑張った価値はあるというものだ。
(ここまで喜んでもらえるなら来年も試してみようか?)
まあ自分に余裕があれば、の話だが。


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シーウェイブスとスティーラーズの遅刻ホワイトデー。

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冬空ティータイム

神戸が『明日暇ならお茶しましょ』と言うので、ホイホイついて来てしまったら会場がラグビー場だった。
ひな祭り仕様のグッツ配布を受ける神戸を尻目に、私と西宮は普通に困惑していた。
「なんでお茶しようって言われてスタジアムに……?」
「最初は家でも考えてたんだけど、今日ホームゲームなのに関係者席がちょっと入り良くないみたいでね。入場者数は多い方が良いと思って」
私も西宮もサッカー観戦は時々行くから慣れてるからいいものの謎にだまし討ちされた気分で溜息しか出ない。
「まったく、スタジアムに行くなら先に言ってくれれば……ねえ?」
「そうですよ。チャントの練習とか全然してませんよ?」
「今日は普通に楽しんでくれればいいの。必要なものは全部持ってきてるし大丈夫よ」
そう言いながら神戸が鞄から赤いタオルマフラーやひざ掛けを私と西宮に貸し付けてくる。
神戸の用意してくれた席にマットを敷き、その上からひざ掛けをかけてさらに膝乗せトレーまで渡される。
「そのバックめちゃくちゃ入ってません?」
「収納力あるのよこれ」
そんな事を言いながら神戸は鞄から魔法瓶とティーポッドとカップが出てきた。
サッカーの試合と違って入場時の手荷物検査がないから持ち込んでも問題ないんだろうけど、だからって普通ティーポット持ってくるかね……?
「今日は桃の節句にちなんで桃風味の紅茶用意してみたの」
ひな祭りと言えば桃という事でそのチョイスなのだろう。
紅茶が注がれたカップを受け取れば紅茶のかぐわしい香りの奥に白桃の甘い香りが混ざっている。
試しに一口飲むと熱々で寒空の下にじんわりとしみわたってきて美味しい。
「おかしはひしもち風のフルーツサンドイッチと白酒風味のスコーンよ」
洒落た紙箱入りのサンドイッチとスコーンを受け取る。 またこれも手の込んだ力作だ。
「……これ、加古川に食べさせなくていいの?」
「加古川には明日あげるわよ。あの子昨日夜勤だったらしくて今日来れないって言うから」
ひし形のサンドイッチを口につければイチゴやキウイの果汁じんわりと染み出してきて美味しい。
「スコーンとっても美味しいです」
「そうでしょ?」
西宮も嬉しそうにスコーンをかじり、暖かい紅茶を飲む。
「じゃ、今日はうちのスティーラーズ応援してあげてね?」
「それがこのお茶のお礼になるんなら安いもんだよ」





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此花ネキと神戸ネキと西宮ちゃん。
ちなみにこれを目撃してたスティーラーズも同じものを後日頂いてます。

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雪かき後のラーメン

「この雪はヤバいね」
グリーンロケッツが驚きを込めてそう呟く。
今週は雪が多くて何度か雪かきに行ったが、もう大丈夫だと思っていた。
しかし今目の前のスタジアムは昨日になって降った雪がスタジアムを白く覆い尽していた。
「だから手伝いに来たんだけどな」
製鉄所さんがプラスチック製の雪かき大きいスコップを手に後ろから出てきた。
「お疲れ様です」
「別にいいさ、試合がやれるならこれくらい大した労力じゃない」
そう言って雪かきのスコップをグリーンロケッツに手渡してくる。
一応自分も雪かきやるように持ってきてたのだが、流石にグリーンロケッツの分までないので多めに持ってきてくれたのは助かった。
早速雪かきのためグラウンドに入ると、うちの関係者やファンでは無さそうな人もちらほらスコップ片手に雪かきに励んでいる。
「あ、うちのサポさんも来てるね」
「前日入りしてくれた人が雪かき来てくれてるのか」
「まあ前日入りしたのに見れなかったら悔しいもんねえ」
そう呟きつつ雪をグラウンドからかきだし、地面が凍ってないかを足先で確認してみる。
(……まずいな)
ちょっと試合をやるにはグラウンドの状況が良くない。
「にしても本当にここは雪国なんだねえ」
グリーンロケッツがそんなことを言うが「雪国ってほどじゃないぞ」と製鉄所さんが言い返す。
雪の降らないところからすればこれだけでも雪国なのだろうが、もっと降るところを知ってるのでうちは感覚的には雪国ではない。
この辺の感じ方はブルーレヴズとも話してて感じることではあるので何も言うまい。
「シーウェイブス、試合出来そうか?」
「他の人達とも話さないと分からないですけど、ちょっと厳しいですかね」
体感的な意見を告げると、3時間後には正式に開催不可が決定した。

*****

試合出来無い事への詫びを入れ、ファンとのグリーティング終えると、もう時刻はお昼過ぎだった。
雪かきで温まった身体も芯まで冷え切って、汗が冬の冷風で体を冷やしてくる。
「シーウェイブス、グリーンロケッツ。飯食いに行こう」
製鉄所さんがそう誘ってくれたので一度昼飯を食いにスタジアムを離れる事になった。
スタジアム周辺には食事できるところが少ないし、来てくれたキッチンカーはまだ忙しそうなので控えたのだ。
車で10分ほど走らせた場所は小さなラーメン屋。
製鉄所さんの奢りと聞くとグリーンロケッツは嬉々として大盛りのチャーシューメンに餃子とチャーハンを注文してくる。
「元気だな……」
「試合出来なかったから美味しいものを楽しもうかと思って。これでもお酒は自粛したんだよ?」
グリーンロケッツはあくまで前向きである。
(こう言う前向きさを見習わんとなあ)
「シーウェイブスはどうする?」
「じゃあ、チャーシューメンに味玉追加で」


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シーウェイブスとグリーンロケッツと釜石。
雪で試合中止になったけどせめて釜石を楽しんでいってね……と言う気持ちを込めて

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きみと手で話そう

ブラックラムズがいきなり『今夜テレビ通話出来ないか?』と言う連絡が来た。
何故テレビ通話?と思いつつもまあ夜ならいいかと思って応じたら、想定外の相談が来た。
「急で悪いが手話の練習が必要になったから付き合ってくれないか」
「手話?別にいいけど、俺もそんなに詳しくはないよ?」
俺と付き合いのあるスタッフさんでデフラグビー(聴覚障害者のラグビー)の選手がいて、基本的な挨拶やラグビーに関するものくらいなら覚えたのだが何故そんなことを知ってるんだか……。
「付き合って呉れそうな奴を探していたら、前にワイルドナイツが応援手話動画を作っていたのを思い出してな」
「ああ、前にインスタにあげたあの動画ね。でもなんで手話が必要に?」
「区の手話言語条例のPR動画を作る事になってな、あとで必要になる可能性もあるから挨拶程度は覚えておこうかと」
「なるほどね。でも俺も専門家じゃないし、参考文献とか動画送るぐらいしかできないけどいい?」
「ついでに練習に付き合って呉れると助かる」
俺も手話は本当に最低限だし、普段使う機会が少ないので復習にもなる。
夜に少し練習に付き合うぐらいなら何の問題もない。
「まあ、それぐらいならいいよ」

―5日後―
自らを指さしながら「私は」
左手で頭から耳の下あたりまでを撫で「ブラック」
耳の横を指でグルグルと渦を巻いて「ラムズ」
親指と人差し指を立てながら上に突き出して「東京、です」
「……うん、それで大丈夫だと思う」
開いた左手を左胸から右胸に移動させて大丈夫という手話で伝える。 表情でニュアンスが変わるけどブラックラムズには問題なく伝わるようだ。
「ありがとう」
左手の甲に向けて右手で手刀を切るのはありがとうの手話だ。
「じゃあ、またな」
ブラックラムズが手を振るとテレビ通話が途切れる。
ちょっと出来ることが増えると世界が広がる事を感じたブラックラムズの表情は、どこか楽しげだった。



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ワイルドナイツとブラックラムズ。
作中に出てきた野武士の手話動画はこれで 黒羊先輩の動画はこれ

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