忍者ブログ

コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

届かなかった夢舞台

こうしてグラウンドの外から試合を見るのは久しぶりだった。
国立競技場3階席は選手が遠すぎてもはや豆粒にしか見えないのが難だが、ここしか取れなかったのだから仕方ない。
「ワイルドナイツも来てたんだ」
「ずいぶん遠い席取ったね」
「決勝はグラウンド脇で見るつもりだったから」
俺と同じく席を取り損ねてこんな遠い席になったらしいサンゴリアスは大きな保冷バックを開き、キンキンに冷えたビールを取り出した。
しかも隙間に保冷剤まで入れており、ビールへの執念を感じさせてくる。
「一つ飲む?」
「くれるなら貰う」
「どーぞ」
自社製缶ビールを俺に寄越したサンゴリアスは、その手で別のクラフトビール缶を取り出すと保冷ホルダーに入れて栓を開けた。
そのまま勢いよくぐびぐびと呑むと「はー……」とつぶやいた。
「いい飲みっぷりだね」
俺もそう言いつつ缶を開けてちびりとビールに口をつける。
「そりゃね、今年こそは決勝出るつもりだったし」
「俺もどっかではそうなる気がしてたんだけどね」
ここ数年は決勝常連となっていたから、きっとどこかで油断してしまったのだろう。
己の油断と力不足がこの現状を呼んでしまった。
「今年は自分が緩んでるってみんなに叱られた気がする」
それはここ数年で一番酷い成績でシーズンを終えたサンゴリアスの紛れもない本音なのだろう。
同時に俺やサンゴリアスが勝ちにくくなっているという事はリーグワン全体の水準の向上を意味しており、これまでよりも厳しい世界が広がることを意味している。
「サンゴリアス、」
「うん?」
「来年は、国立で逢おう」
俺が言えるのはただ一つ、叶うかどうかも分からない事を承知で約束をすること。
来年も常勝軍団であり続けようという誓いを立てる事だ。
「……うん」
その誓いの代わりに乾杯を捧げた。




------
サンゴリちゃんと野武士さんと国立の片隅
Twitterに乗せたその頃のブレイブルーパス先輩とスピアーズも置いときます

拍手

PR

締めラーメンの夜に

「22年ぶりの勝利って恐ろしい数字よね」
うちの姐さんがそう呟きながらタバコを揉み消す。
ワイルドナイツとの飲みを終えたあと、締めラーメン奢るから付き合えという姐さんに呼び出されて立ち寄った中華料理店で姐さんはそう呟いた。
「ようやっと二強時代が終わって新しい時代が来るっちゅーことやないですか?」
「まあそう言われればそうなんだけどね、ただ22年って長いわよね」
「それはそうですけどねえ」
「ほんと、昨今は色んなことが変わって行くわよねー」
姐さんは困ったようにラーメンを啜り、時々冷えた水に口をつける。
俺に日銭を与えてくれている鉄鋼業もつい先日大いに揉めていた合併話がまとまり、また新しい変化が起きることは目に見えている。
「そうですねえ」
「あなたの活躍が私の生きがいなんだから、来年はもっとがんばりなさいね?」
「来年こそは秩父宮やのうて国立招待しますよ」
そう言い切ると姐さんは満足したように「努力しなさいね」と笑った。


-------
スティーラーズと神戸さん

拍手

ファン感謝祭の片隅で

「シーウェイブス、遅くなってすまんな」
「参加者プレゼントど……え?」
そう声をかけてくれた親の後ろに、当然のような顔をしてついて来ていた八幡さんに「えっ」と声が漏れた。
「なんで八幡さんが?」
「ようやくまとまった休みが取れたので釜石の所に来たら、ファン感謝祭に行くって言うのでついて来ただけですよ」
「客が一人増える分にはよかろう?わしも去年のファン感は来れなかったから今年はどうしても見に行きたくてなあ」
タイミングによってはそういう事もあるかと思えば納得する。
八幡さんがうちの親にべったりなのはいつもの事だが、向こうから積極的に邪魔してくることはほとんどない。
「まあそういう事なら……」
「釜石、ビール飲みませんか?」
八幡さんがさっそく指さしたのはべアレンの生ビールコーナーだ。
折角の休みだというのに気温の割に湿度も高いからそりゃあビールでさっぱり行きたくもなるのが人情だ。
「お、行くか!じゃあまた後でな」
「はい」
いちおうイベントが終わったら飲めるよう家で冷やしているビールもある。
(今は運営の仕事優先!)
自分にそう言い聞かせつつ、参加者プレゼント配りに精を出すのであった。

*****

イベント終了後、八幡さんから突然こんなことを聞かれた。
「あのイベント中のクイズ、素人には結構難易度高めじゃないですか?」
「スポンサー企業クイズですか?」
「うちで働いてりゃ鉄鋼スラグぐらいなら見分けつくじゃろ」
「ですよね?」
そう言って顔を見合わせていると、八幡さんがはあと大き目のため息をついた。
「……この街から高炉が消えてもうだいぶ経つんですから、釜石の所の職員でも知らない人がほとんどじゃないんですか?」
言われてみればそれもそうだ。
高炉廃止からぼちぼち40年は経つのだ、高炉の仕事を知らない職員が過半数になる。
「それもそうだけどな?鉄の街背負ってるんだから、多少は鉄の事分かって貰わないとなあ?」
うちの親はほろ酔いでニヤリと笑い、八幡さんは呆れたように「まあそれはそうですけど」とつぶやいた。
「でもテックスエンジの製品クイズは本当に難しかったよなあ~」
「釜石はエンジニア部門にノータッチですからね、むしろテツゲンのレタス食べ比べも見ただけじゃ分からなかったですけど」
「わしは食えばわかると思うがなあ」
ああだこうだとどうでもいい話に盛り上がる2人を見ていると、ちょっとうらやましくなる。
ほんのちょっと友が恋しい気分になりながら俺は2人を見守る陰になるのであった。



------
シーウェイブスと釜石+八幡
今日のファン感のクイズがむずすぎるというネタでした。

拍手

55年前を呼びだして

世間があんまり万博ばんぱく言うものだから、つい来てしまった。
「……久しぶりに来たな、万博記念公園」
今や通天閣や大阪城に並ぶ大阪の顔ともなった太陽の塔は今日も人に囲まれ大賑わいの中、しかめツラして仁王立ちしている。
なんとなく太陽の塔の写真を撮ってから3分ほどのんびり歩けば、懐かしい建物が見えてくる。
エキスポ70パビリオン。かつての万博の記録を公開する場所であったと同時に、八幡が私たちの顔役として動いていた鉄鋼連盟のパビリオンだった場所だ。
万博後も残しておくというので有名な建築家に頼んで結構しっかり作ったのに、しばらく放置されてたら10年くらい前にいきなり展示施設になっていた。
展示施設になってすぐの時に見に来たが、ここに来るのは久しぶりだ。

(見た目はそのままなんだよな、ここ)

扉を開ければあの時代のままの壁や床が飛び込んできて、かすかに頬が緩む。
(そういや初日に八幡・釜石・葺合・神戸なんてメンバーで来たんだっけ)
釜石が人ごみに埋もれて消えかかるたびに飛び出して回収していく八幡が面白すぎて、万博初日の混乱と大騒ぎに疲れていた私と神戸が大爆笑してたのを思い出す。
入場券を買って展示施設に入れば、そこはエキスポ70の世界の入り口だ。
今や懐かしく美しいと呼ぶほかない過去の展示物を眺めながら、薄暗い部屋へと踏み込んだ。
色とりどりのレーザービームに包まれた大ホールに響く武満徹の音楽。
見るだけの場所としてとどまるように立てられたガラスの壁の向こうに、55年前の自分の影が見える気がする。
あの頃信じていたどこまでも伸び行く素晴らしい日本は幻想だった、けれどその夢の名残は今もここにある。


-----
此花ネキ、万博記念公園へ行く。
ちなみに現在の万博会場からだと小一時間掛かるので気をつけよう!

拍手

万博を歩く

此花から万博のチケットを押し付けられたので、俺と海南で万博に行くことになった。
平日の朝10時、人でいっぱいの東ゲート入場口に並んでいると「こんなにいたんじゃ迷子になりそうだな」と海南がつぶやく。
「でも前の大阪万博の時よりはマシじゃない?」
「あー……あん時はすごかったよな」
配られたチケットの消費も兼ねて何度か足を運んだが、いつもいつも大混雑で身動きが取れず苦労したのを思い出す。
「でも俺はチケットの消費も大変だった記憶の方が強いかなあ、此花と八幡さんから来てたもん」
あの万博には住友グループと鉄鋼協会が出ており、その両方からチケットを渡されていたので消費しきれるのか不安なぐらい手元にあった。
従業員や取引先にも大量に配って、それでようやく自分でも使い切れるぐらいまで減らせたんだっけ。
「そういやあの万博も一緒に行ったよな」
「行ったねえ」
そんな話をしていると俺たちの番がきて、手荷物検査の後に一歩足を踏み入れれば話題の大屋根リングが飛び込んでくる。
「実際見るとすごいねえ」
木造建築でありながら遠くからも見えるほどの大きな建物。 鉄鋼屋としてはちょっと負けたような気もするけれど、純粋に大きいものというものはそれだけで人目を引き付ける抗いがたい力がある。
「太陽の塔を見た時も同じこと言ってたよな」
「そうだっけ?」「そうだよ」
海南は呆れたようにそう呟く。
あの頃の俺を誰よりもよく覚えている海南が言うのなら、きっとそうなんだろう。
「最初の予約まで少し時間あるだろ?」
「うん、住友館が11時からだから30分ぐらいあるかな」
「じゃあのんびり散歩してこう」
海南の提案に頷く前に、俺からも一つ思いつきを口にする。
「その前に、手ぇつないでいい?」
「だな。前の万博の時みたいに迷子になったら大変だもんね」
まだ付き合っていなかった俺たちは手をつないで歩いたりなんて出来なくて、当然のように迷子になっては大騒ぎしてたっけ。
今はこうして普通に手を繋ごうと言えるし、これだけの人ごみなら男二人で手を繋いでても目立ちはしない。
「55年で俺たちも世界も変わっちゃったね」
「でも、お前はずっとお前のままだよ」
そう言い切る海南は世界一かっこいい俺のお嫁さんなのだった。 -



-----
和歌山海南。
万博行ってきました、前回の大阪万博よりは少ないらしいけど普通に多いもんは多いと思う。

拍手

バーコード

カウンター

忍者アナライズ