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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

同じ湯の中で

温泉行きませんか、とDロックスが突然言い出した。
「ほら、この辺って温泉ありますしせっかくなら入って帰りましょうよ」
「……入浴料奢りならいいぞ?」
思わず意地の悪い言葉が口から出てきたが、そんなことを気にもとめず「いいですよ」と返してくる。
タクシーで近くの日帰り温泉へと直行(無論これもDロックスが出した)すると、2人分の入浴券に石けんまで買ってくる。
若干いいのか?と聞きたくなりつつも、しかし本人が気にしてないので何も返せない。
日帰り温泉の浴室の扉を開ければ、温泉特有の硫黄の香りがふわりと漂ってくる。
同じように冷えた身体を温めにきたらしい見覚えある顔もちらほらおり、視線がかち合えば軽く頭を下げた。
まずは冷えた身体を温めようと掛け湯をすれば、その温かさにびくりとなる。
(思ったより体冷えてたんだな)
かれこれ5年ぶりのいわきゲームで、地元出身のキャプテンの帰還も相まって少し緊張してたのかもしれない。
「は〜……」
「あったかいな」
肩まで湯に浸かれば少しばかり緊張も解ける感じがする。
「こういうのも遠方での試合の醍醐味ですよねえ」
「お前さんも定期的に仙台ゲームやればいいのに」
「仙台好きですけどスタジアムの都合が難しいんですよね、雪の心配もありますし」
「雪はどうにもならんよなあ」
そんな世間話に飽きると、ぼうっと天井を見上げながらただ暖かい湯に浸かるだけの時間が始まる。
プレーの一つ一つを頭の中で振り返り、ああすれば良かったとかここは伸ばせるポイントだとか思考が整理されていく感じがする。
「シーウェイブスさん、」
「うん?」
「ちょっとは気が晴れました?」
そんな問いかけで初めて自分が気を遣われていたことに気づき、申し訳なさとほんの少しの文句が口から漏れそうになってしまう。
「お前さんが勝ち点くれればもっと晴れたんだがな」
そんなふうに冗談めかして答えれば「なんかすいませんね」と笑うのだった。


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シーウェイブスとDロックスのいわきゲーム、見てきました。

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時代はいつも波のように

「時代は変わったねえ」
ぽつりと鹿島がつぶやくので一瞬何の話だ?と聞きそうになる。
その目線の先には俺が今朝読んでいた経済新聞が置いてあった。
「かつて世界一だった会社が凋落して吸収されちゃうなんてさ」
「USスチールの件な」
八幡から薄々聞かされてはいたが、実際そうなるとうちは日米合弁企業になるのかとどこか不思議な気持ちになる。
英語の勉強しねえとなあなどという問題ではない。
俺が子どもの頃は世界一でうちの会社はアレを超えるんだよと東京に聞かされていた存在が、いつの間にかあんなに小さくなってうちに吸収されるのだ。
「なんというか、物事の変化に時々追いつけなくなりそう」
「みんなそう思ってると思うけどな」
海の向こうの彼らが今この事をどう思っているかを聞くことはできない。
けれど打ち寄せる時代の変化を受け入れて行く先を追いかけるしかやれることが無いことは、きっと向こうも分かっていることだろう。
こういう出来事において俺たちには決定権がないので、実に無力な傍観者でしかいられない。
「ねぇ君津、俺たち10年後100年後はどうなってると思う?」
「知らん。せいぜい死んでない事を祈ることしか出来ねえだろ」



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君津と鹿島。USスチールの併合に腰抜かしてるわたしです。

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対話はいつもめんどくさい

*製鉄大合同前後の話

「釜石にとっての私ってどういう立ち位置なんですか?」
八幡が突然そんな面倒くさいことを言い出した。
「どういう立ち位置って……一番弟子?」
「一番ならもう少し私を大事にしてくれてもいいと思うんですよね」
「弟子って単語抜かすな」
八幡と言う存在が自分にとっての唯一無二だとか、一番星だとか、そういうきらきらしい事を言って欲しいのだろうか。
八幡の言われたい気持ちは察するに余りあるが、自分にとってはそこまでわかりやすい言葉で評していいような存在にはどうしても思えないのだ。
「ただ最初に教えた弟子なんですか?」
「だってそうだろう。わしが一番最初に面倒を見たのはお前なのには変わりないし」
「確かにそうですけどね?その付き合いの長さで私が言われたい事ぐらい察してくださいよ」
八幡が望んでいる言葉が分かっていても、たかが機嫌取りで言葉にするほど自分の口は軽くない。
そうだなあ、とちょっと考えてみる。
「……わしが死ぬときはお前が死に水を取れ。室蘭やうちの人間じゃなくて、お前がな」
自分がこの先どういう風に死ぬとしても、たぶんこいつが一番泣いてくれる。
こいつが自分を心から愛してくれていることはよく知っているから、お前になら全部託していい。
「なんであなたが先に死ぬこと前提なんですか」
「普通こういうのは年長者が先だろうが」
「まあそうですけどね?」
もういいです、と八幡が深いため息を吐く。
わりとめんどくさい弟子のめんどくさい対話を終えれば、部屋はただ静かであった。


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釜石と八幡のめんどくさいエピソード。
このクソめんどくさい八幡と普通に付き合えるだけおじじはえらいと思う。

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歓声と幕開け

その日、神戸の朝はすっきりと良く晴れた晴天だった。
「おはよう」
「スティーラーズ遅かったわね」
「いや姐さんらが早すぎなんですって」
仕事でもないのに土曜の6時頃から起きる人はそう多くないはずなのだが、それより先に起きてる2人が不思議でならない。
姐さんが淹れてくれた目覚めの一杯が差し出される。
「だって今日開幕戦でしょ?」
「まあそうですけど、俺みたいに試合の準備ある訳やないんですから」
「楽しみがあると朝早く目が覚めるものじゃない」
加古川さんがトーストとサラダ・焼きたてソーセージの乗ったワンプレートを渡しながら「姉さんの期待ですよ」と付け足してくれる。
その加古川さんもよく見ると赤いネイルをしており、ちょっとしたわくわく感を感じる。
(これ、昨日ネイルサロンでも行って塗ってもらったパターンやな……)
「今日は三重ホンダヒートよね?」
「そうですよ、モスタート気になります?」
「興味はあるわね。まあそれ以上にサベアやレタリックも楽しみだけど」
姐さんが上げたのは新しくうちに来てくれた選手たちの名前だ。
俺もその二人には期待してるので気持ちは同じだ。
「スンシンくんって今日出場でしたっけ?」
「あー、今日はベンチですねえ。まあ体調が悪くなさそうなんで期待はできますよ」
加古川さんはお気に入りの子の事をいくつか聞いてくるので、
ちょこちょこ答えながら朝食に箸を伸ばす。
朝食を胃に収めるともうそろそろ出ないといけない時間になる。
さっさと残りの身支度を整えていつものリュックを背負ったら気持ちは試合に向かっていく。
「帰りは7時ぐらい?」
「ですねえ、姐さんもそのくらいですかね」
「早めに家戻って他の試合の録画見ながら加古川と飲んでるつもりだけど?」
「え、録画残しといてくださいよ」
「当然よ。試合、楽しんできてね」
姐さんがそんな風に言うてくれる。
俺がラグビーを全力で楽しめば姐さんも楽しんでくれることを、俺は知っている。
だから今日も手抜かりなく、全力でラグビーボールと戯れる。
「ほな行ってきます」


ラグビーリーグワン、本日開幕!

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スティーラーズと神戸加古川姉妹。
今日の開幕戦は行けそうにないので行く人は楽しんできてください

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冬に夏の日を買う

毎年12月1日は出来るだけ予定を開けるようにしている。
大切な人物の誕生日なのだ、戸畑もうちの関係者も分かっているから文句を言わない。
「釜石、今年も誕生日おめでとうございます」
今年も見覚えのある釜石の家に飛び込むと「来たか」と笑った。
「ちょうどいい、夕飯食ったか?」
「東京から直で来たので食べてませんね」
「光からふぐちりをお祝いに貰ったんだがちと多いなと思ってたとこだ、食ってけ」
「じゃあありがたく」
今年も釜石宛てのお祝いの品がいくつも並んでおり、奥の茶の間には冬に備えて出したらしいこたつはなべ物の準備がされている。
まだ下ごしらえの段階なのか、小さな台所にはまだカットされてない野菜がいくつか置いてあるのみだ。
「鍋用セットみたいの買わないんですね」
「シーウェイブスが方々から野菜貰って来ててな、買わんくても出来そうだったからもったいなくて。あとちょっと手伝え」
台所ばさみで春菊を切るよう言われたので、ざくざくとはさみで切り揃えておく。
1人用の台所には少々窮屈だが包丁を手に野菜を切り揃える姿を見るのは新鮮だった。
(……そういえば、私が小さいときには何度か見た気がしますね)
私が生まれて間もない頃は近隣に店などなかったので自炊せざる得なかったこともあり、釜石が台所に立つことが何度かあったのだ。
「春菊の下ごしらえ終わったら吊戸棚のカセットコンロと一緒に茶の間に出しといてくれ」
下ごしらえを終えた春菊とカセットコンロを手に茶の間に行くと、ふぐちりのセットがどんと鎮座している。これが光のプレゼントなのだろう。
開封済みのセットについていた作り方説明書を見ると、専用のだしでふぐを煮て作るらしい。
「だし温めときます?」
「野菜はいつ入れるか書いてあるか?」
「あ、固いやつは出汁と一緒に煮るよう書いてありますね」
「じゃあ白菜の芯と大根・人参入れて火ぃつけとくか」
長ねぎを切っていた釜石が手を休めて土鍋を持ち出してくる。
鍋に出汁と固い野菜を入れて火をつけると「鍋見守っといてくれ」と告げられる。
茶の間のこたつに足を入れて鍋が暖まるのを見守っていると、長ネギや白菜の葉っぱと共に一升瓶を手にした釜石が来た。
「湯呑み酒でいいか?」
「釜石がくれるならなんでも」
「お前いつもそんな感じだよなあ」
鍋の野菜を土鍋の横に置けば、湯呑を渡してきた。
「こんなデカい瓶だとおちょこは使いづらいんでな」
「言ったでしょ、私は釜石なら何でもいいって」
湯呑になみなみと注がれるのは純米酒だろうか、日本酒のいい香りがする。
釜石も手酌で日本酒を注げば「乾杯するか?」と聞いてくるので、小さく湯呑を合わせた。
くいっと煽れば日本酒の香りが広がり、アルコールで体温がほんの少し上がる。
「冷やで悪いな、このサイズは冷蔵庫に入らなくて」
「そんな大きい冷蔵庫買っても玄関通りませんよ」
「この社員寮も立て替えてくれりゃあなあ」
皮肉交じりにそう言われても決裁権が無いのでどうにもならない。
「検討はしときます。ああ、それと」
思い出して持ってきたプレゼントを差し出した。
紙袋の中身は反物だ。
「お前ほんと毎年わしの着るもん用意してくるよなあ」
「いいじゃないですか」
そう言いながら箱を開けると生成り色の反物が二つ釜石の手に渡る。
1つは生成りに細い藍色の縞柄、もう1つは藍色の絣模様の反物である。
布地をじっと見つめて何度も肌触りを確認すると、こっちを見てため息を吐いた。
「……お前、これ、上布だな?」
「ええ。越後上布ですよ」
越後上布は国内最高峰の麻織物であり、世界遺産にも登録された布である。
大麻ではなく苧麻(からむし)を使うので釜石ならその違いに気付いてくれるだろうと思ってた。
これを買うので新車一台分は吹き飛んだが何とかなる。
「えちっ……?!お前、これ……いや、いいや。そんな値段聞くのが怖くなるようなもんを二つも用意して何したいんだ?」
「それで揃いの着物仕立てて、夏にでも関門の花火デートしてもらおうかと」
目的はこれである。
ここまでお膳立てされれば絶対に断れないし、この着物の話をすれば全員納得してくれる。
「お前たまに若い女っこみたいなこと言うよな」
「釜石だからデートしたいんですがね、どうですか?」
「……花火っていうと8月ぐらいか。予定開けてやるから日付分かったら連絡しろよ」
炬燵の下でガッツボーズをしてからすぐさま炬燵で関係各所に連絡を入れる。
戸畑や上の人間には何としても予定を入れさせない。ぜったいである。
「ああ、もう鍋もいい具合だな」
釜石が思い出したように土鍋のふたを開けて追加の野菜やふぐの切り身を鍋に入れてくる。
ああ、おだしのいい匂いだ。
美味しいものと好きな人、そして揃いの服を着てのデートの予定も確保できた。
「今日はいい日ですね」



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