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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

もらいもの

「合宿の間、お世話になります」
シーウェイブスから深々としたお辞儀とともにお菓子を貰った。
(世話ったってうちで管理してるグラウンド貸すだけなんだけどな……)
かといって断る理由もないのでとりあえず受け取っておくと、1人分にしてはいささか量が多めに見える。
「ありがとう……でもこれ、多くないか?」
「かずさマジックの分もと思って少し多めに用意しておいたので」
「あー、でもあいつ今大阪なんだよな」
「大阪?」
「社会人野球の日本選手権、だからグラウンド貸せたってのもあるんだけどさ」
完全にそのことが頭に無かったらしいシーウェイブスは「あー」と納得した声をあげる。
いま釜石のとこには野球部いないから頭から抜け落ちてたんだろうなあと察すると「ちゃんと帰ってきたら渡しとくよ」と付け足しておく。
「じゃあ、よろしくお願いします」

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そんな話をして一週間ちょっとで、かずさが帰ってきた。
「と言う訳で無事帰ってきました」
「うん、お疲れ」
かずさとしても二回戦敗退と言う結果は色々思うところがあったのか、口数は少なめだ。
自分の家に荷物を置かず直接うちに来たらしいかずさを家にあげる。
「飯食った?」
「いちおう食べたんで大丈夫です」
俺の布団にのそっと横たわりながら大丈夫と言われても全然信ぴょう性がない。
(慰められたい気分なのか?でもあいつの試合ちゃんと見れてねえんだよなあ)
今日はちょっとバタついてて試合中継を見られずにいたら負けていた感じなので、慰める文句が出てこない。
そんなことを考えていると、ふとシーウェイブスからのもらい物の事を思い出す。
「かずさ、お菓子食うか?お茶もお前の好きな奴淹れてやる」
「……ラプサンスーチョンで」
「ラプサンスーチョンな、ミルクは?」
「アリで」
ラプサンスーチョンは燻製香が強くて割と好き嫌いの分かれるお茶だけど、俺は時々あのスモーク感が欲しくなるから買い置きしてある。
いつものようにお湯を沸かして濃い目に抽出したものをミルクで割れば完成である。
ミルクティーとシーウェイブスから貰ったお菓子を目前に差し出すと、のそりと起き上がってお茶を受け取る。
楕円形のホワイトチョコ的なものがかかった焼き菓子をパクリとかじり、熱いミルクティーをちびりと飲む。
中から出てくる白あんの甘さと生地のしっとりした感じが妙にミルクティーによく合う。
「……勝負は時の運とはいえ、負けるのはいつも新鮮に悔しいんですよねえ」
「勝負が仕事だからな」
ちびちびと焼き菓子を食らえばその悔しさも多少薄れてくれるだろう。
(まあ新鮮に悔しがれなくちゃ勝利に貪欲になれないのかもしれねえけどなあ)
そんな思いを抱きつつぼんやりと焼き菓子をかじる夕べは静かに更けていった。



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君津とシーウェイブスとかずさマジック。
今回の君津合宿で使ったのが親会社のツテらしいと小耳にはさんだので考えてたネタでした。
作中のお土産はラガーボールです。

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寒い日には

「さっっっっむ!」
車から一歩外に出た瞬間吹き付けてきた冷たい風に、富士山のこちら側と向こう側の違いを感じる。
心なしか家出た時よりも寒い気がするのはなぜだろう……。
「ブルーレヴズさん、」
「イーグルスさんお久しぶりです」
「なんでこんな寒いとこ選んだんですか……」
ベンチコートとマフラーで全身防寒したイーグルスくんのまなざしは本気だった。
地元である磐田ならここまで寒くなかったでしょうに!という悲鳴に似た指摘は否定できない。
「色々あったんだよ」
「いやそれは分かりますけど寒すぎません????????」
「正直甲府とそんな変わんないかなーと思ってたんだよ……ちょっと舐めてた……」
ごめんと心底詫びると「寒いなんて言わせたくないならマフラー配るべきは今日だったんじゃないですかね?」と言い返される。
「今年の開幕戦のCM見てたんだね」
「去年もでしたけどレヴズさんって集客に対して本気ですよね」
「うちの社長が集客に使えるものは親でも使えって人だからねー」
社長のあの熱意は本当にすごいと思う、まあ人に遠慮も何もないので時々板挟みになって胃が痛む感じがするけれど。
でも狭いラグビー界の外から来て話題性のある企画を立ち上げててきた社長の事はすごいと純粋に感じてもいる。
「ああいう人もラグビー界には必要なんでしょうねえ」
「うん、それは感じてもいるんだよね」
寒さに吹かれながらそんな話をしていると、会場設営が始まっている。
「あ、そこのテント張り手伝ってくれる?」
「ええ」
ポールを組み立てながら昨今のラグビー界の話をしていると体が温まってくるのを感じてくる。
組みあがったテントを飛ばされないように固定してから上着のチャックを少し開ける。
「ちょっと動くだけでも結構あったまるよね」
「選手やスタッフはそうですけど、観客はじっとしてますから冷えますよ」
「せっかくだしほうとうでも配れないかなあ、山梨だし」
「配るのは無理じゃないですかねえ」
ラグビー場で楽しく過ごすためのアイディアを語り合いながら設営準備をしていれば、寒さもずいぶん楽になる気がした。




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ブルーレヴズとイーグルス。今日の練習試合の会場10度切ってたらしいね?

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わたしのお気に入り

利根川に沈む夕焼け、寒い日に食べるあったかい唐揚げ蕎麦、全力で練習した後に飲む一杯の水、緑に染まる観客席。
それらがこのミラクルセブンのお気に入りで、これを思い返せば気持ちは少し明るくなる。
「だから好きなものは多いに越した事はないんだよ」
そう言いながら最寄駅のホームで蕎麦をたぐると「結構些細なものが多いんだな」とシーウェイブスが言う。
我孫子駅名物・蕎麦つゆを吸った大ぶりの唐揚げをかじりながら「些細だからいいんだよ」と答える。
「嫌なことがあったときに些細でも好きなものに触れる事で気持ちの持ち直しがしやすくなる、自分の好きを知る事は自分を幸せにする事なんだよ。
まあこれはうちの兄の持論なんだけどね」
もういない兄の言葉を思い出しながら蕎麦を啜ると「それでD1連敗時代を生き抜いたのか」とつぶやく。
「ミラクルセブンの暗黒時代の話はしないで」
「個人的にはさっさとマノをD1に連れ帰って欲しいんだけどな、あと今回ボコボコにしてきた児玉って奴」
「言われなくとも戻るよ」
D2がどんなリーグかはまだよく知らないけれど、みんなのためにも戻りたいという気持ちはあるのだ。


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グリロケちゃんとシーウェイブスさん。
昨日の練習試合でボコボコにされて半泣きだったのは私です……

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友情の外側

「あの人、ほんと最後まで私になんにも言わないで逝っちゃったわよね」
姐さんがぽつりとシードルを飲みながらつぶやく。
平尾さんのドラマを2人で見ながらあの頃を思い出せば、そう言いたくなる気持ちもわかる。
「姐さんも聞いて無かったんか」
「今にして思えば私に言ってしまえばあなたにも伝わってしまうと思ったんでしょうね」
「……俺らに言うてくれても良かったのになあ」
人とは違う時間を生きる自分と姐さんは人を見送ることには慣れていた。
それにあの人には信頼されていたと俺も姐さんも思っていたんだろう、そうでなければずっとうちのチームに関わり続けるようなことはないと信じていた。
「本当よね。まああの人からすれば人間じゃない私やスティーラーズに伝えたら空気が変わるとでも思ったんじゃない?」
「あの人の発想やなあ」
こんな事今言ったところで本人からの返事はない。
だから愚痴ばかり漏らしながらドラマのあの人によく似た姿を見つめるしかできないのだ。



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スティーラーズと神戸ネキ。 スペシャルドラマ「友情」見ました……?

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あの子が休みを取るという

『八幡さん、11月の12日休みにしていいですか?』
電話越しに光が申し訳なさそうにそう聞いてきた。
「別にいいですけど職員にもちゃんと伝えておいてくださいね」
人間ではない私たちにも有休や福利厚生などの一般社員同等の権利が与えられているので休みを取ることは別に悪ではない(鹿島のように有休日数を無視する場合は別)が、
生来真面目であまり有休を取らない光が申請してくるのは珍しい。
『所長や職員さんはむしろ取りなって勧めてくれたので大丈夫です』
「そうですか。ところで12日って何かありましたっけ?」
わざわざ光に有休を取るように勧めて来る理由が思いつかずに尋ねると、光は『確認してないんですね』とつぶやいた。
『社会人野球の日本選手権ですよ、うちの野球部が30年ぶりに出るんです』
「あ」
言われてみれば納得の理由である。
私たち全員で共有している業務予定を記したウェブページを開いてみると君津と鹿島の野球部も出場する旨が記載されている。
『八幡さん本当に興味薄いですよね』
「自分のところの部活たちはさすがに覚えるようにしてますけど、他の製鉄所の部活まで覚えてられるわけないでしょう」
『……ほんとですか?』
それなりに大事にしてきたつもりだが、時折光や君津や堺からそういう疑いを向けられるのははなはだ遺憾としか言いようがない。
「まあいいです、12日の面談予定は繰り上げましょうか。23日の午前中でいいですか?」
『はい。あと今回の日本選手権は君津くんのところのかずさマジックくんも出るみたいですから気にかけてあげた方が良いですよ』
それでは失礼します、と言って光からの電話が切れる。
手帳の予定を書き替えておくとやっぱり光がまるで私を白状みたいに言うのがちょっとだけ腑に落ちず、釜石にメッセージを送ってみる。
『私って薄情な男に見えます?』
返事は思いのほかすぐに来た。
『急にどうした』
『ちょっと思うところがあったので。釜石はどう思います?』
『わしとわし以外で態度がだいぶ違うからわし以外の人間に対して薄情に見えるんだろ。もう少し他の奴も気にしてやれ』
そう言われても釜石が一番気にかかる相手であることは未来永劫変わらない気がするので『無理ですねえ』としか返せない。
自力でどうにもならない問題で不当に評価が下がっている気がする事に対する文句は、どこにも送りようがないので一服して切り替えるしかないのだった。



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八幡と光と釜石。
社会人野球の話のつもりが八幡の薄情さに話がズレていく謎。

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