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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

ままならぬ世界の隅っこで

「やっ!」と陽気な顔をした鹿島が突然遊びに来たので、「……またサボりか?」と思わずため息が出た。
「サボりじゃないよ、今日は夜勤明けの休みですー!つばさが今北海道に遠征行っててお土産くれたからお裾分けに来たんだけど」
「お前には夜勤明けの疲労がないのか?」
「しっかり寝たからない!」
さっき仕事を終えて家に戻ってきたばかりで疲れの抜け切らない俺は、めんどくさくなってとりあえず鹿島を家にあげることにした。
人んちの台所を我が物顔で漁っておやつを皿に出し、冷蔵庫のアイスコーヒー(結構いい奴)を勝手に開けてグラスに注ぐのを見ながらやれやれという気分になる。
「ちなみにお土産って?」
「三方六と赤いサイロ、これならコーヒーが合うと思ったんだよねー」
三方六をかじってコーヒーを飲むと「うん」と満足げに笑った。
「お前本当常に楽しそうだな」
「此花が『楽しいことと美味いものは多いに越したことはない』って言ってたからね」
住金のちいさな最年長の姿を思い出して、確かにそんなこといいそうだな……と謎に納得してしまう。
「それこそ世の中って納得いかないこと多いじゃん?しかもそれが自分自身のことなのに俺が決められない、なんてことも結構あるし。だからこそ楽しいことと美味いもんは常に多めに置いておけって言うのが此花の教えなんだよ」
鹿島の言う自分のことなのに自分で決められないと言うことにはそれなりに心当たりがあり、確かにそうかもなぁと思う。
(でもこいつ、アントラーズ売却の時に八幡をバットで殴りつけたんだよな……)
本社に行ったうちの元職員から聞いた話をする思い出すが、美味いものや楽しいことだけでは自分を宥められない日もあるのだろうと言い聞かせる。
「君津だってそんな日、あるでしょ」
「……まあな」
東京と最後に会った日のことを思い出せば、その言い分には納得するものがある。
「今日は誰かと美味いもん食いたい日だっだってことか?」
「ま、そんなとこかな」
そんな事を言いながら鹿島が三方六を1人で半分も 以上平らげたので「……俺の分ちゃんと残せよ?」と本気で告げると「まだもう一本あるよ」と言って差し出してきたので、俺も三方六を丸齧りするのだった。


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君津と鹿島と思うところある夏の日の話。

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結城さんの一人旅

ちょっと休みが出来たので新しい北陸新幹線に乗りに福井へ一人旅することにした。
駅で妹分の福井市本人と出会ったのは想定外だったけれど、それ以外は天気やタイミングに恵まれた旅だった。
小山さんにもいくつか写真を送付すると『あの子に会いに行ってるの?』と聞いてきた。
エイプリルフールの時に冗談で福井との結婚報告を送ったことを気にしてくれている事に少々の満足感を抱きつつ、初めての一人旅を終えようとしている。
海から見る東尋坊も永平寺での修行体験も、本場のソースカツも大満足だ。

(お土産何にしますかね……?)

笠間や古河には羽二重餅を配ればいいし、下館には堅パンでいいだろう。自分用には越前ガニの缶詰と日本酒を。
問題は小山さんなのである。
今回の福井一人旅のせいでエイプリルフールの怒りが再燃中らしい小山さんの気に入るお土産が思いつかないのだ。
「……いっそ、揃いの指輪でも送りますかね」
めのう細工の指輪が目に入ったけれどそれは多分違う気がする。
渡すのならば本当に一緒になって、私がこの世界を去るその日であるべきだ。
けれど揃いのものがあるのは私も嬉しい。
「この石のおちょこにしましょうか」
灰色がかった青い石のおちょこと日本酒を手にとって、追加でカニもつけよう。
あの人が私のことで目いっぱいになるのは愛おしいけれどまたコブラツイストを喰らうのは避けたい。
(ああ、私の愛しい人との飲み会も楽しみですね)
そんな事を考えながら買ったお土産を手に帰り路を行くのだった。
「結城さんここにいたんですね?」
「ああ、福井ごめんなさい。お茶のこと忘れてました」


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結城さんと小山さん。
福井旅行ネタの続きですが、結城福井小山の一方通行が好きなのでこういう話になってしまう。

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結城さんが遊びに来たので

唐突に結城さんが福井に来た。
たまたま駅のほうに用事があって立ち寄らなければ絶対に把握していなかったことだった。
「……事前に連絡していただければ案内したのに」
「今回は独りで気楽に回りたかったんですよ。いつもこっちに来るたびに車出して貰ってますし、色々気を使わせるのも気が引けましたから」
案内所のカフェでコーヒーを飲みながら結城さんがそんな事を言う。
私は別に無理をしているつもりは無かったし、結城さんが来てくれるなら大歓迎だったから車ぐらいいくらでも出した。
「ちなみにどこに行くんですか?」
「永平寺と東尋坊、あと福井城址と養浩館に。いつも仕事で来てるから意外にちゃんと見れてないんですよね」
「ふたりに連絡入れて案内してもらいましょうか?」
「大丈夫ですよ。今回は完全に休日で来てるんです、気にしなくていいんですよ」
結城さんはまるで子供をなだめるようにそう言い返してくる。
この人の前で私はまだ子どものようだ。
(……この人に大人に見られたい)
いつから生きてるのかもよく覚えてないというような人に大人に見てもらえるのは難しい。
「コーヒー、ごちそうさまでした。そろそろバスが出るので行きますね」
空になった器を全部自分のお盆に乗せて片づけようとするその気の使いかたも好きだと思う。
「あの、結城さん」
「はい?」
「帰りの新幹線の前にもお茶しませんか、結城さんから見たこの街の印象聞いてみたいです」
「もちろん」
その時は甘いラテなんかじゃなくてブラックを飲んで見せよう。
私がほんの少しでもこの人に並ぶために。



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福井ちゃんと結城さん。
先日福井旅行に行ってから書きたいなあと思ってたのですが、ちょっと具合悪くしたりしてたのでちょっと遅めのネタです。

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火の消えた海辺で

久しぶりに広島に行く機会があって、ふらりと呉に立ち寄ることにした。
かつて製鉄所のあった海辺は空っぽの大きな空き地になり、その脇には立て看板が立っている。
立て看板やポスターによるとこの空き地に複合防衛拠点設置の話が出ているのだと書かれ、それは平和のまち広島に相応しくないとチラシは語り掛ける。
「日新製鋼の?」
そう声をかけたのはこの世を去った弟分によく似た顔の、けれど弟分よりもいくらか年かさの海の匂いがする人だった。
「ジャパンマリンユナイテッドさん?」
「おひさしぶりです」
「こちらこそ」
顔は何度か合わせたことはあれど、決して親しい仲でもなく何を語ればいいのか分からない。
いかんせんあの可愛い末っ子に似すぎていて、まるであったかもしれない未来の姿のようにも見えるのだ。
「製鉄所がなくなってずいぶんこの街の海は暗くなりましたよ」
それははっきりと想像できる。
高炉のある街の海は高炉の火に照らされていつも明るい事はよく知っている。
鉄屋の端くれとして神戸や尼崎の高炉から立ち上る明かりに憧れ、大きな企業になったらあんな風に夜の海を照らす高炉を自前で持てるのだろうかと問いかけたものだった。
けれどその高炉の火はもう消えて跡形もない。
「……たまに思うんですけどね、」
「はい」
「工場ってのは大きな話題にならない時がきっと幸せなんだと思うんですよ。
事故や縮小や閉鎖の話なんか出ないでただただ物を作って世の中の一部になってるときが、いちばんね」
その言葉には人生経験に基づいたじっとりとした湿度と重みが籠っていて、どこか僕を責めるような趣すらあった。
「ずっと、幸せな時間を続けてあげられたらよかったのにな」
夏の始まりの瀬戸内はじりじりと焦げ付くような日差しが降り注ぐ。
何を間違えたのか、何がしてあげられたのか。その問いに答えは出てこない。



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次屋とジャパンマリン呉。
以下ジャパマリ呉さんの裏設定(要反転)
ジャパマリ呉さんは元呉海軍工廠と同一人物で、実はこべネキの過去編にもちょこっと出てる。呉さんと顔がよく似ているのは海軍工廠の一部をそのまま転用して生まれた影響。ジャパマリ呉の感覚的には自分の半身持ってかれて生まれたちいさきいのちだけど、呉さんはあんまりその認識がない(知識とかぼんやりした前世の記憶としては理解してた)のであんまりピンと来てない。 現状この辺掘り下げる予定はないのであくまで裏設定です

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月桂樹に手を伸ばす

*今回は短編集です

・ブラックラムズとイーグルス
「厭な物だな」
予定表に書き込まれた入れ替え戦の文字にぽつりとそんな言葉が漏れる。
明日、己の降格を賭けた試合があるという事実が心の隅に重くのしかかる。
其の裏でイーグルスは初優勝への試金石となるプレーオフ準決勝に挑むのだと思うとなおさらだ。
(何処からこんなに大きく水をあけられてしまったのだろうな?)
かつて可愛い後輩であったイーグルスが優勝争いに身を投じる横で、己はこうして1部リーグで戦い続ける事すら危うい身の上になってしまった。
イーグルスは降格したからと言って人を馬鹿にするような男ではないことは分かっている。
此れは自分の気持ちの問題だ、此処で降格したらイーグルスの良き先輩では居られなくなるという不安があるのだ。
「斯うなったら、勝つしか無いな」
己にそう言い聞かせながら手帳の隅に「勝つ」という二文字を書き付けた。

・スティーラーズと神戸製鋼
「あんたの進退かかってない試合ほど気楽に見れるものってないわねえ」
姐さんがそんな事をつぶやきながら土日のプレーオフの録画予約を入れるので、「姐さんそれ俺への遠回しな嫌味?」と聞いてしまう。
「ただの感想よ。そりゃ親会社としてあんたの優勝はいくらでも見たいけど、同時に優勝掛かってる試合の応援ってすごく心臓に悪いじゃない」
「まあ、それは分かりますけどね?」
「嫌味言われてるなって思うんなら来年プレーオフに出て私の心臓止まるような白熱したゲーム見せなさいよ」
こういう事いうあたり、姐さんは本気でラグビーを愛しているのだと思い知る。
(釜石の製鉄所さんもラグビー好きな人やけど方向性違うんよなあ……)
「それで姐さんの心臓本気で止まったら俺が怒られる奴違います?」
「いいのよ、勝っても負けても試合終れば平常運転だから」

・ワイルドナイツとアルカス
「っし、終わった……」
力が抜けたように椅子にもたれかかると、アルカスが「疲れた……」とつぶやく。
プレーオフ進出記念グッツや引退記念グッツの包装が終わらないというSOSを受け、アルカスを巻き込みひたすらグッツの包装をしていたらもう夜10時近くになってしまった。
「アルカスもありがとうね」
「お礼の言葉よりバイト代はずんでよね?」
「はいはい」
伸びをしながらいい加減夕食にしようと席を立つ。
何があったかなと適当に冷蔵庫を漁りつつ「夕飯食べてく?」と聞けば「物による」という生々しい答えが来た。
「豚玉お好み焼き。試合前だし糖質多めにしたいんだよね」
「お好み焼きねえ……ま、私も久しぶりに食べようかな」
お好み焼きの生地の作り方はうろ覚えだったのでスマホで確認しながらフライパンでお好み焼きを焼き上げていると、隣でアルカスが勝手にポカリを飲み始める。
「そういやさあ、リーグ公式Twitterのアンケートであんた優勝しそうなチーム1位になってたよね」
「実績はあるから」
ここ数年で期待されるだけの実績を積んできた自負は誰よりもある。
去年は悔しい思いをしたけれど、今年こそ優勝の二文字を掴み取ろうとこの一年必死に戦ってきたのだ。
「私も勝たなきゃなあ」
「そうだよ。勝たなきゃチームは残せない」
いい具合に焼けたお好み焼きをひっくり返すと、こんがりきつね色に焼けた豚肉がお目見えしてくる。
あと少しで届くだろう優勝の二文字に向かうための糧をじっくり焼きながら足りなさそうなビタミンを補うものを考えていた。

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