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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

歓声と幕開け

その日、神戸の朝はすっきりと良く晴れた晴天だった。
「おはよう」
「スティーラーズ遅かったわね」
「いや姐さんらが早すぎなんですって」
仕事でもないのに土曜の6時頃から起きる人はそう多くないはずなのだが、それより先に起きてる2人が不思議でならない。
姐さんが淹れてくれた目覚めの一杯が差し出される。
「だって今日開幕戦でしょ?」
「まあそうですけど、俺みたいに試合の準備ある訳やないんですから」
「楽しみがあると朝早く目が覚めるものじゃない」
加古川さんがトーストとサラダ・焼きたてソーセージの乗ったワンプレートを渡しながら「姉さんの期待ですよ」と付け足してくれる。
その加古川さんもよく見ると赤いネイルをしており、ちょっとしたわくわく感を感じる。
(これ、昨日ネイルサロンでも行って塗ってもらったパターンやな……)
「今日は三重ホンダヒートよね?」
「そうですよ、モスタート気になります?」
「興味はあるわね。まあそれ以上にサベアやレタリックも楽しみだけど」
姐さんが上げたのは新しくうちに来てくれた選手たちの名前だ。
俺もその二人には期待してるので気持ちは同じだ。
「スンシンくんって今日出場でしたっけ?」
「あー、今日はベンチですねえ。まあ体調が悪くなさそうなんで期待はできますよ」
加古川さんはお気に入りの子の事をいくつか聞いてくるので、
ちょこちょこ答えながら朝食に箸を伸ばす。
朝食を胃に収めるともうそろそろ出ないといけない時間になる。
さっさと残りの身支度を整えていつものリュックを背負ったら気持ちは試合に向かっていく。
「帰りは7時ぐらい?」
「ですねえ、姐さんもそのくらいですかね」
「早めに家戻って他の試合の録画見ながら加古川と飲んでるつもりだけど?」
「え、録画残しといてくださいよ」
「当然よ。試合、楽しんできてね」
姐さんがそんな風に言うてくれる。
俺がラグビーを全力で楽しめば姐さんも楽しんでくれることを、俺は知っている。
だから今日も手抜かりなく、全力でラグビーボールと戯れる。
「ほな行ってきます」


ラグビーリーグワン、本日開幕!

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スティーラーズと神戸加古川姉妹。
今日の開幕戦は行けそうにないので行く人は楽しんできてください

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冬に夏の日を買う

毎年12月1日は出来るだけ予定を開けるようにしている。
大切な人物の誕生日なのだ、戸畑もうちの関係者も分かっているから文句を言わない。
「釜石、今年も誕生日おめでとうございます」
今年も見覚えのある釜石の家に飛び込むと「来たか」と笑った。
「ちょうどいい、夕飯食ったか?」
「東京から直で来たので食べてませんね」
「光からふぐちりをお祝いに貰ったんだがちと多いなと思ってたとこだ、食ってけ」
「じゃあありがたく」
今年も釜石宛てのお祝いの品がいくつも並んでおり、奥の茶の間には冬に備えて出したらしいこたつはなべ物の準備がされている。
まだ下ごしらえの段階なのか、小さな台所にはまだカットされてない野菜がいくつか置いてあるのみだ。
「鍋用セットみたいの買わないんですね」
「シーウェイブスが方々から野菜貰って来ててな、買わんくても出来そうだったからもったいなくて。あとちょっと手伝え」
台所ばさみで春菊を切るよう言われたので、ざくざくとはさみで切り揃えておく。
1人用の台所には少々窮屈だが包丁を手に野菜を切り揃える姿を見るのは新鮮だった。
(……そういえば、私が小さいときには何度か見た気がしますね)
私が生まれて間もない頃は近隣に店などなかったので自炊せざる得なかったこともあり、釜石が台所に立つことが何度かあったのだ。
「春菊の下ごしらえ終わったら吊戸棚のカセットコンロと一緒に茶の間に出しといてくれ」
下ごしらえを終えた春菊とカセットコンロを手に茶の間に行くと、ふぐちりのセットがどんと鎮座している。これが光のプレゼントなのだろう。
開封済みのセットについていた作り方説明書を見ると、専用のだしでふぐを煮て作るらしい。
「だし温めときます?」
「野菜はいつ入れるか書いてあるか?」
「あ、固いやつは出汁と一緒に煮るよう書いてありますね」
「じゃあ白菜の芯と大根・人参入れて火ぃつけとくか」
長ねぎを切っていた釜石が手を休めて土鍋を持ち出してくる。
鍋に出汁と固い野菜を入れて火をつけると「鍋見守っといてくれ」と告げられる。
茶の間のこたつに足を入れて鍋が暖まるのを見守っていると、長ネギや白菜の葉っぱと共に一升瓶を手にした釜石が来た。
「湯呑み酒でいいか?」
「釜石がくれるならなんでも」
「お前いつもそんな感じだよなあ」
鍋の野菜を土鍋の横に置けば、湯呑を渡してきた。
「こんなデカい瓶だとおちょこは使いづらいんでな」
「言ったでしょ、私は釜石なら何でもいいって」
湯呑になみなみと注がれるのは純米酒だろうか、日本酒のいい香りがする。
釜石も手酌で日本酒を注げば「乾杯するか?」と聞いてくるので、小さく湯呑を合わせた。
くいっと煽れば日本酒の香りが広がり、アルコールで体温がほんの少し上がる。
「冷やで悪いな、このサイズは冷蔵庫に入らなくて」
「そんな大きい冷蔵庫買っても玄関通りませんよ」
「この社員寮も立て替えてくれりゃあなあ」
皮肉交じりにそう言われても決裁権が無いのでどうにもならない。
「検討はしときます。ああ、それと」
思い出して持ってきたプレゼントを差し出した。
紙袋の中身は反物だ。
「お前ほんと毎年わしの着るもん用意してくるよなあ」
「いいじゃないですか」
そう言いながら箱を開けると生成り色の反物が二つ釜石の手に渡る。
1つは生成りに細い藍色の縞柄、もう1つは藍色の絣模様の反物である。
布地をじっと見つめて何度も肌触りを確認すると、こっちを見てため息を吐いた。
「……お前、これ、上布だな?」
「ええ。越後上布ですよ」
越後上布は国内最高峰の麻織物であり、世界遺産にも登録された布である。
大麻ではなく苧麻(からむし)を使うので釜石ならその違いに気付いてくれるだろうと思ってた。
これを買うので新車一台分は吹き飛んだが何とかなる。
「えちっ……?!お前、これ……いや、いいや。そんな値段聞くのが怖くなるようなもんを二つも用意して何したいんだ?」
「それで揃いの着物仕立てて、夏にでも関門の花火デートしてもらおうかと」
目的はこれである。
ここまでお膳立てされれば絶対に断れないし、この着物の話をすれば全員納得してくれる。
「お前たまに若い女っこみたいなこと言うよな」
「釜石だからデートしたいんですがね、どうですか?」
「……花火っていうと8月ぐらいか。予定開けてやるから日付分かったら連絡しろよ」
炬燵の下でガッツボーズをしてからすぐさま炬燵で関係各所に連絡を入れる。
戸畑や上の人間には何としても予定を入れさせない。ぜったいである。
「ああ、もう鍋もいい具合だな」
釜石が思い出したように土鍋のふたを開けて追加の野菜やふぐの切り身を鍋に入れてくる。
ああ、おだしのいい匂いだ。
美味しいものと好きな人、そして揃いの服を着てのデートの予定も確保できた。
「今日はいい日ですね」



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もらいもの

「合宿の間、お世話になります」
シーウェイブスから深々としたお辞儀とともにお菓子を貰った。
(世話ったってうちで管理してるグラウンド貸すだけなんだけどな……)
かといって断る理由もないのでとりあえず受け取っておくと、1人分にしてはいささか量が多めに見える。
「ありがとう……でもこれ、多くないか?」
「かずさマジックの分もと思って少し多めに用意しておいたので」
「あー、でもあいつ今大阪なんだよな」
「大阪?」
「社会人野球の日本選手権、だからグラウンド貸せたってのもあるんだけどさ」
完全にそのことが頭に無かったらしいシーウェイブスは「あー」と納得した声をあげる。
いま釜石のとこには野球部いないから頭から抜け落ちてたんだろうなあと察すると「ちゃんと帰ってきたら渡しとくよ」と付け足しておく。
「じゃあ、よろしくお願いします」

****

そんな話をして一週間ちょっとで、かずさが帰ってきた。
「と言う訳で無事帰ってきました」
「うん、お疲れ」
かずさとしても二回戦敗退と言う結果は色々思うところがあったのか、口数は少なめだ。
自分の家に荷物を置かず直接うちに来たらしいかずさを家にあげる。
「飯食った?」
「いちおう食べたんで大丈夫です」
俺の布団にのそっと横たわりながら大丈夫と言われても全然信ぴょう性がない。
(慰められたい気分なのか?でもあいつの試合ちゃんと見れてねえんだよなあ)
今日はちょっとバタついてて試合中継を見られずにいたら負けていた感じなので、慰める文句が出てこない。
そんなことを考えていると、ふとシーウェイブスからのもらい物の事を思い出す。
「かずさ、お菓子食うか?お茶もお前の好きな奴淹れてやる」
「……ラプサンスーチョンで」
「ラプサンスーチョンな、ミルクは?」
「アリで」
ラプサンスーチョンは燻製香が強くて割と好き嫌いの分かれるお茶だけど、俺は時々あのスモーク感が欲しくなるから買い置きしてある。
いつものようにお湯を沸かして濃い目に抽出したものをミルクで割れば完成である。
ミルクティーとシーウェイブスから貰ったお菓子を目前に差し出すと、のそりと起き上がってお茶を受け取る。
楕円形のホワイトチョコ的なものがかかった焼き菓子をパクリとかじり、熱いミルクティーをちびりと飲む。
中から出てくる白あんの甘さと生地のしっとりした感じが妙にミルクティーによく合う。
「……勝負は時の運とはいえ、負けるのはいつも新鮮に悔しいんですよねえ」
「勝負が仕事だからな」
ちびちびと焼き菓子を食らえばその悔しさも多少薄れてくれるだろう。
(まあ新鮮に悔しがれなくちゃ勝利に貪欲になれないのかもしれねえけどなあ)
そんな思いを抱きつつぼんやりと焼き菓子をかじる夕べは静かに更けていった。



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君津とシーウェイブスとかずさマジック。
今回の君津合宿で使ったのが親会社のツテらしいと小耳にはさんだので考えてたネタでした。
作中のお土産はラガーボールです。

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寒い日には

「さっっっっむ!」
車から一歩外に出た瞬間吹き付けてきた冷たい風に、富士山のこちら側と向こう側の違いを感じる。
心なしか家出た時よりも寒い気がするのはなぜだろう……。
「ブルーレヴズさん、」
「イーグルスさんお久しぶりです」
「なんでこんな寒いとこ選んだんですか……」
ベンチコートとマフラーで全身防寒したイーグルスくんのまなざしは本気だった。
地元である磐田ならここまで寒くなかったでしょうに!という悲鳴に似た指摘は否定できない。
「色々あったんだよ」
「いやそれは分かりますけど寒すぎません????????」
「正直甲府とそんな変わんないかなーと思ってたんだよ……ちょっと舐めてた……」
ごめんと心底詫びると「寒いなんて言わせたくないならマフラー配るべきは今日だったんじゃないですかね?」と言い返される。
「今年の開幕戦のCM見てたんだね」
「去年もでしたけどレヴズさんって集客に対して本気ですよね」
「うちの社長が集客に使えるものは親でも使えって人だからねー」
社長のあの熱意は本当にすごいと思う、まあ人に遠慮も何もないので時々板挟みになって胃が痛む感じがするけれど。
でも狭いラグビー界の外から来て話題性のある企画を立ち上げててきた社長の事はすごいと純粋に感じてもいる。
「ああいう人もラグビー界には必要なんでしょうねえ」
「うん、それは感じてもいるんだよね」
寒さに吹かれながらそんな話をしていると、会場設営が始まっている。
「あ、そこのテント張り手伝ってくれる?」
「ええ」
ポールを組み立てながら昨今のラグビー界の話をしていると体が温まってくるのを感じてくる。
組みあがったテントを飛ばされないように固定してから上着のチャックを少し開ける。
「ちょっと動くだけでも結構あったまるよね」
「選手やスタッフはそうですけど、観客はじっとしてますから冷えますよ」
「せっかくだしほうとうでも配れないかなあ、山梨だし」
「配るのは無理じゃないですかねえ」
ラグビー場で楽しく過ごすためのアイディアを語り合いながら設営準備をしていれば、寒さもずいぶん楽になる気がした。




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ブルーレヴズとイーグルス。今日の練習試合の会場10度切ってたらしいね?

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わたしのお気に入り

利根川に沈む夕焼け、寒い日に食べるあったかい唐揚げ蕎麦、全力で練習した後に飲む一杯の水、緑に染まる観客席。
それらがこのミラクルセブンのお気に入りで、これを思い返せば気持ちは少し明るくなる。
「だから好きなものは多いに越した事はないんだよ」
そう言いながら最寄駅のホームで蕎麦をたぐると「結構些細なものが多いんだな」とシーウェイブスが言う。
我孫子駅名物・蕎麦つゆを吸った大ぶりの唐揚げをかじりながら「些細だからいいんだよ」と答える。
「嫌なことがあったときに些細でも好きなものに触れる事で気持ちの持ち直しがしやすくなる、自分の好きを知る事は自分を幸せにする事なんだよ。
まあこれはうちの兄の持論なんだけどね」
もういない兄の言葉を思い出しながら蕎麦を啜ると「それでD1連敗時代を生き抜いたのか」とつぶやく。
「ミラクルセブンの暗黒時代の話はしないで」
「個人的にはさっさとマノをD1に連れ帰って欲しいんだけどな、あと今回ボコボコにしてきた児玉って奴」
「言われなくとも戻るよ」
D2がどんなリーグかはまだよく知らないけれど、みんなのためにも戻りたいという気持ちはあるのだ。


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グリロケちゃんとシーウェイブスさん。
昨日の練習試合でボコボコにされて半泣きだったのは私です……

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