忍者ブログ

コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

石と鉄の100年

所用でつくばに来たのは良いが、思ったよりも早く用事が終わってしまった。
終ったのならさっさと本社に戻ればいいだけのことだが、急いで戻る理由はない。
それに天気もいいから滅多に来ない場所だし少しばかり見て回りたいなーというぼんやりした気分も沸いてくる。
駅で貰った地図を広げながら独特の形状の道が連なる街でどこに行こうか?しばし考えてみると、現在地の近くにちょっと面白そうな施設を見つけたので行ってみることにした。
地質標本館。国の地質調査センターが運営する博物館である。
鉄鋼業は地下資源である鉄鉱石や石炭があってこその産業であり、この領域には多少の予備知識がある。

(……でも、こういうのはたぶん八幡のほうが詳しいんだよな)

自分が八幡の指導に当たっていた時、八幡の上司に和田さんというひとが居た。
石に精通していたかの人から自分も鉱石や宝石の事などを教えて貰ったもので、八幡もずいぶんかの人に石の事を学んでいたようだった。
恐竜化石や立体地質図をしげしげと眺めながらゆっくり中を見て回ると、鉱石の分類展示スペースにたどり着く。
職業柄馴染みのある大きな石炭の塊がライトの反射を受けてキラキラと黒く輝くのにふと足が止まった。
(綺麗なもんだよなあ)
石炭はかつて黒いダイヤモンドと呼ばれ産業を支える資源として珍重されてきた石炭も、今ではすっかりわき役になってこうして展示されている。
隣に置かれているのは鉄鉱石の標本には釜石鉱山の名前が刻まれており、かつて鉱石を掘っていた時代もずいぶん遠くなったとため息が漏れた。
求められるものは時代によって変わっていく。それはどうしようもない事だとは分かっている。
けれど、いつか自分もこの透明な箱の中で飾られる側になるのだろうか?
分からぬ未来のことを己より長く生きているはずの石に問うてみても答えは返ってこなかった。


------
釜石おじじの日常話。
作中の展示内容については20年近く前のの薄ぼんやりした記憶とホームページを基にしてるし、巨大石炭はいわきのほるるにあった奴です。信じないでね。

拍手

PR

ラストゲームの前に

ゴールデンウィークにもなると日差しはすっかり夏模様になり、水分補給を忘れたら倒れそうなほ
どに暑い。
「ヒート君、お疲れ様」
「パールズ!試合前日なのによく来てくれたね!」
紫外線対策の日傘を差しつつ涼しげなロングワンピースを纏ったパールズは今日も光り輝くほどに可愛らしい。
「男子の試合を見るのもいい勉強になるからね」
「じゃあパールズのいい手本になれるよう頑張らなきゃ」
「イチャイチャしよるなあ」
そう呟く声の方を振り向けば、スティーラーズが呆れたような眼で俺たちを見ていた。
「……イチャイチャじゃないし」
「空気が甘かったからあれはイチャイチャやと思う。ま、あんまりイチャイチャしとると勝ち点一点貰えんから気ぃつけな~?」
カラカラと笑いながら俺をからかうので「分かってるよ!」と言い返すも、本人に効果はなさげだった。
「パールズは明日試合ってネットで見たわ。頑張りや~」
「もちろんです!スティーラーズさんも良ければ女子の試合一度見に来ませんか?」
「俺明日は用事あるからなあ、神戸で試合あるんなら見に行ってもええんやけど」
「ネット配信ありますよ!YouTubeで見られますからぜひ!」
しっかり自分の試合も売り込むパールズに「しっかりした子やなあ」とスティーラーズが苦笑いを零す。
うん、うちの彼女は強くてかわいくてしっかり者で最高なのである。
「せや、そういや俺型紙のワークショップ見に行きたいんやけどテントどこかわかる?」
「伊勢型紙ワークショップ?あれ事前予約してないと参加できない奴だけど……」
「いや、申し込んではおらんけどうちでのイベントの参考に様子だけ見せて貰おうかなあって」
「そういう事ね。俺もスタッフで参加する予定だったし、パールズも様子見に行く?」
「行く!」
パールズの目が好奇心に輝き、スティーラーズもせっかくだし色々見ていきたいという興味に満ちた眼差しをしている。
こういうのを見るとホームとしていろいろ見せてあげたい気持ちがむくむくと湧いてきた。
「じゃ、試合前に色々満喫してこ!」
今日は最後のゲームという事で色々イベントを詰めてある。
おもてなしにはちょうどいい日だし、試合もそれ以外も全力で楽しんでもらおうじゃないか!


-----
ヒートとパールズとスティーラーズ。
三重コンビを出すとすぐいちゃいちゃする謎。

拍手

夏の始まり

「暑い……」
一歩外に出ると強い日差しが降り注ぐ。
地元はようやく桜が終わったというのに、北九州はもう夏へ足を踏み入れつつある。
「水分取りや」
キューデンヴォルテクスは飲み物のボトルを渡してきて、それを容赦なくぐびぐびと飲むと冷えたスポーツドリンクが体にじんわりとしみわたる。
「急に暑くなるときついよなあ」
「本当にな。それにトップリーグんときはこの時期にはもうシーズン終ってたから慣れないんだよな」
「あー、それはわかる」
ゴールデンウィークにも試合をやる事で試合を見に行きやすくして動員を増やすのがリーグの目的だろうが、こうも暑い日にラグビーをやる事にいまいち慣れないのだ。
(むしろ震えるほどに寒い日のほうがラグビーやる側は楽な気がするんだがなあ?)
こういう寒くない季節のほうが見に行くのが楽なのは承知の上でやる側の事を考えてしまうのはどうしようもない。
「今シーズンはどうやった?」
「まだシーズンを振り返るには早いだろ」
「だって試合終ったらお互いそれどころやないやん」
現在、順位的にはうちもこいつも降格がけっぷちでありここで勝たないと入れ替え戦に回ることになる。
降格せずに生き残りたいのはお互い様であるし、入れ替え戦確定となると振り返る余裕が無いのも事実だ。
「……入れ替え戦に行きたくない理由でも?」
「ルリーロと試合するんならD2がええわ」
可愛がっていた後輩の忘れ形見のような存在の名前を挙げてそう呟く。
「俺だって降格したら地元のファンに合わせる顔がない」
「そりゃそうか」
「おう」
シーズン終了に向けて、少しでもいい成績を残さないといけないのはお互いさま。
だからこそお互い負けてなどいられないのだ。
「今日もいい試合にしような」
「お土産は勝ち点だとなお嬉しいんだがな」




------
シーウェイブスさんと宮殿先輩。今日の入れ替え戦がこわい……

拍手

北のまちの春

新千歳空港から一歩外に出るとちょっと肌寒い春の空気が漂っている。
……いやここ数日の関東が暑かっただけかな?
札幌ドーム行きのバス停をうろうろと探していると「スピアーズやん」と声がかかる。
「あ、スティーラーズだ。同じタイミングで来てたんだねえ」
「土曜日入りでも良かったんやけど、姐さんからお使い頼まれとってな。ドーム方面行くんか?」
「うん。にしてもお使いかあ、俺もお願いしていい?」
「自分でやりや」
「俺土曜日もドーム行かなくちゃいけないから」
「手間賃取ってもええんなら引き受けたるわ。とりあえずドーム行きのバス停行こ」
スティーラーズはドーム行きのバス停へ歩き出す。
目的のバス停はずいぶんと空いていて、あと5分ぐらいでバスが来るらしい。
「にしても、土曜日もドーム行くってなんかあるんか?」
「土曜日にコンサドーレさんの試合あるんだけど、そこで日曜日の試合の宣伝するんだよ。朝からそれ用の打ち合わせあるから金曜日入りになっちゃってさ」
俺だけでなく一緒に来たスタッフさんたちも仕事終わりに直接飛行機で札幌入りだからちょっとお疲れ気味だ。
「はー、大変やな。手間賃500円でええわ」
「どっちにせよ手間賃取るの?」
「俺明日札幌じゅう回って姐さんのリクエストの品買うていかんとならんもん、追加で買うんやったらお代と別で手間賃貰わな割に合わんわ」
「どんだけ頼まれてるの……」
思わずスティーラーズの言う姐さんの姿を思い出し、彼女の無茶ぶりを想像して苦い顔になる。
うちの親はお土産とか期待する人じゃないから想像するしかないけど大変そうだ。
「リスト作ったらA4のコピー用紙がみっちり埋まるぐらいかな」
「うん、じゃあいいや。自分で買うよ」
遠くから目的のバスが来た。
トランクを引きずりながらバスに乗り込むと新千歳から札幌の街へと走り出す。
札幌はまだ桜が咲き始めたばかりのようでまだ春浅い北の町へ来たな、と思わせてくれる。
「神戸はもう葉桜やのになあ」
「うちの方ももう終わっちゃう感じだね」
ラグビーボールに呼ばれるように来た札幌で、俺たちはどんな試合をするのだろう。
「ねえ、もし時間に余裕があったら桜見に行こうよ」
「それもええかもなあ」



------
スピアーズとスティーラーズ。

拍手

コインの落ちるまで

このところ、八幡はよくアメリカに行っているらしい。
久しぶりに本社に来たら置いてあった明らかに外国製っぽいチョコレートやカップケーキの粉を、鹿島が嬉々として開きながら「此花は何食べる?」と聞いてくる
「好きにしなよ」
「じゃあこのイースター限定の奴にしよーっと。先戻ってるねー」
インスタントのコーヒーを淹れながら、ここにアメリカ製のお菓子がある理由を考える。
八幡が今アメリカに行く理由などひとつしかない。
USスチールとの合併の打ち合わせでモンバレーと話し合うためであろう。
(そのついででお土産買う余裕あるんだから元気だよなあいつも……)
おおかた釜石に贈るついでにみんなに配る分も買いこんでるという程度だろうが、日本で見たことないお菓子を人の金で食えるという事実に文句を言うべきではないのだろう。
休憩用のコーヒーを手に事務所に戻るとさっそく鹿島がチョコを貪り食っている。
「そのチョコ美味いか?」
「塩気が効いたキャラメルと甘いチョコが組み合わさっててめちゃくちゃ甘くて疲れた頭に染みるよ~」
「じゃあ私も食うか」
コーヒーを渡してから試しにひとつチョコを取ると、和歌山が「此花ってチョコ食べるっけ?」と聞いてくる。
正直糖質はお菓子よりアルコールで摂取しがちだから甘いものを食うイメージがないのは分かるが、そんなにイメージ無いのかね?
まあ甘いもん食う時って神戸からお茶に誘われた時ぐらいだしな。しょうがないか。
食べてみるとミルクチョコの濃厚な甘さが口いっぱいに広がり、ブラックコーヒーで流し込んでも微かに口の中にチョコの甘さが残る。
「八幡さんも本気でUSスチール買いに行ってるんだよね」
和歌山がポツリとつぶやく。
「まあ、上は本気だろうし八幡もある程度本気だからわざわざアメリカ行ってるんだろ」
人間ではない私たちが海外に行くにはめんどくさい手続きを経て特殊なパスポートを取得する必要があり、その手間から持ってない奴も多い。
「なんか俺が小さかった頃は世界一だった会社がうちの子会社になるかもって思うと変な気分にならない?」
「気持ちはわかる」
例えるなら子どもの頃は果てしなく遠く感じていた場所が大人になってから本当は大した距離ではないと気づいた時のような複雑さがある。
向こうは生き死にがかかっているのだからそんな哀愁を向けられても困るだろうが、こっちが勝手にそう思うだけなら何も言いはしないだろう。
「でも本当にうちに来るか分かんなくない?大統領選までに合併しないとうやむやになりそうだし、まだめちゃくちゃ揉めてるんでしょ?」
チョコをかじりながら鹿島の指摘を受け止める。
「俺らに出来るのはトスされたコインがいい面を出してくれることだけだよ」
鹿島がそんなことを言いながら「ごちそうさま」とつぶやいた。
「残りは和歌山に渡すから海南に持ってけば?」
「鹿島も気遣いできる子になって……ありがたくそうするよ」
ただ単にチョコが甘すぎて量食えないだけでは?という気づきは胸に仕舞い、鹿島の成長にちょっと心が温まるのだった。




------
此花と和歌山と鹿島。USスチールのはなしなど。

拍手

バーコード

カウンター

忍者アナライズ