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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

夏来たりなば

だいぶ予定の埋まってきた7月8月のカレンダーをにやりと笑いながら眺めている。
「……楽しそうだね」
「こうやって予定が埋まってくるとシーズンが始まるって感じがするんだよ」
ワイルドナイツの手元にはオレンジ風味の炭酸飲料のグラス。
夏の終わりから冬にかけてをシーズンとするスポーツをやっているから、夏というのはワクワクする季節の始まりでもある。
「まだシーズン始まるまで余裕あるでしょ」
「でもラグビーフェスタとか練習試合とかがガンガン詰め込まれるだろ」
「まあね」
「やっぱ試合すんのが一番楽しみだよ」
炭酸飲料がずっと喉を通って行く。
俺たちの才能に楽しい季節が、駆け足で忍び寄っている。



サンゴリアスとワイルドナイツ

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カレーパンと500日前の話

「という訳でお裾分けどーぞ」
紙袋に入ったほかほかのカレーパンの香ばしい匂いが鼻先をくすぐる。
「ライナーズさんめっちゃありがたい……いただきます」
「せやろー?スティーラーズにも寄越したけどあいつには冷凍やから揚げたてはお前さんだけよ~?」
早速カレーパンをほうばればサクリとした歯触りに、カレーの濃厚なスパイスの風味と刺激的な辛さが広がり、パン生地の自然な甘さがカレーの辛さを優しく包んでくれる。これは癖になる味だ。
「旨辛い……」
「もう少し甘い方が良かった?」
「いや、美味いなら何でもええです」
あと引く辛さが絶妙なカレーパンをもっきゅもっきゅと咀嚼しながら幸せな心地になる。辛さで少し汗が出てきたがその汗も妙に心地が良い。
「そういや昨日ワールドカップ500日前とか騒いでへんかった?」
「……あーっ!」
ラグビーワールドカップ500日前記念イベントが全国各地で行われ、各チームがそれに便乗したツイートをしていたことを今になって思い出した。
「嘘、今思い出したん?!一番そう言うの好きそうやのに!」
「……便乗するの忘れてましたわ」
「今からこのカレーパンの写真撮ったらええんと違う?」
「いやもういいです……ぜってーアークスに鼻で笑われますもん……」
「君らほんまに仲悪いなあ、牛乳飲む?」
「飲みます……」



レッドハリケーンズとライナーズの特にオチのない500日前ネタ。

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お引越しの話

「おっ、精が出とるなあ」
「……レッドハリケーンズ」
俺の顔を見た瞬間にあからさまに表情が悪いものに変化する。
新たな拠点への引っ越しのために積み上げられた段ボール箱の山の中で、NTTコミュニケーションズシャイニングアークスはあからさまに不機嫌であった。
「うちの親父(NTTドコモ)から引っ越しうどんと、東のじーさま(NTT東日本)からの引っ越し蕎麦と西のじー様(NTT西日本)からのタオル持ってきた。他にも色々あるけど量多いからお前んとこのスタッフさんに預けたわ」
「どうも、というか降格したんだから再昇格のための練習してろよ」
「親父の付き添いで東京来たついでに新しいグラウンド見てやろうかと思ってな、そしたらまーみんなついでに渡しといてくれっていろいろ押し付けてきてなあ。可哀想やから一緒に持ってくわーってコムさん(NTTコミュニケーション)が一緒に来てくれたわ」
「……うちの父さんやおじいさまに迷惑かけてないよな?」
ジトっとした目でこちらを睨みつけてくるがもうそれも慣れた。
まあ好きだの嫌いだのどうでもいいのだ。本来の目的はほとんど果たした。
「ないない、じー様怒らせるほど俺アホやないもん」
「ならいい」
「グラウンドも少し見たら帰るわ、俺もグラウンドもう一面欲しいわあ」
「欲しけりゃ実績上げて引っ越し費用作って貰え」
「はいはい」
段ボールだらけの部屋を出て真新しいクラブハウスの中をふらりと歩く。
うちのクラブハウスは綺麗だと自負しているが、さすが完成してひと月も経ってない新居と比べられると負けてしまう。
あー、俺も総天然芝グラウンドもう一面欲しいなー!




特にオチはないNTTダービー

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芝の海、太陽の島

日本とは季節が正反対の町の片隅で、思い出したようにシャッターを切る。
戯れに撮った写真を見返しながら時間を潰してはふらりと街角に出る。
「あれ、今年はウェリントンなんだ」
「……ワイルドナイツか」
ふいに声をかけてきたのは日本では見慣れた黒髪に青い一筋の毛が混ざった男・パナソニックワイルドナイツその人であった。
「今年は珍しくついてきたのだな」
この時期各チームは選手をオーストラリアやニュージーランドのチームへ短期留学させることが多いので、自分のようなスポーツチームの化生はシーズンオフで暇を持て余してこっそりついていくことがあった。
自分などは異郷に行くのは割と好んでいたので毎年のようについていったが、ワイルドナイツはあまりついていくイメージが無かった。
「たまにはよそで刺激を受けてこないとって思ったので」
「それもそうか」
「いつまで滞在予定で?」
「ワイカイトに2か月の予定だが」
「……ワイカイトってオークランドの手前じゃ」
ワイルドナイツの言うとおりである。
ウェリントンから電車で半日ほどかかる距離にある地名に困ったような表情を見せた。
「発車時刻にいささかの猶予があって、その暇潰しで散歩をしていた」
「ああ……」
「前から思っていたが、汝は我よりも後の生まれのはずだがもう少し敬ってくれてもいいのだぞ?」
「俺の先輩は一人だけなもので」
「そうか」




ワイルドナイツとブラックラムズの異郷でのひと場面。
この時期は色んなチームがNZに向かってますね。

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イーハトーブの海と春

全国各地では桜の便りが随分と早く届いているというが、この南三陸は釜石の地に桜の気配はまだほど遠い。
「今年はずいぶん入ったなあ」
新加入選手情報を見ながらそう呟くと、シーウェイブスが淹れたてのコーヒーを出してくれる。
「今年はごっそり抜けましたからね」
「まあそうなんだがな」
この季節の楽しみである新しい選手の情報を眺めながら、シーウェイブスと一緒に誰がどういう選手だという話にゆるりと花を咲かせる。
それはこの春という季節のささやかな楽しみでもあった。
「今年こそ降格争いしないで済むと良いんですけど」
ぽつりと漏らした弱音に、こつんと軽く頭を叩いてやる。
「まだ夏以降の予定も出てもいないのに弱気になるのは早すぎだろう」
「……まあ、そうですけどね」
近年の成績を思えばシーウェイブスの心持ちは、分からないでもない。
しかしあの沈んでいた町に優勝の二文字を持ってきたあの日を、更地となった街で凍えるような寒さの中をずっと自分たちの傍らにいてくれたあの日を、一度だって忘れたことはない。
「シーウェイブス、」
「はい?」

「お前はいつだってこの街に色んなものを呼んでくれる。若い選手たちとかたくさんの観客とかそう言うもんだけじゃない、新しい文化も喜びや繋がりみたいな目に見えないもんも。
だからお前はわしにとっちゃあ春の海なんだ」

凍える冬を超えた春の海は、色んなものを連れてくる。
温かな日差し、近隣から集った若き鉄の男たち、旬の魚や野菜たち。
あの日からこの子はまさにそんな春の海そのものであった。
「だからそんな寂しい事を言わんでくれ」
どうか、君は永遠に希望であってくれと願っている。

***

―それから数日後―
春は温かで優しい希望の季節だ。
入所式の片隅にそっと腰を下ろし、製鉄所関係者の後ろにじっと立つ釜石さんを見た。
新たに入ってきた若者たちを暖かく優しい眼差しで見つめている。
ふいに数日前に言われた言葉を思い出す。
『お前はわしにとっちゃあ春の海なんだ』
春の海という言葉は海の波を名に冠した自分にはぴったりのように思えた。
製鉄所で仕事をしながらラグビーに共に励むことになる若者たちに目を向けると、その目は艶やかな黒をしている。ただただ希望に満ちた質のいい石炭に似た汚れなき黒の瞳は新生活への希望を感じさせた。
いつか大木になるやもしれぬ未来の名選手たちを見ていると、少しだけ元気が湧いてきた。

(この若々しい苗木のような選手たちを信じよう。)

やることは最初からはっきりしているのだから、焦ることはない。
彼らが、いつかトップリーグの芝の上に連れていってくれる日を信じて走るだけだ。



釜石親子の春。そう言えばこの二人を書いていなかったので。

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