忍者ブログ

コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

春近く

大都会にも春の気配が近づいている。
ふらっと立ち寄ったビルの片隅にその少年はいた。
「調子はどうだ、サンウルフズ」
「サンゴリアスさん、お仕事サボっていいんですか」
「俺がいなくても父さんたちはちゃんと会社回してくれてるから大丈夫だよ」
それに俺たちなんぞは父さんからすればいてもいなくてもそんなに大差ない、ということは敢えて伏せておいた。
手土産代わりに持って来た甘めの缶コーヒーを差し出してやれば遠慮がちに受け取ってくる。
「開幕戦準備に追われてバッタバタですよこっちは」
「土曜日にホームだもんなあ、よく頑張ってて偉い偉い」
髪を軽く撫でてやれば不満そうにその手を押しのけて「……トップリーグの皆さん全般的に僕のこと年下扱いしますよね」とぼやいた。
「スーパーラグビーにおける日本代表って言われても実際年下だしな」
「まあそうなんですけどそれはそれで大変複雑というかですね……」
「じゃあ今季は全勝して俺たちをアッと言わせてやれよ、みんなで見にいくつもりだしな」
にっと笑ってやれば「……当然です」と呟いた。




サンウルフズとサンゴリアス。
開幕戦見に行こうかなあとぼんやり考えてはいるけど見に行かないで終わりそうな予感。

拍手

PR

便りは来ない

目が覚めて一番最初に目に入ったのはいつもつけているお守りと黒い石。
いつも寝るときは枕元に置いているのだから当然と言えば当然のことだろう。
ピンと張りつめた冬の朝の空気に抗ってお守りと黒い石を首に飾る。
おはようさん、と囁くような筑豊訛りが響く。
「……配炭か」
この声は半世紀以上前に死んだ友人の声であった。
そう言えばこの石は彼が死んだときに形見として拾った石炭のかけらであったことを思い出す。
半世紀という月日の中で朧気になっていく友人を忘れるのが恐ろしくてこうしてあの日拾った石炭をネックレスにしたのだ、それすらも忘れてしまうとはつくづく嫌になる。
彼の元にいた選手数名がうちに来たとき、彼の記憶や声の一部がこちらに移されたらしく時折こうして彼の声を聴くことがあった。それも記憶にある限りここ5年ぐらいは聞いた記憶が無かった。
頭の中の掠れた断片的な記憶が再生させているものなのか、それともそれ以外の何かなのか。それすら判別がつかない。
彼のことを忘れるべきじゃない、と小さく自分に言い聞かせて布団から出ていく。
この石の意味すら忘れてしまったら、きっと君のことはどこにも残らなくなってしまうから。



キューデン先輩の話。

拍手

記憶と現在

「シーウェイブス、ちょっといいか?」
ふらりと釜石さんがやってきて渡してきたのが一枚のメモだった。
「もしかしたらもう話を聞いたかもしれないが、新日鉄住金の全社大会に来てくれないかって」
「ああ……組み合わせ決まったんですか?」
「おう。鞘ヶ谷との交流試合だ」
「え」
思わず上ずったような声が漏れる。
鞘ヶ谷―新日鉄住金八幡ラグビー部―は、かつて自分が追いかけて来た背中そのものである。
今でこそ主戦場が異なるがやはりその名前は少しだけ特別な音として響いた。
「今年で鞘ヶ谷が90になるからそのお祝いも兼ねてのことらしい、お前さん昔あいつに憧れてたろう?」
「……60年代ラグビーを見てた側からすれば憧れない方が無理でしょう」
「まあお前さんの言い分は分からんでもないな、神戸も似たようなこと言ってたしな」
年季の入ったラグビーマニアの同業他社の名前を挙げてそう答える。
「楽しみか?」
自分の追い掛けた背中をついに追い越したときの感慨はよく覚えている。
生まれたてのまだ人の身も与えられていなかった自分にとってあの背中は特別だった。何よりも超えたい存在だった。
「初恋の人と会う心地がする」
「……さすがに初恋の人は言い過ぎじゃないか?」
「いえ、これ以外にいい言葉が出てこないんです」
九州の空はどんな色だろう。
数年ぶりに出会う彼らはどんな風になっただろう。
鞘ヶ谷、あなたはこの交流試合を楽しんでくれるだろうか?
かつて追い掛けていた人は今どんな風にこの世界を走るのだろう?
過去のあなたしか知らないと俺と、過去の俺しか知らないだろうあなたは今の俺とどういう風に戦ってくれるのか、こんなにもわくわくすることはない!






シーウェイブスと釜石。
全社大会交流戦、某サイトでネット中継されねえかな……

拍手

秩父宮にも雪は降るので

ある意味絶景だが、ある意味では微妙な心地だ。
雪に埋もれる秩父宮のグラウンドに思わずため息が漏れる。
ポケットに突っ込んであった携帯をとれば『サンゴリアスさん?』と声がかかる。
「サンウルフズ?」
『そうですよ、そちらの雪はどうですか』
別府で合宿中の狼の耳を持つ少年の姿を思い出す。
やはり彼もこの秩父宮の様子が心配だったのだろう、まあ彼もこの秩父宮をホームとするのだから当然と言えば当然か。
「壮観なまでの雪」
『でしょうね、この調子であと何度降るのか……』
「スーパーラグビーの開幕戦前にまたもう一度降るんじゃないか?」
『開幕戦当日に降られたら最悪ですけどね』
「フランビーズなら喜びそうな気もするけどなあ」
『芝の状態がこれ以上悪化されたら困るって意味ですけど』
「ああ……それとそちらの様子は?」
『つつがなく進んでますけど?』
「そりゃあ良かった」
それじゃあ失礼しますと言って切られた電話に溜息を吐く。
当初こそ扱いかねていたあの子供も今ではずいぶん馴染んだものだと思う。
トップリーグが終わって梅の香りが漂えばスーパーラグビーの季節、そして夏が来れば再び俺たちの季節だ。
(スーパーラグビー開幕戦もどうなるかね?)
雪解け水と混ざった雪を踏みしめながらそっとその場を立ち去る。
もう少しすれば、春が来る。





サンゴリアスとサンウルフズ。

拍手

悲喜こもごもの酒と乾杯

例年、入れ替え戦後はシーズン終了を祝う飲み会が催されている。
元々試合後にはみんなが集って酒を飲むことが多く(これはラグビーのノーサイド精神に由来するものなのだが詳細の説明は省略する)そこから、今シーズンの振り返りと来シーズンの顔合わせなどを行う飲み会が例年優勝者の家で行われていた。
「去年に引き続き今年も俺の家で打ち上げ会ができることを心から歓迎します、とりあえず乾杯!」
全員が青いビールの缶を高々と掲げればそこからは無礼講である。
「サンゴリアス、二年連続で打ち上げ会場にされるのも一苦労だな」
「あと5回はうちで打ち上げ会やれるようにしないと」
ブラックラムズさんにそう返すと、スティーラーズさんも「言うたな?」と笑ってくる。
「まだシーウェイブスの記録をお前に破らせたくはないな」
「俺の記録、じゃないんですね」
「先にV7を打ち立てたんはあいつやからな」
スティーラーズさんが自分ではなく今は二部リーグに籍を置く彼の名前を挙げたことに意外性を感じてしまう。
確かに80年代の日本ラグビーを知る身としては彼の打ち立てた7連覇への憧憬はあるが、同じように7連覇を成し遂げたスティーラーズは謙遜する必要がないのに敢えてそれをシーウェイブズの記録と呼んだのは先に大記録を打ち立てた相手への敬意なのかもしれなかった。
「スティーラーズがシーウェイブズを拗らせているのは今に始まったことではないがな」
「中二病の羊に言われたないですー」
「喧嘩ならいくらでも買うぞ?」
「おうおう俺もいくらでも売ったんで?」
「ラムズさぁん」
口喧嘩一歩手前のスティーラーズとブラックラムズに口を挟んだのはイーグルスだった。
どういう訳か上半身裸で、普段は滅多に見せることのない純白の鷲の翼まで出している。
「……酔ってるな?」
「まだひとかんだけだからよってませんよ?」
そうは言うものの顔はずいぶん真っ赤だ。
そう言えばイーグルスは下戸であり、東京組(サンゴリアス・ブレイブルーパス・イーグルス・ブラックラムズ)で飲むときも酒を飲ませると一番最初に酔い潰れるのはイーグルスだった。
しかしイーグルスはあまり酒を好まないし飲ませて最初に潰れるのも面倒なのでオレンジジュースを置いておいたはずである。
「飲んだんだな?」
「のみかいだからぶれいこうですよぅ、ぶるーすくんのびーるとこうかんしてもらったんです」
なるほどそう言うことか。
「……なあ、サンゴリアス。イーグルスってあんな酒に弱いんか」
「東京連中で飲むと一番最初に潰れるのがあいつですね」
「酒神の血ぃひいてるお前と肝臓だけロシア人のブレイブルーパスと比較するのは酷やろ」
「それを抜きにしてもビール一杯でほろ酔いになれるのはイーグルスぐらいでしょ、後のことは任せます」
「え、ちょっ」
酔っ払いの相手を二人の先輩に丸投げして他に目をやれば、ブルースとレッドハリケーンズが涙のお別れ会をしていた。
「こうやってブルースと次飲めるんはいつやろうなあ……」
「早よ戻ればよか」
「せやけど、俺とライナーズ先輩居らんかったらスティーラーズ先輩が関西ぼっちになるやん?」
「うちの先輩も一人やっちゃけど元気にやっとるばい」
同い年のちびっ子コンビのなんだか切ない会話はスルーしておこう。あとたぶんスティーラーズさんなら関西ぼっちでも平気だと思う。
トップリーグに戻ってきたホンダヒートはグリーンロケッツさんとかシャイニングアークスさん辺りを巻き込んでさっそくぎゃあぎゃあやり始めてる。というかスピアーズさんなんで黒田節とか歌っちゃってんだ。槍繋がりか。
新たにトップリーグに加入するレッドドルフィンズはトヨタ双子に挟まれて雑談中。
ライナーズさんとジュビロという不思議な組み合わせの2人はサッカー談義中のようだ。
特にだれもハブられることなくみんなわいわいとしている。
(……ま、飲み会としちゃあ成功だよなあ)
とりあえず酒を時々追加し、捨てられた空き缶やごみも随時回収して周囲にざっと目を配りながら1缶目のビールを綺麗に飲み干した。
「サンゴリアス、」
声をかけていたのは隅にいたワイルドナイツだった。
空っぽになったビール缶を俺の方に突きだすと「二杯目のおすすめってある?ビール以外で」と訊ねてくる。
「ウィスキー樽で熟成された梅酒は?」
「じゃあそれで、あと、」
にっと微かに口角を上げてタブレットPCを取り出すと、そこには今シーズンの試合の実況映像が流れている。
「酒飲みながら一緒に今期の試合分析しよう」
それがどんな誘いよりも魅力的に響くのは、やはり俺がどうしようもなくラグビー馬鹿だからなんだろう。
「俺で良ければ」




シーズンがついに終わったのでみんなの話。

拍手

バーコード

カウンター

忍者アナライズ