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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

時代はいつも波のように

「時代は変わったねえ」
ぽつりと鹿島がつぶやくので一瞬何の話だ?と聞きそうになる。
その目線の先には俺が今朝読んでいた経済新聞が置いてあった。
「かつて世界一だった会社が凋落して吸収されちゃうなんてさ」
「USスチールの件な」
八幡から薄々聞かされてはいたが、実際そうなるとうちは日米合弁企業になるのかとどこか不思議な気持ちになる。
英語の勉強しねえとなあなどという問題ではない。
俺が子どもの頃は世界一でうちの会社はアレを超えるんだよと東京に聞かされていた存在が、いつの間にかあんなに小さくなってうちに吸収されるのだ。
「なんというか、物事の変化に時々追いつけなくなりそう」
「みんなそう思ってると思うけどな」
海の向こうの彼らが今この事をどう思っているかを聞くことはできない。
けれど打ち寄せる時代の変化を受け入れて行く先を追いかけるしかやれることが無いことは、きっと向こうも分かっていることだろう。
こういう出来事において俺たちには決定権がないので、実に無力な傍観者でしかいられない。
「ねぇ君津、俺たち10年後100年後はどうなってると思う?」
「知らん。せいぜい死んでない事を祈ることしか出来ねえだろ」



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君津と鹿島。USスチールの併合に腰抜かしてるわたしです。

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対話はいつもめんどくさい

*製鉄大合同前後の話

「釜石にとっての私ってどういう立ち位置なんですか?」
八幡が突然そんな面倒くさいことを言い出した。
「どういう立ち位置って……一番弟子?」
「一番ならもう少し私を大事にしてくれてもいいと思うんですよね」
「弟子って単語抜かすな」
八幡と言う存在が自分にとっての唯一無二だとか、一番星だとか、そういうきらきらしい事を言って欲しいのだろうか。
八幡の言われたい気持ちは察するに余りあるが、自分にとってはそこまでわかりやすい言葉で評していいような存在にはどうしても思えないのだ。
「ただ最初に教えた弟子なんですか?」
「だってそうだろう。わしが一番最初に面倒を見たのはお前なのには変わりないし」
「確かにそうですけどね?その付き合いの長さで私が言われたい事ぐらい察してくださいよ」
八幡が望んでいる言葉が分かっていても、たかが機嫌取りで言葉にするほど自分の口は軽くない。
そうだなあ、とちょっと考えてみる。
「……わしが死ぬときはお前が死に水を取れ。室蘭やうちの人間じゃなくて、お前がな」
自分がこの先どういう風に死ぬとしても、たぶんこいつが一番泣いてくれる。
こいつが自分を心から愛してくれていることはよく知っているから、お前になら全部託していい。
「なんであなたが先に死ぬこと前提なんですか」
「普通こういうのは年長者が先だろうが」
「まあそうですけどね?」
もういいです、と八幡が深いため息を吐く。
わりとめんどくさい弟子のめんどくさい対話を終えれば、部屋はただ静かであった。


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釜石と八幡のめんどくさいエピソード。
このクソめんどくさい八幡と普通に付き合えるだけおじじはえらいと思う。

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もらいもの

「合宿の間、お世話になります」
シーウェイブスから深々としたお辞儀とともにお菓子を貰った。
(世話ったってうちで管理してるグラウンド貸すだけなんだけどな……)
かといって断る理由もないのでとりあえず受け取っておくと、1人分にしてはいささか量が多めに見える。
「ありがとう……でもこれ、多くないか?」
「かずさマジックの分もと思って少し多めに用意しておいたので」
「あー、でもあいつ今大阪なんだよな」
「大阪?」
「社会人野球の日本選手権、だからグラウンド貸せたってのもあるんだけどさ」
完全にそのことが頭に無かったらしいシーウェイブスは「あー」と納得した声をあげる。
いま釜石のとこには野球部いないから頭から抜け落ちてたんだろうなあと察すると「ちゃんと帰ってきたら渡しとくよ」と付け足しておく。
「じゃあ、よろしくお願いします」

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そんな話をして一週間ちょっとで、かずさが帰ってきた。
「と言う訳で無事帰ってきました」
「うん、お疲れ」
かずさとしても二回戦敗退と言う結果は色々思うところがあったのか、口数は少なめだ。
自分の家に荷物を置かず直接うちに来たらしいかずさを家にあげる。
「飯食った?」
「いちおう食べたんで大丈夫です」
俺の布団にのそっと横たわりながら大丈夫と言われても全然信ぴょう性がない。
(慰められたい気分なのか?でもあいつの試合ちゃんと見れてねえんだよなあ)
今日はちょっとバタついてて試合中継を見られずにいたら負けていた感じなので、慰める文句が出てこない。
そんなことを考えていると、ふとシーウェイブスからのもらい物の事を思い出す。
「かずさ、お菓子食うか?お茶もお前の好きな奴淹れてやる」
「……ラプサンスーチョンで」
「ラプサンスーチョンな、ミルクは?」
「アリで」
ラプサンスーチョンは燻製香が強くて割と好き嫌いの分かれるお茶だけど、俺は時々あのスモーク感が欲しくなるから買い置きしてある。
いつものようにお湯を沸かして濃い目に抽出したものをミルクで割れば完成である。
ミルクティーとシーウェイブスから貰ったお菓子を目前に差し出すと、のそりと起き上がってお茶を受け取る。
楕円形のホワイトチョコ的なものがかかった焼き菓子をパクリとかじり、熱いミルクティーをちびりと飲む。
中から出てくる白あんの甘さと生地のしっとりした感じが妙にミルクティーによく合う。
「……勝負は時の運とはいえ、負けるのはいつも新鮮に悔しいんですよねえ」
「勝負が仕事だからな」
ちびちびと焼き菓子を食らえばその悔しさも多少薄れてくれるだろう。
(まあ新鮮に悔しがれなくちゃ勝利に貪欲になれないのかもしれねえけどなあ)
そんな思いを抱きつつぼんやりと焼き菓子をかじる夕べは静かに更けていった。



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君津とシーウェイブスとかずさマジック。
今回の君津合宿で使ったのが親会社のツテらしいと小耳にはさんだので考えてたネタでした。
作中のお土産はラガーボールです。

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あの子が休みを取るという

『八幡さん、11月の12日休みにしていいですか?』
電話越しに光が申し訳なさそうにそう聞いてきた。
「別にいいですけど職員にもちゃんと伝えておいてくださいね」
人間ではない私たちにも有休や福利厚生などの一般社員同等の権利が与えられているので休みを取ることは別に悪ではない(鹿島のように有休日数を無視する場合は別)が、
生来真面目であまり有休を取らない光が申請してくるのは珍しい。
『所長や職員さんはむしろ取りなって勧めてくれたので大丈夫です』
「そうですか。ところで12日って何かありましたっけ?」
わざわざ光に有休を取るように勧めて来る理由が思いつかずに尋ねると、光は『確認してないんですね』とつぶやいた。
『社会人野球の日本選手権ですよ、うちの野球部が30年ぶりに出るんです』
「あ」
言われてみれば納得の理由である。
私たち全員で共有している業務予定を記したウェブページを開いてみると君津と鹿島の野球部も出場する旨が記載されている。
『八幡さん本当に興味薄いですよね』
「自分のところの部活たちはさすがに覚えるようにしてますけど、他の製鉄所の部活まで覚えてられるわけないでしょう」
『……ほんとですか?』
それなりに大事にしてきたつもりだが、時折光や君津や堺からそういう疑いを向けられるのははなはだ遺憾としか言いようがない。
「まあいいです、12日の面談予定は繰り上げましょうか。23日の午前中でいいですか?」
『はい。あと今回の日本選手権は君津くんのところのかずさマジックくんも出るみたいですから気にかけてあげた方が良いですよ』
それでは失礼します、と言って光からの電話が切れる。
手帳の予定を書き替えておくとやっぱり光がまるで私を白状みたいに言うのがちょっとだけ腑に落ちず、釜石にメッセージを送ってみる。
『私って薄情な男に見えます?』
返事は思いのほかすぐに来た。
『急にどうした』
『ちょっと思うところがあったので。釜石はどう思います?』
『わしとわし以外で態度がだいぶ違うからわし以外の人間に対して薄情に見えるんだろ。もう少し他の奴も気にしてやれ』
そう言われても釜石が一番気にかかる相手であることは未来永劫変わらない気がするので『無理ですねえ』としか返せない。
自力でどうにもならない問題で不当に評価が下がっている気がする事に対する文句は、どこにも送りようがないので一服して切り替えるしかないのだった。



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八幡と光と釜石。
社会人野球の話のつもりが八幡の薄情さに話がズレていく謎。

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あの子の誕生日

「スティーラーズ、今日のおやつ何が食べたい?」
私がそう聞くとスティーラーズが「急にどないしたんです?」と聞いてくる。
「あなたの創部日、昨日でしょ?昨日はイベントだったけど私からは直接祝えなかったから今日祝おうと思って」
そう答えると腑に落ちたという風な顔をして、それからふふっと笑った。
「姐さんが誕生日祝ってくれるの何年振りやろ」
実は昨日のイベントでマスコットの子が創部日の事を言ってたから思い出したのは秘密だ。
まあこれぐらいなら誤差の範囲だし、何よりスティーラーズが嬉しそうならそれでいい。
「紅茶は私が淹れるわ、何にする?」
「ほんならルフナでロイヤルミルクティーを。お茶菓子は―……姐さんがこの間貰ってはったユーハイムのバームクーヘンとパウンドケーキで」
思わず紅茶缶を取ろうとした手が止まる。
私が最近取引先から貰って夜更けに加古川とふたりでこっそり食べたお菓子のセットを何故把握してるんだろう?
「姐さん、この間加古川の姐さんと夜中にこっそり食うてはりましたよね?俺がああいう焼き菓子系好きなの知ってるはずやのに」
背後からじとーっとした眼差しがこちらに突き刺さってくる。
紅茶缶を取り出してお茶を煮出しつつ言い訳を考える。
「……私はともかくスティーラーズは夜更けに食べたら余計な脂肪つくでしょ」
「せやから俺かてお菓子とお茶の量抑えてるんですけどねえ。
姐さんも高炉廃止で身長縮んだんやし、夜更けのティータイム止めたほうがええと思いますよ」
それを言われると反論できない。
水を沸かしたミルクパンに茶葉を入れてしっかりお茶を煮出し、その間にお菓子やミルクの準備をする。
「でも夜更けのお茶会でしか味わえない背徳感も含めて美味しいのよね」
「それは俺も同意見です」
紅茶がしっかり煮出されたらミルクを入れて軽く温める。
いつもはお茶を加古川が淹れてくれるけれど、もともと加古川にお茶の入れ方を教えたのは私だから腕前は変わりない。
茶こしでこしながらなみなみと注がれたロイヤルミルクティーの香りがふわりと立ち上る。
「ただいまー」
「あ、加古川さんや」
「スティーラーズくんが昨日創部日だったって聞いたんで、モロゾフの冬限定チョコサブレ買って来たんですけど姐さんも食べます?」
加古川もたいがい同じことを考えていたらしい。
幸いお茶は少し多めに作ったので加古川の分も注いでおこう。
「もちろんいただくわ」



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神戸とスティーラーズ。
昨日の神フェス、コーロクンが喋ったらしくてすごいびっくりした……君そんな声だったのか……

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