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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

ひょうたん揚げを食べながら

夏の休暇も兼ねて、ちょっと旅行する事にした。
目的地は仙台・ユアテックスタジアム。もちろんシーウェイブスも連れて行く。
「やっぱり仙台は車多くて疲れますね……」
「ほんとにな、東京よりはマシなんだがどうにも慣れんわ」
寄り道しながらののんびりドライブではあったが、都市部の運転はどうにも気を遣ってしまっていけない。
そうぼやきつつ駐車場に車を停めると降り注ぐ夏の日差しにやれやれとため息が漏れる。
屋台や出店から香るうまそうな匂いにロングドライブで空いてきた胃袋がぐうと鳴る。
「シーウェイブス、チケット指定席だよな?」
「ええ、早いですけどごはんにします?」
「じゃあそうするか」
指定席なら焦って場所取りの必要もないから先に飯で腹を満たしても問題はない。
まずは牛タン丼に三角揚げ、さらに会場限定だという韓国風巻き寿司や桜色のカレーなど気になるものをピックアップして買い込んでいく。
「ビールはどうする?」
「ホテルまでなら運転するんで」
「じゃあ頼むか」
シーウェイブスには緑茶を・自分用にビールを購入すると、ふと仙台名物ひょうたん揚げが目につく。
丸いアメリカンドックみたいなコイツもまあまあ味が濃くて酒のお供やおやつに良い。
(ちと食べ過ぎか?……ま、良いか)
プレシーズンに向けて調整中のシーウェイブスには食べ過ぎだろうが、そこはまあ運動量なんか自分で調整してもらおう。
なんせこっちはお盆を潰して働いた代わりの夏休みなのだ。ちょっとの食べ過ぎもご愛嬌だ。
ひょうたん揚げと飲み物を片手に席に戻ると、やることは一つ。

「日本対カナダの勝利を願って、「乾杯!」」

ぐいっとビールを飲めば滑らかな泡から苦味と爽やかさが抜けていき、ひょうたん揚げの油と魚の旨みが引き立ってくる。
「カナダ代表って久しぶりに見ますよね」
「ちゃんと見るのは釜石で試合した時以来か?でもあの時は確か台風で中止じゃ?」
「そうだった、あの試合中止になって泥かきしてたのを見たんだった……そういう意味では良いチームですよね」
「まあ恩はあっても勝ち点は譲れんけどな!」
アッハッハと陽気に笑いつつ酒を飲み、美味いものを食う。そしてその英気を持って、桜の勇者たちを心から応援する。
そして勝っても負けても秋保でのんびり湯に浸かり、試合を見返してああだこうだと話し合う。
(お盆潰してでも得る価値のある休日よなあ)



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釜石とシーウェイブスさんの夏休み。
日本対カナダが仙台開催なので。

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お好み焼きと平和

「こんにちはー、」
8月の昼下がり。スカイアクティブズ兄さんはリビングで広島風お好み焼き(大阪風の混ぜ焼きではない)を焼きながら「おー」と気の抜けた返事をしてくれる。
「玄関開けといてくれて助かりました」
「今日も暑いもんなぁ」
「借りてた本どこに置けばいいですか?」
「ローテーブルのとこ置いといてー」
お好み焼きを焼くことに全神経を集中させている兄さんからの適当な答えではあるが、テレビの前のローテーブルならたぶんすぐ気づいてくれるだろう。
「そろそろじゃな」
そう呟いた後、お好み焼きを思い切り持ち上げて全く崩すことなくひっくり返した。
「そう言えば他のマツダの人達はどこ行ったんですか?」
「平和記念公園の方だな、式典はもう終わっとるけど地域の平和祈念イベントの打ち合わせとかあるらしくてそっち行ってる」
今朝の平和記念式典に僕や兄さんは参加していないが、兄さんの家族は毎年参加してるらしくそういう話がよく出てくる。
それにしても兄さんの手は全く止まることがない、今はお好み焼きに合わせるそばと卵を焼いている。
「最近うちのマスコットの動画でオタフクの博物館行った時に教えてもらったんじゃけどな、この辺のお好み焼きやってみっちゃんとかはっちゃんとか人の名前が多いじゃろ」
「多いですよね」
「アレは戦争や原爆で生き別れた家族と再会するために自分や家族の名前をつけてるらしいな」
お好み焼きが程よく焼けたことを確認した兄さんは冷蔵庫からお好みソースとマヨネーズを取り出して、お好み焼きにたっぷりとかけてくれる。
「こうやって平和だからラグビー出来るし、呑気にお好み焼きも焼ける。そう思うとありがたいよな」
しみじみと兄さんが呟いた。
戦争を知らない僕らではあるが、戦争をしていたらきっとラグビーなんかしてないで働けと言われることになってただろう。
「本当に、そうですよね」
焼き上がったお好み焼きが僕の前に差し出される。
これからも平和に楽しく生きていけたらいい、と心から祈りながら。


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レッドレグリオンズとスカイアクティブズ。
今日は広島の平和記念式典の日です。

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世代交代前夜

扇島に高炉が出来た時、自分は第一線を退こうと決めた。
新しい時代が始まるのならば自分よりも扇島の方が相応しい、そう感じたからだ。
それとは別に明治の世から長らく走り続けてきてほんの少しゆっくりしたい気分になったと言うのもある。
「と言うわけで、頼んだぞ」
扇島はこくりと小さく頷いた。

***

そもそも渡田にとって扇島は小さい頃から知る存在だった。
まだ未熟な存在であった渡田と、その沖合に位置する無人島の中に在る不可視存在を渡田は長らく認知しながらも深い付き合いはなかった。
しかし戦後、製鉄所規模拡大に伴い沖合の無人島が製鉄所の敷地として活用されることになると扇島は自然と育った。 要するに土地としての扇島が変化するに伴い不可視存在であり続ける事が不可能となり、渡田や水江と同じように肉体が求められ扇島という娘の肉体が構成された。
そうして肉体を得た扇島は健やかに育ち、自らの持っていたものを譲り渡すに相応しい存在へと育った。
時代は変わった。
戦争は終わり、大日本帝国は滅んで天皇は人間になった。新しい時代には新しい顔があるべきだ。
「わざわざ変わる必要あります?」
そう言い放ったのは八幡だ。
「お前さんみたいに生まれた時から棟梁やらなきゃならん立場とは違うんでな」
「人様の決めたことに文句は言いませんけどね、扇島が代表役になるならそのうち神戸や葺合との顔合わせも要りますね」
「だな、タイミングは任せるが、あの子には優しくしてやってくれな?」
扇島にはこれまで抱えていた仕事を少しづつ引き継いでいるが、引き継ぎが終われば官営生まれ特有の威圧感のある八幡や世渡りの上手い神戸と対等に渡り合わなければならない。
せいぜいこれぐらいは言っておかないとあの子が可哀想だ。
「……自分が勝ち取ったものを若いのに引き継がせるのって、勿体無い気がしたりしないんですか?」
八幡はそんなことを口にする。
自分たちももう100年近く生きた、人間であればもうとっくの昔に墓へ入っている年頃になり多少なりとも考える事ではある。
「勿体無さなんか無い。扇島は良い子だ、これまでの全部を引き継がせるに値する」
「そう言うものなんですかねえ」
「八幡は全部自分でやって来たクチだからな、馴染みが無いだけだろう」
いまいち理解し難いと言う顔で八幡がこちらを見るので「いずれそう言う日も来るんじゃないか?」と軽く答えた。


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渡田と扇島と八幡、だいたい1968年から1976年代辺りのどこかの一幕。
スマホのメモ帳に眠ってたので書き足してアップしてます。

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海の街の夏

飛行機と列車を乗り継いで辿り着いた今治は横浜よりも濃い潮の香りがする。
その濃厚な潮の香りの中に溶接の音や鉄を叩く造船所の音が混ざり合い、船の街の景色を構成している。
(そういや今治造船がビックリしてたな)
『渡田さんって生きてたんですか?!』とはなかなか酷い言い様だが、普段あまり外向きには出てこないものだから他業種である今治造船が把握してないのも仕方ないのだろう。
「渡田さん、」
一歩半後ろにいた西宮がふと口を開いて「時代は本当に変わりましたね」と呟く。
「まさか完全に造船を手放す事になるとはなぁ」
自分にとって親戚の弟だった浅野造船の面倒を100年近く見守ってきたが、その浅野造船が日立造船と共に暮らす事になった時も十分驚いたものだった。
そして遂にはその浅野造船は完全に己の手を離れてこの今治に拠点を置く今治造船の傘下へと入る事になったのだ。
「もし葺合がいたらビックリして腰抜かしてたと思いますよ、これで歴史ある造船系企業がみんな今治の傘下に入った訳ですからね」
「葺合は造船のための製鉄所だものなぁ」
川鉄という会社は川重の造船を支えるために作られた製鉄所が起源であるから、葺合と西宮にとって造船という業種は馴染み深いものでもある。
だからこそJFEの関係者として今回の会議に同席を望んだ訳なのだが、やはり思うところはあったのだろう。
「渡田さんも思うところはあったでしょう?」
「世話の焼ける従兄弟が嫁に出たって感じで、ちょっと感動はあるかな」
「確かにそんな感じかもしれませんね」
西宮がふふふと楽しそうに笑う。
手を離した従兄弟はこの先この今治の街でどんな日々を過ごすのだろう、そんなことをぼんやりと考えてみる。


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渡田と西宮。JMUが今治造船の傘下になるというので造船は専門外だけどちょっとした小話を。
渡田と葺合は造船にゆかりの深い場所なので実際そうなると聞けば一番反応しそうだよね。

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枇杷の木と夏

『うちのグラウンドの枇杷が豊作だからコンポートを作ったんだが、ちょっと量が多いんで良かったら一つ貰ってくれないか?』
ブラックラムズ先輩からそんな電話が来たので、本社からの帰り道に先輩のところに顔を出すことにした。
二子玉川の駅を一歩出れば湿気が纏わりついてひどく蒸し暑く、梅雨の晴れ間の日差しが肌に突き刺さるように暑い。
「来て貰って悪いな」
先輩の暮らす部屋を訪ねるとモノクロでスタイリッシュな部屋の雰囲気にそぐわない枇杷の葉っぱが山のように積まれている。
「この葉っぱは何にするんですか?」
「枇杷の葉を乾燥させてお茶にしたり焼酎に漬け込むんだ、親が割と好きなんで毎年剪定した時に出た葉っぱで作ってるんだが此の光景を見せては居なかったか」
「先輩のところのグラウンドに枇杷の木があるのは知ってましたけどね」
枇杷の葉は新鮮な青い香りがしてグラウンドの芝の匂いに少し似て心地よく、その香りを嗅ぎながら作業する先輩の顔を眺めるのは退屈しない。
葉っぱと枝を分けて、使い古しのタオルで枇杷の葉っぱを綺麗に拭く。ただそれだけの単純作業だ。
やがて先輩は葉っぱを全て干し網に並べて外に干して行く。
「此れで良し、と。待たせて悪いな」
「お気になさらず。今日はもう仕事終わってるのでゆっくり帰っても怒られませんから」
「其れならば良いんだがな」
冷蔵庫からタッパーに入れられたコンポートが出てきて、それを薄いビニールに入れて渡してくる。
明るいオレンジの果肉は夏によく映える色味だ。
「じゃあ、先輩の手料理うちでおいしく楽しみますね」
僕がそんな風に笑うと「そうだな」と先輩も穏やかに微笑んだ。



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イーグルスとブラックラムズ。
ブラックラムズのグラウンドに枇杷の木があるという話をTwitterで見たので。

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