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コーギーとお昼寝

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銀河鉄道に乗る日

『お前を手放すことにした』
親に告げられたその言葉に絶望的な気持ちを抱いたあの日の事を、きっと永遠に忘れられないだろう。
このミラクルセブンもかつて見送っていった仲間たちのようにこの世界を離れていくのだろうと思って、泣きたい気持ちをごまかすように飲み干した緑茶の熱さも。
死ぬかもしれないという絶望と、面倒を見てくれる人さえいれば生きられるという希望を胸に、色んな会社を回った日々を思い出す。
革靴を履きつぶしスーツが擦り切れそうになりながら、それでも生き延びる希望を探し回った日々がようやく結実した。
目の前にはフラッシュの雨に降られるチーム関係者とJR関係者。
グリーンロケッツ東葛はNECを離れ、来年からJR東日本のラグビーチームになる。
「グリーンロケッツ、おめでとうございます」
「ブレイブブロッサムさん」
しだれ桜の髪をまとめたその人が穏やかな微笑みをこのミラクルセブンに差し向ける。
今回はラグビー協会にもずいぶん助けて貰った。
「これからも頑張ってくださいね」「はい」
祝福の言葉がぎゅっと胸を抱きしめてくれる。
その一言のあとブレイブブロッサムさんはふらりとまたどこかに行ってしまうけれど、感謝を込めて小さくお辞儀をする。
ポケットに入れていたスマホが振動すると、いっぱいの通知が届く。
『グリーンロケッツ存続できるんですか?!』
『存続おめでとう!次の休みはDロックスと三人でお祝い焼肉にしない?』
『グリーンロケッツ存続おめでとう、JRさんと仲良くな』
『おめでとさん!鉄道関係で聞きたいことあったら連絡してな~』
次から次へとメッセージの届くスマホをぎゅっと握りしめる。
(……まだ、ミラクルセブンは、この世界でラグビー出来るんだ)
ラグビーのある幸せを、素敵な仲間のいる幸せをかみしめる。
「グリーンロケッツ、」
声をかけてきたのはこのミラクルセブンの生みの親・NECその人だ。
「さっきからずいぶん通知が鳴ってるね」
「バイブ音うるさかった?」
「いいよ、それはきっとお前が愛されてる証拠だもの」
「そうだね」
この鳴りやまない通知はこのミラクルセブンの存続が決まったお祝いにこうして連絡をくれる仲間がたくさんいるという事の証明でもある。
「グリーンロケッツ」
「うん?」
「こんなとこで言っていいのかは分からないけれど、

私は今もお前を愛してる」

ぽつり告げられるこの声には愛と切なさが滲んでいる。
正直NECという会社の業績は好調だ、それでもこのミラクルセブンを手放すという結論に至った。
その経緯については正直よく分かっていない。
けれど、嫌いだから・憎んでいるからではないとはっきり言ってくれたことは救いだった。
「このミラクルセブンも、NECというひとを愛してるよ」
誰かが言っていた、別れも愛の一つだという言葉を思い出す。
だからこの別れは最後の愛なのだ。
「じゃあね、ミラクルセブンはラグビーの一番星になりに行くから」



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グリーンロケッツとその周囲。存続決定めでたい……。
BGM:銀河鉄道999

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きみと太陽系デスコ

優勝が決まった瞬間のあの空気が泡立つ瞬間は、何度体験しても新鮮な喜びに満ちている。
『鹿島アントラーズ、9年ぶり9回目の優勝です!』
スタジアムDJのひと言で冬のスタジアムに歓声が響き渡る。
芝の上の選手たちも優勝の喜びを分かち合うハグを交わしあい、周囲のサポーターたちも「おめでとう!」「ありがとう!」と声を上げていく。
そんな選手たちの輪から一歩離れた場所にアントラーズの姿があった。
遠くにいたはずのアントラーズと視線がかち合い、嬉し涙を抑えながらニッと笑う。
(俺が手放したあの子が、嬉し涙をしてる……!)
八幡というか上の人達の都合で手放した俺のいとし子は5年間、この街で血反吐を吐く努力の果てに再びシャーレを手にした。
もうアントラーズを俺の子は呼べないかもしれないけれどそれでもあの子は俺のいとし子で、鹿島砂丘に輝く一番星だ。

「アントラーズ!、大好きだよ!」

だから俺は精一杯きみへの愛を叫ぼう。
俺のいとし子、鹿島の一番星。大好きな、俺のアントラーズへの愛を!!!


鹿島アントラーズ、J1優勝おめでとうございます!

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今夜はきみの声で

『今夜は釜石と喋りながら寝ます』
八幡が突然よく分からない電話を寄こしてきたのでは?と思わず聞き返した。
『去年はアメリカで直接会えずに終わったので今年こそは!と思ってたら室蘭のアレの対応でそっちに行けずじまいで終わったので今日は釜石の声を聴いていたいです』
「お疲れさん」
室蘭の火事には心が痛むものがあった。
見舞いのメールは送ったが、返事はまだ来ていない。たぶん向こうもバタバタしてるのだろう。
『と言う訳で今日は釜石の声を聴いて寝落ちしたいので、最近の話聞きたいです』
「お前ほぼ毎日連絡寄越してるんだから把握しとるじゃろ」
『じゃあなんか寝物語になりそうなものでも朗読してくださいよ』
「無茶言うなあ……」
仮にも今日は鉄の記念日・わしの誕生日だというのに、これじゃあどっちが祝われる側なのか分からない。
けれど今日の八幡の苦労を想像することは容易だ。
(まあ、それでも甘やかしてしまうんだよなあ)
だって八幡がそんな甘え方をしてくるのは自分しかいないのだ。
(子守歌でも歌ってやるか)
ふいに口をついて来たのは宮沢賢治の星巡りの歌だ。
窓の外の夜空は室蘭や東京にも繋がっていく。だからきっとこの歌なのだろう。
そうして一通り歌い切ってやれば電話越しの呼吸は寝息に代わっている。
「お疲れさま、今日はゆっくり寝ろよ」
ちょっと自分を好きすぎるきらいのある可愛い後輩の、健やかな眠りを祈って電話を切った。

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釜石と八幡と鉄の記念日。

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きみと踊れば

じくじくとした背中の火傷の痛みのせいで、お風呂に入れる気がしない。
「大丈夫か?」
日鋼室蘭が心配そうにこちらを見てくる。
仕事の隙間隙間に顔を出してくれた片割れにして兄たる存在に力なく笑いかける。
「無理すんなよ。とりあえず汗拭く用の濡れタオルあるけど、使うか?」
「ありがと」
よっこいしょーと体を起こし、ぐりぐりと体中の汗を拭う。背中側は届かないので拭いてもらう形だ。
多少はこれでさっぱりしたので何とかなりそうだ。
「あとは火傷の軟膏塗るんだっけ?」
「うん、塗ってくれる?」
人間ではない俺たちに薬は大した効果はないけれど、痛いものは痛いのでこうして痛み止めなどの薬を貰うこともある。
優しく軟膏を塗って貰えば少しはじくじくとした痛みも落ち着いてくる。
「……釜石には悪い事しちゃったなあ」
「なんでだ?」
「だって今日鉄の記念日じゃない?せっかくの誕生日に水差されたってなりそう」
「釜石だってそこまで心狭くないだろ」
「八幡もさ、今年こそは釜石のとこに行くつもりだっただろうし」
こういう事を考えるとどうにも申し訳ない気持ちになる。
9月の鉄鋼スラグ流出事故で高炉の改修をしたばかりだっていうのにこの火事だ、今頃八幡も本社でてんやわんやだろう。
「それも上に立つ人間の仕事だよ」
「……ならいいんだけど」
「まあこういう日は色々物思いにふけりがちだし、踊るか!」
「なんでそうなるの?!」
パソコンを開くと愉快なワルツが流れ始め、僕の手を取ってくる。
そのリードに合わせて小さな部屋でめちゃくちゃに踊りだせば、だんだん楽しくなってきた。
次は激しめのタンゴ、さらにポップなダンスチューンまで、めちゃくちゃに踊っていくうちに気も晴れてくる。
そうやってめちゃくちゃに踊って疲れた体は5曲もやると休養を求めてきた。
「お腹空いた」
「だな、そろそろ夕飯食おうか?」
やり方はめちゃくちゃだけど、気分転換にはなった。

(きっと僕が弟である限り兄には勝てないのかもなあ……)

そんな事を、ふと思った。

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室蘭兄弟のお話。
室蘭製鉄所の火事、被害者ゼロで鎮火してよかったです……。

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いつでも君は

いつもより不安の滲む指先で発信ボタンを押すと、すぐになじみ深い声が聞こえてくる。
「佐賀関、大丈夫?」
『うちんとこは無事だぞ』
聞き馴染みのある声で宥めるようにそう答えてくれるのがありがたい。
自分が生まれるよりもずっとずっと前からいてくれたひとがいなくなってしまうかもしれないのは、やっぱり少し怖かったのだ。
『心配してくれてありがとうな』
「……ん」
『で、心配してくれるのはありがたいんだが今ちょっと地域支援の打ち合わせでこっちもバタバタしててな。あんまり長電話する余裕ないんだわ』
「それはごめん」
『落ち着いたらまたうち来いよ、じゃあな』
そう言って電話が切れる。
二言三言しか喋っていないけれど、身近な知り合いの無事が確認できたというだけで気持ちは少し落ち着いた。

(……早く火事が落ち着いてほしいな)

こういう時は本当に思う。平穏が、何もないことが一番いいのだ。
週明けに八幡と会ったら地域支援の提案も出してみよう。
そんなことをじっと、考える。

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大分と佐賀関。
被災された皆様にお見舞い申し上げます。大規模火災が早く落ち着きますよう、お祈り申し上げます。

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