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コーギーとお昼寝

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月桂樹に手を伸ばす

*今回は短編集です

・ブラックラムズとイーグルス
「厭な物だな」
予定表に書き込まれた入れ替え戦の文字にぽつりとそんな言葉が漏れる。
明日、己の降格を賭けた試合があるという事実が心の隅に重くのしかかる。
其の裏でイーグルスは初優勝への試金石となるプレーオフ準決勝に挑むのだと思うとなおさらだ。
(何処からこんなに大きく水をあけられてしまったのだろうな?)
かつて可愛い後輩であったイーグルスが優勝争いに身を投じる横で、己はこうして1部リーグで戦い続ける事すら危うい身の上になってしまった。
イーグルスは降格したからと言って人を馬鹿にするような男ではないことは分かっている。
此れは自分の気持ちの問題だ、此処で降格したらイーグルスの良き先輩では居られなくなるという不安があるのだ。
「斯うなったら、勝つしか無いな」
己にそう言い聞かせながら手帳の隅に「勝つ」という二文字を書き付けた。

・スティーラーズと神戸製鋼
「あんたの進退かかってない試合ほど気楽に見れるものってないわねえ」
姐さんがそんな事をつぶやきながら土日のプレーオフの録画予約を入れるので、「姐さんそれ俺への遠回しな嫌味?」と聞いてしまう。
「ただの感想よ。そりゃ親会社としてあんたの優勝はいくらでも見たいけど、同時に優勝掛かってる試合の応援ってすごく心臓に悪いじゃない」
「まあ、それは分かりますけどね?」
「嫌味言われてるなって思うんなら来年プレーオフに出て私の心臓止まるような白熱したゲーム見せなさいよ」
こういう事いうあたり、姐さんは本気でラグビーを愛しているのだと思い知る。
(釜石の製鉄所さんもラグビー好きな人やけど方向性違うんよなあ……)
「それで姐さんの心臓本気で止まったら俺が怒られる奴違います?」
「いいのよ、勝っても負けても試合終れば平常運転だから」

・ワイルドナイツとアルカス
「っし、終わった……」
力が抜けたように椅子にもたれかかると、アルカスが「疲れた……」とつぶやく。
プレーオフ進出記念グッツや引退記念グッツの包装が終わらないというSOSを受け、アルカスを巻き込みひたすらグッツの包装をしていたらもう夜10時近くになってしまった。
「アルカスもありがとうね」
「お礼の言葉よりバイト代はずんでよね?」
「はいはい」
伸びをしながらいい加減夕食にしようと席を立つ。
何があったかなと適当に冷蔵庫を漁りつつ「夕飯食べてく?」と聞けば「物による」という生々しい答えが来た。
「豚玉お好み焼き。試合前だし糖質多めにしたいんだよね」
「お好み焼きねえ……ま、私も久しぶりに食べようかな」
お好み焼きの生地の作り方はうろ覚えだったのでスマホで確認しながらフライパンでお好み焼きを焼き上げていると、隣でアルカスが勝手にポカリを飲み始める。
「そういやさあ、リーグ公式Twitterのアンケートであんた優勝しそうなチーム1位になってたよね」
「実績はあるから」
ここ数年で期待されるだけの実績を積んできた自負は誰よりもある。
去年は悔しい思いをしたけれど、今年こそ優勝の二文字を掴み取ろうとこの一年必死に戦ってきたのだ。
「私も勝たなきゃなあ」
「そうだよ。勝たなきゃチームは残せない」
いい具合に焼けたお好み焼きをひっくり返すと、こんがりきつね色に焼けた豚肉がお目見えしてくる。
あと少しで届くだろう優勝の二文字に向かうための糧をじっくり焼きながら足りなさそうなビタミンを補うものを考えていた。

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ラストゲームの前に

ゴールデンウィークにもなると日差しはすっかり夏模様になり、水分補給を忘れたら倒れそうなほ
どに暑い。
「ヒート君、お疲れ様」
「パールズ!試合前日なのによく来てくれたね!」
紫外線対策の日傘を差しつつ涼しげなロングワンピースを纏ったパールズは今日も光り輝くほどに可愛らしい。
「男子の試合を見るのもいい勉強になるからね」
「じゃあパールズのいい手本になれるよう頑張らなきゃ」
「イチャイチャしよるなあ」
そう呟く声の方を振り向けば、スティーラーズが呆れたような眼で俺たちを見ていた。
「……イチャイチャじゃないし」
「空気が甘かったからあれはイチャイチャやと思う。ま、あんまりイチャイチャしとると勝ち点一点貰えんから気ぃつけな~?」
カラカラと笑いながら俺をからかうので「分かってるよ!」と言い返すも、本人に効果はなさげだった。
「パールズは明日試合ってネットで見たわ。頑張りや~」
「もちろんです!スティーラーズさんも良ければ女子の試合一度見に来ませんか?」
「俺明日は用事あるからなあ、神戸で試合あるんなら見に行ってもええんやけど」
「ネット配信ありますよ!YouTubeで見られますからぜひ!」
しっかり自分の試合も売り込むパールズに「しっかりした子やなあ」とスティーラーズが苦笑いを零す。
うん、うちの彼女は強くてかわいくてしっかり者で最高なのである。
「せや、そういや俺型紙のワークショップ見に行きたいんやけどテントどこかわかる?」
「伊勢型紙ワークショップ?あれ事前予約してないと参加できない奴だけど……」
「いや、申し込んではおらんけどうちでのイベントの参考に様子だけ見せて貰おうかなあって」
「そういう事ね。俺もスタッフで参加する予定だったし、パールズも様子見に行く?」
「行く!」
パールズの目が好奇心に輝き、スティーラーズもせっかくだし色々見ていきたいという興味に満ちた眼差しをしている。
こういうのを見るとホームとしていろいろ見せてあげたい気持ちがむくむくと湧いてきた。
「じゃ、試合前に色々満喫してこ!」
今日は最後のゲームという事で色々イベントを詰めてある。
おもてなしにはちょうどいい日だし、試合もそれ以外も全力で楽しんでもらおうじゃないか!


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ヒートとパールズとスティーラーズ。
三重コンビを出すとすぐいちゃいちゃする謎。

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夏の始まり

「暑い……」
一歩外に出ると強い日差しが降り注ぐ。
地元はようやく桜が終わったというのに、北九州はもう夏へ足を踏み入れつつある。
「水分取りや」
キューデンヴォルテクスは飲み物のボトルを渡してきて、それを容赦なくぐびぐびと飲むと冷えたスポーツドリンクが体にじんわりとしみわたる。
「急に暑くなるときついよなあ」
「本当にな。それにトップリーグんときはこの時期にはもうシーズン終ってたから慣れないんだよな」
「あー、それはわかる」
ゴールデンウィークにも試合をやる事で試合を見に行きやすくして動員を増やすのがリーグの目的だろうが、こうも暑い日にラグビーをやる事にいまいち慣れないのだ。
(むしろ震えるほどに寒い日のほうがラグビーやる側は楽な気がするんだがなあ?)
こういう寒くない季節のほうが見に行くのが楽なのは承知の上でやる側の事を考えてしまうのはどうしようもない。
「今シーズンはどうやった?」
「まだシーズンを振り返るには早いだろ」
「だって試合終ったらお互いそれどころやないやん」
現在、順位的にはうちもこいつも降格がけっぷちでありここで勝たないと入れ替え戦に回ることになる。
降格せずに生き残りたいのはお互い様であるし、入れ替え戦確定となると振り返る余裕が無いのも事実だ。
「……入れ替え戦に行きたくない理由でも?」
「ルリーロと試合するんならD2がええわ」
可愛がっていた後輩の忘れ形見のような存在の名前を挙げてそう呟く。
「俺だって降格したら地元のファンに合わせる顔がない」
「そりゃそうか」
「おう」
シーズン終了に向けて、少しでもいい成績を残さないといけないのはお互いさま。
だからこそお互い負けてなどいられないのだ。
「今日もいい試合にしような」
「お土産は勝ち点だとなお嬉しいんだがな」




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シーウェイブスさんと宮殿先輩。今日の入れ替え戦がこわい……

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北のまちの春

新千歳空港から一歩外に出るとちょっと肌寒い春の空気が漂っている。
……いやここ数日の関東が暑かっただけかな?
札幌ドーム行きのバス停をうろうろと探していると「スピアーズやん」と声がかかる。
「あ、スティーラーズだ。同じタイミングで来てたんだねえ」
「土曜日入りでも良かったんやけど、姐さんからお使い頼まれとってな。ドーム方面行くんか?」
「うん。にしてもお使いかあ、俺もお願いしていい?」
「自分でやりや」
「俺土曜日もドーム行かなくちゃいけないから」
「手間賃取ってもええんなら引き受けたるわ。とりあえずドーム行きのバス停行こ」
スティーラーズはドーム行きのバス停へ歩き出す。
目的のバス停はずいぶんと空いていて、あと5分ぐらいでバスが来るらしい。
「にしても、土曜日もドーム行くってなんかあるんか?」
「土曜日にコンサドーレさんの試合あるんだけど、そこで日曜日の試合の宣伝するんだよ。朝からそれ用の打ち合わせあるから金曜日入りになっちゃってさ」
俺だけでなく一緒に来たスタッフさんたちも仕事終わりに直接飛行機で札幌入りだからちょっとお疲れ気味だ。
「はー、大変やな。手間賃500円でええわ」
「どっちにせよ手間賃取るの?」
「俺明日札幌じゅう回って姐さんのリクエストの品買うていかんとならんもん、追加で買うんやったらお代と別で手間賃貰わな割に合わんわ」
「どんだけ頼まれてるの……」
思わずスティーラーズの言う姐さんの姿を思い出し、彼女の無茶ぶりを想像して苦い顔になる。
うちの親はお土産とか期待する人じゃないから想像するしかないけど大変そうだ。
「リスト作ったらA4のコピー用紙がみっちり埋まるぐらいかな」
「うん、じゃあいいや。自分で買うよ」
遠くから目的のバスが来た。
トランクを引きずりながらバスに乗り込むと新千歳から札幌の街へと走り出す。
札幌はまだ桜が咲き始めたばかりのようでまだ春浅い北の町へ来たな、と思わせてくれる。
「神戸はもう葉桜やのになあ」
「うちの方ももう終わっちゃう感じだね」
ラグビーボールに呼ばれるように来た札幌で、俺たちはどんな試合をするのだろう。
「ねえ、もし時間に余裕があったら桜見に行こうよ」
「それもええかもなあ」



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スピアーズとスティーラーズ。

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あの子と芝の青

曇天のミクニワールドスタジアムにどこかかしましい雰囲気を感じるのは気のせいだろう。
(普通に大会の緊迫感もあるしな)
ナナイロプリズムがいるはずの場所をうろうろと捜し歩いていると「どうかされました?」と声がかかる。
濃いピンクと紫のロングヘアに三日月の浮かんだ瞳はおそらく≪こっち側≫の存在だろうと分からせる。
「きみは?」
「今年から参戦しました武蔵横河アルテミスターズと申します、あなた様は?」
「自分は九州電力キューデンヴォルテクス言います、ナナイロプリズム福岡に会いに来たんやけど……」
「でしたらもっと奥の方にいらっしゃいますわ」
指さす方には確かに見覚えのある選手やスタッフがおり、多分あの辺にいるのだろうと察せられた。
アルテミスターズに軽く会釈をして別れるとみんなの渦の真ん中に可愛い妹分がいる。
「あ!」
「おつかれさん。差し入れにスポドリ持ってきたからみんなでどうぞ」
大きいボトルのスポドリをスタッフさんに渡すと、ナナイロプリズムがその名の通りナナイロに輝く瞳をきらめかせて「あのね!」と前半の試合の事を語り始める。
その瞳の輝くさまを見ているとこの輝きを守れたらと心から思う。
ブルースやレッドスパークスのようにその瞳を一時でも曇らせることなく、ラグビーへの愛と希望に満ちた時間を一瞬でも長く味わっていてほしい。
前半の試合に負けてしまったらしいナナイロプリズムはちょっと落ち込んでいるようだったが「でもこの後の試合は頑張る!」と元気に宣言する。
その様子を選手やスタッフも微笑ましく見守っていて空気はちょっと穏やかだ。
「ナナイロ、この後の試合も楽しんどき」
「うん!」




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キューデン先輩とナナプリちゃん。
そしてしれっと初登場アルテミちゃん

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