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コーギーとお昼寝

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馬と鹿

試合終了のブザーが鳴り響いた時、体がかすかに震えた。
もう一度スコアを見返せば17―15となっている。
「……おれ、優勝したんだ」
歓喜の声を上げる選手とスタッフの中で、俺だけが喜びに打ち震えて泣いている。
生まれて初めて得た日本一の称号が与えてくれる喜びと興奮が俺の中で爆発しそうになりなる。
表彰式の準備が目前で始まり、俺は選手一人一人を全身で称えながら「ありがとう」「おめでとう」と繰り返す。
「スピアーズ」
「ワ、イルドナイツ、?」
「……正直に言うね。準決勝でスピアーズにサンゴリアスに勝てたのは正直運の要素が大きいと思ってた」
ガツンと冷たい言葉が放たれる。
確かに準決勝はトライの取り消しやTMOが多く、そこに助けられた部分はあったように思う。
「でも今回の試合でうちの選手が自由にやれた時間はほぼなかった。
最後の木田選手の逆転トライと、そこから10分うちの攻撃を耐え抜いて2点差を守り切った根気。はっきり言ってうちの完敗だった」
ワイルドナイツの厳しくも率直な誉め言葉が俺の胸に突き刺さる。
俺の緩んだ涙腺はその誉め言葉への嬉しさを涙に代えてしまい、ぼたぼた雫が落ちる。
「……俺の事これ以上泣かしてどうすんのさ」
「来年のプレーオフではその顔を悔し涙にしてみせるから、来年もおいで」
「もちろん!来年も優勝カップ俺が持ってくから覚悟してなよ!」
表彰式の準備が終わり、選手たちが表彰台へ向かう。
そうして心からうちの選手を抱きしめてこの喜びを全身で分かち合うのだった。



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スピアーズとワイルドナイツ。
決勝、現地観戦組でしたがやべえ試合でしたね……木田くんなんであそこに居れるんだ……

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bird's sorrow

*短編集です

・ぱんつのゆくえ(イーグルス)
ここに、優勝したら履くつもりで作った真っ赤なパンツがある。
僕の分も作ってもらってプレーオフ前に受け取ったそれと、僕はじっと向き合う。
「……三位決定戦で履いてもなあ」
これは優勝した時のために作ったんだから三位決定戦で履くのは違う気がしていた。
来年優勝したら履くために残しておくべきか、そんなことをじっと考える日曜日。

・今年は君に会えないけど(ワイルドナイツ+サンゴリアス)
「おつかれ」
サンゴリアスにそう声をかけると「来てたのか」とつぶやく。
スピアーズの前では明るく振舞っていたくせに一人になるとひどく落ち込んで、妙な意地を張ってたらしい。
「今年こそお前から優勝カップ奪い取るつもりだったんだけどなあ」
「だと思ってた」
「思ってたのかよ」
サンゴリアスが子供のように不貞腐れる。
それを可愛いと思いながらも、こんな時に余計に機嫌悪くしてやるほど悪人じゃないので口にはしないでおく。
「今年の優勝カップ持って、来年の決勝で待ってる」

・あと一歩にとどかない(シャトルズ+ダイナボアーズ)
今だけは海老名の曇り空が憎たらしい。
そんなことを思いながら残留を決めたダイナボアーズに視線を向ける。
「ありがとうございました」
「往生こいてここまで来たことに?」
そんな皮肉めいた言葉が漏らすと「いえ、今日のいい試合にです」と素直に答える。
あんまり素直にそんな事を言うせいで「ほっか」としか返せない。
「……もっとちゃっと帰れるつもりやったんにな」
協会にD3に落とされてからすぐに戻るという執念でずっと走ってきた。
けれどまだ帰るための最後の勝利は今この手からすり抜けてしまった。
「ほだら、ちゃちゃっと帰って来季に備えるでの」
「ええ」
来年こそD1に帰るのだ、と言う気持ちがまだ自分の中で渦巻いていた。

・残留と昇格(シーウェイブス+キューデンヴォルテクス)
久しぶりにかかってきた電話の主の声は弾んでいた。
「シーウェイブスとの試合久しぶりやっちゃねえ」
「そうだな、キューデンヴォルテクスも釜石に来るのか?」
「現行制度的になあ」
現在のホーム&アウェイ制度だと必ず一度はアウェイでの試合があるから、一度こっちで試合があるはずだ。
うん、忘れてたわしが悪いなこれは。
「……そうだったな」
「別にええよ。釜石のうまいもん食わしてもらえれば」
「それは別に構わんさ。ただD2はきついぞ?」
「Dロックスとシャトルズ残留しとるもんなぁ、あとレッドハリケーンズもおるんやったか」
「あとグリーンロケッツが落ちてきてる、レメキが来るぞ」
「レメキかあ……ホンダ時代に泣かされた記憶しかないわ……」
どうせシーズンが始まったら敵になるのだ、今だけはラグビー仲間として気ままに話していいだろう。

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壁がある、だから

ノーサイドの笛が鳴った時、体がかすかにぶるりと震えた。
だってそうだろう、決勝という大舞台のきっぷがいま俺の手元に転がり込んできたのだ!
「……スピアーズ」
隣にいたサンゴリアズはどこか悔しさをにじませつつ俺に笑いかけてきた。
「最近お前と試合するとこういう白熱した展開になりがちだよな」
「去年の準決勝も今日の試合も、サンゴリアスだから楽しかったのかもね」
「勝たなかったら許さねえからな」
背中をバンバンはたきながらの激励はちょっと痛いけれど、このはたいてきた手の強さはきっとサンゴリアスの悔しさなのだ。
「負けたらもっと強めにはたいてやるから覚悟しとけよ!」
そう言ってスタッフさんたちのほうへ向かっていくサンゴリアスの背中を見て、やっと俺は気付く。

(そうか、いま俺はサンゴリアスのここで負けた悔しさを背負ったんだ)

客席からTMOの多さを愚痴る声や、最後のトライ取り消しへの文句が聞こえる。
確かにそれらは俺に都合のいい方向に転がっていったのは事実だ。
こうした気持ちが来週の決勝戦で心の壁になるかもしれない、でも俺はその壁を越えていける。
負けた悔しさも審判への文句も何もかもを超えて俺はあの優勝カップをつかみ取るんだ!



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スピアーズとサンゴリアス。
今日の準決勝すごかったね……

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祭りばやしの中で

どんたくの賑わいも四年ぶりとなると例年以上に浮かれているように思う。
肩車に乗せたナナイロプリズムもこの浮かれ気味の空気にそわそわしていて、それがかわいく思える。
「どんたく、初めてやもんなあ」
「うん!」
綺麗な衣装で踊り歩く人々に目を奪われているのが見ずともわかる。
その辺はやっぱ女の子よなあ、なんて思いながらその賑わいを見つめている。
(……4年前のどんたくは、ブルースやレッドスパークスがおったのになあ)
親の手伝いに追われていたら2人からどんたく見に来たなんて連絡が来て、一緒に回ったのだった。
まさか次のどんたくの時には2人がいなくなるなんて想像もしていなかった。
「ねー、お腹空いた」
しんみりした気持ちを知ってか知らずかナナイロプリズムが急にそんな事を言う。
肩から降ろしつつ「何喰う?」と聞けば「ラーメン!」と元気な答え。
「んー、この辺で旨いとこってどこやろ」
うちの親に聞いてみようかとスマホを開けば、もうすぐパレードの準備のために合流する時間だ。
まずい、もう戻らないと。
「時間ないから屋台もんで済ましてええか」
「え~」
納得いかない声を上げてくるナナイロプリズムを宥める方法も思いつかず、もうこうなったら腕に抱えて親のところに向かう。
「終わったらいくらでもラーメンおごるから!」
この子がいると孤独を寂しがる余裕もないらしい。


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キューデンヴォルテクスとナナイロプリズム。
前回どんたくの話書いたときは未実装だったのになあ(遠い目)

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東京の夜の中で

ちょうど東京に行く機会があったので、ついでに試合を見に行こうと思った。
単独行動の許可を取ってサンゴリアス対スティーラーズ戦のチケットを取ると、最低限の荷物だけを手に秩父宮の立見席に滑り込む。
夜の秩父宮は肌寒くも賑やかで、その賑やかしさがちょっとだけ羨ましくもある。
(……まあ人口が違うしなあ)
うちでもナイターやれたらいいのになあ、などと無責任なことを考えつつ選手たちの試合前の練習に目を向けていたその時だった。
「シーウェイブス!なんでおるん?!」
給水係のビブスを着たスティーラーズがこちらの方に駆け寄ってきた。
「今日スピアーズとの練習試合でこっちに来ててな、勉強がてら見に来た」
「先言うてや、姐さんの分の席余っとるし言うてくれたら譲ったのに!」
「身内席はお前の身内で使っとけ」
「同業他社の友人は広義の身内やわ」
ぶつくさ言いつつ「まあお前が来てくれるなんてめったにあらへんからええけど」と呆れ気味に言う。
「試合後、飲みに付き合いや」
「新幹線の時間的に無理だな」
「じゃあ後で感想聞かせ、サンゴリアスとも共有するから」
雑談もそこそこに選手の元へ戻っていくスティーラーズを眺めながら、さっき買ったビールをひとくち飲む。
ナイターが持つ独特の雰囲気は代えがたいものがあり、まして春の夜となれば桜の花も風に乗って飛んでくるのがいい。
グラウンドの隅のほうにいたサンゴリアスとも目が合ったので軽く手を振り交わす。
試合が始まるまで30分、国内トップクラスの選手たちのアップを見るのもいい勉強だ。
「今日はいろいろ学べるといいな」



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シーウェイブスとスティーラーズ。
ちょうど偶然同じ日に東京にいたのでそういうネタです。

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