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コーギーとお昼寝

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あの子と芝の青

曇天のミクニワールドスタジアムにどこかかしましい雰囲気を感じるのは気のせいだろう。
(普通に大会の緊迫感もあるしな)
ナナイロプリズムがいるはずの場所をうろうろと捜し歩いていると「どうかされました?」と声がかかる。
濃いピンクと紫のロングヘアに三日月の浮かんだ瞳はおそらく≪こっち側≫の存在だろうと分からせる。
「きみは?」
「今年から参戦しました武蔵横河アルテミスターズと申します、あなた様は?」
「自分は九州電力キューデンヴォルテクス言います、ナナイロプリズム福岡に会いに来たんやけど……」
「でしたらもっと奥の方にいらっしゃいますわ」
指さす方には確かに見覚えのある選手やスタッフがおり、多分あの辺にいるのだろうと察せられた。
アルテミスターズに軽く会釈をして別れるとみんなの渦の真ん中に可愛い妹分がいる。
「あ!」
「おつかれさん。差し入れにスポドリ持ってきたからみんなでどうぞ」
大きいボトルのスポドリをスタッフさんに渡すと、ナナイロプリズムがその名の通りナナイロに輝く瞳をきらめかせて「あのね!」と前半の試合の事を語り始める。
その瞳の輝くさまを見ているとこの輝きを守れたらと心から思う。
ブルースやレッドスパークスのようにその瞳を一時でも曇らせることなく、ラグビーへの愛と希望に満ちた時間を一瞬でも長く味わっていてほしい。
前半の試合に負けてしまったらしいナナイロプリズムはちょっと落ち込んでいるようだったが「でもこの後の試合は頑張る!」と元気に宣言する。
その様子を選手やスタッフも微笑ましく見守っていて空気はちょっと穏やかだ。
「ナナイロ、この後の試合も楽しんどき」
「うん!」




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キューデン先輩とナナプリちゃん。
そしてしれっと初登場アルテミちゃん

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君も同じ空の下

目前の階段をバイクで駆け上がる迫力に観客が目を丸くしているのを、レヴズはにやにやと見つめていた。
「成功しましたね」
「よかったな」
レヴズの嬉しそうな声は観客の喜びを感じてるのだろう。
それを尻目に今日から女子セブンスの大会で北九州に行っているパールズの試合の様子をざっと確認していると「空返事ですね」とぼやかれる。
「ちょっと気になって」
「まあ気持ちは分かりますけどね?空返事はやめてくださいよ」
レヴズにとってのアザレアと俺にとってのパールズってだいぶ位置付け違うんだけどな、まあいいか。
「悪かったって。バイクパフォーマンス演出の受けが良くて嬉しいって話だろ?」
「分かってくれるならいいです」
「……レヴズだって、ジュビロさんやアザレアと試合被ったら様子気になるだろ?」
「そりゃ気にはなりますよ。 でも

うちの兄さんもアザレアも最高で最強だと信じてるので、僕の試合の後に本人から直接勝ったって聞く方が良いじゃないですか」

さらりとまっすぐな情愛がレヴズの口から飛び出してくる。
俺だってパールズの強さを信用してないわけじゃないけれど、どうしても心配や気がかりが湧いてくる。
(これが愛と恋の違いなんかな?)
遠く北九州の空でパールズを想う気持ちを考える。
「それに、彼女さんも自分のこと気にされて試合に負けるぐらいなら自分の事なんて微塵も考えずに試合に勝ってくれた方が良いと思いますけどね」
そう言いながらレヴズが指さすのは俺が前半無得点であることを表示した電光掲示板だ。
前半無得点の俺への挑発めいた言葉にちょっとムッとしてスマホの電源を落とす。
「後半逆転してパールズへのお土産にしてやるからな!」
レヴズは俺の言葉に満足したようににっこりと笑った。



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ヒートさんとレヴズさん。
きょうから北九州では太陽生命ウィメンズセブンスが始まります。

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盛岡の散歩道

待ち合わせの盛岡駅待合室に着くと、レッドハリケーンズが展示物に目を輝かせていた。
「お、シーウェイブスお迎えありがとな!」
「気にせんでええぞ。元々前日入りの予定だったから同行者がつくぐらい大した手間でもないし」
「にしても駅にこんな掲示してあるのええよなあ」
少し前から掲示させて貰っているうちの展示物を横目にそう呟く。
レッドハリケーンズは大阪という土地柄、競合するスポーツチームも多いし宣伝するにも色々苦労もあるのだろう。
「お前さんもまだやれる事はあると思うがなあ」
「ほんならええんやけど」
「県立博物館のラグビー展先でいいか?」
このラグビー展のために前日に盛岡に入る予定だったのを、レッドハリケーンズが『観光案内して!』と言うので当初の予定より出発時間を早めて盛岡駅まで迎えにきたのである。
「俺小腹空いとるから先メシがええんやけど」
「博物館が盛岡の中心部からだいぶ離れとるから博物館先の方が都合が良くてな、腹減ってるなら福田パン寄るか」

****

県立博物館は盛岡市郊外のダム湖のほとり、岩手山に見守られながら立っている。
「ホンマにラグビーの展示やってんねんなあ」
もりもりとパンを食いながらそう呟いたレッドハリケーンズに「これが見たかったんでな」と言い返す。
「てかコレ、ゴールデンウィーク明けまでしとるやん」
「この展示にうちも協力してるんでな。興味無いなら近くの公園でパン喰いながら待つか?」
「せっかく来たし見てくわ」
SNS用の写真を撮りながらてくてくと博物館の中を回っていく。
ガラスケースの中に飾られた在りし日の想い出や支えてきた数え切れないほどの存在が俺たちに目配せをして来る。
(……この積み重ねの上に生きてるんだな)
この在りし日の想い出に触れた人々が今の自分やラグビーにも目を向けてくれれば、きっとそれだけでラグビー界は明るくなるだろう。
一通りの展示を見終えて大きく深呼吸をして、北上川と岩手山をそっと写真に収める。
「次わんこ蕎麦行こ!」
「まだ食うんか……」
岩手山から吹く風はほんの少し甘い気がした。


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シーウェイブスとレッドハリケーンズ。今日は盛岡ゲームなので。

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雪かき後のラーメン

「この雪はヤバいね」
グリーンロケッツが驚きを込めてそう呟く。
今週は雪が多くて何度か雪かきに行ったが、もう大丈夫だと思っていた。
しかし今目の前のスタジアムは昨日になって降った雪がスタジアムを白く覆い尽していた。
「だから手伝いに来たんだけどな」
製鉄所さんがプラスチック製の雪かき大きいスコップを手に後ろから出てきた。
「お疲れ様です」
「別にいいさ、試合がやれるならこれくらい大した労力じゃない」
そう言って雪かきのスコップをグリーンロケッツに手渡してくる。
一応自分も雪かきやるように持ってきてたのだが、流石にグリーンロケッツの分までないので多めに持ってきてくれたのは助かった。
早速雪かきのためグラウンドに入ると、うちの関係者やファンでは無さそうな人もちらほらスコップ片手に雪かきに励んでいる。
「あ、うちのサポさんも来てるね」
「前日入りしてくれた人が雪かき来てくれてるのか」
「まあ前日入りしたのに見れなかったら悔しいもんねえ」
そう呟きつつ雪をグラウンドからかきだし、地面が凍ってないかを足先で確認してみる。
(……まずいな)
ちょっと試合をやるにはグラウンドの状況が良くない。
「にしても本当にここは雪国なんだねえ」
グリーンロケッツがそんなことを言うが「雪国ってほどじゃないぞ」と製鉄所さんが言い返す。
雪の降らないところからすればこれだけでも雪国なのだろうが、もっと降るところを知ってるのでうちは感覚的には雪国ではない。
この辺の感じ方はブルーレヴズとも話してて感じることではあるので何も言うまい。
「シーウェイブス、試合出来そうか?」
「他の人達とも話さないと分からないですけど、ちょっと厳しいですかね」
体感的な意見を告げると、3時間後には正式に開催不可が決定した。

*****

試合出来無い事への詫びを入れ、ファンとのグリーティング終えると、もう時刻はお昼過ぎだった。
雪かきで温まった身体も芯まで冷え切って、汗が冬の冷風で体を冷やしてくる。
「シーウェイブス、グリーンロケッツ。飯食いに行こう」
製鉄所さんがそう誘ってくれたので一度昼飯を食いにスタジアムを離れる事になった。
スタジアム周辺には食事できるところが少ないし、来てくれたキッチンカーはまだ忙しそうなので控えたのだ。
車で10分ほど走らせた場所は小さなラーメン屋。
製鉄所さんの奢りと聞くとグリーンロケッツは嬉々として大盛りのチャーシューメンに餃子とチャーハンを注文してくる。
「元気だな……」
「試合出来なかったから美味しいものを楽しもうかと思って。これでもお酒は自粛したんだよ?」
グリーンロケッツはあくまで前向きである。
(こう言う前向きさを見習わんとなあ)
「シーウェイブスはどうする?」
「じゃあ、チャーシューメンに味玉追加で」


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シーウェイブスとグリーンロケッツと釜石。
雪で試合中止になったけどせめて釜石を楽しんでいってね……と言う気持ちを込めて

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きみと手で話そう

ブラックラムズがいきなり『今夜テレビ通話出来ないか?』と言う連絡が来た。
何故テレビ通話?と思いつつもまあ夜ならいいかと思って応じたら、想定外の相談が来た。
「急で悪いが手話の練習が必要になったから付き合ってくれないか」
「手話?別にいいけど、俺もそんなに詳しくはないよ?」
俺と付き合いのあるスタッフさんでデフラグビー(聴覚障害者のラグビー)の選手がいて、基本的な挨拶やラグビーに関するものくらいなら覚えたのだが何故そんなことを知ってるんだか……。
「付き合って呉れそうな奴を探していたら、前にワイルドナイツが応援手話動画を作っていたのを思い出してな」
「ああ、前にインスタにあげたあの動画ね。でもなんで手話が必要に?」
「区の手話言語条例のPR動画を作る事になってな、あとで必要になる可能性もあるから挨拶程度は覚えておこうかと」
「なるほどね。でも俺も専門家じゃないし、参考文献とか動画送るぐらいしかできないけどいい?」
「ついでに練習に付き合って呉れると助かる」
俺も手話は本当に最低限だし、普段使う機会が少ないので復習にもなる。
夜に少し練習に付き合うぐらいなら何の問題もない。
「まあ、それぐらいならいいよ」

―5日後―
自らを指さしながら「私は」
左手で頭から耳の下あたりまでを撫で「ブラック」
耳の横を指でグルグルと渦を巻いて「ラムズ」
親指と人差し指を立てながら上に突き出して「東京、です」
「……うん、それで大丈夫だと思う」
開いた左手を左胸から右胸に移動させて大丈夫という手話で伝える。 表情でニュアンスが変わるけどブラックラムズには問題なく伝わるようだ。
「ありがとう」
左手の甲に向けて右手で手刀を切るのはありがとうの手話だ。
「じゃあ、またな」
ブラックラムズが手を振るとテレビ通話が途切れる。
ちょっと出来ることが増えると世界が広がる事を感じたブラックラムズの表情は、どこか楽しげだった。



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ワイルドナイツとブラックラムズ。
作中に出てきた野武士の手話動画はこれで 黒羊先輩の動画はこれ

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