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コーギーとお昼寝

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ぼくらは地獄を裸足で行く

『此花には怒られるんだろうなあ』
あの日、和歌山がそんなことを言っていたのを思い出す。
新日鉄との合併話が初めて世間に取り沙汰された日のことだ。
『怒るだろうなあ』
ぽつりと俺が返すと『だよねえ』と困ったような寂しいような苦笑いをこぼしてきた。
そんな事をなぜ今思い出したのだろうと重い身体を起こしながら考える。
「あ、おはよう海南」
「……ん」
壁時計を見るともう午後だ。昼飯どきは過ぎたがおやつ時には少し早い午後2時過ぎ。
しかしお腹は空っぽで何か食べたいような気はしていた。
「とりあえず焼きそば作ったけど食べる?」
「食べる」
のろのろと食卓に腰を下ろすと麦茶と焼きそばが目の前に置かれた。
「ああ、そう言えば今日久しぶりに此花に会ったよ」
その言葉で今日は和歌山が大阪へ行く日だったことを思い出した。
半月ほど前に新日鉄住金の社名変更が世間に知らされてから和歌山と此花が顔を合わせるのは今日が初めてだった。
「そうか、」
「……なにも無かったけど、発表直後だったら俺ぶん殴られてたかもね」
「ぶん殴られたらちゃんと傷冷やしといてやるから安心しろよ」
「うん、」
「此花の事をかわりにどやしてやってもいい」
腐っても和歌山は俺の大事な男なのだ、それを傷つけられて大人しくいられるほど俺は丸い性格はしていない。
「俺は一緒にいてやるから」
もしもこの身に死後があるのなら、地獄でデートしてやろう。



和歌山と海南が男夫婦してる話。

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お風呂の話

「広い風呂っていいよなあ」
佐賀関がやけにリラックスした声色で俺の隣でお湯につかる。
ここはうち(大分製鉄所)の職員向けのお風呂なのだが、諸々あって今日は俺と佐賀関の貸し切りになっている。
「……人んちのお風呂でリラックスしすぎじゃない?」
「でかい風呂に罪はないんだよ」
仕事する男の武骨な手が俺を軽く撫でてきた。
微かに潮の匂いがするのは日がな一日中釣りばかりしてるからに違いない。
「大分、お前ホンット顔がやわらけーよなぁ」
「それ褒めてるの?」
「褒めてるよ」
佐賀関はいつも俺を可愛がってくれている。
八幡のビジネスライクな扱い(まあ八幡は釜石以外にはわりとドライだけど)や、光の兄扱いや釜石の孫扱いとはちょっと違う、近所の犬を可愛がるような感じが俺は不思議と嫌いじゃなかった。
「風呂出たらビール飲んで昼寝するか」
「仕事しなくていいの?」
「午前中したから良いんだよ、お前が仕事あるならうちで寝るけど」
「いいよ、俺も飲む」



大分と佐賀関。昼風呂からの昼酒とか言う堕落。

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碧き海の旅の終わり

ガシャンと物の落ちる音で仕事中なのにうとうとしていた自分に気付いた。
「……すいません、呉さん」
職員の一人が申し訳なさそうにそう言いながら荷物を拾うので、一緒に拾ってやると携帯には新日鉄住金の社名変更が取りざたされていた。
「少し触っても?」
「あ、はい」
職員の携帯を触ってざっとニュース記事を確認すると、最後の方に『なお日新製鋼の完全子会社化とステンレス鋼板事業の統合も同時に発表された』という記述を見つける。
携帯を返してからふらりと席を立って自販機でアイスコーヒーの缶を一つ買う。
ふいにまだ南陽と呼ばれていた頃の可愛らしい姿の周南が言っていたことを思い出す。
『ステンレスは真っ青なブルーオーシャンなんだよ、とく姉が開拓して僕が突き進む海なんだ』
その碧い海を一緒に渡って行こうと決めていたが、その翼の羽根を他人に譲らざる得なくなってしまったのはほんの少し寂しい思いがした。
ブブブ、と携帯がバイブを鳴らす。相手は周南だった。
「……もしもし」
『あ、もしもしー?僕だよー』
「どうかしました?」
『呉と一緒に居られてよかったと思ってるから、気にしちゃダメだよ』
周南は最初から全部分かってるのだ。
最高のお嫁さんという言葉が頭の中に浮かんでくる。
「こちらこそ、楽しい60年間でしたよ」




呉と周南

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冷酒と涙を流し込む

やってられんから付き合え、と言うその手には紙袋一杯の酒瓶とお惣菜が詰まっていた。
「全部冷やで良いの?」
「きょう蒸し暑いし温めなくていいだろ、雪冷えがいいのなら冷蔵庫入れといてくれていいぞ」
割り箸を片手で割って冷やのワンカップとあじの南蛮漬けを食べ始める。
日が暮れ近くの薄暗くなりだした俺の部屋で早速酒を飲み始めるので持って来たものを確認する。
「日本酒はともかくチューハイとビールは冷たいほうが良いでしょ」
「チューハイ入れたっけ?」
「何本かある、チューハイ類は一応冷やしとくね」
手当たり買って来たのだろうさまざまな種類の酒が一緒くたに詰められており、冷やした方がよさそうなものだけを選んで冷蔵庫に詰める。
「俺もお酒貰うよ」
「仕事終わりで良いのか?」
「まだ少し余裕あるから」
日本酒の四合瓶を開けて漬物に箸を伸ばす。
こんな風になる理由は俺だって分かるし、その気持ちも概ね察せられたから口には出さない。
(……いつかは来る日だもんなあ)
新日鉄との合併のときからいつか社名から住友の字が消える日は来るだろうと薄々思っていたけれど、その日はずいぶんと早くに来てしまって一番悲しいのが此花なのだ。
俺だって住友への慕情は多少なりとも持ってるのだ。
早速ワンカップを飲み干した此花が小さな赤ワインのボトルに手を伸ばし、ローストビーフサラダを手前に寄せてまた飲み始める。
いくら酒に強いとはいえ随分とハイペースで飲んでいるのでこの酒もひょっとしたら全部飲み干してしまうのかもしれないし、最悪俺の買い置きの焼酎も飲んでしまうかもしれない。
「尼崎、」
「うん?」
「お前も私も、和歌山も鹿島も直江津も海南も小倉も、みんな住友の子だ。小倉は厳密には違うけど和歌山を育てたのはあいつだからうちの人間だ」
「うん」
「その誇りだけは、せめて住友金属の名を覚えてる奴がいるうちは、守れると思ってた」
俺は何も言い返さない。
飲んだくれてその悲しさも苦しさもその腹の奥で溶かしてしまうまで、付き合うつもりでいた。
「……ごめんな」
此花は顔を伏せたまま絞り出すようにそう言った。
「謝らなくていいよ」
「いや、謝らせてくれ」
「此花は一つも悪くないんだし、合併時の代表権は和歌山が持ってたじゃない」
「あー……そういやそうか」
「そうすることでしか俺たちが生きていけないのなら、そうやって生きていくよ。住金のみんなでなら地獄の果てに行ってもいい」
アルコールで緩んだ口から随分とクサい台詞が漏れた。でもそれは嘘じゃない。
俺はみんなで生きていけるのならどういう運命でも生きていけた。此花や和歌山がいて、鹿島や小倉や海南がいるのならどんな苛烈さにも耐えられる。
「そうか、」
「そうだよ、今夜はとことん飲もう。この地獄を生き抜くために」
「……だな」
此花の表情が僅かに緩んだ。
これだ、これが俺の一番好きな姉の顔だ。



此花と尼崎のはなし

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分かり合えない彼らの話

今朝はかつて父と呼んだ人の夢を見た。
いつかそうなるのだろうと分かりながらもその手を離された時の寂しさを再現するかのようなセピア色の夢だった。
「……戸畑、あなたずいぶん遅かったですね」
目を覚ますと八幡さんは壁に寄りかかってコーヒーなんか飲んでいた。
「なんでいるんですか」
ここは私の部屋だ、八幡さんがいるはずがない。
「少しばかり所用があったんですよ、これから東京に出るのでその間に任せたい仕事があるので」
「土曜の朝から出るのはついでにどこぞへ行かれるおつもりですか」
「ついでに名古屋と君津の様子でも見ておこうと思いましてね、これも私の仕事でしょう?」
この人はいつだってそうだ。美しいが勝手である。そして何よりも自分が偉いと思っている。まあ実際偉いのだが。それを私達は慣例のように許している。
「分かりました、だとしても勝手に人の家に入るのは大変いただけないと思うんですが」
「直接渡しておきたかったんですよ、火曜日の夜には帰りますから」
ファイルに詰め込まれた書類をばさりと置いておくと「それじゃあ、」と言って去って行く。
それが今朝の話である。
「勝手な話っちゃ」
その話を聞いた小倉さんは実に忌々しそうにそう呟いた。
「そげなことどげんして怒らん!」
「あの人の性格は昔からですからね」
「俺はあいつのああいうところがいっちゃん好かん」
今朝がた八幡さんに渡された書類を仕分けながら私の代わりに随分と率直に怒ってくれている。
怒りつつも仕事をこなしてくれるところは小倉という存在の大変好ましいところであった。
「……私らは、いつだって人の勝手に振り回されて生きんとならんでしょう?」
それは彼にも覚えがあるようだった。
きっとこうして人の体と心を得て生まれれば一度は味わうことであった。
「あん人はそれを知ゃあせん、それがうらやましいような憎たらしいような心地ばする。……小倉さんもあん人ばくらせん(殴れない)でしょう」
そう聞けばちらりと彼は視線をそらした。
それはきっと生まれ落ちた瞬間から国家と共に在ったからこそ全ての勝手が許されてきたし、これからもそうなのだろう。
耐えているというよりも諦めているという言葉が似合う。
「あん人が官営として生まれた限り、分かち合えんと思うんです」


*蛇足*
「……お前もう少し戸畑を大切にしてやれよ」
八幡の日々の様子を聞きながら漏れたのはそんな一言だった。
「それが戸畑の仕事なんですから当然でしょう」
「そうじゃなくてだな……」
「本部が戸畑にあるとしてもあの子は私の名の下に仕事をしてるんですから」
「本人が望んでるかどうかぐらい聞いてやれって話だ」


戸畑と八幡と小倉。

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