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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

マンゴープリン

周りはその人を指して女帝と評するけれど、俺は彼女をそんな風に思ったことは無かった。
「次屋、運んでくれ」
「はあい」
そうして台所に向かえば甘いミルクのかかったマンゴープリンがふたつ。
ガラスの器に盛られたそれは実に涼感あるおいしそうな代物だ。
「美味しそうだけど買ったもの?」
「いや、作った。此花が分けてくれた生のマンゴーが食いきれなくてな」
「住金のあの人に?」
「近所だからな」
ついでに余ったフルーツと水出しの緑茶でフルーツティーまで作ってくる。
うちは男所帯だったからこういうことをしてくるところに女性的な繊細さをいつも感じるのだけれど、本人が平然としてくるから口に出したことは無い。
「桜島はすごいなあ」
「少し練習すれば誰でもできる」
「そうかな?」
「ああ、私の認めた男だからな」
サラリと褒めてくる桜島のそう言うところは、きっと叶わない気がする。
「……お茶終わったら俺帰るね」
「わざわざお茶にまで付き合わせて済まなかったな」



ちゃんと書くのは初めてな桜島と次屋。

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オオサカスターマイン

ようやく片付いた書類仕事の山に思わずふうとため息を吐いた。
「偉いため込みようやったなあ」
若い職員の一人に皮肉めいた言葉と目線を送ると、申し訳なさそうにしゅんとして「すいません」と本日何度目かの謝罪が漏れた。
仕事は好きだけれどこうもずっと夜更けまで仕事ばかりしていると飽きてしまう。
「はよ帰ってゆっくり寝とき」
「ホント俺の仕事に巻き込んでもうてすいません」
「別にええよ、俺らはこの製鉄所のためにおるんやから仕事が生きてる理由やもん」
パソコンの電源を落として荷物を纏めていると、遠くからパアン!と音がした。
設備に何かあったのかと反射的にその手を止めて身体の調子を確認(設備に何かあればそのまま体に出るからだ)すると、横にいた職員が「花火ですよ」と返してくる。
「花火?」
「ほら、大浜公園で毎年イベントやっとるでしょう?その最後に打ち上げる花火ですよ」
パアン!という音とともに赤や黄色の光が建物の中に差し込んでくる。
窓の外、上空に目を凝らせば花火が大きく打ちあがっている事に気付き少なくとも設備の異常ではないことに安堵する。
そうして一度安心してみれば、花火というものはこんなに綺麗なのかと素直に思えた。
「君にとっては夜遅くまで残業したご褒美やな」
「いえ、むしろ堺さんへのご褒美でしょう」
「そんなもん俺に要るんかなあ」
「要りますよって、俺らよりも長く生きるんですから生きることを楽しんだって下さいよ」



堺と夏の夜のお話

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浴衣を着る

「神戸、お前さん背縮んだな」
此花がぽつりとそんなことを言うので「確かにそうかも知れないわね」とだけ返す。
「以前はおはしょりそんなに大きくなかったですもんね」
高炉を止めると背が縮むとは言われているがこうして見ると確かに以前より背が縮んだことを実感する。
おはしょりで調節はしたけれど来年の夏はもっと着丈の小さいものを用意したほうが良いかしらなどと考えつつ伊達締めに手を伸ばした。
「西宮、お前さん着付け大丈夫か?」
「大丈夫よ、この浴衣だって此花が仕立てに出したものだし」
「そう言えば葺合に頼まれて私と此花で西宮の着物選んだりしたものね」
「懐かしいなあ」
葺合は西宮が女の子の姿で現れた時、色々と戸惑って私や神戸に電話をいつも寄越してきたものだった。
成長してからは良妻という言葉の似合う気立てのいい子になったが私も此花もまだどこかでその頃の記憶が残っているのかもしれなかった。
「むしろ加古川の方が一人で浴衣着られないのよね」
「さっきも神戸が着せてたものなあ」
先ほどお手洗いに行った可愛い妹分は戦後生まれだからなのか着付けが苦手でいつも私が着付けてあげていた。
「そう言えば尼崎が場所取りに行ってるのよね?」
「うん、たぶん今頃は和歌山と海南に交代して食いもんでも買いに行ってるんじゃない?」
「弟使いが荒いわね」
「姉と弟なんてそんなもんだよ、神戸が出来たら行こうか」
文庫結びにくくられた帯を後ろに回すと加古川もお手洗いから戻ってくる。
「お待たせしました」
「いいのよ、まだ花火が上がるまでは余裕があるもの」
「じゃ、行こうか」



関西女子組、花火を見にいく

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熱中症にはお気を付けください

ああこれは駄目だな、と思いながらクーラーの効いた事務室の床にへたり込む。
「戸畑?」
「……八幡さん」
八幡さんの深い黒の瞳が私を覗き込んだ。
遠い異国の絵本に出てくる王子様のようなその真剣なまなざしで私の身体を寄せて、ソファーに寝かせると職員に経口補水液を取りに行かせる。
「作業着脱げます?」
「はい」
緩慢な動きで長袖の作業着の脱げばクーラーの風がひやりと汗まみれの身体を冷ました。
職員の持って来た経口補水液が甘く喉を通り抜け、やはり暑さに当たりかけていたらしいと気づく、本来経口補水液というのはそんなに美味しいものではないから体調の指標になるのだ。
人ではない私たちもあまり暑さに当たり続けると体調を崩すから気をつけろと言われていたのにまた暑気あたりを起こしかけていたらしい。
扇風機やうちわまで持ち出して私の身体を冷やしにかかる職員の横で八幡さんは呆れたように私を見た。
「あなたまで調子を崩してどうするんですか」
「すいません」
「……今日はゆっくり休んでなさい、あなたの仕事は私と小倉が片付けますから」
「八幡さんも釜石さん以外の人にも優しくすることあるんですね」
ぽつりとそんな台詞が漏れる。
ずっと小さな時から、八幡さんは憧れだったけれど釜石さん以外に興味がないことを知っていた。
(こんなの、あてつけだ)
私達も見て欲しいという、ただの当てつけ。
八幡さんがいなければ今の私はいなかったというのに、それ以上のものを求めても仕方がないというのに私は何を言っているのか。
「私もたまには優しくしますよ」
「たまには、だから嫌われたり呪われるんですよ」
「誰がですか」
ああ、やっぱりこの人は綺麗で傲慢だな。
その問いに答えるのは止めて私は黙って目を閉じて休息をとることに決めた。




戸畑と八幡。

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最後の夏に

休憩中に見ていたテレビでこれが最後の夏なのだと気づいた。
年が明ければ僕らは新日鉄住金傘下へ入り、その数か月後には平成も終わる。
平成最後の夏という言葉はどこか小説めいた響きがあってなるほど話題にする人が多いのもうなづける。
「呉、かき氷食べようよ」
「かき氷?」
「うん、桜島が和三盆くれたんだよ」
「……そうするか」
周南にせがまれるままに古いかき氷機を引っぱり出し、ガラスの器にお店で買った天然水の氷をたっぷりと雪のように乗せる。その削った氷に軽く和三盆を振りかけたシンプルなかき氷だ。
口に含めばすっと氷が余計な熱を奪っていき、和三盆の天然の甘さが口の中に広がってきた。
「周南、」
「うん?」
「この夏どこか行きましょうか」
最後の夏ですからね、と告げると「じゃあ周防大島行きたいな」とかえって来るのだった。



呉と周南。
彼らにとっては二つの意味で最後の夏になるのです。

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