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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

いーあるてぃーたいむ

「君津あての荷物届いてたぞ」
「東京……」
仕事を終えて自宅に帰ると無断でやって来ていた姉妹分が我が物顔でソファーに寝転がっていた。
机の上に置かれた小包のあて先は中国・上海となっており、可愛がっている弟子が寄越してきたのだとすぐに分かった。
「荷物受け取ってくれたのは嬉しいけど無断で人んち侵入するなよ……」
「合鍵の隠し場所分かりやすいからしょうがないな」
「しょうがなくねえわ」
カッターで小包の封を開けると白い封筒が出てくる。
同封された手紙は可愛らしいパンダの便箋で、あのきれいな顔をした中山服の弟子がこれをわざわざ買って来たのだと思うとなんだかおかしくて笑ってしまう。
親愛なる君津老師へという書き出しの中国語の手紙に目を滑らせると、どうやら仕事先でわざわざ俺のために購入してくれた中国茶とお菓子だという事を知った。
「なあ、お茶飲むか?」
「お茶ぁ?」
「宝山がかなり良いお茶贈ってくれたから」
「へえ、じゃあちょっとだけ飲むわ」
やかんでお湯を沸かし、昔買いそろえた中国茶の道具を引っぱり出し、宝山が一緒に贈ってきた麻花(マーファ、中国のかりんとうのようなお菓子)を皿に乗せた。
君山銀針なんてよくもまあ寄越してきたものだ、これ結構高い奴じゃなかったか?
茶葉の種類に合わせた温度のお湯で淹れるやり方は宝山の面倒を見ていた頃に覚えたもので、今でも時々鹿島や千葉にねだられて中国茶を入れることがあるからそれなりに慣れている。
小さめの湯飲みに茶を注げば湯気と共にお茶の香りが部屋中に広がってきた。
「美味しそうじゃん」
「いい茶葉だからな」
「いただきます」
そういって小さくお茶に口をつけると、東京は気に入ったというように微笑んだ。
俺の方もひとくち口に含むと上手く淹れられたことが分かって嬉しくなる。
「美味いな」
「茶葉が良いんだよ、俺もあとで紅茶と緑茶送ってやらないとな」
「宝山ってお茶好きなの?」
「嫌いではないと思う、向こうにいた頃俺が本場の点心にハマってちょくちょくお茶淹れるとき練習台にしてたけど嫌がってる感じ無かったし」
「へえ」
麻花をガリガリかじりながら中国茶を飲んでいると、仕事の疲れが少しだけ緩んできた。
おやつ終えたらこの中国茶の残る部屋で昼寝してもいいかもしれないなとぼんやり考えていた。




君津と東京とチャイナなおやつどき。

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一人鍋の夜更けに

仕事を終えて家に辿り着くとはあと小さくため息を吐いた。
夜勤明けの身体に優しく染み込むものが食べたいと気持ちで冷蔵庫から作り置きのだし汁の入った麦茶瓶を取り出す。
これは以前東京さんに教わった水出しの方法だが、これがあると普通のカップ麺もだしの効いた味わいになるのでこのところずっと常備している。
土鍋にそのままだし汁を入れて貰い物の白菜をざく切りにして鍋に入れ、冷蔵庫にあったもやしや使いかけの大根や人参などありたけの野菜を入れて火をつける。
八幡さんに押し付けられたみかん風味の缶チューハイをちびちびと飲む夜更けの自室の静寂は、今や怯えるものではなく私にとっては優しい孤独であった。
八幡さんや小倉さんが嫌いな訳じゃない、ただずっと人と一緒にいることに疲れてしまう。
これがきっと都市生活者の慣れ親しんだ孤独なのだろうと妙なことを考えてしまうのは空きっ腹に流し込んだ酒のせいだと一人で言い訳をしてみるが、聞く者のいない言い訳には何の意味もない。
しゃがみ込んで火の様子を調節しているとうっすらと濡れた前髪が目前に垂れてきた。
真っ白に色を抜いた髪も昔は病気かとひどく心配されたものだが今では皆慣れてしまい、今では幼少期のような黒髪に戻りたいという気はもうなくこの白い髪も愛すべき私の一部だと思える。
(私は、あの人じゃない)
ガスコンロの揺らめく火にぽつりとそう囁いてみる。
八幡さんの一部になるために生まれてきたようなものではあるけれど、あの人は私の白馬の王子様でも神様でもない。ちょっとはた迷惑だが優秀な上司だ。
あの人は私に仕事以上のものを求めない。だから私はそれをこなす。それ以外の部分は私の所有物であり、孤独に包まれているときの私はきっと誰も知るよしの無い私だ。
一つ目の缶が空になったので二つ目の缶チューハイの栓を開ける。


この鍋が煮えた頃にはきっとこのセンチメンタルも煮溶けているに違いない。


戸畑ちゃんと夜更けのうだうだ。

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玄界灘ヨリ荒波来ル

*一部政治的なネタを含みます

「釜石さん、戸畑さんから電話が来たんですけど」
工場での作業中、事務職員から耳打ちされて「今行く」と告げる。
「いえ、ただ『玄界灘ヨリ荒波来ル、注意セヨ』と伝えてくれと」
「軍部からの伝令文みたいじゃな」
しかし文章の意味はどういう事だろう、と考えながら工場を出ることにする。
玄海灘と言えば福岡だ、福岡というと自分が育てた愛弟子の顔が一番に思い浮かぶ。
そして荒波という事は……素直に読み解くなら荒れているという意味だろう。
「そういう事か」
「どういうことですか?」
「これから仕事で荒み切ったやは「釜石!」
まるで獲物を狙う大型犬のように飛び掛かってきた男をキャッチすれば、案の定それは八幡であった。
「お久しぶりですねえ釜石顔合わせは出雲でのこと以来ですから半月ぶりですか?お元気そうで何よりですよ私はそれにしてもこっちはホントに寒いですよねえいや北九州も寒いんですよ?でもこっちよりはまだ南ですからね南と言えばそれにしても韓国ですよ!あそこもほんと何考えてるんですかね!あの判決のせいでこっちは家で息つく暇もなく東京に出ずっぱりなんですよ!角打ちで酒の一杯も飲めやしない!餃子を肴にビールの一杯でもっ「落ち着け」
マシンガントークを無理やりふさいでやればこれは相当鬱憤が溜まっていると見え、職員に「わしの仕事は全部明日以降にまわすからそう伝えておいてくれ」と告げると驚きつつ「わかりました」と答えた。
「八幡、うちで飲むか」
手を外してやれば「当然ですよ」と答える。
「そのためにわざわざ東京駅で色々仕入れて来たんですから」

***

こたつに火を入れるとその上には東京駅で仕入れて来たという酒やつまみが並び、そのつまみが明らかに普段食べる機会のない地域の食であるのを見てこれは絶対計画的な脱走だと密かに確信した。
八幡はワンカップを一気に半分も飲み干すと酒臭いため息を吐いた。
「ほんっっっっっともう嫌んなりますよ」
「例の韓国での判決か」
半月ほど前に海を挟んで隣の国で出された判決は会社上層部どころか政府を巻き込んでの大騒ぎとなっており、一応この会社の代表格となっている八幡はそちらの方に追い立てられていたようで、今回の原因はそこにあるらしかった。
(こいつはこの20年くらい韓国嫌いが加速しとるしなあ)
育てた弟子からの技術盗用以降すっかりかの国が嫌いになってしまい、それが鬱憤をより深めているのだろうと感じている。
「釜石、」
「うん?」
「私は頑張ってるでしょう?」
「そうだな」
ここで否定してやると間違いなくゴネるので適宜肯定してやれば8割ほどは満足したようだった。
「なのにあの弟子はホントに恩知らずですよね」
「空きっ腹で飲むと酔いが回るぞ、ますのすし食え」
口元にますのすしを押し当てるとそのままもぐもぐと食べ始める。
(……いや、このまま適当に相槌打って酔い潰して寝させた方が良かったか?)
しかしもうますのすしは八幡の胃のなかである。
ああだこうだ言ってもしょうがないので、空きっ腹に日本酒をガバガバ流し込みながら猛烈な勢いで愚痴をこぼしたりやたらと触って来たりする八幡を撫でまわしつつ適当なものをつまみながら適当な相槌を返してやる。
「かまいし、」
早くも酔いが回ってきたのか少しばかり舌足らずな口ぶりで、こちらを抱きかかえるとそのままぎゅうと抱きしめられる。
「わたしのいちばんはかまいしですけど、かまいしのいちばんはわたしですよね?」
その問いかけにかつて好いた少女の名前が浮かんだが、八幡はあの娘が嫌いだったことを思い出す。
しかし八幡とあの娘を比べてどっちが上か、と問われてもどっちが上と答えられる気はしなかった。
「人の好き嫌いに1番も2番も無いさ」
その答えに僅かな不機嫌を滲ませながら「そうですか」と呟く。
「でもお前はわしの一番弟子、これは永遠に変わらんさ」
「そうですけどね」
「まったく、お前さんはいつまでたってもわしの前じゃ子どもだなあ」
「とうぜんですよ」
人前ではきっちりと振舞う癖に釜石!と呼ぶ声は母を求める子供の声だ。
それが何よりもめんどくさくて、一番愛おしい。





八幡と釜石と最近の事

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団子を食う話

毎年のこととはいえ、神々の集会の季節である神無月はわりあい暇だ。
自分のような下位の神様は縁結びの集会に呼ばれるのは2~3日程度であるし、それ以外は各地の神々と交流を持ちながら奥出雲にある鉄の神々がまつられる社のなかでダラダラと過ごすのが通例であった。
(まったく、早く帰りたいもんですねえ)
暇潰しにと持ち込んだ大量の文庫本も月の終わりごろになれば大方読み終えてしまうし、出雲へと持ち込まれた仕事を片付けるのは戸畑がひとりでやってしまうのでやることがない。かといって小倉や此花のように日がな一日酒を飲んでるのも好きじゃない。
「八幡、ちょっとええか」
ひょっこりと顔を出してきたのは釜石だった。
ここにいる間着用を義務付けられている狩衣をたすき掛けしていったい何をしていたのか。
「はい?」
「ちと御厨(※台所)まで来てくれ」
本の帯をしおり代わりに挟み込んで御厨に足を延ばすと、御厨の方から出ていく鹿島や加古川がバタバタとすれ違ったときにふわりと小豆や砂糖の甘い匂いがした。
「菓子でも作ったんですか」
「ああ、悪いんだがちょっくらおおやしろ(※出雲大社)まで届けに行ってきてくれんか」
「おおやしろまで?なんでですか?」
「知らん、ただ作って持ってこいとしか言われとらんしな。ま、おおかた出雲や伊勢におわす神様連中の気まぐれじゃろ」
この時期はいつもの事とは言えどもなあと呟きながら、水きりした団子を木箱に詰めていく。
「……本社のお偉い人間より出雲や伊勢の神様の方が勝手ですよね」
「本当にな」
木箱に詰められた団子を風呂敷いっぱいに包んで、おおやしろへと持って行くことにした。

***
おおやしろの辺りはいつも人間も神々も入り交って賑やかではあるが今日はいっそう賑やかなようであった。
しかし神格のある神々は祇園のお化けの日(※祇園の節分行事の一つで舞妓さんが仮装して祇園の街を歩き回る)のように、本来の装いとは異なるものを着用しているのが分かった。
しかしどう見ても洋風の装いなのが……と思ってふと気づく。
「きょうハロウィンでしたね」
西洋由来の祭りごとではあるが楽しけりゃなんでも取り入れるお国柄は上位神も同様であり、要はこの団子はハロウィンのお菓子という事なのだろう。十五夜辺りと混ざっている気もするが。
出雲の縁結びの仕事も終わったので最後にパーッと遊んでから帰ろうという事なのだろう意図は薄々読めたが適当過ぎるだろう。
とりあえず団子を顔見知りの眷属に預けてさっさと奥出雲の社に引き返すことにしよう。
***

奥出雲の社に戻るともう既に辺りが夜の闇に包まれていた。
御厨で夕飯を拵えていた釜石は私を見て「おう、お疲れさん」と返してくる。
「何作ってるんです?」
「余った団子や小豆で果報団子を作ったんでお前さんの分が冷めないように保温しとった」
何てことない顔で大きめのお椀に小豆と団子の汁を注いで渡してくる優しさが暖かい。
「釜石はもう食べたんですか?」
「ああ、他の連中はもう食って酒盛りおっぱじめとる」
「酒盛り好きですよねえ」
「まあ大抵の奴は酒好きじゃからなあ」
塩味の小豆汁と団子を咀嚼しながら、旨いか?と笑う釜石に小さく頷いた。



八幡と釜石のある出雲の一日

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どしゃ降りの夜と心拍音

目が覚めてみればそこは深い夜の闇とどしゃ降りの雨音が響く自分の部屋だった。
不愉快な夢を見た感覚だけがべったりと張り付いている。
夢の中で誰かにののしられた事だけは覚えているが、私を罵倒するような者がいただろうか?と考える。
小倉とのあれはせいぜい口での小競り合い程度のものでしかなく、憎悪と嫌悪を込めて怒鳴って罵倒するものがいたとは思えなかった。私は、この国が誇る製鉄所なのだ。
「やわた?」
古い名で釜石がぽつりと呼ぶ。まだ眼差しが溶けていて寝ぼけ気味なのだろうか、と思う。
「釜石、」
寝ぼけ気味の釜石がまだ薄ら酒臭い吐息を吐きながら私をぎゅっと抱きしめ、その両の耳をふさいだ。
「しごとのこといがいはきかんでええぞ、やわた」
その寝言の意味はよく分からないがその言葉が私に向けられた優しさであることはすぐに分かった。
「おまえはほこるべきこのくにのてつうみのかみじゃ」
てつうみのかみ、鉄を生む神という意味合いで時折釜石の口からこぼれる言葉だった。
神と信仰の薄れたこの頃は聞くことも無い言葉である。
「はい」
「おまえもわしもれっきとしたひとはしらのかみさま……」
少しづつ声が小さくなっていき最後は寝息に変わった。
釜石の腕の中で心拍音だけが子守歌のように響く。
怒鳴り声や罵倒のようなどしゃ降りの音が心拍音と寝息にかき消され、それにじっと耳を澄まして目を閉じた。
そういえば天気予報で明日は晴れると言っていたな、と思い出しながら。




八幡と釜石。内容がないようで実はあるのかもしれないお話。

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