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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

年越しそばとふたりのこと

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今年は特別ですから、という職員の気遣いで仕事を早めに切り上げて家に戻ると「お帰り」と周南が笑顔で出迎えてくれた。
「ただいま」
周南が仕事納めの後にうちへきてくれるのは毎年恒例だが、今年は平成最後の年越しであり日新製鋼と言う名で過ごす最後の年越しである。
だからかほんの少しいつもと気分が違うように思えた。
「お風呂沸かしてあるから温まっておいで、その間に年越しそば仕上げとくから」
年の瀬の多忙さで出来なくなりがちな家のことを代わりにこなしてくれる周南に心からの「助かります」を告げると「いいんだよ」と返してくる。
(……周南には助けられてばかりだな)
ちゃんと大切にしてあげたいといつも思うけれど、助けられてばかりでこういう時は自分の至らなさを思い知る。
風呂で体を清めて茶の間に戻るとそこには大きなかき揚げの乗ったそばがどんと鎮座していた。
「周南、今年もありがとう」
「どういたしまして。そば早く食べよう」
いただきますと年越しそばに手を合わせながら、今年も二人でいられた幸福を祝うのだ。



年の瀬の呉周南

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ナイトキャップ

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このところずっと体がだるい。
(……駄目だな、頭がさえて寝付けないや)
やれやれと言う心地で重い体を起こして台所に立つ。
人間だったら風邪薬ひとつで治るものも、今も続いている高炉の不調が治らないことにはこのだるさが治らないことを知っている。
マグカップにミルクを軽く注いでレンジに1分。
窓の外には今も動き続ける製鉄所の光と暗い夜更けの海が見えている。
チンと音を立てたレンジからホットミルクを取り出して、はちみつ風味のウィスキーを垂らしてかき混ぜる。
窓の外の景色を眺めようと床にひざ掛けを敷いて腰を下ろした。
まるで心臓のように夜深いこの時間も未だ動くこの場所は俺の一部なのだ。
だからこの場所に支障が起きればこの身体は支障を来す。それはとても不便だけれど、俺はここに働く人々を信じて見守り続ける他ない。
冷えていた指先がミルクのお陰で少しだけ温まってきたのが分かる。
ここで働くみんなが高炉を直せば、俺もこの不調が治る。それまでの辛抱なのだ。



マグカップいっぱいのナイトキャップが空になったらきょうはゆっくり眠れるだろう。


千葉が寝酒する話。高炉の不調と言う話を聞いたらこれしか思いつかなんだ。

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いーあるてぃーたいむ

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「君津あての荷物届いてたぞ」
「東京……」
仕事を終えて自宅に帰ると無断でやって来ていた姉妹分が我が物顔でソファーに寝転がっていた。
机の上に置かれた小包のあて先は中国・上海となっており、可愛がっている弟子が寄越してきたのだとすぐに分かった。
「荷物受け取ってくれたのは嬉しいけど無断で人んち侵入するなよ……」
「合鍵の隠し場所分かりやすいからしょうがないな」
「しょうがなくねえわ」
カッターで小包の封を開けると白い封筒が出てくる。
同封された手紙は可愛らしいパンダの便箋で、あのきれいな顔をした中山服の弟子がこれをわざわざ買って来たのだと思うとなんだかおかしくて笑ってしまう。
親愛なる君津老師へという書き出しの中国語の手紙に目を滑らせると、どうやら仕事先でわざわざ俺のために購入してくれた中国茶とお菓子だという事を知った。
「なあ、お茶飲むか?」
「お茶ぁ?」
「宝山がかなり良いお茶贈ってくれたから」
「へえ、じゃあちょっとだけ飲むわ」
やかんでお湯を沸かし、昔買いそろえた中国茶の道具を引っぱり出し、宝山が一緒に贈ってきた麻花(マーファ、中国のかりんとうのようなお菓子)を皿に乗せた。
君山銀針なんてよくもまあ寄越してきたものだ、これ結構高い奴じゃなかったか?
茶葉の種類に合わせた温度のお湯で淹れるやり方は宝山の面倒を見ていた頃に覚えたもので、今でも時々鹿島や千葉にねだられて中国茶を入れることがあるからそれなりに慣れている。
小さめの湯飲みに茶を注げば湯気と共にお茶の香りが部屋中に広がってきた。
「美味しそうじゃん」
「いい茶葉だからな」
「いただきます」
そういって小さくお茶に口をつけると、東京は気に入ったというように微笑んだ。
俺の方もひとくち口に含むと上手く淹れられたことが分かって嬉しくなる。
「美味いな」
「茶葉が良いんだよ、俺もあとで紅茶と緑茶送ってやらないとな」
「宝山ってお茶好きなの?」
「嫌いではないと思う、向こうにいた頃俺が本場の点心にハマってちょくちょくお茶淹れるとき練習台にしてたけど嫌がってる感じ無かったし」
「へえ」
麻花をガリガリかじりながら中国茶を飲んでいると、仕事の疲れが少しだけ緩んできた。
おやつ終えたらこの中国茶の残る部屋で昼寝してもいいかもしれないなとぼんやり考えていた。




君津と東京とチャイナなおやつどき。

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一人鍋の夜更けに

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仕事を終えて家に辿り着くとはあと小さくため息を吐いた。
夜勤明けの身体に優しく染み込むものが食べたいと気持ちで冷蔵庫から作り置きのだし汁の入った麦茶瓶を取り出す。
これは以前東京さんに教わった水出しの方法だが、これがあると普通のカップ麺もだしの効いた味わいになるのでこのところずっと常備している。
土鍋にそのままだし汁を入れて貰い物の白菜をざく切りにして鍋に入れ、冷蔵庫にあったもやしや使いかけの大根や人参などありたけの野菜を入れて火をつける。
八幡さんに押し付けられたみかん風味の缶チューハイをちびちびと飲む夜更けの自室の静寂は、今や怯えるものではなく私にとっては優しい孤独であった。
八幡さんや小倉さんが嫌いな訳じゃない、ただずっと人と一緒にいることに疲れてしまう。
これがきっと都市生活者の慣れ親しんだ孤独なのだろうと妙なことを考えてしまうのは空きっ腹に流し込んだ酒のせいだと一人で言い訳をしてみるが、聞く者のいない言い訳には何の意味もない。
しゃがみ込んで火の様子を調節しているとうっすらと濡れた前髪が目前に垂れてきた。
真っ白に色を抜いた髪も昔は病気かとひどく心配されたものだが今では皆慣れてしまい、今では幼少期のような黒髪に戻りたいという気はもうなくこの白い髪も愛すべき私の一部だと思える。
(私は、あの人じゃない)
ガスコンロの揺らめく火にぽつりとそう囁いてみる。
八幡さんの一部になるために生まれてきたようなものではあるけれど、あの人は私の白馬の王子様でも神様でもない。ちょっとはた迷惑だが優秀な上司だ。
あの人は私に仕事以上のものを求めない。だから私はそれをこなす。それ以外の部分は私の所有物であり、孤独に包まれているときの私はきっと誰も知るよしの無い私だ。
一つ目の缶が空になったので二つ目の缶チューハイの栓を開ける。


この鍋が煮えた頃にはきっとこのセンチメンタルも煮溶けているに違いない。


戸畑ちゃんと夜更けのうだうだ。

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玄界灘ヨリ荒波来ル

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*一部政治的なネタを含みます

「釜石さん、戸畑さんから電話が来たんですけど」
工場での作業中、事務職員から耳打ちされて「今行く」と告げる。
「いえ、ただ『玄界灘ヨリ荒波来ル、注意セヨ』と伝えてくれと」
「軍部からの伝令文みたいじゃな」
しかし文章の意味はどういう事だろう、と考えながら工場を出ることにする。
玄海灘と言えば福岡だ、福岡というと自分が育てた愛弟子の顔が一番に思い浮かぶ。
そして荒波という事は……素直に読み解くなら荒れているという意味だろう。
「そういう事か」
「どういうことですか?」
「これから仕事で荒み切ったやは「釜石!」
まるで獲物を狙う大型犬のように飛び掛かってきた男をキャッチすれば、案の定それは八幡であった。
「お久しぶりですねえ釜石顔合わせは出雲でのこと以来ですから半月ぶりですか?お元気そうで何よりですよ私はそれにしてもこっちはホントに寒いですよねえいや北九州も寒いんですよ?でもこっちよりはまだ南ですからね南と言えばそれにしても韓国ですよ!あそこもほんと何考えてるんですかね!あの判決のせいでこっちは家で息つく暇もなく東京に出ずっぱりなんですよ!角打ちで酒の一杯も飲めやしない!餃子を肴にビールの一杯でもっ「落ち着け」
マシンガントークを無理やりふさいでやればこれは相当鬱憤が溜まっていると見え、職員に「わしの仕事は全部明日以降にまわすからそう伝えておいてくれ」と告げると驚きつつ「わかりました」と答えた。
「八幡、うちで飲むか」
手を外してやれば「当然ですよ」と答える。
「そのためにわざわざ東京駅で色々仕入れて来たんですから」

***

こたつに火を入れるとその上には東京駅で仕入れて来たという酒やつまみが並び、そのつまみが明らかに普段食べる機会のない地域の食であるのを見てこれは絶対計画的な脱走だと密かに確信した。
八幡はワンカップを一気に半分も飲み干すと酒臭いため息を吐いた。
「ほんっっっっっともう嫌んなりますよ」
「例の韓国での判決か」
半月ほど前に海を挟んで隣の国で出された判決は会社上層部どころか政府を巻き込んでの大騒ぎとなっており、一応この会社の代表格となっている八幡はそちらの方に追い立てられていたようで、今回の原因はそこにあるらしかった。
(こいつはこの20年くらい韓国嫌いが加速しとるしなあ)
育てた弟子からの技術盗用以降すっかりかの国が嫌いになってしまい、それが鬱憤をより深めているのだろうと感じている。
「釜石、」
「うん?」
「私は頑張ってるでしょう?」
「そうだな」
ここで否定してやると間違いなくゴネるので適宜肯定してやれば8割ほどは満足したようだった。
「なのにあの弟子はホントに恩知らずですよね」
「空きっ腹で飲むと酔いが回るぞ、ますのすし食え」
口元にますのすしを押し当てるとそのままもぐもぐと食べ始める。
(……いや、このまま適当に相槌打って酔い潰して寝させた方が良かったか?)
しかしもうますのすしは八幡の胃のなかである。
ああだこうだ言ってもしょうがないので、空きっ腹に日本酒をガバガバ流し込みながら猛烈な勢いで愚痴をこぼしたりやたらと触って来たりする八幡を撫でまわしつつ適当なものをつまみながら適当な相槌を返してやる。
「かまいし、」
早くも酔いが回ってきたのか少しばかり舌足らずな口ぶりで、こちらを抱きかかえるとそのままぎゅうと抱きしめられる。
「わたしのいちばんはかまいしですけど、かまいしのいちばんはわたしですよね?」
その問いかけにかつて好いた少女の名前が浮かんだが、八幡はあの娘が嫌いだったことを思い出す。
しかし八幡とあの娘を比べてどっちが上か、と問われてもどっちが上と答えられる気はしなかった。
「人の好き嫌いに1番も2番も無いさ」
その答えに僅かな不機嫌を滲ませながら「そうですか」と呟く。
「でもお前はわしの一番弟子、これは永遠に変わらんさ」
「そうですけどね」
「まったく、お前さんはいつまでたってもわしの前じゃ子どもだなあ」
「とうぜんですよ」
人前ではきっちりと振舞う癖に釜石!と呼ぶ声は母を求める子供の声だ。
それが何よりもめんどくさくて、一番愛おしい。





八幡と釜石と最近の事

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