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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

ロシアンティーのある午後

「しんどい」
ぽつりと此花がため息を漏らす。
台風21号からの復旧がようやくひと段落して通常営業した矢先、再びの台風接近の一報だ。そうなる気持ちも分かる。
「気持はわかるわよ、でもあんまり愚痴を漏らしてもしょうがないんじゃない?」
「だとしてもおかしいだろ今年!大雪豪雨地震台風地震台風って何のミルフィーユだよ!要らねえよこんな災害のミルフィーユ!」
「ほんとよねえ」
ミルクティを優雅にすする神戸さんに対し、此花は相も変わらず疲れの隠せない悲鳴を上げる。
「西宮さんお茶のお替りいりますか?」
「ありがとう、ミルクと砂糖はなしでお願いできますか」
「はい」
加古川さんから二杯目のストレートティーを受け取ると、此花が「あたしにもお代わりちょうだい」とティーカップを差し出した。
「ミルクティーで良いですか?」
「苺のジャムを入れたロシアンティーが良い」
「此花、ロシアンティーは紅茶にジャムを入れない「良いんだよそういう事は」
加古川さんは二人のやり取りに苦笑いをこぼしつつ早速いちごジャムの入った紅茶を入れてくれる。
「どうぞ、夏に採れるなつおとめのジャム入りロシアンティーです」
「なつおとめ?」
「栃木の方には夏にしか採れない苺があるので、真岡が大量に買ってジャムにしてくれるんです」
「へえ、」
真岡さんと言うのは神戸さんのところのひと(製造所)だっけ、と思い出す。
此花がロシアンティーを一口飲むと「美味しいね」とほほ笑んだ。
「美味しいもの食べて英気を養ったら、次に向けて頑張りましょう?」
「ま、それしかないよねえ」
此花が苦笑いをしつつロシアンティーを飲むので、私も飲みたくなって加古川さんを呼ぶのだった。



西宮と神戸と此花と加古川。
下半期も大変そうで溜息しか出ない関西女子の話。

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しなだれかかって月見酒

仕事で九州に行ったついでに小倉の元へ足を延ばすと、月見酒がしたいという小倉の一言で旦過市場で揃えた肴とつまみが縁側を彩った。
「にしてもよく覚えてたよねえ、今日が十五夜だなんて」
「思い出しただけっちゃ」
「そうかい」
湯呑に注いだ酒に秋の満月がちゃぷちゃぷと揺れる。
秋の夜風がふわふわとほろ酔いの身体に心地よく、遠くから聞こえる街の音も愛おしい。
「小倉、」
「なんじゃ」
「お前が住友に来てずいぶん経ったけどお前とサシで飲んだことってあんまり無いよな」
小倉はどちらかと言えば気難しい部類の性格をしているから、人当たりの厳しいところがあって八幡なんかは顔合わせただけで口喧嘩が勃発する。まあ気難しいのは直江津も同じなんだが。
「そうっちゃな」
「もう数十年ぶりとかじゃないか?」
少し考えるように宙を向くと「20年ぶりとかじゃろ」とこぼした。
「もうそんな前か」
「おう」
小倉も随分と長い付き合いになったと思う。
顔だけなら浅野の高炉だった頃から知っているのだから、余計に長い付き合いのように思えた。

「楽しかったか、住友に来てから」

小倉が住友に来てから本当に色々あったものだ、と思う。
和歌山に高炉を建造し、高炉の操業技術が上がってが西側諸国最長の操業年数と呼ばれたり、鹿島が生まれてうちも賑やかになり、その住友金属も10年前になくなってしまい、もうすぐその名残も消えてしまう。
「……仕事の付き合いに楽しいもくそもあるか」
「それもそうだな、」
「でも和歌山と一緒に暮らして、お前と一緒に仕事したんは、ええ経験じゃった」
湯呑に映る月がざわりと揺らいだ。
(ああくそ、ほんと)


「お前いい男だな」

もっと素直に褒めて来られたら、惚れるとこだった。


小倉と此花。この二人は戦友だと思ってます。

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会いに行く話


今朝の北海道地震絡みのお話です、不快な方はブラウザバックで。


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とある花火の夜のこと

北海道の夏はあっという間に終わりへと近づいてくる。
8月も終わりに近づくと半袖では薄ら寒い夜が続き、秋がマッハで駆け寄ってきている感じがする。
「よう、」
「兄ちゃん?」
玄関に突っ立っていたのは俺と同じ顔をした俺よりも大きな青年・日鋼室蘭だ。
その手にはビニール袋がぶら下がっていて、何かお裾分けでもしに来てくれたのかななんて期待してしまう。
「花火やらないか」
「……花火?」
「いや、昼間ちょっと押し入れ漁ってたら使ってない花火出て来たんだよ」
「もう夏休みも終わったこの時期に?」
「全国的にはまだ夏休みだからセーフ」

***

水入りのポリバケツとライターを手に社員寮の庭で花火に火を灯す。
フシュ―!と青い火花をあげながら花火は北国の夜空を鮮やかに染め上げ、遊び半分に振り回したり(※良い子はマネしないでね)しながら遊んでみる。
「なんかこうやってると夏って感じするよね」
「本当になあ」
北国の短い夏が駆け足で終わりを告げに来る。
勢いよく噴き出していた火花もやがて静まっていき、ただの炎になって行く。
「花火って切ないおもちゃだね」
「だから綺麗なんだよ、まだあるし全部使い切るぞ」
「独身寮の暇な子呼んでくる!」
俺と兄は数えきれないほどの夏をこの街で過ごすだろう。
だけれど、一度だって同じ夏は来ないのだ。




室蘭兄弟の夏休み。

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Take Me Out to the Ball Game!

7月某日、東京ドームの入り口。
「……蒸し暑い」
「この酷暑だからなあ」
諦め気味に酷暑への文句を吐いた君津に、東京が諦めの言葉を吐く。
ぶぶぶと電話が鳴ると相手はさっきチケットを取りに行った名古屋だ。
「はい?」
『僕です、いま鹿島君と合流したんでそっち行きますね』
『東京ドーム意味分かんないなんでこんなに広いの?!』
電話越しにヒステリックに叫んだのは鹿島だ。
「わかった、あと鹿島にはカシスタも大概広いって言っといて」
『あ、はい』
ブチっと電話を切ると「きみつさぁん」「君津、」と疲れ気味の声と少し覇気のある声が並ぶ。
売店で買い込んだビールとつまみの弁当やから揚げを抱えたかずさと広畑だ。
「君津さん、一応これでも私めも本選出場チームなんですけど」
「勝ち進んだら試合するかもしんないだろ」
「まあそうですけど……」
よしよしと軽く宥めてやればちょっとだけ機嫌がよくなったように見える。うん、うちの野球部はやっぱり可愛い。
「君津さん、」
「きみつー!マジでここ広過ぎなんだけど!」
「カシスタと変わんねえだろ、つーか千葉は呼ばなかったのか」
「なんか川鉄は7月がお盆だから西宮とズッキーニで精霊船やバイク作るんだって」
「精霊船って長崎の風習じゃ……つーかきゅうりじゃねえのかよ」
「なんか川重は伝統的にきゅうりで軍艦とか飛行機作って死んだ人に乗って貰うんだってさ」
「神戸川崎ってなんでこうねじが飛んでるんだろうな?ところでお前んとこの野球部は?」
「つばさならかずさくんの後ろに……「呼びました?」

「「「「?!?!?!?!」」」」

背後からぬっと音もなく顔だけ鹿の人間がかずさの後ろから出てくるのはちょっとしたホラーだ。
他の面々がビビるなか、鹿島だけが当然のツラしてる辺りが慣れを感じる。いや、つばさはいつも無言でぬっと出てくるけどな。
「つばさ、アントンちゃんと送ったね?」
「もちろんですよ」
ジャニ系きらきら男子にニコニコと応える鹿人間というシュールな光景は、鹿島製鉄所ではおなじみの光景であるが東京ドームだと違和感がすごい。
「……君津、アントンって誰?」
広畑さんがぽつりと耳打ちをしてくる。
「Jリーグの鹿島アントラーズですよ、あいつ鹿島の眷属なんで」
「へえ」
時々顔を合わせる旧住金組が全力で溺愛する鹿の角を持つクールで真面目な男のことを思い出す。
今でこそ全社あげて応援しているが、元々は此花が面倒を見ていたとかで今でも旧住金組はアントラーズにめっぽう甘い。
「とりあえず僕はここで失礼しますね。鹿島さん、今年こそ黒獅子旗を鹿島に持ち帰りますからね!」
「持ち帰るのは私めですからねー」
「かずさくんはまず僕の成績超えてからにしてくださいねー」
つばさのナチュラルに喧嘩を売りつつその場を去ったその後ろ姿を、かずさが納得いかない顔で眺めている。
「……君津さん、あの顔だけ鹿男が直轄なの非常に納得いかないんですが」
「そりゃーうちのつばさは北関東の社会人野球三強の一角だもの」
「とりあえず中入りましょうよ、ね?それに本線出れただけ十分ですよ……レックス君いないのに……」
「……うちのも本選出れなかったし」
取りなしてくる名古屋と広畑のコメントがさらりと自虐になっているのがなんか申し訳ない。
「それもそうか。名古屋、席案内してくれるか?あたし東京ドームあんま詳しくないんだ」
「え、でも東京さんプロ野球好きですよね?」
「神宮球場は目ぇ瞑ってても歩けるんだけどね」
「名古屋、東京は根っからのヤクルトと中日ファンだ」
「あー……まあ僕もそんなに詳しくないですけどね」
チケットを取りに行っていた名古屋を先頭に東京ドームへ入場していく。
仕事のない休日、気の合う仲間とビール片手に野球観戦ってのは悪いもんじゃない。
「♪Take me out to the ball game,Take me out with the crowd;~」
横に立っていたかずさの口から小さくハミングが漏れる。
「東京ドームにはクラッカージャックが無いのが残念だな」


さあ、楽しいボールゲームのお時間だ。

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