此花から万博のチケットを押し付けられたので、俺と海南で万博に行くことになった。
平日の朝10時、人でいっぱいの東ゲート入場口に並んでいると「こんなにいたんじゃ迷子になりそうだな」と海南がつぶやく。
「でも前の大阪万博の時よりはマシじゃない?」
「あー……あん時はすごかったよな」
配られたチケットの消費も兼ねて何度か足を運んだが、いつもいつも大混雑で身動きが取れず苦労したのを思い出す。
「でも俺はチケットの消費も大変だった記憶の方が強いかなあ、此花と八幡さんから来てたもん」
あの万博には住友グループと鉄鋼協会が出ており、その両方からチケットを渡されていたので消費しきれるのか不安なぐらい手元にあった。
従業員や取引先にも大量に配って、それでようやく自分でも使い切れるぐらいまで減らせたんだっけ。
「そういやあの万博も一緒に行ったよな」
「行ったねえ」
そんな話をしていると俺たちの番がきて、手荷物検査の後に一歩足を踏み入れれば話題の大屋根リングが飛び込んでくる。
「実際見るとすごいねえ」
木造建築でありながら遠くからも見えるほどの大きな建物。 鉄鋼屋としてはちょっと負けたような気もするけれど、純粋に大きいものというものはそれだけで人目を引き付ける抗いがたい力がある。
「太陽の塔を見た時も同じこと言ってたよな」
「そうだっけ?」「そうだよ」
海南は呆れたようにそう呟く。
あの頃の俺を誰よりもよく覚えている海南が言うのなら、きっとそうなんだろう。
「最初の予約まで少し時間あるだろ?」
「うん、住友館が11時からだから30分ぐらいあるかな」
「じゃあのんびり散歩してこう」
海南の提案に頷く前に、俺からも一つ思いつきを口にする。
「その前に、手ぇつないでいい?」
「だな。前の万博の時みたいに迷子になったら大変だもんね」
まだ付き合っていなかった俺たちは手をつないで歩いたりなんて出来なくて、当然のように迷子になっては大騒ぎしてたっけ。
今はこうして普通に手を繋ごうと言えるし、これだけの人ごみなら男二人で手を繋いでても目立ちはしない。
「55年で俺たちも世界も変わっちゃったね」
「でも、お前はずっとお前のままだよ」
そう言い切る海南は世界一かっこいい俺のお嫁さんなのだった。 -
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和歌山海南。
万博行ってきました、前回の大阪万博よりは少ないらしいけど普通に多いもんは多いと思う。