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コーギーとお昼寝

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グッドデザインな広畑さんの日

「祝:FeLuce2020年グッドデザイン賞取得!ってことでケーキ持ってきました」
「ワインとジュースもあるよー」
久しぶりに遊びに来てくれた呉と周南は、ワンホールのケーキを手にうちにやってきた。
「……俺グッドデザイン取ったの?」
とりあえず立ち話も難だからと 二人をうちに迎え入れると「連絡来てません?」と聞いてくる。
「ごめん、俺今日ずっと寝てたから」
「広畑はマイペースだねえ」
周南が笑いながら机にケーキを並べ、ワインを注いでくれる。
そういえば候補になったと聞かされた気はするが本当に取ったのかまでは聞いていない。
「せっかくだしマスカットのケーキにしたんだけど、マスカット好き?」
嫌いではないのでこくりと頷くと良かったと呟いてカメラを設置しだす。
「どこかに繋ぐの?」
「瀬戸内のみんな」
あんまり大人数で集まるのもねーと言いながら瀬戸内製鉄所の面々をネット電話で呼び出すと、画面に次々と瀬戸内製鉄所のメンツが現れてくる。
元日新製鋼の面々はこの春の合併で一緒に仕事するようになったばかりで、呉と周南以外はまだそこまで親しくはないがせっかくの祝い事だと妙に乗り気なように見えた。
「次屋、桜島、聞こえる?」
『聞こえている』
『こっちも大丈夫だよー』
瀬戸内組全員がオンラインで集まると、その手には思い思いの酒が並ぶ。
俺も呉に渡された祝い酒のワインを持たされるとまだ見慣れぬ瀬戸内製鉄所の面々の視線や声が飛んでくる。
「広畑、せっかくだし乾杯の音頭とってよ」
「えっ……」
「今日の主役ですから」
呉がにこやかにそういうので結局俺はあらがえず、その酒を手に即興であいさつすることになった。

「俺は旧日新製鋼の皆さんから、めっき鋼板についていろんなことを教わりました。今回のグッドデザイン賞受賞は瀬戸内製鉄所全員の力です。本当にありがとうございました。
そして、これからもどうぞよろしく。」

乾杯と画面にグラスを向けると、横にいた呉と周南がグラスを合わせてくれる。
グラスには十五夜の満月が氷のようにまるく落ちている。
『月見酒であり祝い酒、だな』
画面越しに桜島が呟くと次屋が『祝い事が多くていいですね』と笑う。
少しはこの面々に溶け込めているだろうか。
そう思いながら甘口のワインをくいっとあおった。



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広畑と旧日新製鋼組。

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ビジネスカジュアルにも程がある

9月に入っても未だ残暑厳しいこの頃、まだまだ暑さはしんどい。
神戸に来るのはコロナによる県またぎ移動の規制前だから半年以上来ていないことになる。
パソコンの前での話し合いが多かったから実際に会うのはかなり久しぶりになる。
「此花!」
「……神戸、おまえ何その浴衣」
手を振る神戸は花火大会にいそうな白と藍色の浴衣に日傘を指している。
立ってるのが会社の看板の横でなければ、どう考えても花火大会に行く女性である。
「今度うちの会社で服装規定の自由化が決まったから私も自由な服装しようと思って」
「だとしてもそれで浴衣?」
「だって涼しいじゃない、今は浴衣も晴れ着だしね」
明治の頃は浴衣というと寝間着だったが最近は夏のイベントごとに着るものになった。
確かに理屈としてはあってる気がするが色々問題がある気がする。
「……社内はいいけど八幡あたり『舐めてます?』ってキレられると思うから社外はやめとけよ」
「そうねえ」
八幡のガチギレスマイルが想像できたのか苦笑いをしつつ本社へと迎え入れる。
「でも浴衣出社は快適だからもっと涼しくなるまでこうしようかと思って」
「せやな」
もう何もいうまいと思いながら本社の冷房をぼんやり浴びるのだった。




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此花と神戸

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もしもは幾らも言えるだろう

「ああ、今日はあの玉音放送の日でしたか」
八幡さんはポツリとカレンダーを見て呟いた。
いつもこの人は終戦記念日を『あの玉音放送の日』と呼ぶ。
終戦・敗戦と呼ばないのはこのひとの持つささやかな抵抗であることを、私は知っている。
「そうですよ、この頃はバタついててすっかり忘れていましたが」
「仕事による多忙はいいですけど病気だ不景気だのによる多忙はろくなもんじゃないですね」
冷たい麦茶を飲みながら酷暑で火照る体を冷まし、壁に架けられたカレンダーを見ながら私たちはしばし黙した。
私たちはあの焼け跡になったこの町の景色をを覚えている、そしてそこから立ち直った人々のこともはっきり覚えている。
今はもう記憶する者も少なくなった日々の記憶は薄まる事なく残されている。
「もしも、もしもですよ?もう少し耐え忍ぶ事が出来たのなら私たちは屈辱もなく生き延びられたと思いませんか」
「……それ、いつもおっしゃいますよね」
「そうでなければ私のあの努力の日々どころか、釜石や室蘭の負った傷までも無意味だった事になるじゃありませんか」
現代的倫理観に照らせばアウトな発言だが、どうせ私以外に聞く者のない言葉だ。私の胸の内にしまい込めばいい。
「でも、もうあれから70年以上過ぎたんですよ」
「許せと?」
「もう時効です、あの日々に関わった人はほとんど死んだんです」
私たちにとっての70年と人間にとっての70年には雲泥の差がある。
その事実から逃げるように八幡さんは恨み言を吐く。当事者を密かに呪う。
私は八幡さんの怒りと呪いを永遠に鎮める事が出来ないと分かっているので、ただその言葉を受け止めるのみなのだ。



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戸畑と八幡の終戦記念日。

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おかねがない

このところ八幡さんがずっと地元にいる。
出張という出張が昨今の流行り病によりすべて中止となり、いつもなら東京と北九州を往復してるひとがずっといるのだ。
「あー……」
ゾンビのようなため息を漏らし鬱々とした様子の八幡さんに小倉さんが『どうすんだあれ』という顔で私を見た。
再び八幡さんの様子を見るが、八幡さんは鬱々とした雰囲気を隠さないのであれは相当やられている。
私はどうにもならないですねと首を振った。
「戸畑、お茶ください」
「あ、はい」
小倉さんと一緒に給湯室に行き、冷蔵庫に入れておいた水出し緑茶をグラスになみなみと注ぐ。
私が水出しのお茶を渡すと小倉さんは京浜さんから頂いたというありあけハーバーの箱を開けてくれた。
「あんなのがずっといたら職場の士気に関わるんじゃないか」
「重症ですしね」
いつもはいない人がいるという事に対する違和感はもう慣れた。
しかし問題はずっと釜石さんに会えていないという事に対する鬱屈がすごすぎて、周りが引きずり込まれそうになるのだ。
「簀巻きにして玄界灘にぶち込みたい」
そうぼやきながら水出し緑茶をもう一杯飲もうと冷蔵庫を開ける小倉さんに「とりあえずむこう戻りますね」と告げて給湯室を出た。
「戸畑、」「はい」
水出しの緑茶を差し出すとパソコンの画面には本社から送られた四半期決算や今期営業利益の見通しに関する書類だった。
流行り病のあおりを受けて大幅に収益が落ちた決算俵はどこもかしこも真赤だ。

「……そっちだったんですね」

「戸畑、今のどういう意味ですか」
「いえ」
どうも北九州にいる時は頻繁に釜石さんの話をするせいで忘れかけていたが、この人もちゃんと仕事はするのである。


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戸畑と八幡と小倉。
苦境の鉄鋼業、マジがんばれ……

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うなぎよりもうしのにく

本日、土用丑の日。
世間はうなぎだうなぎだと騒ぐ中、俺の姉は一人ステーキをむさぼっていた。
「牛の肉だね」
「うのつくものだし問題はないだろ、それにうなぎの旬は冬だぞ」
自粛の風潮も少しは落ち着いたからと久しぶりに一緒に食事しようという話になったのはいいけど、どうせなら普段食べないうなぎが良かった。
「ザブトンがいい色になってきたな、お前も食え」
いい色に焼けた希少部位の肉を差し出してくるので俺は大人しくそれを塩で食う。
上質な肉の脂がじわりと舌に広がって溶けていく。しみじみと美味い。
「美味い……」
「だろ?あ、すいませんビールの大瓶追加で!」
肉とビールと時々美味いナムル。幸せだし精はつく。
ああ、でもやっぱり少しうなぎが恋しい。
「尼崎」
「うん?」
「土用丑の日って言うとどうしても夏のイメージだけど、土用は年に四回ある。そして最近、寒の土用の丑の日にうなぎを食うってのがある……あとは分かるな?」
「冬にうなぎ驕ってくれるの?」
「お前が仕事頑張ればな」
冷たいビールが俺のジョッキに注がれる。
「夏の土用が終われば立夏、夏も盛りになる。ビールと肉で乗り切んぞ」
実にいい笑顔でほくそ笑む俺の姉は実にイケメンだった。



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尼崎と此花ネキ。

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