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コーギーとお昼寝

市町村・鉄道・企業・スポーツチーム擬人化よみものサイト、オンラインブクマはご遠慮ください。

餅つき、おせちと年の瀬の日

合併して年の瀬を一緒に過ごす人が増えたのはいいことだと思う。
「西宮、餅つき機出しといたよ」
「ありがとう」
知多が倉庫から出してくれた餅つき機を床に置いて貰うとぬれタオルを渡して「餅つき機のほこり軽く落としといてもらえる?」と告げる。
「はいはーい」
台所のコンロはもち米を蒸す蒸し器、伊達巻を焼くフライパンに黒豆を煮込む圧力鍋、グリルでは魚も焼いてと盛りだくさんだ。
「西宮、門松としめ縄終わったよ」
「じゃあ次はおせち詰めなきゃ、完成済みのやつは冷蔵庫に入れてあるから二人で重箱に詰めておいてくれる?」
早速福山が冷蔵庫を開けるのに対して水島は「重箱ってどこだっけ?」と聞いてくる。
「食器棚の一番下が季節ものっていつも言ってるでしょ?」
福山がしっかりフォローを入れてくれるのでありがたい。
もち米が良い具合に蒸されてきたので火からおろし、綺麗になった餅つき機に投入してスイッチを入れる。
「知多、あとはよろしくね」
「了解」
冷蔵庫からごぼうと人参を引っぱり出してスライサーにかけていく。
餅つき機の轟音を横に聞きながら、昔は葺合が蒸した米を知多と二人がかりでお餅にしてくれたことを思い出した。あの臼と杵もどこにやってしまったか思い出せない。
(時代も変わるものよねえ)
葺合がいなくなって、すっかりこの餅つき機の轟音にも慣れたものだ。
伊達巻もいい具合に焼けた頃だ、簀巻きに乗せて丸めてから水島に手渡すと「美味しそう」と呟いた。
「食べるのは年が明けてからね」
「はーい」
葺合のいない年の瀬ももう20回は超えた。
だけれどこの年の瀬のせわしなさはいつの時代も変わらないものだ。


「ただいまー」

遠くから千葉の声がした。
「おかえりなさい」
今年もまた、終わっていく。


西宮とJFE組の年の瀬の話。みなさん良いお年を。

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クリスマスは死にました

「はー……」
大阪支社の机で、此花がそれはそれは大きなため息を吐いて顔を覆う。
本当にこれはヤバい奴だなあと察してしまうが、俺も和歌山も理由も何となく察しが付いた。
この時期は此花の目の前をUSJに行くアベックがたくさん通り過ぎていくのだが、それを見た若い職員たちの憂鬱が此花本人にも伝染するのだ。
「また今年はだいぶギリギリしてるね……」
「此花もいい人出来たらいいのにねー」
和歌山がそんなことを呑気に言えるのは家に大好きな海南がいるからなのでこれも恋人がいるがゆえの余裕なのかもしれない。
今年は此花にとって色々削られることが多かったから、それがこの憂鬱を深めてる気がする。
「♪クリスマスはは死にますかアベックは死にますか……」
此花はさだ○さしの防人の歌を替え歌にしながら山盛りの書類にようやく手を付けた。
あれは本気でしんどい奴だなあ、と俺と和歌山は顔を見合せた。
「……コーヒー淹れてくる」
和歌山がそう呟いて給湯室に行くのを見送る。


(今夜此花のとこ泊まりに行こう)

せめてこの多忙の中で今日ぐらいはちょっとぐらいは明るい気持ちで過ごしてほしいのだ。


尼崎と此花と和歌山の結構辛いクリスマス。

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それでも日常は続いてる

10月下旬のある日、東京。
東京に来るのなんていつ振りだっけ、と周南が呟く。
羽田から丸の内まで電車を乗り継いで上京するたびにこの人ごみを抜けるたびにいつもそう呟いてる気がする。
「何の話するんだろうねえ」
「合併絡みなのは間違いないと思いますけどね」
「そうだよね」
周南と足並みを合わせて秋深い都心を歩くと氷のように冷たい風がびゅうっと吹き付けてきた。
「呉、周南」
「……広畑さん?」
後ろにいたのはいつもなら姫路にいるはずの広畑さんだった。
もこもこの上着を着こんで、その手には暖かそうなホットコーヒーの紙コップ。
「ホントに全員集合なんだね」
「広畑さんも」
「うん、全員集合だから来いって言われた」
「そうでしたか」

***

日鉄本社の会議室は関係者大集合でぎゅうぎゅうだった。
給湯室から頂いて来たホットコーヒーで凍えた指先と身体を温めた。
隣にいた周南は僕の渡したコーヒーを飲みながら一緒においてあった書類に目を通した。
「ねえ、呉。来春付で製鉄所統合だって」
「えっ」
持っていた紙コップを少し乱雑に置いて書類を広げると、そこには来春からの製鉄所統合を知らせる文章があった。
自分をはじめとした現日新製鋼の製造拠点と広畑さんを統合して瀬戸内製鉄所とする、という文言が明確に記されている。
「……ほんとだ」
ちらっと広畑さんの方を見ると持ってきていたコーヒーをクッキーと一緒に食べている。
他の人たちも思い思いに会議開始前の時間を埋めており。僕らの声など聞こえていないようだった。
「呉は、呉製鉄所という名前すら失ってしまうんだね」
細くか細い声で周南が呟く。
八幡さんと戸畑さんが「遅くなりました」と言いつつ会議室に滑り込む。



(この人は、全部奪ってしまったな)

僕らの名前を全て奪い去ってしまったその人は淡々と会議を始めますと告げた。


呉と周南と広畑。
把握が遅くなったせいか製鉄所統合にまだビビってます。

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毛布の中に逃げ込んで

君津さんがもう何日も部屋から出てこないんです、と連絡を受けて大きなカバンにありったけの食糧やらあいつの好きそうな本やら詰め込んで車を飛ばして着いたときにはもう夜だった。
「きみつー」
鍵がかかって開かない部屋にやれやれとため息を吐く。
君津の部屋の合鍵は自立した時に返してしまったし、鹿島や千葉が持っていると聞いた覚えはない。まさかあの二人のうちのどっちかが持ってたらさすがに妹分としては泣く。
君津の性格なら玄関の近くのどこかに合鍵を隠しててもいいはずだ。じゃあ、隠すなら?王道の場所だと鹿島や千葉に悪用されるから避けるだろう、しかし忘れにくくていざという時取り出しやすい場所でないといざという時困るはずだ。……電気メーター?
メーターを開けてみると何も入っていない。
じゃあ水道だろうか、と水道メーターのふたを開けると内側の穴に部屋の合鍵が針金で括ってあった。ご丁寧に君津の部屋の部屋番号が手書きされたキーホルダーもついてる。
合鍵で部屋の鍵を開けると真っ暗で「入るぞ」と声をかける。
いつも小奇麗にしてる君津にしては埃とゴミのたまった部屋の隅で君津がすやすや眠っていた。
眼の下にはクマと泣いて腫れた目、市販の痛み止めと睡眠薬を酒で流し込んだ(※良い子はマネしてはいけません)形跡もある。
「君津、生き……いや、死なないか」
私達は工場とともに生まれ、工場と共に死ぬ。君津製鉄所がこの地上から消え去る日まで、私達は死ぬことが許されない。自ら死ぬことを許されずに生きることは、実は恐ろしいほど消耗することを私は知っている。
「お前、相当疲れてるだろ?」
今年は自然災害が多く、特に千葉は被害が大きかった。
その癖それを口に出さず甘えもせずに黙々と仕事をした反動がこれなのだ。
この部屋でいちばん肌触りのいい毛布を選んで君津の身体をくるんでやり、頭の下にもビーズクッションを置いてやる。
今だけは毛布に逃げたっていいさ。誰になにを言われようと私が守ってやるから、今はゆっくり寝ればいい。
(……今度鹿島から手の抜き方ってもんを教えてもらうべきだよな)
やれやれと呟いてから職員に無事を確認したことと数日休ませてやって欲しい事をメールすると、即座に所長に伝える旨が帰ってきた。


「おやすみ、君津」

お前を傷つけるもののない眠りの世界で、今だけは全てを忘れておくれ。


東京ちゃんと君津。千葉方面は災難続きですね……

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逢いに行く人

金曜日の夜、定時に事務所を出ると小さい車にありったけの荷物を積んで走り出せば救援物資を積んだ車で賑わっていた。
高速を飛ばして二時間弱、辿り着いたのは可愛い兄貴分の住む寮の一室。寮に向かう道も完全に真っ暗闇で、持って来た太陽光電池で動くランタンをつけて歩き出す。
いつものようにチャイムを鳴らそうとしたら動かなかったので「入るぞ」と声をかければ遠くから「どうぞー」と声がかかる。
「君津、遅くなったけど見舞いに来たぞ」
家主は香り付きのロウソクの匂いが漂う薄暗い部屋で足をぐるぐる巻きにしてベッドに寝ころんでいた。
「別に文句はねえよ、そっちだって仕事あんだろ。道の様子どうだった?」
「高速は動いてるけど国道は駄目だな。特に山のほうは全滅。物流どうなってるか分からんから食料とか電気類あるだけ持ってきた」
「助かる、まだ電気復旧してねえのにもうロウソクねえんだよ」
「体はどの程度動く?」
「右足が重めの捻挫、一応湿布貼ってるけど痛みが全然引かない。あと右足の骨も折れてる」
「それで痛み止めと湿布要求してきたのか」
途切れ途切れに寄越してきた連絡にあった要求の品をカバンから引っぱり出し、張り替えるぞとその足を覗き込んだ。
貼ってあった湿布をはがせば右足首は赤く腫れあがり、内出血も伴っているのか患部はグロテスクな色合いだ。
湿布を張り直して、骨折したらしい箇所にはありあわせの金属棒で添え木がしてあった。
「とりあえずパンと牛乳食って痛み止め飲んで寝ちまえ」
「まだ9時すぎだろ」
「真っ暗でやる事ないのに起きててもしょうがないだろ、私は本社と戸畑さんにお前の状況報告しないとならないしな」
ここネット繋がるかね?とスマホを起動させてみるが調子はあまりよろしくない。本当にダメだったら災害時用のフリーWi-Fi捕まえるしかなさそうだ。
「俺がやる、自分の状況は自分が一番わかるしな」
「……仕事中毒め。お前自前のパソコンかスマホ使えるか?」
「充電切れた。事務所の電気使うのも気が引けるからどっちも充電してない」
「だと思ったよ、車に発電機積んどいたからベランダ貸してくれれば2~3日は持つだろ」
ちょっと取ってくるわと立ち上がれば「なあ、」と君津が声を上げた。
「ありがとうな」
「当然だろ、お前と私はセットで君津製鉄所なんだから」




東京と君津。がんばっぺ、千葉。

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